「わが巨人軍は永久に不滅です」といったのは長嶋さん、「A級アンプも永久にスイッチングします」と言ったのは私です

A級動作のパワーアンプはスイッチング歪がないので音がいいというのはオーディオを趣味とする方にはいわば常識かと思います。

そのA級アンプですが、実はどんなA級アンプも実はスイッチングしているのです。といったら「そんなバカな」と思われるでしょう。それでは、アンプの性能などを見ていてA級アンプなのにやけに歪が多いな(AB級よりも多かったりする)と疑問に思われたことはないでしょうか?

もちろんA級アンプの音質的なメリットは出力段がスイッチングしないというだけでなく、結果的にトランスの容量や出力トランジスタや放熱器も大型になるなどの物量投入の効果もあるので、A級アンプの音質がいいという話があるのはわかります。

最近、よくよく考えてみるとA級アンプもスイッチングしているなーということに気づきました。

パワーアンプの動作を説明する簡単な回路図

この図はパワーアンプの簡略化した回路図です。電圧増幅段の後に電力増幅段があってスピーカーに接続され、トータルにNFBが掛かっています。これで電力増幅段のアイドリング電流が数AあればA級動作することになります。

ただ、実際にはこの回路ではスピーカーを駆動できないのです。スピーカーを駆動することまで考えて描いた簡単な回路図はこちらになります。

A級動作もグラウンドを含めて考えると汚れている

何が違うかというとマイナス側の回路です。最初の回路図ではマイナス側に電流を供給する部分が欠けているのです。マイナス(グラウンド)側は単に入力信号のマイナス(グラウンド)に接続するだけではだめで、大電流を供給できる回路に接続する必要があります(電力増幅回路のリターン側という言ったりもします)。

電源部は電源トランスからの電圧を整流して大型の電解コンデンサに接続して直流化しています。スピーカーのマイナス側はその正負2つの電源コンデンサの中点に接続され、このG点から電流が出ている(入っている)のです。このG点グラウンド部というのは100Hz(電源周波数の倍)の正弦波で充電されたときに発生する脈流成分なので、実際には数kHz位までの成分を含まれています。

この電源部のリップル成分はプリアンプなどでは安定化電源を使用すれば問題になりません。ところがパワーアンプでは安定化しないので、数Aのリップル電流に起因した成分は結構大きなものになります。回路図上では発生するように見えなくても、実際にはアース電位にもリップル成分が混じるので、結果的にこれは残留歪となります。

さらに悪い事にA級アンプは無信号時に出力段に電流が一番多く流れているので、無信号時のリップルノイズ(残留歪)が大きくなる可能性すらあるのです。

A級アンプといえども、その回路(あるいは動作)の原理だけを考えていると、理想的に見えても、実際にはいろいろな事が影響していてそう単純ではありませよという話でした。

アンプのテストに使える危険な裏ワザ -安定化電源の音質差を探れます-

これからご紹介するのはちょっと危険な裏技なので、もし試す際はアンプ、スピーカー共に壊れても良いサブ・サブ・システムで行って下さい(高価なメイン装置では行わないこと)。

どういう裏ワザかというと、内部の電源に安定化回路を使用しているアンプで、安定化回路を使用した時と、安定化しない時の音質を改造なしに瞬時比較するという裏ワザです。

必要なもの

・試聴したいアンプで内部で安定化電源を使用しているもの、3端子レギュレーター使用のアンプなどでもよい(使用しているかどうか分からなくても差し支えありません)。

・スライダック(トランス式でAC電圧を100Vから落とせるもの)、サイリスタを使用した電子的なものは不可です。

・当然ながらスピーカー、CDプレーヤー等も必要です。

方法

slaidac

接続図はこんな感じ

試したいアンプのACコンセントをスライダックを経由して接続します。

スライダックの電圧を100Vに調節して、パワーアンプの電源スイッチを入れます。当然の事ながらアンプは正常に動作するはずです。

 

そこからスライダックを調節してAC電圧を60-70V位に落とします。パワーアンプの最大出力は半減しますがそれでも正常に音が出るはずです(それ以下では保護回路が働いてしまいます)。このAC電圧を60-70%に落とした状態だと安定化回路は全く機能せず、結果的に安定化回路を使用しない単純なリップルを含んだ電源になります。

両者の音質を比較することで、安定化回路を使用の有無による音質差を聴き比べることができます(最大出力が違うのでそこの違いが気になるという人もいるかもしれませんが)。

私が試した結果では、良質な安定化回路が組み込まれていると、安定化したほうが音のざらつきが取れて、カチッと定位も決まって繊細さが表現されて、安定化した方が音質は上質でした。

内部での直流電源電圧はこんな状態になっています。

img015_60V

安定化しない電源の電圧変動(AC70V)

img016_80V

中途半端に安定化回路が働いている時(AC80V)

img016_100V

安定化回路が正常に機能している時の電圧変動分(AC100V)

 

 

AC電圧を60-70Vくらいにすると安定化回路が働かないため、電源電圧には単純なリップルを含んだ波形になります。

 

 

 

電圧が80-90Vになると安定化回路が中途半端に働こうとするので半分平坦、半分は電圧が足りず急激に落ち込みます。

 

 

 

 

 

 

 

AC電圧が90-100Vになると正常に機能して電源電圧は一定になります。こうなると変動分は見えません。

 

AC電圧を落とすと、、出力リレーが落ちたりしますので、正常に音が聞けるとは限りません。また保護回路が機能しなくなったりする恐れや、そのたもろもろ危険性があるので、メインシステムでは試さないように注意して下さい。

古くて新しいデジタルオシロで開発が加速するかも

今回は測定器の話をさせていただきます。

オシロは大事

アンプなどの解析にはオシロスコープが必須です。オシロは何台か持っていますが、もっぱら使用しているのはアナログオシロです。波形の記録にはデジタルオシロが必要で以前はパソコンに取り込んでサーマルプリンタなどでシール式の感熱紙に印刷していました。その頃のノートはこんな感じです。

DCPMA-parts2 044_ociloold

デジタルオシロの波形をパソコンで取り込んで編集後、 サーマルプリンタで印刷してノートに貼り付けていた

ただこの方法は面倒で、気合が入った時にしかしませんでした。もっと簡単にオシロの波形を残したかったのですが、最近は面倒なので自分で波形を書いていました。超原始的ですが、これが一番早いのです。

DCPMA-parts2 050_note2

その内、波形は手書きになった

オシロの波形記録の変遷

このオシロの波形を残すために、あれこれ試行錯誤してきました。

  1.  USBオシロ(波形データをボタン一つでPC に転送できるもの)–>PC で画像を整えて印刷するのが大変、オシロそのものが使いにくい

2. オシロの画面をでカメラで撮る、その後PCに取り込んで、サーマルプリンタで印刷–>いちいち操作が面倒(写真中央上)

3. チェキ(ポラロイドカメラ)で撮る:画面が小さすぎてダメ–>接写レンズを使う:不鮮明でダメ視界も狭い(写真右)

DCPMA-parts2 041_ocilophoto

左が新しく買ったプリンタ内蔵デジタルオシロの印刷結果、 右がチェキに接写レンズをつけて撮ったアナログオシロの波形 真ん中下がスマフォで撮ってスマフォ用写真印刷機でプリントしたもの

4. スマホ専用の写真印刷機でとる–>これは結構いける(写真中央下)

5. プリンタ内蔵オシロ–>チョベリグ(写真左)

これが一番良かった

最終的に行き着いたのが5のプリンター内臓のオシロスコープです。これがあるのは知っていましたが、結構お高いので敬遠していました。最近だめもとで中古で購入してみたら、これが予想以上に良かったのです。ボタン一つできれいに波形コピーが出来ました(ちょっとサイズがおおきすぎるのですけどね)。YOKOGAWAのDL1540というデジタルオシロで、上部に感熱プリンターが内蔵されています。帯域も150MHzあるので十分です。操作性でアナログオシロにはチョット負けますが、いわゆる4-5万円の安いデジタルオシロよりも遥かに使いやすく、実用に耐えます。

DCPMA-parts2 038_DL1540

オレンジ色の波形のオシロにプリンタが内蔵されていて ボタン一つで波形のコピーが上から出てくる

 

 

今後、製品開発がますます加速するかもしれません。

 

パワーアンプ出力段に関する考察(2) -エミッタ抵抗を取れば特性は良くなるか?-

前コラムでパワーアンプから大電流が流れた場合エミッタ抵抗に発生する電圧降下によってバイアス電圧が消費され、トラジスタがカットオフしてしまうということをお話しました。 それではこの悪さをするエミッタを無くしてしまえばいいのでは?とは誰しも考えるところです。そもそもエミッタ抵抗は何故入れてあるのでしょうか?

エミッタ抵抗の役割

標準的SEPP出力段

標準的SEPP出力段

このエミッタ抵抗の役目はトランジスタの熱暴走防止です。トランジスタは一度温まるとより電流が流れやすくなるという性質をもっていて、このサイクルが繰り返して温度が限りなく上昇してしまうのです。これを熱暴走といいます。エミッタ抵抗は、トランジスタに電流が流れた際に入力電圧を打ち消す方向に電圧が発生するので、このエミッタ抵抗一本で負帰還をかけているのです。このエミッタ抵抗Reに必要な値の計算方法は

Re>Θjc・Vc/500

から求まります。ここでΘjcはトランジスタ熱抵抗(℃/W)で通常1(℃/W)程度です。Vcは電源電圧50V程度ですのでReは0.1Ω以上必要なことがわかります。またこの式は温度補償素子をトランジスタに直接熱結合させた場合で、放熱器に温度補償素子を固定した場合は、放熱器の熱抵抗も考慮する必要があります。実際には0.2Ωから0.5Ω位の抵抗を付けるのが普通です。

エミッタ抵抗レスで熱暴走を抑止できていると思えるアンプが無い これまで、エミッタ抵抗レスをうたった市販パワーアンプは私が知る限り2例ありましたが、驚くべきことに、そのいづれもが回路図を見る限り、熱暴走に対する対策が必ずしも充分では無く、熱暴走する可能性のあるものでした。先に述べた式は熱暴走を起こさない必要充分条件であって、上式を逸脱していても、熱暴走が必ず起こるとは限らないので、通常の使用ではひょっとすると問題ないのかもしれません。

エミッタ抵抗レスのSEPP出力段

エミッタ抵抗レスのSEPP出力段

少し話はそれましたが、このエミッタ抵抗が無くても熱的に安定な回路を新たに考案し(これは非常に苦労して考案しました)、SEPP出力段の歪率特性を計測してみました。

エミッタ抵抗を除去しても歪率は改善されない 驚いたことに、歪率は少し改善されたものの、スイッチング現象は解消されず、歪率も少し低下した程度でした。何故かというとパワートランジスタそのものにも抵抗成分があるので、外付けのエミッタ抵抗を無くしても、総合的には改善されなかったのだと思います。 トランジスタの内部では100ミクロンれべるの細いAuワイヤで配線されていることと、内部配線の抵抗が小さいとしても。トランジスタそのものが動作点で0.数Ωの抵抗があるので(Ic対Vbeの傾きという意味で)、エミッタ抵抗を無くしてもスイッチング現象が消滅しなかったのだと思います。もちろんある程度の改善(最大でも半減程度)はするとは思いますが、本質的な対策にはなりえなかったのです。

エミッタ抵抗の代わりに電流センサーを使用するのはまったく無意味 さらに、あるメーカーのパワーアンプでエミッタ抵抗の代わりに電流センサーを使用してエミッタ抵抗をなくして特性を改善したと主張する物がありますが、これはまったく無意味です。 SEPP-Re0-1 電流センサーを使用してエミッタ抵抗による電圧降下をなくしても、同じ熱安定性を得るためには別途バイアス電圧をエミッタ電流に比例して降下させる回路を組む必要があるからです。このバイアス電圧降下回路を組まなければ熱暴走の危険性がありますし、バイアス電圧降下回路を組んでいるとすれば、抵抗1本ですむものをわざわざ複雑にしているだけで意味がありません。 というわけで、パワーアンプの出力段のスイッチング現象による特性悪化に関する試みは多いのですが、的を得ていないと思われるレベルのものが多いなというのが私の印象です。

パワーアンプ出力段に関する考察(1) -出力段のスイッチング現象、アイドリング電流はどこへ行った?-

はじめに

パワーアンプが他のアンプ、例えばプリアンプなどと異なる点はなんといっても出力段です。

他のアンプ回路と異なり数A単位の電流が流れるので設計が異なることはもちろんですが、どう上手に回路設計しても、不完全性が残るためどうしても気になるところなのです。

現在市販されているパワーアンプも、設計者によって様々な工夫が凝らされています。ただその効果については果たして意味があるのか疑問を抱かざるを得ないものも多いので、ここで少し詳しく解説してみたいと思います。

多少の回路知識がないと、内容は完全には理解しにくいかもしれませんが、およその雰囲気は判っていただけると思います。

パワーアンプ出力段に関して以下の順で解説していきたいと思います。

1.出力段のスイッチング現象は何故発生するのか?
アイドリング電流はどこへ行った?

2. エミッタ抵抗を除去しても特性は良くならない!?

エミッタ抵抗をなくした回路  まずそのものの安定性が怪しい

3. エミッタ抵抗の代わりに電流センサを使用しても意味が無い

4. 擬似A級回路は何故評価されなかったのか?

 

1.出力段のスイッチング現象は何故発生するのか?

実ははそもそもこれが疑問でした。パワーアンプといえどもアイドリング電流を流しているので、無信号時にはトランジスタの+-側両方がONになっています。信号が入力されてもこの一定のアイドリング電流が流れているので、そもそもトランジスタはOFFにならないのでは?と思ったのです。(以下の説明では簡単な説明とするため、実際とは値が多少異なります)

SEPP-1パワーアンプで使用される出力段(SEPP)回路、アイドリング電流が最初から流れているので出力段トランジスタはカットオフしない(のでは?)

 

SEPPLoadパワーアンプ出力段の回路例(考察用です)

 

SEPPLoad20

無信号時、アイドリング状態では各トランジスタに0.6Vのバイアスが掛かっており両方共ONの状態になっています。(説明を簡単にするため、実際とは値が多少異なる場合があります)

ところが実際に負荷を接続して比較的大きな電流が流れている状況をかんがえるととします。この状態では下図の様になってしまいます。8Ω負荷を接続して2Aが流れた状態になると(出力電圧が16Vになると)、電流が流れるためエミッタ抵抗に1Vの電圧が結果的に発生してしまいます。この場所で、すでにバイアス電圧1.3Vの内1Vのを使用してしまっているので、下段のトランジスタにはもうバイアスがかからなくなり0.3Vの逆方向に電圧が掛かってしまいます。つまり下段のPNPトランジスタはOFFの状態になってしまいます。

これがスイッチング現象です。すなわちエミッタ抵抗によるバイアス電圧をキャンセルする成分の発生が悪さをしていたのです。

SEPPLoad21

 

それではエミッタ抵抗を小さく、あるいはなくしてしまってはどうかということです。ここからが、議論のはじまりなのですが、これはこれで問題があるのです。

 

 

パワーアンプのちょっと深い話(2) -出力段のスイッチング歪-

パワーアンプの出力段は通常AB級動作が一般的です。オーディオ信号に対してNPNトランジスタとPNPトランジスタで+-交互に電流を流しているのです。もっとも無信号(微小信号)時にはアイドリング電流としてNPN,PNP両トランジスタに電流が流れているので、この領域ではA級動作ですが。

また一般にパワーアンプの高域の歪は出力トランジスタがカットオフするために発生しているといわれています。過去解決策として擬似A級動作する様々な回路も提案された様です(これらの擬似A級回路は各社のノウハウとなっているようで回路が開示されているものは無い様です)。

その擬似A級の出力段を使えばパワーアンプの高域歪が低減できる可能性がありますので、その有効性を調べて見ました。擬似A級出力段回路は特に開示されているものが見当たらなかったので、独自に(苦労を重ねて?)考案しました。

最初に一般的なパワーアンプの出力段の回路を示します。3段ダーリントン出力段の基本回路で、実際のパワーアンプには位相補正、バイパスコンデンサ、保護回路などが付属していますが、ここでは省略しています。

パワーアンプ出力段の回路

この回路に出力に8Ω負荷を接続してサイン波を入力した時の最終段のパワートランジスタのエミッタ電流を実際に測定したのがこちらです。


(NPNトランジスタ部)                (PNPトランジスタ部)

<パワーアンプ出力段の出力電流特性>

バイアス電流を流してAB級動作をさせていても、負荷に電流が流れる際にエミッタ抵抗(RE1又はRE2)に電流が流れてバイアス電圧をキャンセルしてしまうため、トランジスタがカットオフしてしまいます。エミッタ抵抗は熱暴走を抑止するためには必須であるため、トランジスタのカットオフを防ぐ手段はありません。

一方、回路を工夫して出力段がカットオフしないようにすると、次のようになります。


(NPNトランジスタ部)                (PNPトランジスタ部)

<パワーアンプ出力段(擬似A級)の出力電流特性>

NPN,PNPが交互に電流を流すの同じじですが、常に最低限の電流が流れているところが相違点です。

それではこれらの歪率特性を比較してみましょう(テスト用のシャーシーで測定しているため通常より大きめに出ています)。

まず通常のスイッチング型のSEPP出力段の特性はこちらです。


通常のSEPP出力段の歪率特性

負荷のない場合は0.005%くらいで低歪です。8Ω負荷では周波数によらず一桁増加して0.05%くらいになっていることがわかります。

さて肝心の擬似A級出力段の歪率特性はこちらです。


擬似A級出力段の歪率特性

この結果を見ると残念なことに擬似A級としても(カットオフを防止しても)何ら効果は無いようです。結局パワートランジスタのカットオフ自体が歪みの原因ではないのではないかと思います。もちろんカットオフはしていなくてもスイッチング(NPNとPNPで交互に電流を供給する)はしているわけで、擬似A級にしたから問題が解決するということではないようです。

いろいろ検討していますという例として、今回は擬似A級の結果を紹介して見ました。

蛇足ですが、最近市販されているA級アンプ(ホントの純A級アンプ)は弊社のAB級アンプよりもは歪率が一桁くらいは悪いので、純A級にすれば低歪ということではなく、実際にはそのアンプの作り方(回路、実装技術)の方が歪率には効いているということもお忘れなく。

パワーアンプのちょっと深い話 −出力段はトランジスタかFETか−

一般にパワーアンプはアンプ類の中では不完全な部分も多く、それだけに音質差がつきやすいと思います。負荷になるスピーカーの4-8Ωというインピーダンスは実際に数Aの電流が流れます。電子機器というより電力機器でこれを20Khzの信号まできちんと制御するのは実は至難の業だからです。

俗にFET出力段のパワーアンプはxxという音質とか、FETデバイスにしたのでyyyとかいろいろ巷では表現されることがありますが、実際にバイポーラートランジスタとパワーFETをパワーアンプの出力段として比較した場合、どういった違いが出てくるのでしょうか?
今回この点について見解を述べてみたいと思います。

<一般論>
一般にFETデバイスは2乗特性と言われており(入力電圧の2乗に比例して電流が流れる)、そのため出力段をAB級動作させた際生じるスイッチング歪が小さいといわれています。ところが、ここが肝心なところですが、入力容量が大きいため前段のドライブ段の増幅回路の負荷が高域で低下し、高域の歪が増加しやすいという欠点もあります。実際のアンプではどうなっているのでしょうか?最初にアンプの教科書に掲載されている歪率を紹介しますと、

バイポーラートランジスタを出力段に使用したパワーアンプの歪率特性は
bipolar-text.jpgバイポーラートランジスタ出力段のパワーンプの歪率特性例

一方、FETを出力段に使用したパワーアンプの歪率特性は
fet-text.jpgFET出力段使用のパワーアンプの特性例

基礎トランジスタアンプ設計法、ラジオ技術社、黒田徹著より

この様にFETを出力段に使用すると歪率特性的には特に高域で悪化するのが普通です。最近よくあるパワーFETをたくさん並列動作させたものなどはもっと悪くなる恐れがあります。まあ通常聴感上は歪を感じるほどではないかもしれませんが・・・。

<オーディオデザインの比較結果>
FETとトランジスタで単純に比較する前にパワーFETを出力段に使用するには幾つか気を付けることがあります。それは、
・発振防止のためゲートに抵抗を挿入する
・位相補正コンデンサの最適化を入念に行う
・ゲートの入力容量をドライブするためにエミッタフォロア-で駆動する
特に位相補正はFETの入力容量が信号の大きさで変わるために非常に難しく、ある所で妥協するほかありません。まあこういった詰めを入念に行った上でできた特性として紹介しますが、弊社のパワーアンプ基板にパワーFETを装着した際の歪率特性を通常のバイポーラートランジスタと比較するとこうなります。

bipolar.jpgバイポーラートランジスタ出力段のパワーアンプの歪率特性

fetamp.jpgパワーFET出力段のパワーアンプの歪率特性

下がFET出力段を使用した時の歪率特性ですが、バイポーラートランジスタを使用した標準のパワーアンプと比較して、ほとんど同じくらい低歪で、特に高域はバイポーラートランジスタより良くなっています。この結果はFETの2乗特性によって出力段の歪が低下するという原理が現れていて、理想的な特性に仕上がっていると言う事ができます。

<バイポーラートランジスタとパワーFETの音質差>
さてこの様な特性下で音質を比較したらどうなるでしょうか?

答えは「判別がつかない(位どちらも良い)」です。
FET出力段にすると特有の音質がするものと思っていましたが、実際にこの2つを比較試聴するとほとんど同じで、シャーシー間の差以下の音質差でした。

パワーアンプを設計した際、実は出力段のデバイスにパワーFETも接続できるように当初から設計していました。製品のパワーアンプに使用しているのはバイポーラートランジスタですが、あとで直ぐにFETアンプを出そうと思っていたのです。一般にFET出力段のアンプの方が低音域が力強い音が出るといわれており、私自身もこれまでの自作の経験ではそうでした。ところが実際にバイポーラーTrのパワーアンプの後にFETパワーアンプを入念に検討し比較してみたら、ほとんど音質差がありませんでした。ですのでFET出力段のパワーンプの販売は止めました。同じ音質なのに品種を増やしても混乱するだけですので。パワーアンプに関しては他にもいろいろ検討していますが、なかなか現状より大幅に向上するということがありません。

以上今回はパワーアンプ出力段のお話でした。

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パワーアンプの基板設計の重要性について

弊社のパワーアンプの性能がいい事はスペックを見て頂ければわかると思いますが、なぜ良くなったかを一言で説明するのは難しい点もあります。アンプ回路は性能が出やすい回路構成とはいえ、従来からあるもので新規回路というほどのものではありません(もちろんいろいろと工夫はしている点は多々ありますが)。よくなった原因は従来は局所帰還で逃げていたものを、出力段からのトータルのNFBを高域まで安定にかけられる様にプリント基板を最適化した事です。これはいくら口で言ってもみなさんピンと来ないようで、説明した人に首を「うんうん」とうなずいてもらった記憶がありません。先日の引越しの際に古いパワーアンプの基板が出てきたので(貧乏性なので過去の基板が捨てられない)少しまとめてみました。以下の写真はパワーアンプ用のプリント基板で試作当初から現在の製品に至るまでの変遷を表しています。

思いつくままにポイントを列挙すると、

  • 各プリント基板は動作させたあと位相補正の最適化、必要に応じてCRの定数変更、(バラック配線による)配線・回路変更等を各基板ごとに行っています。ですので各基板毎の限界特性を見ているといってもいいかと思います。
  • 各最適化、調整時の完成度の指標としては、過度応答、歪率特性等を使用しています(この過程では試聴などはまったくあてになりません)。
  • 出力段からのNFBをかける際には基板毎の限界があるのですが、その障害の原因を探り改善するという正攻法で改善しています。
  • すべての基板を保存しているわけではないのでところどころ抜けています。
  • 以下の写真を見てもそれだけでは何をどう変えてよくなったのかとういう詳細はわかりません。基板の設計思想はノウハウなので解説できませんが、証拠としてご覧いただいています。

power-pcb1st.jpgver.1

power-pcb2nd.jpgver.2


powerpcb4th.jpgver.4

powerpcbprod.jpgver.5

残念ながらあまり詳細に記述できないのですが、現プリント基板のバージョンは5世代目位です。さらにこの他にも当初はプリアンプ基板に電力出力段を増設したものを試したり、他のアンプ回路も試しているのでこれらがすべてという訳ではありません。これらの基板最適化だけでトータル1年以上費やし、もっとも労力を割くことになりました。その結果何がよくなったかといえば、MHz帯の高周波領域まで安定にNFBをかけられる様になったので、高域の歪率が減少しました。その推移を表したのが下図です。

power-pcb-genereation.gif
           パワーアンプの10KHzの全高調波歪率特性(8Ω負荷)

現製品では10KHzの歪率特性が0.01%から0.001%レベルにまで低下しているのがわかります。この10KHzの歪率特性はよくできたアンプよりも一桁低い値です。これだけ下げても1KHz以下の歪率と比較するとやや大きい値になっています。これ以上はA級動作にするか、より進んだ回路構成にする必要があると思います。ただ、このレベルになるともう十分で実際高域の歪が聞こえるというレベルではないと思います。

この10Khzの歪は最終段の電力増幅用のトランジスタによるスイッチング歪であることがわかっています(無負荷では0.0005%であるのに対し、8Ω負荷にすると一桁上昇しているので)。一方1Khz以下では8Ω負荷でも低歪なのに10Khzで歪率が上昇するのは高域では(NFBを安定にかけられないために)NFB量が減少しているからです。市販アンプの中には(というかほとんどが)A級アンプなのに歪率がこれよりも一桁以上多いものがあります。そういったアンプは本当にアンプの検討をしているのだろか?と首をかしげてしまいます。

これだけ低歪にすると歪なく音楽を楽しめるのかというと、実はそうは問屋が卸しません。低歪のアンプで音楽を聴くと、低歪に聞こえるのではなく、むしろ他の箇所の歪がよりはっきり聞こえるようになるのです。ほとんどの場合はソースの歪で、歪感の少ないCDは非常に良いのですが、CDによっては小さな歪まで聴き分けられてしまいます。例えて言うならば、ものすごい高解像のめがねをかけて非常によく見えるようになったとしても、異性がきれいに見えるわけではなく、しわや毛穴の汚れが見えるようになってかえって気になってしまうといったらニュアンスが伝わるでしょうか。もちろん、良い録音のソースを聴いたときのリアル感は絶品で、後戻りできるものではありません。

以上パワーアンプの基板について説明しました。

オーディオアンプの左右独立電源について考える(2) -パワーアンプ編-

前回のコラムで左右独立電源にについてプリアンプを念頭に置いて解説しましたが、やや説明というか内容がわかりにくかったかもしれません。今回の話はその続きですが、さらにわかりにくいかもしれませんがお付き合い下さい。今回はパワーアンプの左右分離電源について考えてみます。

パワーアンプというのは電力供給系とアース系の処理がかなり複雑にならざるを得ず、しかもこの配線の仕方が非常に重要です。 パワーアンプの電力系の配線に非常に太い線材を使用しているとしても50mΩ/m位の抵抗がありますから、20cmで10mΩ、ここに5A流れればこれだけで50mVの電圧が発生する事になります。50mVというのは通常のパワーアンプの残留ノイズの1000倍になりますから、結構な大きさです。まあ、無信号時には5Aも流れないでしょうが、平滑用電解コンデンサに流れているリップル成分とかはそこそこあると思いますし、いずれにしろ通常の小信号理論だけで考えているととんでもないわなに落ちる事があります。ちょっと横道にそれますが、パワーアンプというのは

1.通常の電子回路の技術に加えて、

2.電力系統としての取り扱い(強電分野)とそして

3.高周波領域の電子回路の知識(想像力)

という3点の考察が必要になります。通常の電子回路の技術者はこのどれか1分野の専門家でこれらの3つのすべてに通じているというという事はなかなかないと思います(これに加えて世間一般ではデザインとか機械強度なども問題になるのかもしれないが・・・・)。ですのでパワーアンプというのは詳しく見てみると製品の弱点も露呈しやすいのです。

話を元に戻すと、そのパワーアンプですが、電力系統の配線が難しいといいましたが、どういう事かというとこういう事です。

power-g-wirering2.gif
パワーアンプの回路部品(アース配線はこのGと書いた記号をつないでいく)

上の図はパワーアンプの電圧増幅段に安定化電源を使用した場合の部品構成を簡略化して示したものです。この図で例えばGとかいたところはアース電位になるべきなので、すべて接続します。Gの接続方法によってノイズレベルは大きく変わってきます。その接続の仕方はこの場合で単純に組み合わせと考えてもGの数が17なので一筆書きで配線した場合 (17-1)! (=16*15*14・・・・)となって約21兆通り、まあ実際に自然な接続の仕方だけでも数十通りはあると思います。よく言われるのは一点アースと呼ばれる考え方で、ここでいうとすべてのGをシャーシアースに接続するということでしょうか?この一点アースは基本的にはその通りなのですが、必ずしも最適な配線方法ではありません。

配線の仕方・考え方は苦労して習得したノウハウなので詳細は秘密なのですが、かわりに配線が上手にできたかをはかるバロメーターをお教えします。それは残留ノイズです。残留ノイズは入力をショートしたときに出力に現れるノイズ成分ですが、配線が不適切だとその分ノイズ成分が大きくなる傾向があります。下の図は市販パワーアンの残留ノイズを比較したものです。通常よくできたパワーアンプの残留ノイズは数十uV(A補正)レベルです。酷いのになると数百uV以上あります。ちなみに弊社のパワーアンプの残留ノイズは平均で7uVでこれはもう抵抗が原理的に発生するノイズレベル(黄色の領域)に近いのです。すなわち余計なノイズをほとんど拾っていないのですが、一般のパワーアンプでは配線材の引き回しによってピンクの矢印の分だけノイズを拾っているといえます。

power-noise-earth.gif
■が他社のアンプ△が弊社のパワーアンプのの残留ノイズ、黄色は抵抗の熱雑音レベル

老舗アンプメーカーの配線もかなり怪しいというものがあります(カタログの内部写真からわかってしまう)。そもそもよくあるパワートランスと電解コンデンサ を中心に配置して両脇にアンプ基板を配置するという構成は見ためには安定感があっていいのですが、配線上は問題を抱え込みやすいのです。左右のアンプの基板の中に電力系のトランスと電解コンデンサが並んでいる ので、配線が長くなって、アンプ回路の中にノイズ源を抱え込んでしまっている様なものなのです。

さらに実際問題として、残留ノイズがパワーアンプ単体では聞こえなくてもプリアンプに接続するとハムが聞こえるというケースもあります。これはパワーアンプの入力線によってループができて、そのループの磁束変化を検出しているのだと思います。実際に電力ラインの配線化を徹底的に行うとこの種のハムも消えるので、配線の不適切な部分が使用状況によって露呈しているだけという言い方もできます。トータルで同じ電源容量で左右分離電源にしたら音質が向上したというケースがあったとしても、この様な配線の不備が緩和されただけというケースもあるの思うので、それだけの結果で左右分離電源の方がいいと結論付ける事は早計だと思うのです。配線を最適化するという観点からも左右共通電源のの方がまとまりやすく、性能も出やすいということも確かなのです。

もちろん左右分離電源パワーアンプには
1.同じ電源構成(トランス容量、コンデンサ容量)で左右独立構成として、総電源容量が結果的に2倍になれば音質も当然良くなることが期待できる。

2.ステレオアンプからモノーラルアンプx2にすると、パワーアンプの配置がSPにも近くなるので結果的にSPケーブルも短くなって音質も向上する。

という効果は期待できます。

ですので左右分離電源がいいとおっしゃる方は弊社のパワーアンプのを2台購入いただき、(片CH使用しないで)モノーラルアンプとしてお使いいただくか、バイアンプ構成で高音、低音にそれぞれのCHを振り分けて頂ければより音質は向上すると思います。
以上パワーアンプの左右分離電源について考えてみました。

パワーアンプのダンピングファクターに関する解説

ダンピングファクターの音質に与える影響

一般的にダンピングファクターに関する認識は次の様なことではないでしょうか。

  1. DFが大きいほうが低音に締りが出てくる
  2. DFが極端に小さいと(<10)低音の量感は増す(実際に低音の音圧レベルも上がることが知られています)
  3. トランジスタアンプの出力段を並列にするとDFが良くなる

ただし3の項目は以前のコラムにも書いたとおり、実は間違っています。トランジスタアンプの場合、同じ放熱器に出力段を並列にして並べると、1段当たりの電流量が半分になるためトランジスタの出力抵抗も2倍になるので、出力段を並列に並べる事に意味はありません。 DFは実際には他の要素で決まっています。

ダンピングファクターとは

話を基本に戻しますが、ダンピングファクター(DF)とは、一般にパワーアンプのスピーカーに対する制動力を表すと考えられている指標で(だからこの名前が付いた)、パワーアンプの出力インピーダンスとスピーカーのインピーダンスの比で表されます。

DF=Zsp(Ω)/Zamp(Ω)
ここでZspはスピーカーのインピーダンス、Zampはパワーアンプの出力インピーダンスです。
一般的なに半導体アンプで100程度の値を示します。この場合スピーカーのインピーダンス8Ωに対して、パワーアンプの出力インピーダンスは80mΩである事を意味しています。

ダンピングファクターの測定方法

ダンピングファクターの測定方法で最も一般的なのはON-OFF法です。 これはパワーアンプの出力にダミー抵抗を接続したときと接続しないときの電圧差をΔVとし、測定電圧をVとすると、
DF=ΔV/V
で計算されます。例えばDF=100の場合、3V出力時(約1W@8Ω)、負荷のある無しによって30mVの電圧差が生じるという事になります。
弊社のパワーアンプDCPW-100(DF>1500)では3V出力時に8Ω負荷をつないだ際の電圧降下は2mV以下という事になります。こう書くと簡単に聞こえますが実際には3.000Vと2.998Vを正確に読み取る必要があるので、有効桁数の多い測定器が必要になります。弊社ではこの目的のために有効数字が6桁のデジタルマルチメーターを購入しました。
dvm320.jpg
0.01mVの単位まで測定できるデジタルマルチメーター

ダンピングファクターの統計解析

市販されているパワーアンプの価格とDFの関係をプロットしてみました。
ピンクの四角印が海外製、丸印が国産アンプで、三角が弊社のパワーアンプです。
power-statisticsdf300.jpg
ピンクの四角印が海外製、丸印が国産アンプで、三角が弊社のパワーアンプです。
(データはハイエンドショー・インターナショナルオーディオショーで集めた半導体パワーアンプのカタログデータから拾いました)

一般に100-1000位に分布していて特に価格に対する依存性は無い様です。中にはDFが3000というパワーアンプがありました(実はこの数値は非常に怪しい)が、他のハイエンド機と比較しても弊社のアンプのDF=1500が非常に優れている事がわかります。
一般にDFが大きく、価格が安い方がいいと考えると、DFを価格で割ったDF/P(/万円)の数値が大きいほど(左上に行くほど)いいアンプと考える事もできます。価格も考慮したDF/Pファクターで考えると弊社のアンプは断トツです。

power-df-statistics-2.gif

ダンピングファクターが音質に与える効果についての考察

とはいえDFの値が音質に直接比例するわけではありません。DFが1と10では音質も大きく違うかもしれませんが、100を超えると例えば低音の締りが良くなるということを必ずしも実感できるわけでないかもしれません。 というのもDF=100とDF=1000の違いはアンプの出力インピーダンスが80mΩか8mΩということで、この差はスピーカーケーブルの抵抗、あるいはウーハーに直列に入っているコイルの抵抗(数百mΩ)によって、実際には見えなくなってしまう可能性が高いからです。
ただ数百以上のDFの効果というのは低音域の大信号に対して高音域が濁らないですとか、低音域の音階がはっきりわかる、低音が静かに聞こえるという様な聴感上の効果があるように感じます。DF=1000というのはスピーカーからの反作用がインピーダンス分返ってきたとしても、それによる電圧変動が1/DF(=1/1000)に抑制できると 考えたほうが妥当なのだと思います。
DFが100のアンプからDFが1000のアンプに変えても、数値から単純に想像する10倍の効果は無いと思ったほうが正解です。