「わが巨人軍は永久に不滅です」といったのは長嶋さん、「A級アンプも永久にスイッチングします」と言ったのは私です

A級動作のパワーアンプはスイッチング歪がないので音がいいというのはオーディオを趣味とする方にはいわば常識かと思います。

そのA級アンプですが、実はどんなA級アンプも実はスイッチングしているのです。といったら「そんなバカな」と思われるでしょう。それでは、アンプの性能などを見ていてA級アンプなのにやけに歪が多いな(AB級よりも多かったりする)と疑問に思われたことはないでしょうか?

もちろんA級アンプの音質的なメリットは出力段がスイッチングしないというだけでなく、結果的にトランスの容量や出力トランジスタや放熱器も大型になるなどの物量投入の効果もあるので、A級アンプの音質がいいという話があるのはわかります。

最近、よくよく考えてみるとA級アンプもスイッチングしているなーということに気づきました。

パワーアンプの動作を説明する簡単な回路図

この図はパワーアンプの簡略化した回路図です。電圧増幅段の後に電力増幅段があってスピーカーに接続され、トータルにNFBが掛かっています。これで電力増幅段のアイドリング電流が数AあればA級動作することになります。

ただ、実際にはこの回路ではスピーカーを駆動できないのです。スピーカーを駆動することまで考えて描いた簡単な回路図はこちらになります。

A級動作もグラウンドを含めて考えると汚れている

何が違うかというとマイナス側の回路です。最初の回路図ではマイナス側に電流を供給する部分が欠けているのです。マイナス(グラウンド)側は単に入力信号のマイナス(グラウンド)に接続するだけではだめで、大電流を供給できる回路に接続する必要があります(電力増幅回路のリターン側という言ったりもします)。

電源部は電源トランスからの電圧を整流して大型の電解コンデンサに接続して直流化しています。スピーカーのマイナス側はその正負2つの電源コンデンサの中点に接続され、このG点から電流が出ている(入っている)のです。このG点グラウンド部というのは100Hz(電源周波数の倍)の正弦波で充電されたときに発生する脈流成分なので、実際には数kHz位までの成分を含まれています。

この電源部のリップル成分はプリアンプなどでは安定化電源を使用すれば問題になりません。ところがパワーアンプでは安定化しないので、数Aのリップル電流に起因した成分は結構大きなものになります。回路図上では発生するように見えなくても、実際にはアース電位にもリップル成分が混じるので、結果的にこれは残留歪となります。

さらに悪い事にA級アンプは無信号時に出力段に電流が一番多く流れているので、無信号時のリップルノイズ(残留歪)が大きくなる可能性すらあるのです。

A級アンプといえども、その回路(あるいは動作)の原理だけを考えていると、理想的に見えても、実際にはいろいろな事が影響していてそう単純ではありませよという話でした。

アナログ回路のポケットガイドという範疇を超えている -これはもう名作では-

テキサス・インスツルメンツ社(TI)で出したアナログ回路のポケットガイドがすごく良く出来ています。ポケットガイドといっても100ページあるのでちょっとした教科書と言った感じです。

アナログ回路はもちろん、デジタルの補数まで、自分の頭のなかでちょっとあやふやなことまで非常に解りやすく要所々々が解説されています。また、日本語訳もしっかりしています。

TIはデバイスに魅力的なものを数々出していることはもちろんですが、そのデータシートが解りやすく、推奨基板レイアウトも掲載されていて、使用する者にとってありがたい会社です。

この点は逆に日本のデバイスメーカーのものは、デバイスが魅力的でもデータシートが意味不明で、クイズの様になっている事が多いのと対照的です。

是非一度、このポケットガイドをのぞいてみてください。

Analog Engineer's Pocket Reference e-book

こちらからダウンロードできます。

目次は次のとおりです。

目次
Texas Instruments Analog Engineer’s Pocket Reference 5
換算 ....................................... 7
物理定数 .............................................8
よく使われる10 進接頭辞 ......................................9
メートル法の換算 ..........................................9
温度の換算 ........................................... 10
誤差の換算(ppmとパーセント) .................................. 10
ディスクリート部品 ................................. 11
抵抗のカラー・コード ....................................... 12
抵抗値の標準数 ......................................... 13
実際のコンデンサのモデルと特性値 ................................. 14
実際のコンデンサの周波数特性 .................................. 15
コンデンサの種類の概要 ..................................... 16
容量値の標準数 ......................................... 17
コンデンサのマーク表示と許容誤差 ................................. 17
ダイオードとLED ........................................ 18
アナログ ...................................... 19
コンデンサの式(直列、並列、電荷、エネルギー) .......................... 20
インダクタの式(直列、並列、エネルギー) .............................. 21
コンデンサの充電と放電 ...................................... 23
RMS 電圧と平均電圧の定義 .................................... 24
RMS 電圧と平均電圧の例 ..................................... 24
対数計算の公式.......................................... 27
デシベル(dB)の定義 ....................................... 28
対数目盛 ............................................ 29
ポールとゼロの定義と例 ...................................... 30
時間遅れと位相遅れ ........................................ 34
アンプ ....................................... 35
オペアンプの基本構成 ...................................... 36
オペアンプの帯域幅 ....................................... 41
フルパワー帯域幅 ........................................ 42
小信号ステップ応答 ........................................ 43
ノイズの式 ........................................... 44
位相余裕 ............................................ 48
開ループSPICE 解析による安定性評価 ............................... 50
計装アンプのフィルタ ....................................... 53
プリント基板(PCB)と配線 .............................. 55
PCB の導体間隔 ......................................... 56
PCB の内層パターンの自己発熱 .................................. 57
PCB パターンの抵抗(1oz および2oz Cu) ............................. 58
パッケージの種類と寸法 ...................................... 60
PCB の平行平板パターンの容量 .................................. 61
PCB のマイクロストリップの容量とインダクタンス ........................... 62
PCB の隣接する銅箔の容量 .................................... 63
PCB のビアの容量とインダクタンス ................................. 64
一般的な同軸ケーブルの仕様 ................................... 65
同軸ケーブルの式 ........................................ 66
各種配線の単位長さあたりの抵抗(AWG 別) ............................. 67
各種配線の最大電流(AWG 別) .................................. 68
センサ ...................................... 69
温度センサの概要 ........................................ 70
サーミスタ ............................................ 71
測温抵抗体(RTD) ........................................ 72
ダイオードの温度特性 ....................................... 74
熱電対(J とK) ......................................... 76
A/D 変換 ..................................... 81
2 進/16 進変換 ......................................... 83
A/D 変換とD/A 変換の変換特性(LSB、データ・フォーマット、FSR) .................. 84
量子化誤差 ........................................... 90
信号対ノイズ比(SNR) ...................................... 91
全高調波歪み(THD) ....................................... 92
信号対ノイズ比+歪み(SINAD) .................................. 94
有効ビット数(ENOB) ....................................... 94
ノイズフリー分解能と有効分解能 .................................. 95
セトリング時間と変換精度 ..................................... 96

古くて新しいデジタルオシロで開発が加速するかも

今回は測定器の話をさせていただきます。

オシロは大事

アンプなどの解析にはオシロスコープが必須です。オシロは何台か持っていますが、もっぱら使用しているのはアナログオシロです。波形の記録にはデジタルオシロが必要で以前はパソコンに取り込んでサーマルプリンタなどでシール式の感熱紙に印刷していました。その頃のノートはこんな感じです。

DCPMA-parts2 044_ociloold

デジタルオシロの波形をパソコンで取り込んで編集後、 サーマルプリンタで印刷してノートに貼り付けていた

ただこの方法は面倒で、気合が入った時にしかしませんでした。もっと簡単にオシロの波形を残したかったのですが、最近は面倒なので自分で波形を書いていました。超原始的ですが、これが一番早いのです。

DCPMA-parts2 050_note2

その内、波形は手書きになった

オシロの波形記録の変遷

このオシロの波形を残すために、あれこれ試行錯誤してきました。

  1.  USBオシロ(波形データをボタン一つでPC に転送できるもの)–>PC で画像を整えて印刷するのが大変、オシロそのものが使いにくい

2. オシロの画面をでカメラで撮る、その後PCに取り込んで、サーマルプリンタで印刷–>いちいち操作が面倒(写真中央上)

3. チェキ(ポラロイドカメラ)で撮る:画面が小さすぎてダメ–>接写レンズを使う:不鮮明でダメ視界も狭い(写真右)

DCPMA-parts2 041_ocilophoto

左が新しく買ったプリンタ内蔵デジタルオシロの印刷結果、 右がチェキに接写レンズをつけて撮ったアナログオシロの波形 真ん中下がスマフォで撮ってスマフォ用写真印刷機でプリントしたもの

4. スマホ専用の写真印刷機でとる–>これは結構いける(写真中央下)

5. プリンタ内蔵オシロ–>チョベリグ(写真左)

これが一番良かった

最終的に行き着いたのが5のプリンター内臓のオシロスコープです。これがあるのは知っていましたが、結構お高いので敬遠していました。最近だめもとで中古で購入してみたら、これが予想以上に良かったのです。ボタン一つできれいに波形コピーが出来ました(ちょっとサイズがおおきすぎるのですけどね)。YOKOGAWAのDL1540というデジタルオシロで、上部に感熱プリンターが内蔵されています。帯域も150MHzあるので十分です。操作性でアナログオシロにはチョット負けますが、いわゆる4-5万円の安いデジタルオシロよりも遥かに使いやすく、実用に耐えます。

DCPMA-parts2 038_DL1540

オレンジ色の波形のオシロにプリンタが内蔵されていて ボタン一つで波形のコピーが上から出てくる

 

 

今後、製品開発がますます加速するかもしれません。

 

スペアナの電子プローブ(バッファアンプ)を作ってみました

今回は久々にちょっとマニアックな話をさせていただきます。

スペアナは信号の周波数分布を見る測定器で、とても便利な測定器です。
本格的なスペアナは普通数百万円と非常に高価なのですが、GHz帯まで観測できて信号レベルも-140dBくらいまで表示出来る優れものです。

speana 020_speana

HPのスペアナ8561E

ただこのスペアナは残念なことにオーディオアンプにはそのままでは使用できません。入力インピーダンスが普通50Ωなので、そのままオーディオアンプ出力に接続すると、ほとんどショートした状態になってしまうからです。スペアナはもともと無線帯域の高周波回路の測定に使用するもので、オーディオ測定には向かないのです。

こういう用途に、電子プローブといって専用の高入力インピーダンスのプローブもあるのですが、これが中古のスペアナ位の価格(うん十万円)なので、おいそれと買えるものではありません。通常はFET1石等を使用して自作している人も多いのが実情です。FETで作ると簡単とはいえ、当然歪が多くなるので歪スペクトルを観測するなどの用途には向きません。何かいいものはないか?と常々思っていましたが、・・・ありました。

speana 010_amp

イヤホンアンプがスペアナのバッファアンプに早変わり

それはこれです。

そう一見ただのヘッドホン(イヤホン)アンプに見えますが、実は

ただのヘッドホン(イヤホン)アンプです(なんじゃそれ)。

これをちょっと改造すると非常に好都合なのです。イヤホン、ヘッドホンはインピーダンスが数十Ωなので、イヤホンアンプを使用すると丁度スペアナの50Ωを問題なく駆動できます。電池駆動でSNが良く、しかも電源ケーブルもいらないのでプローブとして最適です。唯一心配なのは帯域幅ですが、最新のOPアンプを探すと100MHz位まで帯域の伸びたものがゴロゴロしています。2CHあるので、ちょっと定数変更をして左をゲイン1、右をゲイン10にするとさらに便利です。電子プローブというより、スペアナのプリアンプとして使用できます。ここではOPアンプにTI社のLM6172を選択しました。

測定例1(発信器の歪スペクトル)

speana 007_analyzerオーディオアナライザーの元信号の歪スペクトルを見てみましょう。オーディオアナライザーの発信器の波形を歪率計に入れます。高調波歪率は10Khz、1Vで0.0006%と超低歪率です。この状態で歪率計の出力には基本波を除去した歪成分が出ていますので、それをイヤホンアンプ(プリアンプ)を通してスペアナで観測したのがこの波形です。

speana 006_THD

歪成分のスペクトル(0-100KHz) (基本波は歪率計で除去済み)

 

 

 

 

 

 

 

測定例2(アースラインから混入するノイズ)

speana 016_commonmodenise

アースラインから混入するコモンモードノイズ

アースからくるコモン・モード・ノイズを観測してみましょう。プローブの端子をアースして測定電圧を原理的には0にして、電子機器のアース端子に接触させます。そのプローブ出力をバッファアンプ(イヤホンアンプ、ゲイン10)を通して、スペアナ観測した波形がこちらです。アースラインから混入するコモン・モード・ノイズ信号を見ていることになります。それがこちらです。

帯域は0-1MHzで観測していますがベースライン付近に僅かにノイズが混入している事が分かります。

speana 017_baseline

測定系のノイズ (プリアンプ(ポタアン)を通してもノイズは見られない)

 

ちなみに測定系のノイズレベルはこちらで、先ほどのスペクトルは測定系のノイズではありません。

 

 

 

 

このヘッドホンアンプには帯域フィルタが付いているので、帯域を20KHz位で制限するとホワイトノイズが取れて、極微小なリップル成分なども観測できます。

スペアナだけでなく、オシロスコープのプリアンプとして使用するとさらに便利です。オシロスコープは感度が2mV/divで信号を見るには十分なのですが、uVレベルのノイズ波形を見ることはできないのです。このヘッドホンアンプをプリアンプとして使用すると今まで見えなかったノイズ波形が見えてすごく便利です。

このヘッドホンアンプに限らず、乾電池式でOPアンプを使用したポタアンであれば使用できると思いますので、同様の悩みを持っている方は是非お試しいただければと思います。

 

パワートランジスタの今昔

今回はパワーアンプの出力段に使用するパワートランジスタについて解説してみたいと思います。
以前のコラムでパワーアンプの出力段のトランジスタを並列接続しても意味がない、それどころか特性が悪くなると述べました。しかしながら実際にパラ接続にしたら音質が向上したという経験をお持ちの方も多いかもしれません。また、実際そうだったからこそ、パワートランジスタの並列接続を歌い文句にするようになったのだと思います。

ただしこれにはわけがあります。実際昔(20−30年前)のパワートランジスタは特性が必ずしも十分ではなく、貧弱でした。確かに並列接続する必要がありましたし、そのほうが好結果が得られました。ところが最近のオーディオ用に作られたパワートランジスタはAB級100Wくらいなら一つでも十分な特性が得られるものがあります。一言で言うとパワートランジスタ一つで、昔のパワートランジスタ3つ分以上に優れているのです。

表1パワートランジスタの定格比較

最大定格 古典的パワートランジスタ
2SA627
最近のパワートランジスタの例 備考
最大電圧 Vce 80V 230V コレクターエミッタ間電圧
最大電流 Ic 5A 15A コレクタ電流
コレクタ損失 Vce x Ic 60W 150W 無限大放熱器での値
電流増幅率 60 100

表1は30年ほど前の定番のパワートランジスタ2SA627(2SD188とコンプリメンタリー)の特性を最近のパワートランジスタと比較したものです。コレクタ損失(パワートランスタで消費できる最大パワー=コレクターベース間電圧xコレクタ電流)がは60Wから150Wと2.5倍にに大きくなっていることがわかります。また流せる電流値も3倍の15Aになっています。100W8Ωでおよそ最大5Aの電流が流れることになりますが、現在のパワートランジスタでは一個で十分です。電流増幅率に関しては約2倍になっていることに加え、そのコレクタ電流依存性(リニアリティー)も大きく改善されています。

図1.古典的パワートランジスタの電流増幅率

2sa627.jpg

図1のHfe(上に凸の曲線、右目盛り)特性図は、古典的パワーTr2SA627の電流増幅率をコレクター電流の変化に対して示したものです。1Aを過ぎたあたりから増幅率は低下し始め5Aで30と約1/3に低下します。増幅率30という数値はアンプ設計上小さすぎ、増幅段に大電流が流れ始め歪み率が大幅に悪化するため、トランジスタを並列接続する必然性があったといえます。

一方図2は最近のパワートランジスタの電流増幅率特性です。5Aくらいまでは増幅率の低下は20%くらいにおさえられ、かつその値も100近くあるので(実際の使用状態では結構熱くなる)、パワーTr1個で昔のパワーTr3個分以上の働きをしているのです。

図2. 最近のパワートランジスタの電流増幅率特性

2sa1943.jpg
パワートランジスタのパッケージ形状は2x3cm程度ありますが、実際の半導体の面積はせいぜい数mm単位の大きさなので、そもそも大電流に対応したければ半導体の面積を大きくすればよく、実際にそうなってきているのだと思います。後者のトランジスタはHfeのリニアリティー、帰還容量、放熱特性等他の特性も改善されており、もちろん半導体の構造自体にも工夫がされていると思います。

パワートランジスタを並列接続する技術的メリットがあるとすれば、放熱器が大きい場合に熱源が分散されるので方熱効率が良いということくらいです。 それよりも、並列接続によって帰還容量が増え高域特性が悪化すること、配線長が長くなる悪影響がの方が大きいのが実情です。

この様にパワートランジスタの性能は昔に比べると大幅に向上しており、少なくとも「xxパラプッシュプル」という歌い文句をあまり真に受けない方がいいと思います。

以上、パワートランジスタの今昔物語でした。

アンプの内部を考える -プリント基板の考え方-

今回はアンプの構成要素であるプリント基板についてお話したいと思います。

実際にアンプを作る方でないとプリント基板自体にはなじみは無いと思いますが、回路の性能を実現する上で重要な要素です。オーディオ用アンプの基板には新材料を採用したという宣伝文句が歌われている事もあるのですが、首をかしげたくなる内容も多いのです。

オーディオアンプ用プリント基板の不思議(その1)

  • 金メッキの採用

プリント基板は基板材料に銅のパターンが形成されたものです。通常は銅が非常に酸化しやすいので、表面を保護するのと、半田の乗りをよくする目的で、半田が薄くコーティングされています。最近のアンプで基板のパターンに金メッキをしたものを採用しているものがあります。金メッキはスイッチなどでは高品質の証ですので一見いい様に思いますが、そうではないと思います。

確かに金は柔らかく、腐食せず、しかも比較的電気抵抗が小さいということでスイッチ、コネクターの接点には欠かせない材料です。しかしながら、プリント基板に採用するメリットは無いばかりか、結果的に致命的な欠点になる可能性があります。プリント基板では回路の接続は半田付けです。半田メッキの場合に半田の乗りがいいのは明らかです。じつは金メッキにすると、逆に半田の乗りが少し悪くなるのです。実用上支障になるほどではないのですが、半田付けにとってメリットはありません。

まあメリットが無いくらいなら選択肢としてあってもいいのですが、プリント基板設計上やってはいけないことと関係があるのです。

オーディオアンプ用プリント基板の不思議(その2)

  • ベタ塗りの無い基板?

プリント基板設計上、やってはいけない事、それはベタ塗りの無い基板設計です。ベタ塗りの有無というのは必ずしも正式な技術用語ではないのですが、要するにプリント基板のパターン配線以外の不用な部分をアース部として残すか、不要部分をエッチングしてなくしてしまうかの違いです。

例を示すとこんな感じです。

プリント基板ーベタ有りー1.ベタ有りのプリント基板(青い部分が銅のパターン配線がある部分)

プリント基板ーベタなしー 2.ベタ無しのプリント基板

どちらでも回路図上の結線という意味では同じですが、両者の動作はまったく違うと考えています。

数十MHz帯の高周波設計では 1のベタ有りにするのがあたりまえで、そうしないとまともに動作しません。高域が20KHzのオーディオアンプでは必要ないと一見思われますが、20KHzにおいて他の帯域と同様に十分にNFBをかけようとするとMHz帯までの周波数特性が必須です。それに、そもそも小信号増幅用のトランジスタの帯域幅は数百MHzまであるのでベタ塗り部を設けて回路の高周波特性を安定化することは常識なのです。たとえばアマチュア無線分野の方はどんな初心者でも実践しています。

実は2のベタ無しのプリント基板は(その1)の金メッキと関係が有ると勘ぐっています。金メッキの場合、ベタ部があると金の必要面積が多くなるので当然高くなると思います。そこで回路上不要の(本当は必要と思うが)ベタ部をなくしてしまったのではないか?と思うのです。(その1)でも述べたように基板に金メッキをするメリットは私は無いと思います。ましてや、ベタ部をなくすともう高周波で安定動作は望めません。

では2.の基板を採用しているメーカーはどうやってアンプを作っているかといえば、増幅回路の各部に局所帰還をかけて帯域幅を最初から狭くしているのです(と思います)。オーバーオールのNFBが当然少なくなり、高域の歪率が悪化すると思います。2のタイプの金メッキ基板は、ある老舗のオーディオメーカーのフラッグシップモデルに使用されています。しかも、記憶が正しければプリント基板の母材を代え音を良くしたとか、レジスト(半田の防止層)コーティング材を変えて音質を良くしたとか宣伝しています。私に言わせれば基板によって音が変ったとすれば、まず”ベタ部をとってしまったせいではないですか?”といいたいのです。

弊社のプリアンプパワーアンプはもちろんベタ有りの基板で、それだけではなくパターン配線に関しても相当練りに練っています。上図のパターンは実際プリアンプのフラットアンプ基板の図ですが、なんとなくパターンの模様に設計思想の様な物が感じられませんでしょうか?パワーアンプに関しては1年以上プリント基板の最適化に費やしていますし、そうしないと高周波領域の特性を手なずける事ができないのです。

最近、単にパーツに貴金属を使用して音がよくなったと高額な値付けをしている商品が増えすぎているように思います。

本当に必要な改良をして、性能も音質がよくなり、そのためにコストがかかったというのなら分かりますが、こんなに電気の常識を無視した設計をすると、電気の神様の怒りをかうことになるのではないか?と思うくらい怖いことをオーディオ業界ではやっているように思います。

アンプの実装状態での歪率をチェックしてみよう

一般にトランジスタアンプの高調波歪率は0.0x%から0.00x%程度で、音質には必ずしも影響しないと考えられていますが、実際には恐ろしいことが起こっています。アンプの実際の使用状態での歪率特性が1桁以上悪化していることがあるのです。

信号源インピーダンスの影響
実装状態でアンプ歪率に大きな影響を与えるのは信号源のインピーダンスです。下図を見てください。右側がプリアンプ、左側がCDなどの信号源と考えていただければ結構です。信号源とプリアンプの間にはVRが入り、電気信号を分圧してプリアンプに入力します。分圧するだけならいいのですが、同時にVRの直列抵抗のために、等価的に信号源とアンプを接続するインピーダンスが上昇します。例えば100KΩのVRを接続して半分の音量に絞った場合50KΩの抵抗が直列に接続されたことと同じになります。

信号源インピーダンスの影響を調べるブロック図

この様な状態での歪率特性を調べるために、信号源に直列に抵抗を接続した状態で測定してみたのが次のグラフです。左がオーディオデザイン社のディスクリートアンプ、右側が代表的なOPアンプ5532の歪率特性を信号源インピーダンスを変えて調べたものです。

AmpDistCompRs2

信号源インピーダンスが小さい場合(600Ω)には教科書に出て来る様な歪率特性です。高域においてディスクリートアンプの方が優れていることがわかります(もちろんディスクリートアンプであればすべて性能がいいという事ではありません)。しかしながらその差は少しでOPアンプでも十分実用に耐えると考えられます。

ところが信号源インピーダンスが大きくなると(入力にVRを挿入し絞った場合に相当)、事情は一変します。Rs=4.7KΩの場合、OPアンプでは10KHzの歪率がかなり大きくなります。ディスクリートアンプでも若干10KHzが悪化しています。Rs=48KΩではさらに状況はひどくなります。 OPアンプではなんと10KHzの歪率は0.1%に上昇します。これは明らかに音質に影響するでしょう。音が割れるまではいきませんが、高音域がきつく感じられ、全体的に堅い音になると思います。ディスクリートアンプではそこまで悪くなりませんが、やはり多少悪化しています。

信号源インピーダンスが大きくなった場合に歪率が悪化する理由はアンプ初段のFET(Tr)の入力容量の非線形性によるものです。信号源インピーダンスが-側の入力インピーダンス(この場合1K//4.7K=825Ω)に等しい時に歪率が最も小さくなるといわれています。 信号源がCDでアンプがプリアンプの場合もそうですし、プリアンプが信号源でパワーアンプの入力部にVR(アテニュエーター)がついている場合にもこの状況はあてはまります。

よくVRを入れると(音量を絞ると)音質が変わるという方がいますが、その原因はVRそのものの品質ではなく、実はこういったアンプ回路にかかわる問題であることも多いのではないでしょうか?(ほとんどの場合VRのせいにされていますが・・・)

通常アンプの歪率特性はVRを最大にして測定するので、こういった影響は見えてきませんが、実用状態では必ずしも特性が良くない場合があるということに注意すべきでしょう。 また、この信号源インピーダンス依存性をなくす方法は別途紹介したいと思います。

(ほんとうは恐ろしい)実装状態でのアンプの歪率特性

アンプの実装状態での歪率をチェックしてみよう
一般にトランジスタアンプの高調波歪率は0.0x%から0.00x%程度で、音質には必ずしも影響しないと考えられていますが、実際には恐ろしいことが起こっています。アンプの実際の使用状態での歪率特性が1桁以上悪化していることがあるのです。

信号源インピーダンスの影響
実装状態でアンプ歪率に大きな影響を与えるのは信号源のインピーダンスです。下図を見てください。右側がプリアンプ、左側がCDなどの信号源と考えていただければ結構です。信号源とプリアンプの間にはVRが入り、電気信号を分圧してプリアンプに入力します。分圧するだけならいいのですが、同時にVRの直列抵抗のために、等価的に信号源とアンプを接続するインピーダンスが上昇します。
例えば100KΩのVRを接続して半分の音量に絞った場合50KΩの抵抗が直列に接続されたことと同じになります。
amp-comp-cir.jpg

この様な状態での歪率特性を調べるために、信号源に直列に抵抗を接続した状態で測定してみたのが次のグラフです。左がオーディオデザイン社のディスクリートアンプ、右側が代表的なOPアンプ5532の歪率特性を信号源インピーダンスを変えて調べたものです。

ampdistcomprs2.gif

信号源インピーダンスが小さい場合(600Ω)には教科書に出て来る様な歪率特性です。高域においてディスクリートアンプの方が優れていることがわかります(もちろんディスクリートアンプであればすべて性能がいいという事ではありません)。しかしながらその差は少しでOPアンプでも十分実用に耐えると考えられます。
ところが信号源インピーダンスが大きくなると(入力にVRを挿入し絞った場合に相当)、事情は一変します。Rs=4.7KΩの場合、OPアンプでは10KHzの歪率がかなり大きくなります。ディスクリートアンプでも若干10KHzが悪化しています。Rs=48KΩではさらに状況はひどくなります。OPアンプではなんと10KHzの歪率は0.1%に上昇します。これは明らかに音質に影響するでしょう。音が割れるまではいきませんが、高音域がきつく感じられ、全体的に堅い音になると思います。ディスクリートアンプではそこまで悪くなりませんが、やはり多少悪化しています。
信号源インピーダンスが大きくなった場合に歪率が悪化する理由はアンプ初段のFET(Tr)の入力容量の非線形性によるものです。信号源インピーダンスが-側の入力インピーダンス(この場合1K//4.7K=825Ω)に等しい時に歪率が最も小さくなるといわれています。
信号源がCDでアンプがプリアンプの場合もそうですし、プリアンプが信号源でパワーアンプの入力部にVR(アテニュエーター)がついている場合にもこの状況はあてはまります。
よくVRを入れると(音量を絞ると)音質が変わるという方がいますが、その原因はVRそのものの品質ではなく、実はこういったアンプ回路にかかわる問題であることも多いのではないでしょうか?(ほとんどの場合VRのせいにされていますが・・・)
通常アンプの歪率特性はVRを最大にして測定するので、こういった影響は見えてきませんが、実用状態では必ずしも特性が良くない場合があるということに注意すべきでしょう。
また、この信号源インピーダンス依存性をなくす方法は別途紹介したいと思います。

アンプのSN比に関する解説

はじめに
アンプの特性を示す性能の一つにSN比というものがあります。ノイズと信号の比を表しているわけですが、最近のトランジスタアンプにおいてはイコライザアンプやレコードのカートリッジ用のヘッドアンプを除けば、ノイズなど聴こえないのが当たり前ですので重要視していませんでした。ところが弊社のプリアンプを購入された方からよくアンプのSN比が良いといわれるので、調べてみると市販のアンプのSN比の表示には故意に良く見せかけているものや、電子工学的に考えて理解できないものがあることがわかりましたので、ここで少し解説してみたいと思います。本来トランジスタアンプにおいては(EQアンプヘッドアンプを除き)実用上問題にならないため、性能として議論する必要も無いのですが、逆にこの辺を理解しておくとカタログのスペックを見ればアンプの弱点やメーカーがどういう態度で接しているかが推測できます(誇大広告を見破ることができます)。

SN比の定義
SN比の定義そのものは簡単です。信号(S)とノイズ(N)の比を対数で表します。
・ SN比=20LOG(S/N)
SとNの単位はVoltです。対数は底が10になります。例えばSN比80dBで1万倍になります。ただ信号とノイズの設定値、測定法によって20- 40dB位差が出てきますので、実際にはアンプの性能を表しているよりも、どれだけ良く見せたいか(良く見せなければいけないか)を表していることが多いのです。それでは実際に各種の測定法を見ていきましょう。

ノイズの測定方法
SN比の測定結果を議論するためにまず残留ノイズを測定します。ノイズの測定自体は簡単です。アンプの出力に電子電圧計をつなぐだけです。アンプ入力は通常ショートしておきます。オーディオアナライザーを使用する場合はアンプの出力をアナライザーの入力に入れ、アナライザーの出力をアンプ入力に接続します。SN測定時はアナライザーの発振器出力がゼロになり実質的にアンプを600Ωで短絡した状態で残留ノイズを測定します。ただ残留ノイズ(SN比)測定時には以下の2点に注意する必要があります。・測定時のフィルターの有無・測定系(電子電圧計)の帯域幅B(周波数特性)。SN比の測定にフィルターをかけることはオーディオに詳しい方ならご存知かと思いますが、実は測定器の帯域幅も大いに関係します。一般にアンプのノイズのスペクトルはハムを除けば(半導体アンプではハムが無いのが当たり前なので)、ノイズ電圧として測定されるのはホワイトノイズ成分です。すなわちすべての周波数で一定の振幅のノイズがランダムに発生していると考えて良いのです。測定系の帯域が広ければ広いほどノイズ成分は大きく測定されます。具体的には抵抗から発生する熱雑音(ホワイトノイズ)は以下の式で表されます。

Vn=√(4kTBR)

ホワイトノイズは(4KTBR)のルートに比例します。Kはボルツマン定数、Tは絶対温度、Rは抵抗値、Bが測定系の帯域幅です。アンプで使用している抵抗の値が100倍になればノイズは10倍に、測定している電圧計の帯域が100倍になればノイズは10倍になります。電子電圧計の帯域は通常数MHzオーディオアナライザーの電圧計部帯域も500KHz(VP-7723A)なので、たいして変わらないのですが、問題は意図的に20KHz以上をカットして測定している(表示している)ケースがあることです。その場合はSN比が15-20d位良く見えてしまいます。

残留ノイズの実測値
次に実際にアンプの残留ノイズの測定結果を見てみましょう。
測定に使用したのは弊社のフラットアンプを検査用のケース(プリアンプとほぼ同じ)に収めたものです。測定にはオーディオアナライザーVP7723A(各種フィルターを内蔵している)を使用しています。アンプの入力はショートしています。

測定条件 測定値 コメント
フィルターなし 23.7uV Flat、Unweightedと同じです(B=500KHz)
フィルターA
IHF-A
3.9uV かなり小さくなります
20-20KHz 4.9uV これもかなり小さくなります
(実際には20KHz以上のみカットしています)

当然の事ながら20KHzまでに帯域を制限したものはノイズがかなり小さく測定されています。次にこれらの測定結果を元にSN比を色々な表現方法で表記してみましょう。

整理番号/SN比 信号レベル ノイズレベル コメント
①92.5dB 1V 23.7uV フィルターなし、標準的かつ最も悪く見える表示法
②108.2dB 1V 3.9uV IHF-A、これも良く使われる表示です
③106.2dB 1V 4.9uV 20-20KHz,海外製品に良く使用されている表示
(一見フィルターを使っていないかの様に見せる高等テク?)
④118.5dB 20V 23.7uV フィルターなし、最大出力を基準にしたSN表示
⑤134.2dB 20V 3.9uV IHF-A、最大出力を基準にしたSN。表示最も良い数字になる
⑥132.2dB 20V 4.9uV 20-20KHz,最大出力を基準にしたSN。最も誤解を招きやすい表示

①から③は出力レベルを1VとしてSN比を算出したもので、この様に出力1−2Vを基準としてSN比を表示するのが一般的でした。ところが最近、特に海外製品、あるいは国内製の一部に最大出力を基準としてSN比を表示している(あるいはそうとしか思えない)例があります。たとえば弊社のフラットアンプの最大出力は20Vrmsですから、単純に1と20Vの比である26dB分良くなることになります(④-⑥)。

このような表示が使われるようになった理由として以下の2点が考えられます。
・特に高価な価格設定をしているために、スペックを他の製品より良く見せたい。
・LCD表示、デジタル制御を使用して実際のSNが悪くなっているので見劣りしない様に甘い条件を使用している。
①と⑥の表示では同じアンプでも実に40dBの差が生じてしまいます。こういった裏技を使えば例えば実力50dBのアンプでも90dBと表示できるのです。また条件の表示の無いSN比はまったく意味が無いのですが、実際のカタログの半分ぐらいは条件が特定できないようです。

最も悪質と思っているのが③もしくは⑥の表示で、カタログなどには「Unweighted/20-20KHz」などと条件が表記されています。周波数特性のあるフィルターを使用していないのでUnweightedという表記は正しいのですが20-20KHzという条件がフィルタリングしていることを意味していますので紛らわしいのです。20-20KHzという条件は可聴帯域を表しているので一見当たり前に見えますが、これまでに述べた様に15dB位稼げるテクニックです。 Unweightedと併記しているところが非常にいやらしいです。不動産広告で言えば「駅から車で5分」のところを「徒歩圏内/駅から5分」と書いていいるようなものです。

終わりに
以上SN 比について解説しました。カタログを見る際にはこういった知識を持ってみると、製品の実力もより正確につかめる様になりますし、メーカーあるいは販売店の姿勢といったものが見えてくると思います。

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オーディオアンプ用安定化電源の測定と解析

安定化電源/はじめに

アンプ用の電源はアンプの性能を左右する重要な要素の一つであると考えられます。電源によってアンプの音質が大きく変わるとも言われています。またオーディオ関連の記事を見てみますと、安定化しない方が音質がいいとか、ツェナーダイオードによる無帰還形の簡易安定化電源の音質がいいとか諸説があるようです。ここではまず各種電源方式の諸特性を測定し、弊社安定化電源と比較してみたいと思います。さらに安定化電源を使う上での注意点についても触れてみたいと思います。

安定化電源/測定方法

電源インピーダンスの測定方法

安定化電源の最も重要な電気特性は内部インピーダンス特性であるといえるでしょう。ここでは電源の内部インピーダンスを測定してみたいと思います。以下に使用したインピーダンス測定回路を示します。測定原理はオーディオ雑誌などで紹介されているものと基本的に同じです。エミッタホロア型の電流増幅回路に発振器から信号を送り、安定化電源からの出力電流を変調します。その際の出力電圧変化を出力電流変化で割ったものが電源の内部インピーダンスZ0になります。すなわち、

電源の内部インピーダンスZ0(Ω)=(ΔVcc/ΔVe)*500 (∵ I ≒ Ve/500)

になります。電源の内部インピーダンス測定時には変調信号に正弦波を用い、過度応答測定時には矩形波を用いて測定しました。


< 安定化電源出力内部インピーダンス測定アダプター>
(実際の基板はさらに位相補正されています。 )

使用測定機器:
発振器:MXG-9816A(METEX) Max15MHz周波数カウンタ付き
オシロ:200MHzデジタルオシロ
2CH電子電圧計:VT-185(KENWOOD)

測定した電源回路

測定した電源回路は以下の4つです。弊社安定化電源基板(+35V部)、3端子レギュレーター(+15V),ツエナーダイオードによる安定化電源回路(+30V)、トランジスタによる差動誤差アンプ式(+35V)です。

安定化電源方式 DCP-REG3502 回路 備考
1.オーディオデザインDCP-REG3502 弊社安定化電源基板
誤差増幅器に高速OPアンプを使用したものでです。
2. 3端子レギュレーター 最も簡単な安定化電源
3. ツェナーダイオード+Tr ツェナーダイオードで出力電圧を固定するタイプ。トランジスタは出力電流を大きくする目的で挿入されています。
レギュレーション特性はダイオードの特性とコンデンサ、トランスなどで決まります。NEBをかけるタイプではないので音質が良いという人もいるようです。
4. Tr差動アンプ オーディオアンプの本に掲載されていた回路。誤差増幅器を使用するタイプとして、しばしば登場するものです。定数・使用部品はアンプの教科書に書かれている通りとしました。

安定化電源/測定結果

安定化電源の出力インピーダンス特性

各安定化電源の出力インピーダンス特性を周波数の関数として測定した結果を次に示します。横軸の周波数の単位はKHzであることに注意してください。すなわち左端が100Hz,右端が10MHzです。

弊社安定化電源が圧倒的に出力インピーダンスが低い(可聴帯域で20mΩ以下)ことがわかります。弊社の安定化電源は保護回路を搭載する前は6mΩ でしたので、そのポテンシャルの高さがわかります。次に出力インピーダンスが低いのは4.のTR差動増幅タイプ(緑色)ですが、100KHz以上の高域で R0特性がうねっており、これは高域で共振現象が起きている事を示唆しています。この様な共振系が存在すると、次で見る過度特性が悪くなっており、聴感上も影響を及ぼすことが懸念されます。

3端子レギュレータとツェナーダイオードによる電源はR0特性が似ているのですが、10KHzから100KHz近辺で100mΩ、それ以下では 0.5Ω位まで上昇しており、あまり低インピーダンスとはいえません。この様な周波数依存性は安定化性能は必ずしも高くなく、電解コンデンサのインピーダンスに特性が支配されているのではないかと思われます。またツェナーダイオードタイプのものは2-3MHzで強い共振を起こしており出力インピーダンスが非常に大きくなっていました。これだけ大きく共振するとアンプに接続した際もこの周波数帯域で不安定になる恐れがありますので注意が必要です。

これらの出力インピーダンス特性は安定化電源の回路形式だけで決定されるわけではなく、むしろその回路の熟成度、完成度によって特性が決まる面もあります。もちろん3のツェナーダイオードによる安定化電源のR0が極端に下がることはありませんが、簡単な回路だからといって安定であるとも限らないのです。したがって一部の方が主張する「誤差増幅器を使用した安定化電源は音質が悪い」という説は一般性のある話として展開するのは非常に乱暴といえます。

安定化電源の過度特性

各電源の過度特性測定結果を下表にまとめました。この測定結果は出力電流が急激に変化した場合に安定かどうかを調べるものです。出力インピーダンス特性を測定する際は正弦波を入力していましたが、矩形波を入力して波形を観測すれば過度特性を見ることができます。下表で下側の波形がVeの検出波形で出力電流(=Ve/500)に比例します。上側の波形が電源電圧Vccの変動分でR0(=(ΔVcc/ΔVe)*500)に比例します。すなわち、上側波形の矩形波の振幅が小さいほど出力インピーダンスが低いこと、また立下り、立ち上がりにおいてパルス性の出力が小さいほど安定な電源であることを示しています。今回の条件は6mAp-pの電流変化に対する電圧変動を調べていますので、かなり厳しい条件です。通常のプリアンプでの使用条件では例えば10KΩの入力インピーダンスを有するパワーアンプに対して2V程度の電圧を供給しますので、この場合1CHあたりたった0.2mA しか電流は変化しません。ここでは加速試験として、その数十倍の電流変化を起こしていることに注意してデータを見てください。

上側波形:Vcc変動 10mV/div(=1.67Ω/div), 下側波形:Ve変動 1V/div(=2mA/div)
(波形は断りのない限り10回のアベレージング波形)

被測定アンプ 100Hz 10KHz 100KHz
1.オーディオデザイン
REG-3502
2. 3端子レギュレーター
3. ツェナーダイオード+Tr
4. Tr差動アンプ

オーディオデザイン安定化電源の過度特性

弊社電源は矩形波の入力に対して出力電圧が変動していないことがわかります。出力インピーダンスが非常に低いので実際の使用上では電圧が変動しないのです。ただ100KHzの入力に対しては若干のパルス上のノイズが出ていますが可聴帯域内はパルス状ノイズもほとんどありません。

3端子レギュレーター電源の過度特性

3端子レギュレータの波形はフラッシュさせて2通り表示させています。100Hzのそれは波形のアベレージングの有り無しで表示を切り替えています。通常10回を平均化して測定していますが、一見リップルのように見える残留ノイズがあったのでアベレージング無しでも測定してみました。アベレージング無しの場合、数KHzにピークをもつやや大きめのノイズがのっています。また100KHzのフラッシュ波形は、一つが通常時の波形、もう一つは大きなピークの出ている時の波形(なぜかは明らかではないのですが)です。一度だけこの様に大きな発振に近い症状を引き起こしたのですがその後この症状は再現しませんでした。3端子レギュレータの内部回路は意外と複雑ですので、この様な異常現象が出た場合(通常は異常と気づきませんが)対処のしようがありません。ただ全般的には簡単なわりに非常に特性が良いので利用価値はあります。

ツェナーダイオード+トランジスタ電源の過度特性

3のツェナーダイオードによる安定化電源は今回の安定化電源の中で唯一誤差増幅器を持たないタイプですが、やはり高域でスパイク状の電圧変動が出ています。また低域100Hzにおいては結構電圧も変動しています。このタイプの安定化電源は平滑コンデンサのインピーダンス、トランスの巻線抵抗、ツェナーダイオードの抵抗分(=ΔV/ΔI))の合成インピーダンスになると考えられます。電源のパーツを大きくすれば多少は改良されますが、他の方式に比較して所詮性能ではかないません。

差動トランジスタアンプ電源の過度特性

過度特性が最も悪いのが4.のトランジスタ差動アンプ式電源です。10KHzでもスパイク状のノイズが発生しています。安定化電源といえども誤差増幅器を有している場合ゲインを最大限に上げたアンプを内蔵しているわけですからしっかりと設計・製作しないとこの様な結果になってしまうのは当然です。実用上は問題ない(聴感上簡単にはわからない)と思いますがハイエンド用としては気になるところです。この回路自体が悪いというよりもアンプ電源の誤差増幅器をアンプとして見たときの詰め(特に高周波特性)が甘いとおもわれます。

電源の特性と聴感との相関について

上記各種電源をアンプに搭載して試聴するテストは行っておりません。ただ弊社のアンプに対するお客様の結果や自身の試聴経験からは共通して次の様な特長があります。

  1. 解像度が高い
  2. 音が生々しい
  3. 楽器の音の余韻がはっきりと聴こえる様になった
  4. ソースの歪だと思っていた音が歪まずに聴こえるようになった
  5. ホールの残響が良く聴こえるようになった
  6. シンバルの音に楽器の厚みが感じられる
  7. 低音が締まって聞こえる
  8. 歪み感がなくクリアーな音
  9. SNが良い

これらのいくつかは微妙なニュアンスが良く伝わるようになったという点で同じです。電源の貢献度も大きいものと考えています。

安定化電源/おわりに

安定化電源の出力インピーダンス特性、過度特性などを調べてきました。実際に様々なタイプの電源を調べてみると、その特性は定説としていわれている事項と必ずしも一致しないことがわかりました。電源も単に試聴テストに頼るのではなく特性測定と改良を積み重ねていくことが肝心といえます。また測定結果を通じて弊社安定化電源の高性能さがご理解いただければ幸いです。