これだけは知っておきたい音響工学(その4) -スピーカーセッティングへの応用-

これまで基礎的なことを解説してきたので、次のステップとして少し実践的な事について説明してみたい。

というのがこのコラムの主旨だが、その前に気になることが・・・・、

「杓子定規に正三角形の頂点で聞こうとする人が多すぎる」ということだ。

今は多忙なのでお断りしてるのだが、事務所に試聴に来る人の何割かは正三角形の頂点で聞こうとする。

現在の事務所で試聴用の椅子はSPからある程度離して置いてあるが、わざわざSPの方へ近づいていって聞く人がいるくらいだ。丁度こんな感じで、


スピーカー(SP)の設置の仕方に関しては、よくオーディオのHow to本で解説されている。

が、それとは違ってちょっと逆説的にまとめると、

 1. 2つのSPとの正三角形の位置では聴かない
 2. 左右非対称に設置する

という事を実践した方が良いと思う。
1を説明する前に、2はどういう事かというと、

  1. 直接波と1次反射波の距離差が分散するように、SPの後ろの壁、左右の壁、床、天井、試聴者の後ろの壁との距離を調節する

という事である。
まず1について、実例を挙げて説明しよう。下の図は右側が壁、左側半分が空きスペース(部屋の右半分にSPを設置している)のレイアウトである。結果を見やすくするために、反射は1回で計算し、試聴者の後ろの壁(図の下側)は反射無しとした。

部屋の左半分は使用していないことに注意

この場合の周波数特性をシミュレーションしてみると上図の通りとなる。見ていただきたいのは左右の合成波(青)の特性が平均化されて大きな山谷が抑制されている事である。ステレオは左右の音量・位相差が大事だから左右の差(黒と赤との差)があるのでだめと思われるかもしれないが、実際には500Hz以下の低周波領域は聴感上指向性が小さいので左右の和が重要である。左右の壁の状況を変えることで山谷の周波数を分散させる事によって左右の合成波の特性を平坦化しているのである。

実はこの部屋のレイアウトは現在の事務所のレイアウトに近い。以前はどちらかというと左右対称になるように設置していたが、実際その時よりも定位はずっと良くなって、ボーカルの口の大きさが小さく聴こえて、しかも真ん中に定位するようになったと思う。定位が良くなったのは上記の影響だけとは言い切れないが、狭い常識に捕らわれず、上記の考え方を試す価値はあると思う。

最悪なのは左右厳密に壁からの距離も対称にしてあるレイアウトで、こうなると山谷の周波数が同じなのでそれがそのままの形で周波数特性となって荒れたままになることである。例えばこんな風に

上記のレイアウトの左半分が無い場合

実を言えば、話の順序としては、現在の事務所に引っ越して、採光だとかもろもろの事情で右半分に配置するレイアウトになったのだけれども、結果的には音が良くなったので「何~でだ」と考えて上記理由を思いついてみたという程度だが。おそらく、もっともな話なのでかなり一般性があると思う。

一応補足しておくと、現在の事務所を選ぶ際に、条件の一つとして床がじゅうたんではない事を必須の条件とした(じゅうたんがあると高音が吸収されてきつい音になるので)。定位が良くなったのは単にこのせいかも知れない。
話を戻すとマニュアル本、定説などは気にせずいろいろやってみた方がいいということだ。いわゆるオーディオの定説はほとんど意味のないことが多いので・・・・(ってこれも定説か)。
関連して、フォーカルの取扱説明書に面白い事が書いてあるので次にそれを説明しよう。 (2010/01/20)