オーディオアナライザ~でDAコンバータ~を調べてみました (やっべ~ぞ)

ローデシュワルツのオーディオアナライザーUPLを導入したことを以前お知らせしました。今日はその測定例を紹介します。

オーディオアナライザ~R&SのUPL

このオーディオアナライザーは相当古いものです。基本的にコンピューターで計測を制御していますが、OSが何しろWindows95の前のMS-DOSですから。それで安全か?ですって、まちがいなく安全で安心です。何しろLANもUSBもついていませんから。

その代わりデータの転送に偉い苦労します。付いている媒体はFDDフロッピーディスク、ただこれにデータ保存する手順がテキストコマンドをハッカーのようにバチバチ打たないといけないので、使い物になりません。マウスなんておしゃれなものも(オプションにはあるようだが)付いていません。

とは言えオーディオアナライザーとしての基本性能は極めて優秀で、今でも立派に通用します。これまで使用していたパナソニックのVP-7723Aよりも一桁下のTHDを測定できますし、何よりFFTによる解析機能に優れています。

測定結果は測定器の10インチぐらいのディスプレイに表示されるので、それで不便はないのですが、画像くらいは取り込みたい。やろうとするとこの様なフローになります。

外部モニター用のVGA出力はありますので、これを一度ビデオ信号に変換し、ビデオキャプチャーで今のPCに取り込めます。こう書くと簡単ですが、ここにたどり着くまでに相当の労力を費やしました。

それにこのオーディオアナライザーUPLにはデジタルの入出力もついているので、DAコンバーターの測定にも便利です。

今回はDAコンバーターの測定結果を紹介しましょう。

DAコンバーターDACFA0(PCM1704)のスペクトル  Fs=48kHz

下の画像はこの測定器UPLからSPDIF信号(Fs=48kHz)光で1kHzサイン波を出力して、弊社のDAコンバーターのアナログ出力を調べたものです。 0dB出力時にで約2V(6dBV)の出力が出ていて、THD+Nが0.006%であることがわかります。スペアナ波形(横軸の単位はkHzです)を見ると、THDの主成分は第2高調波であることがわかります。

ノイズも含めて0.006%というのは相当に優秀でカタログスペックの約2倍に収まっています。カタログスペックよりも悪いと思われるかもしれませんが、カタログデータはFs=768kHzで、しかもフィルターを入れ、かつ平均値を取っているようなので(カタログデータと言うものはそういうものです)、この実測データは相当いい感じです。

DAコンバーターDAC-FA0の歪分布

こちらはDAC-FA0の高調波歪み分布です。次数が高くなるに従って減少していっています。

次にもう少し新しいDACチップのTHDを見てみましょう。こちらは試作したUSB-DACで使用したESS社のES9018の特性です。THD+Nは0.0075%でPCM1704と同程度です。ただ、スペクトルを見てもらうとわかるように、高調波歪はほとんどなくむしろノイズの方が主成分に見えます。(ES9018の方がTHDがずっと小さく見えるのは縦軸のスケールが異なるからです)

ES9018のスペクトル、Fs=48kHz

 

ES9018の歪分布

こちらのTHD成分を見たのがこちらで、第2から第9高調波まで同程度に検出されています。ただノイズを除いた全THD成分は0.0013%と非常に小さい値です。ES9018は内部でノイズシェーピングをしているのですが、可聴帯域までノイズがおりてきているのでしょうか?

以上はFS=48kHzのデジタル信号を入力した時のデータですが、残念ながら測定器UPLでは48kHzが上限です(何しろ古いので)。

かわりにサンプルレートコンバーターで96-384kHzまでアップサンプリングして入力した結果がこちらになります。

ES9018/Fs=96kHz

ES9018/Fs=96kHz

ES9018/Fs=192kHz

 

ES9018/Fs=384kHz

サンプリングレートを上げると高調波歪が逆に増加していることがわかります。悪化したといっても0.001%レベルですから、悪化というより”見えすぎちゃって困るの~”という感じですが。

使用したサンプルレートコンバーター(SRC)はAK4137です(実はこのAK4137相当なくせ者です)。THDが悪化したのはDACチップのせいではなく、SRCの影響である可能性もあります。SRCを使う限りTHDが特性上はメリットが無い様です。

とまあ、こんな解析も簡単にできるようになりました。

「わが巨人軍は永久に不滅です」といったのは長嶋さん、「A級アンプも永久にスイッチングします」と言ったのは私です

A級動作のパワーアンプはスイッチング歪がないので音がいいというのはオーディオを趣味とする方にはいわば常識かと思います。

そのA級アンプですが、実はどんなA級アンプも実はスイッチングしているのです。といったら「そんなバカな」と思われるでしょう。それでは、アンプの性能などを見ていてA級アンプなのにやけに歪が多いな(AB級よりも多かったりする)と疑問に思われたことはないでしょうか?

もちろんA級アンプの音質的なメリットは出力段がスイッチングしないというだけでなく、結果的にトランスの容量や出力トランジスタや放熱器も大型になるなどの物量投入の効果もあるので、A級アンプの音質がいいという話があるのはわかります。

最近、よくよく考えてみるとA級アンプもスイッチングしているなーということに気づきました。

パワーアンプの動作を説明する簡単な回路図

この図はパワーアンプの簡略化した回路図です。電圧増幅段の後に電力増幅段があってスピーカーに接続され、トータルにNFBが掛かっています。これで電力増幅段のアイドリング電流が数AあればA級動作することになります。

ただ、実際にはこの回路ではスピーカーを駆動できないのです。スピーカーを駆動することまで考えて描いた簡単な回路図はこちらになります。

A級動作もグラウンドを含めて考えると汚れている

何が違うかというとマイナス側の回路です。最初の回路図ではマイナス側に電流を供給する部分が欠けているのです。マイナス(グラウンド)側は単に入力信号のマイナス(グラウンド)に接続するだけではだめで、大電流を供給できる回路に接続する必要があります(電力増幅回路のリターン側という言ったりもします)。

電源部は電源トランスからの電圧を整流して大型の電解コンデンサに接続して直流化しています。スピーカーのマイナス側はその正負2つの電源コンデンサの中点に接続され、このG点から電流が出ている(入っている)のです。このG点グラウンド部というのは100Hz(電源周波数の倍)の正弦波で充電されたときに発生する脈流成分なので、実際には数kHz位までの成分を含まれています。

この電源部のリップル成分はプリアンプなどでは安定化電源を使用すれば問題になりません。ところがパワーアンプでは安定化しないので、数Aのリップル電流に起因した成分は結構大きなものになります。回路図上では発生するように見えなくても、実際にはアース電位にもリップル成分が混じるので、結果的にこれは残留歪となります。

さらに悪い事にA級アンプは無信号時に出力段に電流が一番多く流れているので、無信号時のリップルノイズ(残留歪)が大きくなる可能性すらあるのです。

A級アンプといえども、その回路(あるいは動作)の原理だけを考えていると、理想的に見えても、実際にはいろいろな事が影響していてそう単純ではありませよという話でした。

測定ソフト「ARTA」を使用したリスニングルームの周波数特性の測定(応用編)

前編では”ARTA”を使用した周波数特性の測定結果を紹介しましたが、今度は少し応用してみましょう。

インパルス応答を利用した特性解析(応用編)

反射波のインパルス第一波の周波数特性

前編でのインパルス応答では観測されたパルス波形5波すべてに対して解析しましたが、今度は特定のパルスだけの周波数特性を測定してみましょう。

imps-fインパルス応答の黄線から赤線までの黒色領域(到達後3msの第1波)のみから、周波数特性を算出してみたのが、左の周波数特性です。
前編のインパルスの全応答は0-400msの全領域でしたが、今度は(黒色の)6msまでの短時間領域でのみ計算していることに注意してください。
この領域は直接波のみで、壁や床天井からの反射波が届いていない時間帯での周波数特性になります。
測定された周波数特性は(10kHz以上を除けば)ほぼフラットで、当然ですが反射波の影響を受けていないことがわかります。300Hz以下でだら下がりになっていますが、この領域は解析波形の長さ(時間)が足りないために誤差が大きくなっているためです(ARTAではこの測定結果に誤差が多い領域は、自動的に横軸に黄色線が表示されます)。

第1波の累積スペクトル特性

第一波の累積スペクトル第一波の累積スペクトル(波数表示)

今度は累積スペクトルを見てみましょう。
左は同じく第1波の累積スペクトラムです(時間軸表示)。中低域の立ち下がりが悪い様に見えてしまいますので、時間軸表示から、波数表示に変更した累積スペクトルがこちらになります。

 

波数(周期)でみると、周波数にかかわらず、すぐに減衰していることが分かります。ただ2kHzから10kHzにかけてピークが移動していくのですが、この原因はよくわかりません。

 

 

第2波の周波数特性

imp2-f次に反射波である赤線近傍の第2波のピークから算出した周波数特性を見てみましょう。前編の総合周波数特性に比較すると、まるで教科書に出てくる干渉波形のようにきれいな周期変動が見えています。
これはSPの後ろ壁(か測定マイクの後壁)からの反射による影響でしょう。

この様にインパルス応答波形の時間を区切って解析すると、反射波一つ一つの影響を(壁ごとの影響を)、分離して解析できる可能性があります。これができると壁に拡散パネル、吸音パネルを設置した影響を正確に把握できるので、リスニングルームの調整も効率的に進めることができる可能性があります。

この時点ではARTAはフリーソフトの状態で使用していました。このときは波形の保存ができないため、後から解析を追加することができません。これまでの、解析結果もちょっと矛盾や不足があるかと思いますが、今回の結果は手始めに、ソフトを実際に使用した感触を見てみたと解釈していただければと思います。

これらの結果を踏まえて、次はより正確な解析にチャレンジしてみたいと思います。

測定ソフト「ARTA」を使用したリスニングルームの周波数特性の測定(基礎編)

DynaudioのC4を導入してから、はや2年が経過しました。導入当時におよその周波数特性はこちらのコラムで測定していましたが、その後多少レイアウトを動かしたので再度特性を測って見ました。

測定方法について

測定に使用するソフトとマイクに今回は新しいものを試してみたので紹介します。

測定ソフトについて
これまで、周波数特性の測定は「Myspeaker」というソフトを使用してきました。このソフトは周波数特性だけでなく、累積スペクトル等の表示もできて優れたソフトでしたが、さらに詳細な解析ができるソフトがありました。それはARTAという測定ソフトです。測定項目はほぼ同じですが、痒いところに手が届くというか、詳細な解析を使用する場合はこちらの方が便利です。今回はその使い勝手も検証する意味で、このソフトを使用して簡単な解析をしてみました。
測定マイクも新しく
測定用USBマイクUMM-6測定に使用するマイクはこれまでベリンガー社のECM800と言うものを使用してきましたが、このマイクは48Vのファンタム電源が必要なため、何らかのミキサーのようなものを別途接続する必要がありました。これはこれで面倒なので今回周波数特性の測定用に市販されている、USBマイクを試してみました。

それがこのDaytonAudioのUMM-6というマイクです。電源部も内蔵されているのでパソコンにUSB接続するだけで使用できます。おまけに周波数特性の校正表がついてくるので、より正確な測定が期待できます。

試聴エリアのレイアウトについて
測定時のスピーカーレイアウトimg_20161105_091944_listningspace試聴スペースのレイアウトは少しずつ変わってきています。最近はJBL4429をしまって、C4だけをやや左右に距離を取って置き、さらに50cm程後ろに下げました。これによって音場が左右に広がり、またスピーカーを後壁に近づけたことで低域の厚みが増して、よりバランスが良くなりました。
以前はSPの後ろを通れるようにあけていたのですが、実用性よりも音質を優先したのです。

測定系の特性について

ラップトップPCの音声入出力部の周波数・歪率特性

ラップトップPCの音声入出力部の周波数・歪率特性

測定はラップトップPCを使用して行います。スピーカーの測定の前に、PCのからのオーディオ出力をそのままオーディオ入力に戻して、PC系統の基本性能をチェックしてみましょう。
使用したラップトップPCのオーディオインターフェースには、スピーカー(イヤホン)出力端子とマイク入力端子がありますが、ライン入力がありません。イヤホン出力をそのままマイク入力に接続して、内部ソフトのミキサーでゲインを調節しました。
その時の周波数特性と歪率特性はこのようになりました。
周波数特性は20kHz近辺で落ち込んでいますが、今回の測定には支障はないでしょう。歪率の方は約0.1%で、スピーカーの歪率よりも悪いくらいです。今回の測定では歪率特性は信用できません。歪率特性を測定するには別途外付けのオーディオインターフェースを使用する必要があるようです。

 

インパルス応答を利用した特性解析(基本編)

imp

インパルス応答波形

周波数特性を測定するだけでしたら、サインの連続波で測定したほうがきれいに測定できますが、今回は訳あってインパルス応答波形から周波数特性を測定する方法を使用しました。インパルス応答波形の測定結果がこちらです。最初のインパルス応答のあと何パルスか壁からの反射波が続いていることがわかります。

imp1-4-fこのインパルス応答から周波数特性を算出した結果がこちらのグラフです(ボタン一つで計算されます)。測定時のマイク位置はレイアウト図でS0の位置です。

10kHz以上で低下していますが、これは測定系に何らかの原因があると思われます。多少の谷はありますが、非常にフラットできれいな特性が得られています。全体の傾向は(10kHz以上の低下を除けば)以前に、サイン波の連続波で取った特性の類似しています。

次に累積スペクトラムを見てみましょう。
imp1-4-acu1imp1-4-acu2
こちらがインパルス応答から算出した、累積スペクトラムです。一般に、累積スペクトラムを時間軸で表すと高域は早く収束し、低域は収束まで時間がかかるので全周波数帯域を観察することはこんなんです。

ARTAでは時間軸を波数で表示することも可能です。こうすると第何波で収束するかという表示になるので過度特性の周波数特性が見やすくなります。

左のグラフは累積スペクトラムのは数表示ですが、低域の方が若干収束するまで時間がかかっていることがわかります(最大20波程度)。スピーカーの構造上の原理を考えれば当然のことで、合理的な結果です。これでもかなり良好に収束している方でしょう。
また20波を過ぎても単発的にピークがありますが、これは壁などの反射による影響でしょう。

 

以上、USB接続の測定マイクと測定ソフトARTAを使用して周波数特性等をざっと測定してみました。ARTAはもっといろいろな使い方ができるソフトです。次回に応用例を紹介します。

ポタ研ご来場ありがとうございました

7/30(土)中野サンプラザでポタ研夏2016が開催されました。当社ブースにも沢山の方にご来場いただきまして誠にありがとうございました。

当社の出展の様子はこんな感じでした。

IMG_20160730_101722[1]

展示の様子、開場前なのでくつろいでいます

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ポタ研開演中の様子

PEHA-100

ポタアンPEHA-100は発売以来1年以上経過しておりますので、すでに皆さんに充分試聴していただいておりますが、それでもいろいろな他社新製品を聞いた後にPEHA-100を聴いてその実力を再確認して行かれる方などが多くいらっしゃったようです。

PEHA-200(新製品デモ機)

PEHA-200はケースが間に合わずスケルトン状態での試聴機となりましたが、かえって中が見えて好評だったかもしれません。

PEHA-200の音質に関しては概ね好評でしたが、USB入力が必要とのご意見を多く頂きました。

PEHA-200#2スライド2次回のヘッドホン祭りまでに製品版を間に合わせたいと思います。

春のヘッドホン祭りで頂戴した意見を反映させてだいぶ仕上げたつもりでしたが、まだ課題は有るようです。秋のヘッドホン祭りでは製品版ができるよう頑張りたいと思います。

今後共よろしくお願いいたします。

PEHA200#2 012_800

見えている大きめのチップがES9018Sです。(DAC周りは基板設計をまだ詰める必要があります。)

p.s. 持って行った著書はおかげ様で全部売れました。

 

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スイッチが沢山ついています。

40万積の法則から考えた帯域バランス調整方法

以前にスピーカーの40万の法則について  -気ーづいちゃったよ-というコラムを書きました。要約すると「40万積の法則というのは高音と低音の音量バランスが調度良くなることを表しているのではないか」ということでした。

400k_1数学的に表現すると再生帯域が40万積になる時にはスピーカーの再生中心周波数と可聴帯域の中心周波数が一致しているので、高音と低音のバランスが良く聴こえるとも言えます。

 

数学的には2乗根で表される相乗平均(幾何平均)が再生帯域と可聴帯域で一致している時ともいえます。

 

実際のスピーカーシステムでは20kHz400k_2はいいとしても20Hzまで再生できることはほとんど無く、せいぜい30-50Hzまでが限界です。そうなると、一般に低域の量感が不足しがちになります。

 

 

これを補正する方法として二つの方法を考えました。

(1)低域再生限界付近を持ち上げる

20-50Hzが不足しているので、その代わりにすぐ上の50Hzから100Hzくらいまでを持ち上げて、低音域と高音域の量感が同じになるように調整します。結果的にはトーンコントロールで低音域を持ち上げるというのと同じです。

また40年くらい前に流行った3D方式で(といっても今のTVの3Dとは異なります)、100Hz以下の低域に1本のウーハーを加えて持ち上げてあげると、やけにいい音になったことを覚えています。100Hz以下だけを持ち上げると他の帯域には影響せず不足した部分を擬似的に補うので具合が良かったのです。解釈を変えるとこういった帯域バランスの補正効果もあったのではないかと思います。

*3D方式は高価で大きくなる超低域を大型ウーハー一本で行うという方式ですが、モノであるため100Hz以上を急激にカットします(-18dB/oct以上)。単なるトーンコントロールの低音ブーストとはスロープが異なります。

400k_4

 

(2)中心周波数以下の音量を上げる

もう一つはもっと単純に低域全体を持ち上げる(あるいは高域全体を下げる)ことです。トーンコントロールで調整しても同じ様なものですが、一般にトーンコントロールは最高域、最低域付近のみを調節するのに対して、中心周波数以上、以下で音量を調節するところが異なります。

400k_3

実際には(2)の方が回路的には簡単なので、(2)を実現する帯域バランス調整回路を考えました。630Hzを中心に高域、低域を+-1dB又は+-2dB調節する回路です。CR型でこの回路を構成すれば音質劣化もほとんどありません。

この回路は新型のフルバランス・プリアンプDCP-240 実装しましたが、結果は非常にgoodでした。

アナログレコード用フォノイコライザアンプの深い話 (2) MMカートリッジ編

はじめに

フォノイコライザアンプの続き、今回はMMカートリッジ用フォノイコの話をします。
とはいっても普通のフォノイコライザアンプ自体の話はどこにでもあるので、(大胆にも)省略して、ここではフォノイコの入力インピーダンスの話に特化して話を進めます。

最近はフォノイコライザアンプ自体に新しい改良が無いためか、フォノイコライザアンプにやたらに付加機能を付けた物が増えているように感じます。MMカートリッジを受けるインピーダンスは昔から47kΩと決まっているのですが、最近何故かこの抵抗値と負荷容量を大幅に変える機能を付けたEQアンプが増えてきて、しかもそれが良いみたいな風潮があるのが気になっていました。

MM用フォノイコの入力インピーダンスとは

そもそも何故47kΩになったかというのは、おそらく真空管アンプ時代に実用的に受けられる最低インピーダンスだったのではないかと推測しますが、特に明確な意味は知りません。ただMMカートリッジ自体が47kΩで受けることを前提として設計されているはずなので、47kΩで受けなければいけないはずなのです。もちろん抵抗を変えれば音(周波数特性)は変わるでしょうが、それは本来のカートリッジの特性ではないのでは?というふうに思っていました。

あらためて負荷インピーダンスの変化に対する周波数特性を探してみたら、手持ちの本に結構詳しい記載がありました。それは「プレーヤーシステムとその活きた使い方」(誠文堂新光社)です。プレーヤーシステムと言ってもCDではなくてレコードプレーヤーです(つまりそのくらい古い時代、40年前の本です)。

V-15Ⅲの入力抵抗・容量依存性の実測値

その本に記載されている、シュアーV-15Ⅲの入力インピーダンスを変えて測定した周波数特性がこれです。

MMV15確かに入力抵抗を下げた方が高域のピークが下がっています。また入力容量も大きくしたほうが高域のピークが抑えられています。MMカートリッジはコイルの巻き数が多いのでインダクタンスが半端ないのです。このV-15ではインダクタンスが434mHとあります。他のカートリッジも同様ですが、このインダクタンスは電子回路のインダクタンスとしては非常に大きく、よく高周波用にもちいるコイルでは数十uHていど(1/10000)、スピーカーのネットワークのコイルでも数mHですから、その100倍位あることになります。これでは電子回路のピークもできるし、MM特有の音の癖が出てもしかたないかなと思います。

測定系はこちら

ただMM_rev気になるのはその信ぴょう性で、測定系はB&K社のもっとも信頼性の高い測定系で計測しているのですが、すべてのMMカートリッジで同様のピークが出ているので、測定系のアンプかレコードにそもそもピークが出る要因もあるのでは?とちょっと疑ってしまいます。
測定系の説明はこちらです。このページにはその入力抵抗と入力容量を変えた時の周波数特性の一般的な変化も記載されています。

この本の内容はすごくてトーンアームを変えた時の周波数特性の変化もいろいろなアームに対して実測しています。なんとトーンアームによって5-10Hz当たりにできる共振の周波数特性を測定しているのです。この本をパラパラめくると、改めて当時のオーディオが極めて工学的で、男の子(今ではおじさん)がハマるのも無理はないな~と感慨にふけってしまいました。

昨今の特に高価なフォノイコが入力抵抗や容量をやたらに変えるのも、確かにF特がよくなる場合もあるし、それで音が変わって本人がよく思えればいいので、商品としてはそれで良いのかなーと考えなおしたりしています(宣伝に書ける能書きも増えるしね)。

p.s. タイトルに深い話と銘打っている割には、たいして深くなかったかな(めんご)。

アナログレコード用フォノイコライザアンプの深い話 (1)イントロ編

はじめに

アナログレコード用のフォノイコライザアンプは回路的にも難しい面があります。フォノイコライザアンプは昔から趣味で作っていたこともあったので大体の事は知っていたつもりでした。ただ最近製品としてフォノイコを販売するをするようになって、いろいろと調べた結果、大事なことに初めて気がついた点もいくつかあります。

レコードを聴く分にはこういったことは知らなくても良いのですが、機器選択や音質向上を考える上で知っておいた方が良い点もありますので解説したいと思います。

フォノイコライザアンプの役割

フォノイコライザアンプの役割は

  • カートリッジの微弱な信号を増幅する
  • RIAA特性で周波数補正をする

の2点です。これらの基本的な事は省略します(他にもいろいろ解説サイトがあるとおもいますので)。

フォノイコライザアンプの配線について(念のため)

専門的な話に入る前に信号経路の話をさせていただきます。カートリッジの出力は一般にRCA端子(+アース)で受けますが、その信号伝達方法は一般のプリアンプ、パワーアンプと大きく異なっています。カートリッジ出力ではRCAピン端子の外側がアースから浮いているのです。

ですので、レコードプレーヤからアンプのフォの入力端子まではフォノイコ専用のケーブルを使用します。シールド線の中に2本線が入っているいわゆる2芯シールド線が使われているのが普通です。

普通のラインケーブルに加えてアース線を接続しても音は出ますが、そうすると信号線のシールドができていないのでハムが出てしまいます。

見方を変えると、カートリッジからの出力はバランス出力が出ているということです(端子はアンバランスですが)。レコードプレーヤー上ではトーンアームがシールド皮膜の役目をしています。

フォノイコケーブルの接続

カートリッジ出力はRCA外側はアースされていない

フォノイコライザアンプの入力インピーダンスについて

フォノイコライザアンプはカートリッジがMMかMCかによって入力インピーダンスを変えなくてはいけません。

 
入力抵抗 入力容量(ケーブル容量も含む) ノイズ成分 備考
MMカートリッジ 47kΩ 100-200pFが最適
(カートリッジによって異なる)
 ハムが多い
MCカートリッジ 10Ω-100Ω  気にしなくて良い サーノイズが多い
(実際にはハムも)

まとめると、こうなるのですが詳細はまた次のコラムで説明します。

アナログ回路のポケットガイドという範疇を超えている -これはもう名作では-

テキサス・インスツルメンツ社(TI)で出したアナログ回路のポケットガイドがすごく良く出来ています。ポケットガイドといっても100ページあるのでちょっとした教科書と言った感じです。

アナログ回路はもちろん、デジタルの補数まで、自分の頭のなかでちょっとあやふやなことまで非常に解りやすく要所々々が解説されています。また、日本語訳もしっかりしています。

TIはデバイスに魅力的なものを数々出していることはもちろんですが、そのデータシートが解りやすく、推奨基板レイアウトも掲載されていて、使用する者にとってありがたい会社です。

この点は逆に日本のデバイスメーカーのものは、デバイスが魅力的でもデータシートが意味不明で、クイズの様になっている事が多いのと対照的です。

是非一度、このポケットガイドをのぞいてみてください。

Analog Engineer's Pocket Reference e-book

こちらからダウンロードできます。

目次は次のとおりです。

目次
Texas Instruments Analog Engineer’s Pocket Reference 5
換算 ....................................... 7
物理定数 .............................................8
よく使われる10 進接頭辞 ......................................9
メートル法の換算 ..........................................9
温度の換算 ........................................... 10
誤差の換算(ppmとパーセント) .................................. 10
ディスクリート部品 ................................. 11
抵抗のカラー・コード ....................................... 12
抵抗値の標準数 ......................................... 13
実際のコンデンサのモデルと特性値 ................................. 14
実際のコンデンサの周波数特性 .................................. 15
コンデンサの種類の概要 ..................................... 16
容量値の標準数 ......................................... 17
コンデンサのマーク表示と許容誤差 ................................. 17
ダイオードとLED ........................................ 18
アナログ ...................................... 19
コンデンサの式(直列、並列、電荷、エネルギー) .......................... 20
インダクタの式(直列、並列、エネルギー) .............................. 21
コンデンサの充電と放電 ...................................... 23
RMS 電圧と平均電圧の定義 .................................... 24
RMS 電圧と平均電圧の例 ..................................... 24
対数計算の公式.......................................... 27
デシベル(dB)の定義 ....................................... 28
対数目盛 ............................................ 29
ポールとゼロの定義と例 ...................................... 30
時間遅れと位相遅れ ........................................ 34
アンプ ....................................... 35
オペアンプの基本構成 ...................................... 36
オペアンプの帯域幅 ....................................... 41
フルパワー帯域幅 ........................................ 42
小信号ステップ応答 ........................................ 43
ノイズの式 ........................................... 44
位相余裕 ............................................ 48
開ループSPICE 解析による安定性評価 ............................... 50
計装アンプのフィルタ ....................................... 53
プリント基板(PCB)と配線 .............................. 55
PCB の導体間隔 ......................................... 56
PCB の内層パターンの自己発熱 .................................. 57
PCB パターンの抵抗(1oz および2oz Cu) ............................. 58
パッケージの種類と寸法 ...................................... 60
PCB の平行平板パターンの容量 .................................. 61
PCB のマイクロストリップの容量とインダクタンス ........................... 62
PCB の隣接する銅箔の容量 .................................... 63
PCB のビアの容量とインダクタンス ................................. 64
一般的な同軸ケーブルの仕様 ................................... 65
同軸ケーブルの式 ........................................ 66
各種配線の単位長さあたりの抵抗(AWG 別) ............................. 67
各種配線の最大電流(AWG 別) .................................. 68
センサ ...................................... 69
温度センサの概要 ........................................ 70
サーミスタ ............................................ 71
測温抵抗体(RTD) ........................................ 72
ダイオードの温度特性 ....................................... 74
熱電対(J とK) ......................................... 76
A/D 変換 ..................................... 81
2 進/16 進変換 ......................................... 83
A/D 変換とD/A 変換の変換特性(LSB、データ・フォーマット、FSR) .................. 84
量子化誤差 ........................................... 90
信号対ノイズ比(SNR) ...................................... 91
全高調波歪み(THD) ....................................... 92
信号対ノイズ比+歪み(SINAD) .................................. 94
有効ビット数(ENOB) ....................................... 94
ノイズフリー分解能と有効分解能 .................................. 95
セトリング時間と変換精度 ..................................... 96

昔のハムはブーーン、今はxx  -黄金バットは頭痛持ち-

オーディオアンプを作っている時に信号線に指で触れてスピーカーから「ブーン」という音が出た経験は、自作する人なら誰にでもあると思います。

img023_100Hz

アンプの信号線に触った時の波形はこんな感じです。50Hzのハム音が出ています。

それはいいとして何か気づきませんか?

そうです、線が妙に太い、ゲジゲジしている。

これを時間軸方向にぐっと拡大したのが次の図です。

 

img023_RF

こちらの波形は横軸(時間軸)が50uS/divなので、数十kHzの成分が発生していることが分かります(50Hzの成分は横軸を200倍に拡大しているので見えなくなっています)。

この波形は最近買った印刷機能付きのデジタルオシロ、DL1540で観ています。このオシロはFFT機能も付いているので便利です。

 

 

img024_fft

上が波形で、下がそのFFTスペクトルです。FFTの横軸のスケールは25kHz/divです。33kHzあたりと80kHzあたりにピークがあります。それとこのグラフでは見えませんが80MHz近辺のノイズが乗っていることもあります。

数十kHzのノイズはスイッチング電源やインバータ機器のノイズではないかと思います。

記憶が定かではないのですが、大昔(数十年前)はオシロでハムを見てもこういった高周波はほとんど乗っていなかったと思います(多分)。

最近は高周波の成分が日に日に増しているように感じます。デジタル機器が多くなっているので当然だとは思いますが、もし”黄金バット”がいたら(彼は超音波も聴こえるそうなので)、どこに行っても日々超音波ノイズに悩まされてることでしょう。