アンプの過度応答特性

はじめに

アンプの音質を左右する特性にも色々あると思いますが、「ここでは意外と知られていないのではないか」と思われる特性について解説します。まずは過度応答特性からお話します。

過度応答とアンプの音質の相関

アンプの製作の経験が豊富な方でしたらご存知の方も多いのですが、アンプの過度応答と音質には密接な関係があります。一般にアンプは高域の周波数特性が悪くなり始めるあたりの周波数でピークをもつのが普通です。この理由自体は明確ではありませんが、真空管アンプにしろ、半導体アンプにしろほとんどの場合結果的にそうなるのです。

そこで通常はこのピークを無くし、周波数特性を平坦にするために位相補正というものを行います。利得を設定しているNFBループの抵抗に数pFから数十pFの位相補正コンデンサを並列接続し、ピーク付近での利得を調整するわけです。通常トランジスタアンプですとこの周波数は数百KHzから数MHzになります。

この位相補正、可聴帯域をはるかに越えた領域であるにもかかわらず、アンプの聴感上の音質に非常に大きな影響を及ぼします。位相補正を行っていないアンプ(超高域にピークのあるアンプ)はうるさいというかやかましいというか、音質が妙に硬く、また音量を上げると圧迫感のあるような音になります。同じアンプを位相補正すると、アンプのとげのようなものがとれ、しっとりとした感じになります。この差は微妙ではありますが、聴きなれると一度聴いただけで位相補正がしてあるかどうかがわかるようになります。

オーディオフェアなどで聴いた百万円近いプリアンプで、音が妙にうるさく感じられるアンプが有りましたが、後でたまたまそのアンプの矩形波応答が雑誌にでていましたが、それはもうひどいピークが発生していました。

またよくアンプを自作される方の中にはOPアンプやトランジスタを交換して、このデバイスの音は良いとか悪いとか比較されている方がいらっしゃいますが、その都度位相補正を適切に行わなければ、何を比較しているのかわからなくなってしまいます。

経験上、位相補正の有無の音質に与える影響は非常に大きく、抵抗やコンデンサなどの部品の音質差よりも大きいと思います。

そこでこの過度応答について、その測定方法と実測例について説明することにします。



過度応答特性の実測例

過度応答特性(または矩形波応答と呼ばれていますが)とは、矩形波(方形波)を入力して、その出力波形をみる測定方法です。矩形波は基本波とその高次高調波成分をたくさん含んでいますので、矩形波応答を見るだけで高域の周波数特性を見ることができます。

つぎの表は実際のフラットアンプアンプ3種の過度応答の測定例です。上の緑色の線が入力波形で下の青色の線が出力波形です。アンプの(1)は基本波の100KHzに対して十分に周波数特性が伸びておりかつピークもない理想的な矩形波応答波形です。(2)のアンプは高域が比較的早く減衰しているため高調波が出力されないので三角波のような応答波形になっています。(3)のアンプは位相補正を行っていないために基本波の数十倍の周波数で4dB程度のピークがあるアンプです。矩形波応答にも高域のピークの影響が現れています。

 

  (1)広帯域アンプ (2)狭帯域アンプ (3)ピーク型アンプ
過度応答


周波数特性


 

この例に示したアンプの音質は最初に書いた経験則と一致しています。アンプ(1)が最も良い音質でその次がアンプ(2)です。アンプ(3)は少しうるさい音で、もっとも好ましくありません。アンプ(3)は雑誌掲載アンプのコピーで、決して悪い回路ではありませんし、部品は実は最も高価なものを使用しています。それにもかかわらず音質的に好ましい音にならないのは、位相補正の重要性を示しているともいえます。

(2006/11/06)