40万積の法則から考えた帯域バランス調整方法

以前にスピーカーの40万の法則について  -気ーづいちゃったよ-というコラムを書きました。要約すると「40万積の法則というのは高音と低音の音量バランスが調度良くなることを表しているのではないか」ということでした。

400k_1数学的に表現すると再生帯域が40万積になる時にはスピーカーの再生中心周波数と可聴帯域の中心周波数が一致しているので、高音と低音のバランスが良く聴こえるとも言えます。

 

数学的には2乗根で表される相乗平均(幾何平均)が再生帯域と可聴帯域で一致している時ともいえます。

 

実際のスピーカーシステムでは20kHz400k_2はいいとしても20Hzまで再生できることはほとんど無く、せいぜい30-50Hzまでが限界です。そうなると、一般に低域の量感が不足しがちになります。

 

 

これを補正する方法として二つの方法を考えました。

(1)低域再生限界付近を持ち上げる

20-50Hzが不足しているので、その代わりにすぐ上の50Hzから100Hzくらいまでを持ち上げて、低音域と高音域の量感が同じになるように調整します。結果的にはトーンコントロールで低音域を持ち上げるというのと同じです。

また40年くらい前に流行った3D方式で(といっても今のTVの3Dとは異なります)、100Hz以下の低域に1本のウーハーを加えて持ち上げてあげると、やけにいい音になったことを覚えています。100Hz以下だけを持ち上げると他の帯域には影響せず不足した部分を擬似的に補うので具合が良かったのです。解釈を変えるとこういった帯域バランスの補正効果もあったのではないかと思います。

*3D方式は高価で大きくなる超低域を大型ウーハー一本で行うという方式ですが、モノであるため100Hz以上を急激にカットします(-18dB/oct以上)。単なるトーンコントロールの低音ブーストとはスロープが異なります。

400k_4

 

(2)中心周波数以下の音量を上げる

もう一つはもっと単純に低域全体を持ち上げる(あるいは高域全体を下げる)ことです。トーンコントロールで調整しても同じ様なものですが、一般にトーンコントロールは最高域、最低域付近のみを調節するのに対して、中心周波数以上、以下で音量を調節するところが異なります。

400k_3

実際には(2)の方が回路的には簡単なので、(2)を実現する帯域バランス調整回路を考えました。630Hzを中心に高域、低域を+-1dB又は+-2dB調節する回路です。CR型でこの回路を構成すれば音質劣化もほとんどありません。

この回路は新型のフルバランス・プリアンプDCP-240 実装しましたが、結果は非常にgoodでした。

アンプのテストに使える危険な裏ワザ -安定化電源の音質差を探れます-

これからご紹介するのはちょっと危険な裏技なので、もし試す際はアンプ、スピーカー共に壊れても良いサブ・サブ・システムで行って下さい(高価なメイン装置では行わないこと)。

どういう裏ワザかというと、内部の電源に安定化回路を使用しているアンプで、安定化回路を使用した時と、安定化しない時の音質を改造なしに瞬時比較するという裏ワザです。

必要なもの

・試聴したいアンプで内部で安定化電源を使用しているもの、3端子レギュレーター使用のアンプなどでもよい(使用しているかどうか分からなくても差し支えありません)。

・スライダック(トランス式でAC電圧を100Vから落とせるもの)、サイリスタを使用した電子的なものは不可です。

・当然ながらスピーカー、CDプレーヤー等も必要です。

方法

slaidac

接続図はこんな感じ

試したいアンプのACコンセントをスライダックを経由して接続します。

スライダックの電圧を100Vに調節して、パワーアンプの電源スイッチを入れます。当然の事ながらアンプは正常に動作するはずです。

 

そこからスライダックを調節してAC電圧を60-70V位に落とします。パワーアンプの最大出力は半減しますがそれでも正常に音が出るはずです(それ以下では保護回路が働いてしまいます)。このAC電圧を60-70%に落とした状態だと安定化回路は全く機能せず、結果的に安定化回路を使用しない単純なリップルを含んだ電源になります。

両者の音質を比較することで、安定化回路を使用の有無による音質差を聴き比べることができます(最大出力が違うのでそこの違いが気になるという人もいるかもしれませんが)。

私が試した結果では、良質な安定化回路が組み込まれていると、安定化したほうが音のざらつきが取れて、カチッと定位も決まって繊細さが表現されて、安定化した方が音質は上質でした。

内部での直流電源電圧はこんな状態になっています。

img015_60V

安定化しない電源の電圧変動(AC70V)

img016_80V

中途半端に安定化回路が働いている時(AC80V)

img016_100V

安定化回路が正常に機能している時の電圧変動分(AC100V)

 

 

AC電圧を60-70Vくらいにすると安定化回路が働かないため、電源電圧には単純なリップルを含んだ波形になります。

 

 

 

電圧が80-90Vになると安定化回路が中途半端に働こうとするので半分平坦、半分は電圧が足りず急激に落ち込みます。

 

 

 

 

 

 

 

AC電圧が90-100Vになると正常に機能して電源電圧は一定になります。こうなると変動分は見えません。

 

AC電圧を落とすと、、出力リレーが落ちたりしますので、正常に音が聞けるとは限りません。また保護回路が機能しなくなったりする恐れや、そのたもろもろ危険性があるので、メインシステムでは試さないように注意して下さい。

古くて新しいデジタルオシロで開発が加速するかも

今回は測定器の話をさせていただきます。

オシロは大事

アンプなどの解析にはオシロスコープが必須です。オシロは何台か持っていますが、もっぱら使用しているのはアナログオシロです。波形の記録にはデジタルオシロが必要で以前はパソコンに取り込んでサーマルプリンタなどでシール式の感熱紙に印刷していました。その頃のノートはこんな感じです。

DCPMA-parts2 044_ociloold

デジタルオシロの波形をパソコンで取り込んで編集後、 サーマルプリンタで印刷してノートに貼り付けていた

ただこの方法は面倒で、気合が入った時にしかしませんでした。もっと簡単にオシロの波形を残したかったのですが、最近は面倒なので自分で波形を書いていました。超原始的ですが、これが一番早いのです。

DCPMA-parts2 050_note2

その内、波形は手書きになった

オシロの波形記録の変遷

このオシロの波形を残すために、あれこれ試行錯誤してきました。

  1.  USBオシロ(波形データをボタン一つでPC に転送できるもの)–>PC で画像を整えて印刷するのが大変、オシロそのものが使いにくい

2. オシロの画面をでカメラで撮る、その後PCに取り込んで、サーマルプリンタで印刷–>いちいち操作が面倒(写真中央上)

3. チェキ(ポラロイドカメラ)で撮る:画面が小さすぎてダメ–>接写レンズを使う:不鮮明でダメ視界も狭い(写真右)

DCPMA-parts2 041_ocilophoto

左が新しく買ったプリンタ内蔵デジタルオシロの印刷結果、 右がチェキに接写レンズをつけて撮ったアナログオシロの波形 真ん中下がスマフォで撮ってスマフォ用写真印刷機でプリントしたもの

4. スマホ専用の写真印刷機でとる–>これは結構いける(写真中央下)

5. プリンタ内蔵オシロ–>チョベリグ(写真左)

これが一番良かった

最終的に行き着いたのが5のプリンター内臓のオシロスコープです。これがあるのは知っていましたが、結構お高いので敬遠していました。最近だめもとで中古で購入してみたら、これが予想以上に良かったのです。ボタン一つできれいに波形コピーが出来ました(ちょっとサイズがおおきすぎるのですけどね)。YOKOGAWAのDL1540というデジタルオシロで、上部に感熱プリンターが内蔵されています。帯域も150MHzあるので十分です。操作性でアナログオシロにはチョット負けますが、いわゆる4-5万円の安いデジタルオシロよりも遥かに使いやすく、実用に耐えます。

DCPMA-parts2 038_DL1540

オレンジ色の波形のオシロにプリンタが内蔵されていて ボタン一つで波形のコピーが上から出てくる

 

 

今後、製品開発がますます加速するかもしれません。

 

本当はハイレゾ音源の再生なんて出来ていません

新しいプリアンプDCP-110を発売したが、じつはこのプリアンプはこれまでとは違うアプローチをいくつかしています。その中のひとつ、ダイナミックレンジについて説明します。

実は「ハイレゾ音源」の音はどんなハイエンドシステムでも聴くことは出来ません。

192KHz、24bitの音なんて最初からどうやっても再生できないのです。

代表的なオーディオ再生装置におけるプリアンプまわりの信号レベルを示したのが次の図です。

CDプレーヤーの後、プリアンプに入り、パワーアンプ(100W級)を経てスピーカー(90dB/W)に出力されることになります。一般的な条件で再生するとプリアンプのボリュームは大きく絞った状態で使用するのが普通です。平均試聴レベルは90dB(1W)程度とすると、プリアンプの出力(パワーアンプの入力)レベルは通常0.1V程度です。プリアンプにはフラットアンプ(20dB)があるのでボリュームで絞った直後の(最大)信号レベルは10mVになってしまっています。

通常のオーディオシステムのダイナミックレンジは13bit程度しかない

アンプ内のノイズレベルは数uVはあるので、SN比は80dBしか取れないことになります。80dBというのはデジタル信号に換算すると13bit程度で実はCDの信号すらきちんと再生できていなかったことになります。

実際にはノイズレベル以下の音でも(ノイズよりも小さい音でも)聞き取ることはできると思いますので、CDフォーマットの16bit分の音を聴き分けているかもしれませんが、それでも16bitがいいところでしょう。

 

DCP110ーDynamicRangeCr

プリアンプのダイナミックレンジ、SN比は一般に100dB以上ありますが、それは測定時にボリュームを最大にして測定しているからで(これはこれで測定方法としてはただしいのですが)、実際の使用状態のSNではないのです。

DCP-110ではダイナミックレンジが17bit確保されています

DCP-110ではまず入力部でボリュームを通す前にフラットアンプで増幅するので、先ほどの実使用時における最小信号レベルは0.1Vと、従来のプリアンプよりも20dB改善されています。この手法を使用してようやく100dBのダイナミックレンジ(約17bit分)を確保することができました。

DCP110block

この信号レベルを落とさないという手法は音質上非常に有効で、言葉で表現するのは非常に難しいのですが、SN感、透明感、力感などすべてが向上します。

一般のプリアンプが何故フラットアンプを最初に置かないかというと、置かないのではなく、置けないのです。フラットアンプを最初に置くには20Vの出力がとれるアンプが必要になりますが、それは技術的には難しいので(opアンプでは出来ません)、そういう発想そのものがなかったのです。

ほんとにしょぼかった-55dBパッシブプリの音

実はこの信号レベルを落とさない方が良いというのは、逆の経験があったからです。

以前にパッシブアッテネーターを販売していましたが、これは最小レベルが-55dBでした。この最小レベルの音が出ているか確認するのに、パッシブアッテネーターの後にプリアンプを挿入して信号レベルを上げて試聴テストしていました(2個めのプリアンプを入れないと音が小さくて聴こえないからです)。この一旦-55dB落とした音というのが、もうしょぼいのなんのって、言葉には言い表せない音の悪さでした。

一般のプリアンプでもここまでひどくなくとも、同様に音質劣化の原因があるので、これを根本的に改善したらどんなにいいだろうということで、考えたのがこのアンプinファースト構成です。

 

 

NON-NFBアンプについて -本当は局所NFBアンプです-

半導体アンプにおいて無帰還アンプと称するアンプについてその発想が理解できませんとして、無帰還のトランジスタアンプはそのままでは実用に耐えない事を前回説明しました。無帰還アンプ(NON-NFB)アンプと称しているアンプはほとんどが局所帰還アンプでNFBは使用しているのです。

お断りしておきたいのはNON-NFBアンプの音質が悪いとかそれを使用する方が理解できないとか言っているのではありません。別にNON-NFBアンプだろうがNFBアンプだろうがそれを使用して満足する結果が得られば良く、そのためにどのようなアプローチを取ろうと人それぞれです。実際にNON-NFBアンプと称するアンプを聞いて音質が好ましければそれでいいのですし、そういう事はあってもおかしくありません。

ただ実際はNFBを使用しているのにNON-NFBだから音がいいとか、NON-NFBの方がNFBよりも音質が良くなるとかそういった文言を目にすると、「それ違うんじゃないの」と言いたくなってしまうのです。論理的に考えて、もしNFBアンプには音質上欠点があってNON-NFBにそれが無いと仮定すると、NON-NFBアンプを使用して音楽を再生した場合再生した音が良く聞こえるのではなく、NFBアンプの悪いところが耳について聞いていられなくなると思います。

というのはCDプレーヤーの出力部にしろ、あるいは録音用マイクのマイクアンプ、ミキサーすべてがNFBアンプで構成されているので、それらの欠点が聞こえてしまって聞いていられなくなるはずです。NON-NFBアンプを使用して聴感上好ましい結果が得られたとすれば、それは録音も含めた全体の再生系の中で結果的に好ましくなったという事であって、NON-NFBの方が優れているという結論にはならないと思うからです。

経験から言えばオーディオ装置のある部分例えばアンプを良くしていくと、再生音が聴感上良く聞こえると同時に、再生系の他の弱点が明らかになってしまって余計に気になってしまうという現象が起きることが一般的だと思います。

前置きが長くなりましたが、それでは無帰還アンプと称するアンプ はNEBループを使用しないで局所帰還で回路を構成しているものがほとんどです。 局所帰還とはトランジスタの出力から入力に帰還をかける(自分で自分に帰還を掛ける)もので、例えばこうなります。

tr-amp-nfb.png

RcbとReの部分が局所帰還になります。Rcbは見ての通り出力のコレクタから入力のベースに抵抗で帰還させているもので、帰還の量はRcbとトランジスタの入力抵抗の比率で決まります。抵抗で帰還をかけているものはあまり無いかもしれませんが、主要な増幅段にはこの場所に微小容量のコンデンサを挿入して局所帰還を施しているのが普通です。そうしないと高周波領域でゲインが大きくなりすぎて発振してしまうからで、局所帰還というよりも位相補正と言った方がいいかもしれません。

Reが局所帰還になるのがわかりにくいかもしれませんが、Vinに入力があった際にベース電流が流れてRe間に電圧が発生し、これがVinを打ち消す方向に発生するので、結果的に負帰還(NFB)になるのです。そのメカニズムから電流帰還と呼んだりもします。

これらの局所帰還も当然りっぱな負帰還(NFB)の仲間で、トランジスタアンプでいわゆる無帰還アンプと称しているものは、ほとんどはこれらのNFBを使用しています(そうしないと実用になりません)。

ついでに言っておくと、上図のRcをゼロにして電流帰還を最大にすると、アンプの最終段に使用されるエミッタフォロア回路となる。別名100%帰還回路という(これを無帰還回路といって宣伝している会社もあるが) 。まあ呼び名はどうでもいいとして、これをパワーアンプの最終段に(NFBループ無しで)用いるとひどい事になる。何が酷くなるかというとダンピングファクターである。安定性の点からReに0.5Ω位を使用するので、出力抵抗はせいぜい0.5Ω位(=0.5/2+1/gm)になる。すなわちダンピングファクター(DF)が16程度という事になる。この程度のDFでは確かに他のアンプと違う音になるだろう。周波数特性上も少し低音が持ち上がるはずで、なによりも低音が締まらなくなってどうにもなら無いと思うが・・・・。実際こういったアンプを無帰還アンプだから音がいいといって売っているのだから、いったいどうなっているのかと思ってしまいます。

話を元に戻してそれでは無帰還アンプと称するアンプが何をもってそういっているかというとNFBループが無いということです。

NFBループを有するアンプは例えばこの様にあらわされるアンプです。
amp-nfb-exp.png

三角の部分がアンプ回路でプリアンプでもパワーアンプでも通常3段の増幅段で構成されています。ここでR1とR2で構成されるのNFBループで最終段の出力から入力にNFBをかけています。この場合の最終利得Gは

G=1/(1/A+β)  ・・・(1) ただし、ここでβ=R2/(R1+R2)   ・・・(2)

で表されます。 ここでAはアンプ回路のNFB前のゲインで、トランジスタアンプでは100万倍くらいあります。Aがこれだけ大きいと1/Aがほとんどゼロになるので結果的にGは

G=(R1+R2)/R2  ・・・(3)

になります。この(3)式のすばらしいところは、ゲインGの式にAが入っていない事で、すなわちRの値だけでアンプのゲインが決まる事です。言い換えるとアンプ回路Aの直線性に例え20%の歪があったとしても、NFB後はその歪に影響される事が無いということです。その上”抵抗”というのはアンプを構成する部品の中でも最も完全な特性を示す素子で、歪も周波数特性も理想からのずれを検出する事ができないくらい優れたものです。

またこういう言い方もできます。結局、局所NFBとNFBループの違いは言い換えればNFBをかける回路上の幅の違いで、本質的に異なるものではありません。

したがってこのNFBループを使用しない手は無いのです。ただ気をつけることがあるとすれば、このNFBは回路規模の大きなところにわたってかけますので、基板設計や実装技術を考えないととんでもない結果になってしまう事もありえます。NFBアンプが嫌いという方はおそらくその失敗に基づいての事だと思うのですが、きちんと設計・製作すれば当然非常にいい結果が得られます(弊社のプリ、パワーはそういった考え方でいい結果を得ています)。

この変の詳細はまた別の機会に説明したいと思います。

高調波歪の不思議

オーディオ装置の品質を表す指標のひとつに歪率があります。

ある周波数の正弦波を入力し、その基本波を除いた高調波成分とノイズを計測し全高調波歪率となります。

アンプなどでも品質を表す重要な指標だと思いますが、その反面実際の試聴結果と合わないところもあって、歪率が小さいアンプほど音がいいと言い切れないのも事実です。

また全高調波歪率と聴感上の歪感も必ずしも一致しない場合もあります。たとえば真空管アンプでは歪が気になるレベルは0.1%から1%くらいですが、半導体アンプでは0.01−0.05%のレベルで気になりだします。よく雑誌などでは、真空管アンプは2次高調波が主成分で、半導体アンプは3次高調波なので真空管アンプの方が歪が気にならない(偶数次高調波は聴感上さほど有害ではない)と言う説明を見かけます。しかし実際には半導体アンプの3次高調波歪はおそらく真空管アンプのそれよりも小さいので、それも的を得た説明とも思えません。

そもそも2次高調波、3次高調波成分が多少混じったくらいで音が歪む様に聴こえるはずは無いのです。2次高調波は基本波の2倍の音、3次高調波は3倍の音ですから、ピアノで言うと第2高調波は、ドの音に対して1オクターブ上のドの音、3次高調波は1オクターブ上のその音になります。

kenban2.gif 図にするとこんな感じ(周波数はおよそです、ほんとは無理数ですし調律法にもよるので)

ピアノの音は元からたくさんの高調波成分を含んでおり、、単純にはいえないかもしれませんが、ピアノで
”ドドソ”と和音を弾いた時に、上の方の”ド”を1%強く引いたり(2次高調波が1%増える)、”ソ”の音を1%強く弾いたからといって(3次高調波が1%増加)、誰も不快に感じないでしょう。楽器の音や自然の音はもともと高調波成分をたくさん含んでいるので、その高調波成分の比率は1%変ったところで、音質に影響するはずがありません。

でも実際にはアンプの歪率が%オーダー位にひどくなると、音質は明らかに悪くなります。ではなぜ音が悪くなるかというと、高調波成分ではなく、非高調波成分のせいではないかと思うのです。非高調波成分というのは基本波の倍数に無い成分で、無理に言えば4.5次4.数次高調波ともいえるような成分です。

鍵盤の和音の話にもどりますが、ドミソ(ドドソ)の和音で間違って隣の鍵盤を少しでも触ると、不協和音となって、それはそれは聴きにくい音になります。アンプも同様で高調波成分が少し増えるくらいならいいのですが、不協和音に相当する非高調波歪(勝手に名付けたので正式な名称ではないかも)がアンプの音質劣化の原因ではないかと推測しています。

直感的に言って不協和音に関しては和音の成分の1000倍以上敏感なのではないかと思います。

アンプに関しても非高調波成分の発生は1000倍(60dB)以上敏感に聞き取っているのではないかと思うのです。 実際音の悪いAVアンプをの歪みスペクトルを見てみると、無数の非高調波歪を発生しています。逆に良くできたアンプには高調波歪はあっても非高調波歪はありません。
AVアンプの非高調波歪みAVアンプの歪みスペクトル(罫線に乗っていないのが非高調波歪)

上の図は音が悪いので研究題材に良く使っているAVアンプの歪み成分のFFTスペクトルです。オーディオアナライザーの歪率計からのモニター出力をPCのADボードから入力して解析したもので、測定周波数は10KHz、出力1V、パワーアンプ出力でモニターしています。歪率は約0.05%くらいだったと思います。このAVアンプに特徴的なのは無数の非高調波成分(図の罫線に乗っていないもの)の存在です。 多いのは4次から8次位の間です。

この非高調波成分の理由は良く分かりません。今後さらに検討・考察が必要と考えられます。

アンプの内部を考える -プリント基板の考え方-

今回はアンプの構成要素であるプリント基板についてお話したいと思います。

実際にアンプを作る方でないとプリント基板自体にはなじみは無いと思いますが、回路の性能を実現する上で重要な要素です。オーディオ用アンプの基板には新材料を採用したという宣伝文句が歌われている事もあるのですが、首をかしげたくなる内容も多いのです。

オーディオアンプ用プリント基板の不思議(その1)

  • 金メッキの採用

プリント基板は基板材料に銅のパターンが形成されたものです。通常は銅が非常に酸化しやすいので、表面を保護するのと、半田の乗りをよくする目的で、半田が薄くコーティングされています。最近のアンプで基板のパターンに金メッキをしたものを採用しているものがあります。金メッキはスイッチなどでは高品質の証ですので一見いい様に思いますが、そうではないと思います。

確かに金は柔らかく、腐食せず、しかも比較的電気抵抗が小さいということでスイッチ、コネクターの接点には欠かせない材料です。しかしながら、プリント基板に採用するメリットは無いばかりか、結果的に致命的な欠点になる可能性があります。プリント基板では回路の接続は半田付けです。半田メッキの場合に半田の乗りがいいのは明らかです。じつは金メッキにすると、逆に半田の乗りが少し悪くなるのです。実用上支障になるほどではないのですが、半田付けにとってメリットはありません。

まあメリットが無いくらいなら選択肢としてあってもいいのですが、プリント基板設計上やってはいけないことと関係があるのです。

オーディオアンプ用プリント基板の不思議(その2)

  • ベタ塗りの無い基板?

プリント基板設計上、やってはいけない事、それはベタ塗りの無い基板設計です。ベタ塗りの有無というのは必ずしも正式な技術用語ではないのですが、要するにプリント基板のパターン配線以外の不用な部分をアース部として残すか、不要部分をエッチングしてなくしてしまうかの違いです。

例を示すとこんな感じです。

プリント基板ーベタ有りー1.ベタ有りのプリント基板(青い部分が銅のパターン配線がある部分)

プリント基板ーベタなしー 2.ベタ無しのプリント基板

どちらでも回路図上の結線という意味では同じですが、両者の動作はまったく違うと考えています。

数十MHz帯の高周波設計では 1のベタ有りにするのがあたりまえで、そうしないとまともに動作しません。高域が20KHzのオーディオアンプでは必要ないと一見思われますが、20KHzにおいて他の帯域と同様に十分にNFBをかけようとするとMHz帯までの周波数特性が必須です。それに、そもそも小信号増幅用のトランジスタの帯域幅は数百MHzまであるのでベタ塗り部を設けて回路の高周波特性を安定化することは常識なのです。たとえばアマチュア無線分野の方はどんな初心者でも実践しています。

実は2のベタ無しのプリント基板は(その1)の金メッキと関係が有ると勘ぐっています。金メッキの場合、ベタ部があると金の必要面積が多くなるので当然高くなると思います。そこで回路上不要の(本当は必要と思うが)ベタ部をなくしてしまったのではないか?と思うのです。(その1)でも述べたように基板に金メッキをするメリットは私は無いと思います。ましてや、ベタ部をなくすともう高周波で安定動作は望めません。

では2.の基板を採用しているメーカーはどうやってアンプを作っているかといえば、増幅回路の各部に局所帰還をかけて帯域幅を最初から狭くしているのです(と思います)。オーバーオールのNFBが当然少なくなり、高域の歪率が悪化すると思います。2のタイプの金メッキ基板は、ある老舗のオーディオメーカーのフラッグシップモデルに使用されています。しかも、記憶が正しければプリント基板の母材を代え音を良くしたとか、レジスト(半田の防止層)コーティング材を変えて音質を良くしたとか宣伝しています。私に言わせれば基板によって音が変ったとすれば、まず”ベタ部をとってしまったせいではないですか?”といいたいのです。

弊社のプリアンプパワーアンプはもちろんベタ有りの基板で、それだけではなくパターン配線に関しても相当練りに練っています。上図のパターンは実際プリアンプのフラットアンプ基板の図ですが、なんとなくパターンの模様に設計思想の様な物が感じられませんでしょうか?パワーアンプに関しては1年以上プリント基板の最適化に費やしていますし、そうしないと高周波領域の特性を手なずける事ができないのです。

最近、単にパーツに貴金属を使用して音がよくなったと高額な値付けをしている商品が増えすぎているように思います。

本当に必要な改良をして、性能も音質がよくなり、そのためにコストがかかったというのなら分かりますが、こんなに電気の常識を無視した設計をすると、電気の神様の怒りをかうことになるのではないか?と思うくらい怖いことをオーディオ業界ではやっているように思います。

アンプの歪成分のFFTスペクトル解析

はじめに

アンプの性能を表す方法のひとつとして歪率特性があげられます。ここでは、通常議論される高調波歪率よりも一歩踏み込んだ議論を紹介したいと思います。

測定方法

歪率の測定には、発信機と歪率計を内蔵したオーディオアナライザー(VP-7223A)を使用しています。測定条件にもよりますが残留歪率は 0.0005%-0.001%です。歪率計には歪波形をモニターするための基本波除去後のモニター用出力端子がついていますので、この歪波形をFFTで解析して高調波歪の成分を調べてみました。FFT解析にはパソコンを使用し、現状最も高解像度、広帯域のサウンドボード(192KHz,24bit)を使用しました。周波数は約90KHzまで測定可能です。歪率計で基本波が100dB程度除去されていますので、FFT解析装置の解像度100dBと組み合わせて原理的には200dBくらいの分解能になります。ただし実際にはノイズなどの影響で170dBくらいがいいところでしょう。また注意していただきたいのは歪率系のモニター出力の絶対値は、勝手に内部でATTが動作するため当てになりません。歪率の絶対値はスペクトルからではなく、別に記した全高調波歪率を参考にしてください。あくまでFFTスペクトルは歪の周波数分布を見るために使用してください。一応測定されたFFTスペクトルのY軸はは、歪率系で測定された歪率の値にあわせて規格化しています。また、FFTスペクトルの縦軸はV・sでスペクトルのピークの値が直接歪率の絶対値を示すわけではありません。ですのでFFTスペクトルを見る際はあくまで相対的に比較して下さい。
測定条件は10KHz、1Vです。

アンプ歪率のFFT解析ブロック図

歪率のFFT解析結果

結果は下表の通りです。
横軸は周波数、縦軸は歪成分のスペクトルの大きさになります。AVアンプ、プリメインアンプで10KHzの基本波が除去し切れていないように見えますが、これはわずかなハム成分(50Hz)が乗った10.05Khzなどのスペクトルです。オーディオデザインのアンプはSNが良いのでこの成分がありません。

プリアンプの歪成分の周波数解析

アンプ

歪成分のFFTスペクトル

コメント

AVアンププリアンプ部
THD+N=
0.011%
AVアンプの歪成分のFFTスペクトル ・3次高調波成分(30KHz)が最も大きな歪成分です。
・3次高調波の他に7.5次(75KHz)にも大きな歪成分がありますが、これは発信器の出力にわずかに含まれる歪がなぜか強調されているようです。
・他に40-60KHzに無数の非高調波の歪成分があります。
プリメインアンプ
プリアンプ部
THD+N=
0.0054%
アンプの歪成分のFFTスペクトル 高調波歪の主成分は2次と3次成分ですが70-80KHz付近の歪も大きくなっています。
オーディオデザイン
プリアンプ
THD+N=
0.0023%
オーディオデザインアンプの歪成分のFFTスペクトル 基本的に目立った歪成分がありません。非常に優秀です。
歪成分が無いだけでなく、10KHz以上のベースライン(基底)部分も大きく減少しています。

FFT解析のまとめ

歪成分のFFT解析を行うことで、アンプの性能をより詳細に知ることが出来ました。また周波数特性の優れたオーディオデザインのアンプが結果的に歪率特性も非常に優れており、歪成分をほとんど発生していない事がわかりました。

(2007/08/20)

(ほんとうは恐ろしい)実装状態でのアンプの歪率特性

アンプの実装状態での歪率をチェックしてみよう
一般にトランジスタアンプの高調波歪率は0.0x%から0.00x%程度で、音質には必ずしも影響しないと考えられていますが、実際には恐ろしいことが起こっています。アンプの実際の使用状態での歪率特性が1桁以上悪化していることがあるのです。

信号源インピーダンスの影響
実装状態でアンプ歪率に大きな影響を与えるのは信号源のインピーダンスです。下図を見てください。右側がプリアンプ、左側がCDなどの信号源と考えていただければ結構です。信号源とプリアンプの間にはVRが入り、電気信号を分圧してプリアンプに入力します。分圧するだけならいいのですが、同時にVRの直列抵抗のために、等価的に信号源とアンプを接続するインピーダンスが上昇します。
例えば100KΩのVRを接続して半分の音量に絞った場合50KΩの抵抗が直列に接続されたことと同じになります。
amp-comp-cir.jpg

この様な状態での歪率特性を調べるために、信号源に直列に抵抗を接続した状態で測定してみたのが次のグラフです。左がオーディオデザイン社のディスクリートアンプ、右側が代表的なOPアンプ5532の歪率特性を信号源インピーダンスを変えて調べたものです。

ampdistcomprs2.gif

信号源インピーダンスが小さい場合(600Ω)には教科書に出て来る様な歪率特性です。高域においてディスクリートアンプの方が優れていることがわかります(もちろんディスクリートアンプであればすべて性能がいいという事ではありません)。しかしながらその差は少しでOPアンプでも十分実用に耐えると考えられます。
ところが信号源インピーダンスが大きくなると(入力にVRを挿入し絞った場合に相当)、事情は一変します。Rs=4.7KΩの場合、OPアンプでは10KHzの歪率がかなり大きくなります。ディスクリートアンプでも若干10KHzが悪化しています。Rs=48KΩではさらに状況はひどくなります。OPアンプではなんと10KHzの歪率は0.1%に上昇します。これは明らかに音質に影響するでしょう。音が割れるまではいきませんが、高音域がきつく感じられ、全体的に堅い音になると思います。ディスクリートアンプではそこまで悪くなりませんが、やはり多少悪化しています。
信号源インピーダンスが大きくなった場合に歪率が悪化する理由はアンプ初段のFET(Tr)の入力容量の非線形性によるものです。信号源インピーダンスが-側の入力インピーダンス(この場合1K//4.7K=825Ω)に等しい時に歪率が最も小さくなるといわれています。
信号源がCDでアンプがプリアンプの場合もそうですし、プリアンプが信号源でパワーアンプの入力部にVR(アテニュエーター)がついている場合にもこの状況はあてはまります。
よくVRを入れると(音量を絞ると)音質が変わるという方がいますが、その原因はVRそのものの品質ではなく、実はこういったアンプ回路にかかわる問題であることも多いのではないでしょうか?(ほとんどの場合VRのせいにされていますが・・・)
通常アンプの歪率特性はVRを最大にして測定するので、こういった影響は見えてきませんが、実用状態では必ずしも特性が良くない場合があるということに注意すべきでしょう。
また、この信号源インピーダンス依存性をなくす方法は別途紹介したいと思います。