アンプのテストに使える危険な裏ワザ -安定化電源の音質差を探れます-

これからご紹介するのはちょっと危険な裏技なので、もし試す際はアンプ、スピーカー共に壊れても良いサブ・サブ・システムで行って下さい(高価なメイン装置では行わないこと)。

どういう裏ワザかというと、内部の電源に安定化回路を使用しているアンプで、安定化回路を使用した時と、安定化しない時の音質を改造なしに瞬時比較するという裏ワザです。

必要なもの

・試聴したいアンプで内部で安定化電源を使用しているもの、3端子レギュレーター使用のアンプなどでもよい(使用しているかどうか分からなくても差し支えありません)。

・スライダック(トランス式でAC電圧を100Vから落とせるもの)、サイリスタを使用した電子的なものは不可です。

・当然ながらスピーカー、CDプレーヤー等も必要です。

方法

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接続図はこんな感じ

試したいアンプのACコンセントをスライダックを経由して接続します。

スライダックの電圧を100Vに調節して、パワーアンプの電源スイッチを入れます。当然の事ながらアンプは正常に動作するはずです。

 

そこからスライダックを調節してAC電圧を60-70V位に落とします。パワーアンプの最大出力は半減しますがそれでも正常に音が出るはずです(それ以下では保護回路が働いてしまいます)。このAC電圧を60-70%に落とした状態だと安定化回路は全く機能せず、結果的に安定化回路を使用しない単純なリップルを含んだ電源になります。

両者の音質を比較することで、安定化回路を使用の有無による音質差を聴き比べることができます(最大出力が違うのでそこの違いが気になるという人もいるかもしれませんが)。

私が試した結果では、良質な安定化回路が組み込まれていると、安定化したほうが音のざらつきが取れて、カチッと定位も決まって繊細さが表現されて、安定化した方が音質は上質でした。

内部での直流電源電圧はこんな状態になっています。

img015_60V

安定化しない電源の電圧変動(AC70V)

img016_80V

中途半端に安定化回路が働いている時(AC80V)

img016_100V

安定化回路が正常に機能している時の電圧変動分(AC100V)

 

 

AC電圧を60-70Vくらいにすると安定化回路が働かないため、電源電圧には単純なリップルを含んだ波形になります。

 

 

 

電圧が80-90Vになると安定化回路が中途半端に働こうとするので半分平坦、半分は電圧が足りず急激に落ち込みます。

 

 

 

 

 

 

 

AC電圧が90-100Vになると正常に機能して電源電圧は一定になります。こうなると変動分は見えません。

 

AC電圧を落とすと、、出力リレーが落ちたりしますので、正常に音が聞けるとは限りません。また保護回路が機能しなくなったりする恐れや、そのたもろもろ危険性があるので、メインシステムでは試さないように注意して下さい。

プリメインアンプDCPMA-100発売のお知らせ

この度オーディオデザインではプリメインアンプDCPMA-100を発売いたしました。
製品詳細は12/10発売の無線と実験誌p.19-21(2016年1月号)にて紹介されております。

また無線と実験誌テクノロジー・オブ・ザ・イヤー2015もめでたく受賞いたしました。

DCPMA-100_068_crop_rev_il12

DCPMA-100の外観

DCPMA-100の注文受付を始めましたが、製品の出荷は来年1月下旬よりとなります。

テクノロジー・オブ・ザ・イヤー受賞を記念して、また製品のお届けに時間がかかることから、期間限定価格を設定させていただきました。

1/10までにご注文の方は20%引きの40万円(税別)にてご案内しています。この機会をぜひご利用下さい。

DCPMA-100製品紹介ページ

DCPMA-100ご注文ページ

img011_240無線と実験誌紹介ページはこんな感じです。記事は井上先生に書いていただいています。先生方にも大変高い評価を頂いています。

 

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他の製品と並べたプリメインアンプの写真。結構大きなサイズです。

 

ダンピングファクターを決めるものは何でしょうか? これです。

アンプの性能を表す指標にダンピングファクターがあります。実際のダンピングファクターの値はアンプによって様々です。

ところで、ちょっと意地悪で申し訳ございませんが、ダンピングファクターを大きくするために次の内で有効な項目はどれでしょうか?

  1. トランジスターなど出力段素子の出力抵抗が小さいものを使用する
  2. トランジスターなど出力段素子を並列接続して出力抵抗を小さくする
  3. 出力段のエミッター抵抗を小さくする、もしくはエミッター抵抗を無くす
  4. NFB量を大きくする
  5. 上記すべてが効く
  6. 上記すべてが効かない

答えはこちら

正解) 6. 上記すべて効かない

です。それでは何がダンピングファクターを決めているのでしょうか?
実は出力部の配線抵抗です。出力段の出力部からアンプの出力端子までの抵抗分をいかに減らすかが重要で,実際にはここでダンピングファクターの値が決まっています。

DF-NFB

ダンピングファクターの決める箇所の説明図

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故こんな説明をするかというと、ダンピングファクターについて誤解している人が多く、弊社のアンプのダンピングファクターが大きいのはNFBを大量に掛けているからでしょ(だから音質には良くないですよね)という人が結構いるからです。
出力段のトランジスターやエミッタ抵抗は、確かに出力に影響するのですがNFBのループ内にあるのでその影響が1/1000以下に低減されています。出力段の出力抵抗が1ΩあったとしてもNFBのおかげで実質的には1mΩになっているのです。ですので実際にはダンピングファクターに影響しません。実際出力段直後の点でダンピングファクターを計測するとどんなアンプでも5000位にはなっています。

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普通の市販プリメインアンプアンプパワー部の基板(左上が出力リレーと出力端子)

反対にNFBループの外にあるコイル、リレー、それらの配線材の抵抗はそのまま出力抵抗になるので、ここでダンピングファクターが決まっています。リレーなどをプリント基板に実装して配線したりすると(ほとんどのパワーアンプがそうですが)、すぐに500位に低下してしまします。

コイルは実際にスピーカーを使用する環境で高域のインピーダンス上昇を抑えるもので、アンプの安定性を確保するためには必須です(と教科書に書いてあります)。実際にはコイルに抵抗(10Ω位)を並列接続してダンピングして、コイルの影響でピークができるのを防止します。

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パワーアンプDCPW-100の内部配線(上の写真と比べて欲しい) 出力部はプリント基板を使わず圧着端子で配線

当社のパワーアンプ(DCPW-100)はリレーに超大型のものを使用して、極太のケーブル5.5-8mmスクエアの配線材を使用していますので1500という値になるのです。

DCPW-200の場合はリレーを出力部から取り去って(電源供給側に移して)3000という値を達成しています。

ちまたのアンプでは大胆にも(本来必要な)コイルや保護回路を設けていないものもあり、そういったアンプでは4000-5000という表示になっています。

ダンピングファクターが音質に与える影響

ダンピングファクターと聞くと大きい方が低音のダンピングが効くというイメージが有りますが、数百以上であればそうとも言えないと思います。ダンピングファクターという名前が付いたのは真空管アンプ時代の話で当時はダンピングファクターが1とか10という時代だったので、その時は実際にダンピングに効いたのだと思います。

逆にダンピングファクターは小さくするのは簡単で、出力に抵抗を挿入すれば小さくなります。実際にダンピングファクターを小さくして聴いてみると、高域がおとなしくなって若干聴きやすい感じにはなります(それがいい音かは別にして)。

まとめ

要するにダンピングファクターというのは(出力部の)配線をどれだけ真面目にやったかという証なのです。ダンピングファクターはダンピング(制動)ではなく、配線のダンピング(不当廉売)ファクターと言う方があたっているのかもしれません。

パワーアンプのモノーラル(BTL接続)が予想外に良かった件

パワーアンプのモノーラル化について、これまで必ずしも積極的にお薦め出来るとは考えていませんでした。

ただお客様の(他社のアンプを使用した)これまでの経験ではモノーラルにすると良くなるとおっしゃる方が多かったのも事実です。初代パワーアンプDCPW-100についてはモノーラルアンプとしての使用は出来ませんでしたが、2台を使用して(LowとHighで)バイアンプ駆動を試された方などはいらっしゃいましたが、「違いはすこしなのでやっぱり1台でいいや」とおっしゃる方多かったのも事実です。

DCPW-200に関してはモノーラル(BTL接続)としての使用もできるようになっていましたが、これはどちらかと言うとお客様の要望に答えるというのが目的で、製作者としてはモノーラルの方が絶対に良いとは考えていませんでした。
DCPW-200を開発した際、BTLモノーラル接続でも試聴したのですが、確かに1台でステレオとするよりも、躍動感といいますか弾けるような音離れの良さは感じたのですが、2台使用のほうが明らかに上といいますか、2台(2倍の)価格に見合う音質向上とは正直思えませんでした。

先日DCPW-200 1台をご購入いただいたお客様で、もう1台追加して(モノーラル使用で)2台のDCPW-200で使用してみたいという方がいらっしゃいました。念の為に最初の1台を一旦お引き取りし、1台目と2台目の両方をチェックして納品させていただきました。この際、改めてBTLモノーラル仕様で聴いてみましたが、これがとても良かったのです。低音部の量感や力強さが明らかに増して、全体的にさらに上質になった様に感じました。開発当初にテストした印象とは大きく異る結果となりましたが、そのテストした当時との違いはSP(部屋)のレイアウトを変更したこと、SPケーブルをワイヤーワールドのものに変更した位で、結果が決定的に異なる要因とも思えないのですが、オーディオはデリケートで不可解なところもあるので、そういうこともあるのでしょう。

お客様のところに納品した際も、同様に音質が向上しており、お客様にも2台目を購入してよかったと喜んでいただきました。特に高音域が(もともととても澄んだ音色ではあったのですが)より良くなったとのことでした。


DCPW-200、2台でテストしている様子

2台のパワーアンプを使用して接続する方法には2通りあります。

2台のパワーアンプを使用する際1台をBTLモノーラルにして接続する方法と、通常の2CHアンプのままHIGH、LOWに振り分けてバイアンプ駆動にする方法があると思います。こちらでテストした印象ではBTLモノーラルの方が総合的には良いように思いました。バイアンプ駆動にすると中高音域がはっきりするようには聴こえるのですが、帯域のバランスが若干くずれ、低域が目立たなくなってしまいました。HIGHの方をすこし音量レベルを落とせばバランスがとれたのかもしれません。

BTLモノーラル駆動は負荷インピーダンスが1/2になるので不利だと思っていましたが・・・
BTLモノーラル駆動は電子工学的に考えると、負荷インピーダンスが1/2になります(ので不利だと思っていました)。
どういうことかといいますと8ΩのスピーカーをBTLアンプで駆動すると4Ωの負荷を駆動していることになるので、アンプに取っては負荷が重くなって不利だと思っていたのです。

ただよくよく考えてみると、同じ音量を得るのに(同じ電力をスピーカーに供給するには)BTLの場合は出力電流は同じで出力電圧が1/2になるので、原理的にBTLの方が有利だったのです。8Ωのスピーカーで2Wの出力が必要な場合、BTL、と通常のアンプでの動作はこのようになります。

通常アンプでの出力電圧と出力電流
BTLアンプでの出力電圧と出力電流

BTLアンプではと同じ音量を出す場合、出力電圧は1/2に出力電流は同じになるのでむしろ有利になります(不利な点な無いのです)。

これがBTLアンプにすると音質が良くなったひとつの原因かなーと勝手に納得しています。

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おすすめのオーディオ本

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DCPW-200の評価記事への補足説明(いいわけ?でいいわけ)

最近すっかりブログがご無沙汰で申し訳ありません。

最近新型パワーアンプDCPW-200のオーディオ雑誌の評価記事が出揃いましたので、それについて製作者としての立場からいくつか補足説明させていただきたいと思います。

掲載時期の順番でまずオーディオアクセサリーの秋号での評価記事はこちらです。

オーディオアクセサリー

2013年秋No.150,「話題の注目モデル」p188

弊社のアンプはすべてスピード感があるというのは間違いのない事実で、記事にあるようにDCPW-200も当然そういった傾向があるアンプです。この記事の中で
「本機の音には切れば血の出るような生命感が溢れているのだ」
と書いていただいていますが、まさにこの表現がDCPW-200の特徴を表していると思います。
DCPW-200で音楽を聴いていると、なにか情念のようなものを伝えてくる時があります(貞子?)。

次にこの記事に関連して、テクニカルな点をもう少し補足させていただきます。

DCPW-200の出力部の配線は実は通常と異なる構成になっています。通常は出力トランジスタ(+エミッタ抵抗)の出力部からミューティング用のリレーとコイル(インダクタンス)を経由してスピーカーターミナルに配線されています。最初のモデルのDCPW-100ではこの構成は同じく踏襲し、リレーを巨大なものにして、かつコイルも通常よりかなり線材の太いものを使用して出力インピーダンスを下げました。これで達成したのがダンピングファクターDF=1500という値です。それに加えて出力配線部にはプリント基板は使用せず太い配線材+圧着端子という、結構作業が大変な手法をもちいています。逆にこの従来のやり方での限界がDF=1500でした。

DCPW-200では出力部のリレーを出力トランジスタの電源供給側へ移動しました。こうするとリレーがNFBループの前に入るのでリレーの接触抵抗の影響は数千分の1になるのです。この手法はいくつかのところで採用されているのは見たことが有りますが、実用機としては比較的珍しいと思います。なっといっても一番むずかしいのは電源をONにした際にノイズが出ないようにすることで、このためには出力部が瞬時に立ち上がり安定する必要があります。実験段階では早くから成功していましたが、実機に組み込んでみると色々と修正するべきところがあり、この部分を詰めるだけで半年かかってしまいました。

通常のパワーアンプの出力部構成

DCPW-200の出力部構成

リレーの接触抵抗を払拭できると残りはコイルの部分です。一つお断りしておきますが、このコイルというのはパワーアンプであればすべての機種に入っていますし、入っていなければならない部品なのです。(DCPW-200ではこのコイルがあまりにも大きいので非常に目立ってしまっていますが・・・・。)

このコイルの役割は高周波領域での外部に接続したスピーカーからの影響を遮断するために設けられています。普通の製品ではプリント基板に普通に収まっているので目立たないだけなのです。
このコイルはどうしても何十cmかの線材を巻くので出力抵抗がそこそこ有ります。抵抗を少なくするために線径を太くするとコイルの長さが長くなり、線材の長さが長くなるので結局たいして抵抗は下がりません。シミュレーションを繰り返して、更に一工夫してできたのがDCPW-200に搭載しているコイルで、その抵抗値はDCPW-100の数分の1、通常のアンプに使用されているコイルの数十分の1にはなっていると思います。こうした工夫をして得られた値がDF3400なのです。

長くなりましたので、以下の記事に対する補足は別のブログで紹介させていただきます。

ステレオサウンド

2013年秋,No.188,「話題の新製品を聴く」,p364

無線と実験

2013年10月号,No.1088,「MJズームアップ」,p16,p17,p18

新型パワーアンプDCPW-200の進捗状況

新型パワーアンプの近況についてご報告させて頂きます。

DCPW-200のデザイン

まずデザインですが、昨年のハイエンドショーでお披露目した形から変更しました。CADデザインはこんな感じです。

DCPW-200のデザイン

デザインが斬新な分、加工にもいろいろと工夫が必要で、現在詳細を各種検討しています(ですので時間がかかっています)。

DCPW-200の機能
DCPW-200はRCA入力、XLRバランス入力の両方に対応しています。さらに出力もステレオ出力とモノーラル出力の両方に対応しています。ですので、動作モードとしては
1. RCA入力、ステレオ出力
2. RCA入力、モノ出力
3. XLR入力、ステレオ出力
4. XLR入力、モノ出力
の4つをリアパネルのツマミで切り替えるようになっています。

DCPW-200のリアパネル

2と4のモノーラル出力はBTL出力となります。
特に2の場合、RCA入力をクロスフィールドバック方式のアンプを通して完全なバランス信号に変換し、その後左右のCHにHot、Coldを振り分ける本格的な方式です。

出力の仕様はステレオ時150W+150W(8Ω)で、モノーラル時は600W(8Ω)です。

DCPW-200の特徴
最も特徴的な性能はダンピングファクター(DF)が5000程度あるということでしょう。DFを5000程度に持ってくるには回路的に相当の工夫が必要です。DFが5000になるとDF500のものよりも聴感上ダンピングが良くなるかというとそうではなく、より細かな情報が出てくるとご理解いただいたほうが良いと思います。
その他の性能はDCPW-100よりもむしろ若干劣ります(とはいっても他のパワーアンプよりはいいですけど)。

音は、聴いていると何か情念の様なものがどろどろ出てくる感じで凄いです。

DCPW-200のリリース時期
3月初めには完成させたいと思っていましたが、現状の見込みでは早くて3月末くらいの見込みです。
新型プリアンプDCP-210の方が立ち上がって来ましたので、この点でも忙しくなってきています。

簡単ですが新型パワーアンプの近況を説明させていただきました。

オーディオアンプの参考書 -書店にないが断トツでこれ-

オーディオアンプを設計・製作する上で是非とも手元に置いておきたい本を紹介します。
最近、初心者向けの真空管アンプの製作に関する本ですとか、おもちゃに近い半導体アンプの本が本屋さんに置いてあります。ミニブームみたいなものかも知れません。ただ半導体アンプのしかも本格的オーディオ用となると残念ながら本屋さんには置いてないのです。

オーディオアンプの教科書として私がお薦めする教科書はずばりこの1冊です。


ラジオ技術社「基礎トランジスタ・アンプ設計法」黒田徹著

初版は約20年前で若干古いといえば古いのですが、アナログアンプの回路はほとんどこのころすでに完成されているので問題ありません。基礎と書いてありますが、かなりの上級者向けです。プリアンプでいえば、各種イコライザアンプ、ヘッドアンプ、またパワーアンプについては進化の歴史から代表的トランジスタアンプとMOS-FETアンプの実測値まで掲載されています。記述内容も単なる技術の解説にとどまらず、回路の問題点と解決法(進化の歴史)がきれいに整理されて記述されています。黒田さんの本はどれも理論的根拠を持って述べられていらっしゃるので非常に参考になるのはもちろんですが、この本はそれまでのオーディオ業界が持っていた回路技術やノウハウをすべてまとめている様な感があります。
 実はこの本、一度廃刊になり復刊ドットコムに寄せられたリクエストで再出版されたという経緯があり、その筋の人にはかなり有名な本です。

 掲載されているアンプの特性は今見ても非常に優れていて、たとえばもっとも凝ったパワーアンプ回路では歪率が最大出力時で0.001%を切るものもあります(p272)。振り返って現在市販されている最高級(最高額?)パワーアンプの仕様を見ていただければすぐに判りますが、歪率は良くても0.01%レベルで一桁以上悪いのです。
ひるがえって、現在市販されている高額なアンプは、xx部品を使用、yy回路採用などと高性能を謳っているのに、本書の内容よりもなぜ性能が悪くなっているのか不思議なのですが、実はこの教科書にさらりと書いてある性能を出すのは結構むずかしいのです。たとえて言うなら日本家屋の建て方が書いてある本があったからといって、誰でもが立派な家を建てられないのと一緒です。アナログ回路は大工仕事の様な職人芸的な技能が必要な側面があります。といっても、もちろんアンプ設計には「経験と感が大事」などといっているのではなく、エンジニアリング的センス、例えばある部品が高周波領域でどういう挙動をするかとか、単純に回路図では現れていないようなところを、頭の中で瞬時に予想(シミュレーション)しながら全体を構築していく技量が物をいうのです。
 またプリント基板の回路パターンの引き回しや実装技術などでも特性が結構変わります、というより本来の特性が出ないので非常に大変な苦労をすることが多々あります。弊社のパワーアンプの場合も回路を決めてから今の性能にたどり着くまでに(この教科書に書いてある基本性能を追い抜くのに)1年以上かかりました。
 最近の他社のアンプの性能を見ていると、ほんとうに実装を含めた回路の検討をやっているのだろうか?と疑いたくなるものが少なくありません。性能が悪いだけで、音がよければいいのですが、ほんとうに電子工学的にまじめな検討を加えていないのに、音質の向上を検討しているのだろうか?と余計なお世話ながら勘ぐってしまいます。

この本は実際にアンプを設計・製作する人向けの本ですが、興味があれば実際に読んでみる事をお薦めします。この辺の電子回路の内容は勘が良ければオームの法則だけで80%くらいはなんとなく理解できると思います。
尚現在ラジオ技術社でオンデマンド出版(受注簡易製版)をしています。(ちょっと高価ですがその価値はあります)

まさかオーディオメーカーのアンプの設計に携わる人が読んでいなかったりする事はありませんよね?

p.s.
姉妹品として「実験で学ぶ 最新トランジスタ・アンプ設計法」
もあります。

ところでオーディオデザインのホームページはこちらです。

パワーアンプのSN比(残留ノイズ)の統計解析

はじめに

以前のブログで半導体パワーアンプの歪率を縦軸に、価格を横軸に取ると、有意な相関関係がみられることを紹介した。
なぜならパワーアンプにおいて現在でも難しいのは、高域の歪を抑制することなので、まじめにその点を検討しているアンプは結果的に高価になるからだ(と考えている)。グラフを再掲載すると

ピンクが海外製、青丸が国産アンプ、三角がオーディオデザインのアンプです。三角が2つあるのは、一つが20-20KHzのもの、もう一つが1KHzを示しているからである。いずれにしても、オーディオデザインのアンプの歪率が一桁以上小さい事が明らかである。

アンプの性能をあらわすもう一つの指標として、SN比がある。
そこで今度はパワーアンプのSNという視点から考えてみたいと思う。パワーアンプのSN比の表記を調べてみるとプリアンプと違って(プリアンプでは出力1-2Vに対するノイズの比率で表記されていたが)最大出力に対するノイズレベルの比で表すことが多い様である。それでは実際にパワーアンプのSN比を見てみることにしよう。

SN比の定義

SN比の定義そのものは簡単です。信号(S)とノイズ(N)の比を対数で表します。
・ SN比=20LOG(S/N)
SとNの単位はVoltです。対数は底が10になります。例えばSN比80dBで1万倍になる。 Signalの方はほとんどのパワーアンプが最大出力をとっている。ただし計算時の単位は最大出力電圧(V)です。パワーと電圧の換算は次式で行えます。(V)=√(P・R)
Pはパワー(W)、Rは負荷抵抗(Ω)です。 単純にSNだけを見てパワーアンプを比較すると、大出力アンプの方が分母が大きくなるので有利になってしまう。そこでノイズの電圧を計算し、パワーアンプの価格順に並べて見よう。 残留ノイズの計算式は次のようになる。
Vnoise(V)=√(P・R)/10^(SN比/20)
√はP・R全体にかかります。10^は10のべき乗を表します。

残留ノイズの実測値

次に実際にアンプの残留ノイズの結果を見てみよう。マークレビンソンのみ1W時の出力でSNを定義していると記されていたので、P=1Wで計算し、他のアンプは最大出出力に対して計算した。結果は次の通りである。 横軸がパワーアンプの価格、縦軸はパワーアンプの残留ノイズの計算値である。

ピンクの□が内外パワーアンプ分布図、青△が弊社パワーアンプのノイズレベルです。 結果を見てわかるとおり、ノイズレベルに関しては価格とに明確な相関はない(歪率の場合とは異なる)。
ただノイズレベルの分布の範囲が相当に広いことがわかる。ノイズの分布は一般に30-400uVと一桁違うのだ。 弊社のアンプではなんと7uVなので、こうなると下手すると2桁異なってくる。

アンプのSNを議論するのは実はノイズそのものが問題なのではなく、ノイズレベルが回路パターンの引き回しや実装技術の良否を表していると考えているからです。
アンプ回路の理論というのはたくさんありますし、シミュレーションも簡単です。 ところがこの回路パターンの引き回しや実装技術に関しては参考になる確固とした理論が無く、製作者の技量がそのまま出てくる領域なのです。
残留ノイズが100uVを超えたアンプというのは、実際には重大な問題を抱えたアンプといっていい。大電流ラインの引き回し方法が間違っていたり、アース配線に重大な問題があることを示唆している。
残留ノイズというのは入力が無い状態のノイズですから、実際の使用状態ではもっと大きなノイズをもらってしまう(ただ信号レベルが大きいから直接聴こえないだけ)と考えるべきです。
実際100万円クラスの海外製アンプでもこの辺に問題があり、相談を受けたことがあります。何でもプリアンプに接続するとハムが出るそうだ(単体では無音)。これなどは非常にわかりにくいのだが、大電流ラインの配線に問題があるからである。実は弊社のパワーアンプでも、試作段階で同じ現象が発生し、考えられる対策を徹底的に検討して原因を特定しました。
原因は電子回路の技術者にとっても意外なもので、おそらくアンプメーカーの技術者でもこの辺を理解してる方はほとんどいないのではないかと思う。

終わりに

以上パワーアンプの実力についてノイズの観点から考えてみました。

パワーアンプの進捗状況 -その4 最終仕様-

パワーアンプ(製品版)の最終仕様・性能は以下の通りです。
(性能改善のため一部数値内容は09年3月23日に改訂しています。)

パワーアンプ電気特性
最大出力:80Wx2(8Ω)
歪率:0.01%以下(20-20KHz最大出力時)
0.0005%(1KHz最大出力時)
0.002%(20-20KHz1W時)
SN比:130dB(IHF-A、75W時)
残留ノイズ: 7uV
DF    : 1500
周波数特性:DC-1MHz(-3dB)
サイズ:250x290x350mm(W,H,D)突起含まず
*数値は実測値です。


上の図はパワーアンプ(製品版)の歪率特性です。試作機よりも改善されて全帯域で最大出力まで歪率が小さくなりました。10KHzの歪率が少し大きく見えてしまっていますが、これでも他のパワーアンプに比較すると数分の1から一桁小さくなっています。
歪率特性が自慢のアンプではありませんが、歪率が小さいということは基本性能がいいことを代表しているようなものです。基本回路をきめてから1年以上プリント基板の配線を改良してきました。その結果高域まで安定にNFBがかかるようになって歪率、DF、周波数特性、過度特性のすべてが1ランク上がりました。

DFも1500と非常に良い値です。

音質の特徴は低音が非常に締まっていることです。この点は他のアンプと比較して明確な差として感じられます。ハイエンドショーで聴いた人からは、国産アンプ(海外製のものと違って)は低音がしまっていないが、お宅のはすごくしまっている、国産がバスレフならお宅のは密閉型の音だとも言われました。

また低音のローエンドが延びた様に聴こえます。これまで50Hzまでしか再生していなかったのが20Hzまできっちり再生するようになった様に聴こえるといったらいいでしょうか。(もちろん実際には他のアンプでも20Hzまで出ているはずなのですが)
中高音の分解能の高さはプリアンプと同じです。とにかく情報量が多くなります。ヘッドホンの音質に近づく感じといったらいいでしょうか?
低歪率特性は実際に聞いてみるとすべての音楽ソースが低歪に聴こえるわけではありません。むしろ他の機器の歪成分が明確にわかるようになります。よく見えるめがねをかけると世の中がきれいに見えるのではなく、むしろ汚れが良く見えて気になったりするのと同じです。もちろん、録音の良いソースを聴いたときに音は絶品で、これまでに聴いたこともない様ないい音を出します。

相性の合うスピーカーはやはり中低域がたっぷりでるスピーカーシステムではないでしょうか?最近はフルレンジでもそういうなりっぷりのSPがあるのでどのタイプと限定できませんが。

こういった方向のアンプをお探しの方は、是非ご検討をお願いします。

パワーアンプの進捗状況 -その3-

パワーアンプ相変わらずお待たせしております。
2月後半からご注文を多くいただき、新製品のパワーアンプ開発の進捗がはかどっておりません。
セレクターなどはある程度さばけるようになっていますが、これに加えてプリアンプの注文が多くなると、現状ではそれだけで精一杯になってしまいます。
言い訳はこのくらいにして、パワーアンプの外観を紹介します。
パワーアンプの外観

下2/3が電源部で上部が回路基板・放熱器類になります。
フロントパネルは5mm厚のアルミヘアライン仕上げになります。

電源部の電解コンデンサ容量は+-合わせて合計約240,000uF(桁に注意)になります。電解コンデンサ容量はもっと大きいのもありますが、そういうものは汎用電解コンを使用しているのでインピーダンスが大きくなってしまいます。またオーディオ用の低インピーダンス特性の電解コンデンサは20,000uF程度までしか作られていません。弊社の場合、大容量と低インピーダンス両立すべくある工夫をしています。
(以前は技術内容を詳細に記述していましたが、同業者の方で似たようなものを作られたり、内容をぱくったりされることが多くなってきたので詳細は記載しない様にしていますがご了承下さい。)

基板は通常の1.5倍の2.4mm厚のガラスエポキシ基板で、この厚さになると基板がしならなくなります。銅箔厚さは通常の2倍の70umで製作しています。もちろん、パワーアンプのエッセンスは回路技術にあり、こういった部品面は単にそれをサポートしているだけですが。

基板類も組みあがっているので、それらをこのケースに収めて、調整、測定を無事終えればデモ機が出来上がります。

製品版では側板の仕様変更、フロントパネルへのシルク印刷追加などが加わりますが、中身はこの写真のデモ機と同じになります。

今回はこのくらいで。