NON-NFBアンプについて -その発想が理解できません-

<無帰還アンプに対するオーディオデザインの考え方>

はじめに

今回はいわゆるNON-NFBアンプ(無帰還アンプ)について考えて見ます。
時々NON-NFBアンプを作る予定はないのでしょうか?という問い合わせをいただくのですが、このNON-NFBアンプという考え方が私にはまったく理解できないのです(真空管アンプは別として)。

NON-NFBアンプの歪率特性はこうなります

その理由を説明するにはトランジスタアンプの回路を見ていただかなくてはいけません。


この図は最も簡略化したトランジスタアンプの回路です。実際のアンプでは必ず(主に熱によるドリフトを抑制するために)差動アンプか対称型アンプ(NPNとPNPを+-で組み合わせた回路)を用いますが、上図の単体トランジスタ回路と動作は同じです。また実際にはベース(Bのところ)や、エミッタにも低い抵抗値の抵抗が入っていたりしますが、ここでは省略しています。

Vinに入った電圧がVoutで増幅されて取り出さされるわけですが、その関係は
Vout=Rc・Ic
になります。ここでIc=Is・[exp(K・Vin)-1]=Rc・Is・[exp(K)・exp(Vin)-1]という関係がある事が理論的にわかっています。
ここでKは定数(=q/KT≒40)Isも定数です。
したがって、
Vout=Rc・Is・[exp(K・Vin)-1]=Rc・Is・[exp(K)・exp(Vin)-1]
exp(Vin)-1>>1なので、
Vout∝exp(Vin)
と書けます。
expというのは指数関数です。
(文系の方にはもうここでちんぷんかんぷんかも…)
つまり出力電圧は入力電圧のexp(指数関数)として表されるのです。指数関数というのはxが増加するごとに一定の倍率で大きくなる関数で、言い換えるとxが大きくなると傾きが比例して大きくなるともいえます。図で示すとこんな感じです。


勢いのある曲線ですが、これがNON-NFBアンプの入力と出力の関係になるので、このままでは使い物になりません。

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ここで、一般に指数関数exp(x)をテイラー展開すると
exp(x)=1+x+(x・x)/2+(x・x・x)/6+(x・x・x・x)/24+…
≒1+x+0.5(x・x)+0.17(x・x・x)+0.042(x・x・x・x)+…
となります。(数学的にそうなるのです。)

今サイン波の入力があったとすると、
Vin=sin(ωt)
で表されるので出力電圧Voutは
exp(x)-1=sin(ωt)+sin(ωt)・sin(ωt)/2+……..
に比例する事になります。ここで加法定理
sin(ωt)・sin(ωt)=0.5(1-cos2ωt)などを使用して、3項までを整理すると
exp(x)=0.25+1.126sin(ωt)-0.25cos(2ωt)-0.042sin(3ωt)……..
となります。

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さらに指数関数の性質から歪率を算出してみると(計算の過程は上の点線内の小さい字をご覧下さい)、第2高調波成分が25%、第3高調波が4%、第4高調波が1%だけ原理的に混ざるという結果が導き出されます。これがいわゆるNON-NFBアンプの元々の歪率特性になります。
途中の小さい文字で書いた式は理解する必要はありませんが。ただすべてのトランジスタアンプがほんとうに無帰還だとこれだけの歪を発生する可能性があるという結論だけ覚えて置いて下さい。
ただし、実際の回路ではたとえエミッタに抵抗をつないでいなくてもトランジスタの内部抵抗がありますので、ここまで歪率は悪くはなりません(特に小信号時には)。

トランジスタにはもともと、入力電流に比例したコレクタ電流が流れるという性質(良好な直線性)があります。にもかかわらず、実際の回路ではなぜここまで歪率悪くなるかというと、ベースの入力抵抗が入力電流の増加とともに指数関数的に小さくなるという性質(非直線性)があるので、増幅回路としては歪が大きくなるのです。
この回路にエミッタ抵抗、ベース抵抗を接続した場合には、小信号時には抵抗が一定とみなせるので、歪率は小さくなりますが、それでも1V出力で10%くらいの歪率にはなりますので、やはり使い物になりません。

より一般的にこの結果を拡張すると・・・

トランジスタと違って真空管の場合は2乗特性といって原理的に特性が異なるのと、電極構造を工夫して直線性をもっとよくできますので、無帰還アンプといえども良いものでは一桁少ない歪率が実現できます。

ところがトランジスタアンプの場合はどの様な型番の素子を持ってきてもこうなってしまうので、素(無帰還時)の特性はこんなにひどいのです。なので無帰還の状態ではアンプとしてまったく使用できません。(ちなみにFETの場合はむしろ真空管に近いので、これとは少々事情が異なります。)

この素のトランジスタアンプにNFBを60dBかければ、歪率は1/1000になります。それでやっとというか、立派に使い物になるのです。弊社のプリアンプ、パワーアンプではDCから超高域まで安定にNFBをかけるために(特にパワーアンプでは)相当のリソースを割いています。

ほんとはこうなんです(たぶん)

ところで、いわゆる「NON-NFBアンプ」と称しているアンプも(ほとんどすべてに)実際にはNFBがかかっています(そもそもNFBがかかっていないと使い物になりません)。それでは何をもってNON-NFBアンプと呼んでいるかというと正確にはNON-NFBループ・アンプなのです。

「NON-NFBループ・アンプって何?」といわれるとさらに回路図を描いて説明しなければなりません。長くなったのでこの説明はまた次に。 (2008/11/07)