測定ソフト「ARTA」を使用したリスニングルームの周波数特性の測定(基礎編)

DynaudioのC4を導入してから、はや2年が経過しました。導入当時におよその周波数特性はこちらのコラムで測定していましたが、その後多少レイアウトを動かしたので再度特性を測って見ました。

測定方法について

測定に使用するソフトとマイクに今回は新しいものを試してみたので紹介します。

測定ソフトについて
これまで、周波数特性の測定は「Myspeaker」というソフトを使用してきました。このソフトは周波数特性だけでなく、累積スペクトル等の表示もできて優れたソフトでしたが、さらに詳細な解析ができるソフトがありました。それはARTAという測定ソフトです。測定項目はほぼ同じですが、痒いところに手が届くというか、詳細な解析を使用する場合はこちらの方が便利です。今回はその使い勝手も検証する意味で、このソフトを使用して簡単な解析をしてみました。
測定マイクも新しく
測定用USBマイクUMM-6測定に使用するマイクはこれまでベリンガー社のECM800と言うものを使用してきましたが、このマイクは48Vのファンタム電源が必要なため、何らかのミキサーのようなものを別途接続する必要がありました。これはこれで面倒なので今回周波数特性の測定用に市販されている、USBマイクを試してみました。

それがこのDaytonAudioのUMM-6というマイクです。電源部も内蔵されているのでパソコンにUSB接続するだけで使用できます。おまけに周波数特性の校正表がついてくるので、より正確な測定が期待できます。

試聴エリアのレイアウトについて
測定時のスピーカーレイアウトimg_20161105_091944_listningspace試聴スペースのレイアウトは少しずつ変わってきています。最近はJBL4429をしまって、C4だけをやや左右に距離を取って置き、さらに50cm程後ろに下げました。これによって音場が左右に広がり、またスピーカーを後壁に近づけたことで低域の厚みが増して、よりバランスが良くなりました。
以前はSPの後ろを通れるようにあけていたのですが、実用性よりも音質を優先したのです。

測定系の特性について

ラップトップPCの音声入出力部の周波数・歪率特性

ラップトップPCの音声入出力部の周波数・歪率特性

測定はラップトップPCを使用して行います。スピーカーの測定の前に、PCのからのオーディオ出力をそのままオーディオ入力に戻して、PC系統の基本性能をチェックしてみましょう。
使用したラップトップPCのオーディオインターフェースには、スピーカー(イヤホン)出力端子とマイク入力端子がありますが、ライン入力がありません。イヤホン出力をそのままマイク入力に接続して、内部ソフトのミキサーでゲインを調節しました。
その時の周波数特性と歪率特性はこのようになりました。
周波数特性は20kHz近辺で落ち込んでいますが、今回の測定には支障はないでしょう。歪率の方は約0.1%で、スピーカーの歪率よりも悪いくらいです。今回の測定では歪率特性は信用できません。歪率特性を測定するには別途外付けのオーディオインターフェースを使用する必要があるようです。

 

インパルス応答を利用した特性解析(基本編)

imp

インパルス応答波形

周波数特性を測定するだけでしたら、サインの連続波で測定したほうがきれいに測定できますが、今回は訳あってインパルス応答波形から周波数特性を測定する方法を使用しました。インパルス応答波形の測定結果がこちらです。最初のインパルス応答のあと何パルスか壁からの反射波が続いていることがわかります。

imp1-4-fこのインパルス応答から周波数特性を算出した結果がこちらのグラフです(ボタン一つで計算されます)。測定時のマイク位置はレイアウト図でS0の位置です。

10kHz以上で低下していますが、これは測定系に何らかの原因があると思われます。多少の谷はありますが、非常にフラットできれいな特性が得られています。全体の傾向は(10kHz以上の低下を除けば)以前に、サイン波の連続波で取った特性の類似しています。

次に累積スペクトラムを見てみましょう。
imp1-4-acu1imp1-4-acu2
こちらがインパルス応答から算出した、累積スペクトラムです。一般に、累積スペクトラムを時間軸で表すと高域は早く収束し、低域は収束まで時間がかかるので全周波数帯域を観察することはこんなんです。

ARTAでは時間軸を波数で表示することも可能です。こうすると第何波で収束するかという表示になるので過度特性の周波数特性が見やすくなります。

左のグラフは累積スペクトラムのは数表示ですが、低域の方が若干収束するまで時間がかかっていることがわかります(最大20波程度)。スピーカーの構造上の原理を考えれば当然のことで、合理的な結果です。これでもかなり良好に収束している方でしょう。
また20波を過ぎても単発的にピークがありますが、これは壁などの反射による影響でしょう。

 

以上、USB接続の測定マイクと測定ソフトARTAを使用して周波数特性等をざっと測定してみました。ARTAはもっといろいろな使い方ができるソフトです。次回に応用例を紹介します。

アンプ選びは仕様を気にし過ぎてもしようがない? -皮肉な結果にならないために-

最近の問い合わせで気になることがあります。

オーディオアンプの中身にこだわるのは非常に良いことだとは思いますが、その回路や部品に妙にこだわりを持ち過ぎているのではないかということです。

例えば、具体的な問い合わせ内容で、

1.

お客様:出力デバイスは何?

私:バイポーラトランジスタです。

Q:MOSFETの方が音が良かったのでMOSFETのアンプがほしい。

2. 
お客様:ボリュームは何を使っていますか?
私:xxです。
お客様:昔xxを使った(他社の)アンプを聴いたが音が悪かった。なのでそのボリュームを使ったアンプの音質は悪いのではないか。

という感じです。

こちらからすると、昔聴いたアンプである部品を使っていたからその部品がいいとか悪いとかいうその発想自体が理解できないのですが・・・・。

他にも、ほしいアンプには”xx回路”、”yy部品使用”など幾つかの条件があって、そのすべてを満たすアンプを探しているという感じの選び方をされている方もいます。

こういった回路、使用部品で選択するというのは、かえってその人にとって最良のアンプを選ぶという観点からはマイナスではないかと気になります。

例えば一般受けしそうな仕様としては、

MOSFET採用、左右独立電源、大容量電源トランスxxVAを採用

xx回路、大型xxインシュレーター、独自yy方式音量調節、小容量コンデンサ並列接続

4(8)パラ出力段、低負荷(2Ω)駆動能力、有害なNFBを最小限に・・・

などがありますが、これらのほとんどを満たしているアンプがあったら、それは逆に具体的な検討はしないで良さそうな仕様を適当に採用しているだけなので、大したアンプではないのでは?と私だったら逆に思います。

実際に本当にいろいろと試しながらその本質を見極めてアンプを磨き上げていくと、結果的には一般的に好まれる回路構成や使用素子とはまるっきり違ってきたりするものです。一見、回路や使用素子は普通に見えても、本当に音質に効くところは押さえているので音はいいということになるのです。結果は様々ですが、本当にいろいろ検討しているメーカーというのは結構世間一般とは違ったことも言っているものです。

車などでも新xxサスペンションと宣伝しているものよりも、方式自体は新しくなくても素晴らしいサスペンションだったりすることがあるのと同じです。本当に良いものを追求すると中身は相当良くても、案外仕様自体は逆に地味だったりするものです。

全部がそうだというわけではありませんが、一般受けする文言ばかり並べている仕様のアンプというのは実際にいろいろ試しているのではなく、手っ取り早く受けそうな仕様にしているだけだと思いますし、そういうアンプは聴いた人の本音を聞いてみるとやっぱり芳しくないものです。

お客様がアンプ選択の際、テクニカルにいろいろと確かめているつもりが、それがアダとなって逆に悪い機器を選定しているとしたら悲しすぎます。
もちろんある再生システムに対して相性というものはあるので、アンプの音質に関してどういう方向性なのかは重要です。解像度を求めるのか、聴きやすさを求めるのかで選ぶべきアンプは異なるので、方向性が決まったらあとは回路方式、使用素子にこだわリすぎず、むしろこの会社は本当にいろいろ検討しているのか、そういった内容が製品の文面から伝わって来るかで見極めて試してみる他ないでしょう。そういう意味では選択にはある種の感性が重要です。そうやっても必ずしも当たるわけではありませんが、今回はハズレだった、この機器は想像以上だ、そういったことも楽しむこともオーディオの醍醐味というものでしょう。

100%確実に選ぼうと素子や回路にこだわると、逆に100%の確率で良いものを選べないという皮肉な結果になるというお話でした。

電源の高周波ノイズに関する解析 -その2-

以前にAC100Vライン用のノイズ検出器を作った報告をしましたが、今回はそれを使用してもう少し解析を進めた内容を報告させて頂きます。

測定内容
AC100Vライン用の検出器の話は以前のコラムをご参照していただくとして、今回さらにそのスペアナ波形をPCにデータで取り込んで画像化した結果をお見せします。またAC100Vラインそのもの、さらに高周波ノイズフィルターを使用した結果等についての結果を紹介します。

測定結果
これからお見せするのは、家庭のAC100Vラインのノイズ成分をスペクトルアナライザーで見た波形です。横軸の周波数軸は0-10MHzで分解能10KHz、スペクトル100回の平均化データ、縦軸は10dB/dBです。まず、検出系のノイズスペクトルを示します。このデータは検出系をACラインに接続しない状態で測定したものです。

1.検出系のノイズスペクトル

この状態でノイズはほとんど見えません。

次に検出器をAC100Vラインに接続した状態で測定したスペクトルは次のとおりです。

2.AC100Vラインの高周波ノイズスペクトル(スイッチON/通電)
alt=”” class=”pict” />
周波数は同じく0-10MHzです。以前のブログで紹介した際は20MHzあたりにもノイズがあったのですがなぜか今回は10MHz以上にノイズはほとんどありませんでした。7MHz付近にただならぬこってりとした分布があります。恐らくスイッチング電源(DCアダプター、PC、その他家電機器)から出た高周波ノイズがACラインに重畳しているのだと思います。波高値としては10mV程度です。それに加えて100-250KHz付近と低周波領域30KHz以下にもノイズがあります。

それとおもしろいことにこの手のノイズは例えば測定しているテーブルタップスイッチを切っても(通電されていない状態でもACコンセントを挿していれば)、ほぼ同じノイズが混入してくることです。その状態がこちらです。

3.AC100Vラインの高周波ノイズスペクトル(スイッチOFF/非通電)
alt=”” class=”pict” />

これを見ていただくとわかる様に2の通電状態とほぼ同じスペクトルになっています。ACコンセントの片側だけが接続された状態でも、ノイズが侵入してくるということはコモンモードノイズと呼ばれるモードのノイズが侵入しているのだと推測されます。

ACライン用に高周波フィルターなるものが市販されています。これらのラインフィルターはカタログではコモンモードノイズも40dB程度は除去できることになっています。そこで電源ボックスのRFのフィルター付きのACインレットを付けてその効果を調べてみました。その結果がこちらです。

4.AC100Vラインの高周波ノイズスペクトル(RFフィルター有り/スイッチON/通電)

上のスペクトルはRFフィルターを通した状態でのノイズスペクトルです。多少の効果はあるのですが残念ながらノイズが除去できているとは言えない状態です。

一般に高周波ノイズ(とはいってもこの周波数帯は低周波といえばそうなのですが)はいわゆる電気の常識が通用しない所があって扱いが難しいですね。

電源の高周波ノイズについての解析

はじめに
私自身は電源ケーブルや電源タップにやたらと凝る方ではないのですが、少しこの辺の事情を調べてみました。

家庭用のAC電源には現在では様々なノイズが乗っています。デジタル機器が普及したためとスイッチング電源が使用されるようになってきたためです。
高級なAC電源ケーブルにはたいていノイズフィルターも内蔵されていて、この辺が効いていると思われます。
ただ定量的にこの辺を調べた例はあまり見たことがないので、実際に電源に含まれるノイズを観測してみました。

測定方法(の難しさ)

まずここが肝心なところなのですが、AC電源のノイズを測定・観測するのは実際には結構難しいのです。電源関係の製品はたくさんあるのに、AC電源関係の実測データが非常に少ないのは測定が難しいからではないかと思います。
まぜ難しいかというと、AC100Vを直接観測することは(測定器が高級であるほど)実はできないことが多いのです。
テスターで電圧を見ることはできます。またオシロスコープで波形を見ることも一応できます(プローブで1/10に落とせば)。

ただAC100Vの波形を直接見ても高周波ノイズは見えません。
100Vという元の波形があるので1V以下のノイズは隠れてしますためです。
したがって(ノイズを拡大して見るために)基本波の100V50Hzを除去する事が必要です。
ノイズ成分は高周波なので能動的なフィルターは簡単には使用できません

スペアナなどの高精度な測定器は入力がアース基準なので(オシロのフローティング入力と異なります)、AC100Vを例え分圧して10Vに落としたとしても
スペアナに直接入力できません。それとスペアナなどの高周波測定器は入力インピーダンスが50Ωくらいなので、電源ラインの測定には直接使用できないのです(ショートした状態になってしまうので)。ですので高周波まで特性が伸びたバッファアンプが必要になります。

整理すると、測定系は次の3点を満たす必要があります。
・AC100Vを基本的には除去できること
・ACラインとはアイソレーションがと入れていること
・高周波帯域まで伸びたバッファアンプを用意すること

この辺が結構難しく、なかなか測定できなかったのですが、最近やっと波形が取れるようになりました。


測定系の概略
実際にはこれに加えて検出器とスペアナの間にバッファアンプが入っています。

測定した結果

スペアナで見たAC100V電源のノイズスペクトル(0-50MHz)
0-10MHzあたりと20MHzあたりに派手なノイズがはっきり見えています。


オシロで見た電源ラインのノイズ波形
大きな正弦波状のうねりが50Hzの残留分で太くなっているのが高周波ノイズ(縦軸10mV/div)
これでも基本波AV100V50Hzは1万分の1に減衰させてあります

横軸を拡大したのがこちら

高周波が見えてます

10mVオーダーではありますが、電源ラインに混入してきた高周波ノイズが確認できました。

ついで言っておきますが、よくノイズ除去の方法としてアイソレーショントランスを使用している人がいますが、アイソレーション出来るのはDCと低周波成分で、こういったMHz帯のノイズはほとんど通過しますのでこの手のノイズ除去にはほとんど効果が期待できないと思います。

定量的な検出ができましたので、今後高周波ノイズの抑制に関してぼちぼち報告させていただきたいと思います。

この内容は以前にコラムに掲載した内容をブログで紹介したものです。

MFBスピーカーの話

一般にステレオ再生装置の中で一番の弱点といえばスピーカーシステムということになると思います。特に低音域は完全な再生をすることが難しい。部屋の壁の影響で周波数特性が乱れることもありますが、スピーカーから出ている音そのものも不完全な部分があると思います。

例えばヘッドホンの音質と比較するとどうしても制動が不完全に聴こえます。一般にスピーカーの低音域は電磁制動で振動板を止めます(制動します)が、ヘッドホンの場合は音響抵抗による制動がメインで電磁制動よりも大きな制動がかかっているそうです。ヘッドホンの音響抵抗による制動がどこから来るのかというと振動板の前に穴の開いた板が置かれているのと、振動板の後ろのキャビネットに吸音材がびっしり入っているために空気で振動板を動きにくくしているのです。ヘッドホンのインピーダンスが一定なのもこのためです。それならスピーカーも音響抵抗による制動をかければ?と思われるかもしれませんが、そうすると音圧が取れなくなって実用的ではなくなってしまいます。

スピーカーの制動を改善する方法としてMFB(モーショナルフィードバック)という技術があります。実際の振動板の動きを別の検出系(コイル+磁気回路など)で検出し、入力信号との差を電気的に補正する手法です。この手法は原理的に優れた制動が得られるはずですが、スピーカーユニット自体が特殊なものになるのでまずそこが大変です。

探してみると過去の市販品でMFBを使用しているものがありましたので、そのポテンシャルを探って見ることにしました。
その製品とはソニーのSA-S1というものです。位置づけ的にはミニコンポの上級版という感じなのでしょうか。現在では既に市販されていませんが、中古市場から入手しました。
ソニー製MFBスピーカーシステムSA-S1

まずオリジナルの状態で音を聴いてみました。ちなみにこのスピーカーシステムはパワーアンプを内蔵していてRCA入力で音が出ます。結構立派な音がします。18cmのウーハーとは思えません。MFBの効果でしょうか?低音域がとにかくふっくら豊か(やや過剰)です。低音がやや過剰気味なせいか特に制動がいいという感じはしません。高音域はサーと見晴らしの良い音といか透明感ある気持ちいい音です。ただ全体的に音がやや硬めな感じもします。言い忘れましたがこのスピーカーの高音部はなんとコンデンサー型です。
コンデンサー型ツイーター

次に回路図を入手して駆動方法を調べてみました。MFBをかけているのはもちろんですが、その前に結構な低域のブーストをしていました。回路図からシミュレーションした低域のF特がこちらです。80Hz近辺を6dB程持ち上げています。道理で低域が豊なはずです。これだけ持ち上げても歪んだ感じがしないのがMFBの効果かもしれません。
ウーハー用アンプの周波数特性(実線がF特、破線は位相です)

物は試しでこの低域のブーストを外してみました。そうしたらどうなったでしょうか?
結果は全然ダメでした。いいところがなくなりました。低域の量感はなくなりただの小口径SPの音、さらに低域を落としたせいか高域の硬さの様なものも目立つようになりました。このシステムのパワーアンプ部はパワーICという物が使用されていて、アンプ部の音質そのものはあまりよくないのです。オリジナルの状態というのは非常に上手にトーンコントロールをしていてこの部品構成という制約の中では絶妙の味付けだったのです。

パワーアンプ部を通常のパワーアンプで置き換えればかなり良くなる可能性もありますが・・・・。

というわけで今回はMFBの本質を確かめるというところまでは到達できませんでしたが、なかなか面白い(凄い?)製品でした。

オーディオの天才バカボン -賛成の反対なのだ-

昔、漫画・天才バカボンのパパがよく「賛成の反対なのだ~」とかよく言っていたと思う(世代がばれるな)。わかった様でよくわからない言い回しだが、オーディオでもこういった表現があてはまる場合がある気がする。それは「低音(良くするに)は高音を」あるいは逆に「高音(を良くするに)は低音を」と言う現象だ。

安物のAVアンプなんかの音を聞くと、音は刺激的で痩せ、低音がまったく出ていないように聴こえる。でもこれなんかは、低音が出ていないというよりは(もちろん低音の出る出ないの差はアンプにもあるのだが)、それよりも中高音が耳障りで、その分低音が少ない様に感じられるのだと思う。
実際調べてみるとAVアンプの場合、歪が多いというのはもちろんだが、単に高調波歪が出ているというより、入力信号と関係ないデジタル的なノイズが結構乗っていたりするので始末に悪いというか、非常に耳につくのである。

AVアンプに限らず、パワーアンプなんかでもそうで、非常に下手に作ると高域の歪が多く0.数%レベルになって、これは中高音ばかりがうるさくなって、相当な電源を積んでいてもまるで低音が出ていないように聴こえたりした事がある(まあ歪率が0.1%程度でも歪っぽく感じない事もあるので、この辺の実情は複雑だが・・・)。
いずれにしろ、こういう場合は低音が聴感上足りないからといって低音をいくら改善しようとしてもだめで、逆に高音域の質を向上させる事が重要だ。

同じ事がCDP回りにも言えて、DACを良くしていくと低音が出るように聴こえて、今までのCDPの音が如何にに痩せた音かわかるようになってくる。最近DACを作り初めて(といってもDACのチップを作っているわけではもちろんないよ)良くわかるようになった(これって時代遅れ?)。

昔、スピーカーなどは自分で組み合わせるのが一般的だった頃は(スーパー)ツイーターを入れたり、ウーハーを入れたり入れ替えたりすると、高音をいじって低音が良くなった様に聴こえたりする事はよくあった(その逆もしかり)。その様な事は昔はオーディオ雑誌とか各所でいわれていた記憶があるが、今の様にケーブル交換みたいな事しかしない様になると、こういった経験は一般的ではないかもしれない。

それが「唯一すべて」というわけでも「必ず正しい」というわけではないのだが、低音を力強くしたかったら、逆に中高音にも着目した方がいい場合もあるでしょうということで、「低音(を出すに)は高音を」「高音(を良くするに)は低音を」という事でこれがオーディオの天才バカボンという事でした(マル)。

オーディオにおける交互作用の話 -良い物と良い物の組み合わせで悪くなる?-

<長い前置き>
オーディオアンプの他の方の作り方、あるいは弊社アンプにいただくご意見の中でもそうなのですが、???と思う事があります。
よくアンプの設計・製作過程において、試聴で回路や部品を吟味したとか、試聴で作りこんだというような事をい人がいるのですが、本当にそういうことをやっているのか(できるのか)疑問に思うのです。なぜなら、
1.回路を少し変えたぐらいで音質上簡単に判別が付くほど変化があるのか?
2.回路あるいは部品を単純に変更すると、結果として過度応答特性等が変わってくる場合があるが、位相補正などを再調整しているのか?
3.音質に有意差があったとして、試聴システムに依存しないでどちらかの方が良いといえるのか?
という事です。
アンプの音質というのはもちろん貧弱なアンプと立派なアンプを試聴すれば差は歴然ですが、そこそこ出来上がったアンプでごく一部を変更しても、試聴しても簡単には判別付かないくらいのレベルです。大体、試聴比較するときにケーブルを付け替えているようではまったくわからないのではないでしょうか? 弊社はまずアンプの音質比較のために、納得いくセレクターをつくり(売ってもいるが)瞬時比較に使用していますが、この様にするとなおさら差が小さい事を思い知らされるのが常です。
 「それではアンプの音質にそもそもあまり違いが無いということではないのか?」と聞かれれば、やはりそれも違うのです。アンプにはいろいろといじるところがあり、一つ一つは非常に小さい影響でも、それを10個も積み上げれば結果として結構な差になってきます。
もう一つは試聴の結果が信頼できるかという問題です。例えば部品Aよりも部品Bの方が好ましかったとして、再生系のスピーカーを代えれば逆転する可能性もあると思います。例えば、比較的柔らかな音を出しやすいソフトドーム系のSPとカチッとした音が得意なホーン型SPでは好ましいアンプの部品の判定も逆転する可能性があると考えるのが当然です。

もちろん、試聴結果が重要でないといっているわけではなく、最終的に試聴した音質が最良とするためにはどうしたらよいかというアプローチに試聴結果に頼るだけでは不十分だと言いたいのです。

<音質向上のための工学的アプローチ>
前置きが長くなりましたが、もう少し別の切り口でこの問題を取り上げてみましょう。

音質評価は人間の官能評価ですが、統計学的には適当な手法で数値化することもできます。たとえば個人でいくつかの項目で5段階評価をつけて総合点をつけるとか、複数の人に試聴してもらい良いとした人の割合を使用するとかです。

ここであるアンプAとBを試聴してBの方が良かったとします。またあるスピーカー1と2を試聴して2の方が良かったとします。それではアンプBとスピーカー2の組み合わせが最もよいかというと、そうではない場合もあると思います。統計学的にいうとこの現象を交互作用があるといいます。

別の表現をして見ましょう。下の図はアンプとスピーカーの評価結果を表しています。X軸がアンプの種類(図ではアンプの評価点数とした)、Y軸がスピーカーの種類(図ではスピーカーの評価点数とした)です。そしてZ軸(縦軸)が組み合わせた音質の評価結果です。この図では単純にアンプとスピーカの評価点数の足し算で音質評価の総合点数が決まっています。これらの関係を式で表すとこうなります。

音質評価の点数=アンプの点数+スピーカーの点数

総合点がアンプとスピーカーの良さに比例するというごく当たり前の式ですね。

一方次の図はいいアンプといいスピーカーを組み合わせた場合に音質が悪くなる例を示しています。これを統計学では交互作用があるといいます。数式で言うと、

音質評価の点数=アンプの点数+スピーカーの点数+(アンプの点数*スピーカーの点数)
と表されます。
右辺第3項にアンプとスピーカーの交互作用(組み合わせたときの効果)の項が付け足されている点が異なります。

図ではその交互作用の項がマイナスの場合を示しています。グラフで本来なら一番音がいいはずの(いいものといいものを組み合わせた)右上の方が逆に点数が悪くなってしまっています。こういう現象はより一般的な工業製品の評価においてもよくあることで、こういった効果を考慮しながら最適化を計る「実験計画法」なる手法があるくらいで(これだけで1冊の本が書ける)、工学を学んだ人にとっては当たり前の事です。

したがって(できる)エンジニアであれば数値化まではしないまでも常に頭の中にこういう構図をぼんやり描いていて、何がどのくらい効いているかおよその感覚はもっているのが普通です(ほんと?)。

話は戻ってこの部品はいい音がするとか、この材料を使用したら音が良くなった(と判断したから)といって、それをアンプの一般に通用すると単順に考えるのは危険です。
例えて言えば、ある車の走行性能がいいからといってそのサスペンションの部品一つを取り出して他の車に装着したからと言って、その車の性能が上がる訳が無いのと同じです。
音質が良くなった場合は、それは何故か(音質が良くなった様に聞こえるのは何故か)を考え(仮説をたて)、その仮説に基づいてさらに音質が良くなるはずの回路なり部品を選択してアンプを作り、仮説が正しいかどうかを検証するという作業が必要だと思います。そういった地道な技術と努力の積み重ねが出来上がったアンプの音質を左右すると考えています。

例えば弊社のプリアンプやパワーアンプに対して時々、「xx回路は良くない」とか「yy部品の音は良くない」とかいう方がいらっしゃるのですが、その様な次元で作っていないのになーと内心思ってしまいます。

とはいえ、すべての部品、回路の検討を吟味しつくした訳ではなく、とりあえずオーディオ用として良いとされている部品を使用している箇所もありますが・・・。

最後に、お客様からいただく音質に関する感想(デザインなどに対するご意見も含めて)などは非常にありがたく、また参考にさせて頂いておりますので、誤解の無い様にお願いします。