CDプレーヤーの音質と特性(2)...家政婦は考えた...

前回、さまざまなCDPの信号波形を見てもらいましたがさらに考察してみましょう。

高周波ノイズは音質に影響を与えるか?

まずこれを調べてみましょう。調べるには高周波を除去して音を聞いてみるのが手っ取り早いでしょう。

そこで作ってみたのがこれ、パッシブフィルターです。

カットオフ28KHz、バターワース型3次ローパスフィルター

実際のフィルターの写真はこれ

フィルターインピーダンスは3KΩとして設計しました。

このフィルターを通すと、ソニーの名器CDP-555ESDの信号波形(1KHz、-15dB)、

これが

あら不思議(不思議でもなんでもないが)、こうなります。

肝心の音質ですが、このフィルターをCDPの後(プリの前)に入れるとソニーのCDP-555ESDにあったデジタルくさい音の硬さがほとんど取れます。その音は現在でも最高級品として聴けるほどです。音は全体におとなしくなり、欲をいえばもっと高解像になってもいいかなという感じです。もう何十年も経っているので音が多少引っ込んで聞こえるのはしょうがないと思います(アンプでもそうですから)。

このフィルターは現代の50万円のCDPにも効果があります。入れてみるとうるささの3割くらいは改善されます。この場合はなぜかまだうるささというか、付帯音のようなものは完全には払拭されません。一度内部で発振している様な状態だと、後からフィルターをかけても可聴帯域まで侵食されたものは元に戻らないのかもしれません。ソニーのCDPで劇的に効果があったのは、それだけひどい高周波が乗っていたから?・・・・。すべてのつじつまが合うわけではないのですが、デジタルはそういうものなのでご容赦下さい。

またなぜかわからないのですが(ちょっとは思い当たる節もあるのですが)、エソテリックのX-30にはほとんど効果がありませんでした。
このパッシブフィルターを使用する際の欠点は音量が半分になってしまうことです。フィルター有り無しで比較するときに、同時に音量も調節する必要が有ります。

ついでですが、CDが出始めの頃よく信号系統に1:1のアイソレーショントランスを入れて音質が改善したなんて話がよくありましたが、それは現代でも通じる話という事になってしまいます。

またDACの最終段に真空管バッファを付けて音が良くなったという例は現代でも多いようですが、それもこの高周波の影響と考えることができます(真空管を使用すると自動的に数十KHzのローパスいフィルターになりますので)。

さらに拡張すると、こういう高周波ノイズはどこでも伝播しやすいので、電源ケーブルを通じて伝播したり、はたまたCDPやアンプケースが信号すると高周波がケースの浮遊容量による変調のされ方が変わるので、ケースの剛性を上げたら音が良くなったとか、さまざまな不思議のヒントになる、といったらいいすぎでしょうか?

高周波ノイズが発見されにくい理由

これだけ高周波ノイズが発生していれば普通わかるでしょう、と思われるかもしれませんが、結構そうでもないのです。一般に高周波ノイズを発見しやすいのはアナログオシロですが(帯域も広いので)、高周波ノイズのレベルが比較的低いので、輝線(波形の線)が少し太くなるだけです。アナログオシロにはCRTの焼きつきが禁物なので線が太くなると直ぐに輝度を落として波形の線を細くするのが常識なのです。なので高周波が重畳しているかどうかは、そう思って見ないと発見できないのです。

加えて、DAC部の発振は比較的低レベル(-40-50dB)でかつ安定的に発振しているので、なおさら見つけにくいのです。アンプなどが発振する場合は非常に不安定でしかもピーとかギャーとか言うので比較的簡単に見つかるのですが、DACは静かに安定に発振するのであると思って見ないと見つかりません。

デジタルオシロを使えば見つけやすいといえばそうですが、デジタルオシロはもともとノイズレベルが高いですし、分解能もせいぜい10bit位しかないのでこの場合も結構見つけにくいのです。

まあ高周波ノイズが出ている事はこれまでにも結構言われていた事はあるのですが、定量的に示した例はほとんど見つかりませんでした。

発振はかなり一般的です

DAC部の発振は特異な例かというとそうではないと思います。あるメジャーなDACチップメーカーの使用例の通りに作るとまず間違いなく発振すると思います。高周波のパスコン、ベタアースなど指定されている基本事項はすべて守っても、私が作った数例ではすべて発振していました。これはDACチップが悪いわけではなく、また参考回路が悪いわけでは有りません。基板設計、回路設計をする人は十分な発振防止対策をする(実力がある)という前提で参考回路が掲載されているのだと思います。

アースだけでも伝播します

パッシブフィルターで高周波ノイズが取れましたと言いましたが、ひどいときにはフィルターを入れてもだめで、何をやっても取れないときもありました。 通常、信号というのは2本の線がつながって初めて伝播するのですが(低周波では)、高周波になるとアースがつながっているだけで伝播していきますから、かなりたちが悪いのです。ひどいときはアースがつながっていなくとも空中を飛んでいきますから。DAコンバーターによくマスタークロックの入力ができるものがありますが、いくらシールド線を使って内部に導いたとしても、基板の接続部あたりから周囲に飛び回っている可能性もあります。マスタークロックは10MHzでも矩形波なので3次,5次,7次,・・・(30MHz,50MHz,70MHz・・・)の成分も乗っていますから、電波となってよく飛ぶでしょう。精度の良いマスタークロックを導入したつもりが、実は中で高周波を飛ばしただけだったなんて話もありえないわけでもないのです。マスタークロックは必要だとしても、基板上の占有面積を最小にして、かつ周りをベタアース+パスコンでガードすることがもっとも重要だと思います。 (2010/12/02)