パワーアンプの出力素子 -FETとトランジスタの比較(その1)-

半導体パワーアンプの出力素子にはバイポーラトランジスタとFETがありますが、両者の特質を比較してみたいと思います。

FETは歴史的にはいろいろありますが、現在でも入手が可能なのはMOS-FETだと思いますので、MOS-FETとバイポーラトランジスタを比較してみたいと思います。

下の図はパワーアンプ用に作られたMOS-FETの一つ2SK1529の伝達アドミッタンスYfs(Gmと同じ)特性です。これは入力電圧Vgsの変化に対する出力電流Idの逆数です。

すなわち Yfs=ΔId/ΔVgs です。これを出力段に用いた場合の出力インピーダンスはYfsの逆数になります。たとえばYfsが2(s)の場合、0.5Ωになります。実際のアンプではNFBをかけますのでNFBの分だけ(数百から数千分の1に)出力インピーダンスは下がります。アイドリング電流は一般に0.1A程度ですから、NFB前は2Ω(=0.5S)くらいの出力インピーダンスになります。結構大きいのです。余談ですが出力段がNON-NFBのアンプではこのままの出力インピーダンスになるので低音がまったくしまらなくなる(はずな)のです。UHC-MOSといわれる素子でもたいして改善されず青と黒線の間くらいです。
FETとトランジスタのGm比較

オーディオ用MOS-FETのYfs(Gm)特性(黒)とトランジスタのGm特性(青)

ところで、青線は何かというとトランジスタのGm特性です。トランジスタの場合、不思議なことに(理論的にそうなるので不思議ではないのですが)すべての素子で同じGm値になります。Gmは

Gm=(kT/q)Ic=38.7xIc で表されます。

実際にはトランジスタ内部のエミッタ抵抗成分があって、あるところで飽和し始めますが、パワートランスタでは30s(約30mΩ)くらいまでは伸びています。

トランジスタの方が全領域でGmが約一桁大きいので、出力インピーダンスはトランジスタの方が原理的には一桁小さくなります。

ただしそうは問屋が卸してくれず、実際のアンプでは過電流保護、熱暴走対策にエミッタ抵抗を挿入しなくてはならないので話はもう少しややこしくなります。

よくMOS-FET、UHC-FETを使用したのでダンピングがいい音がするといわれていますが、実際には素子そのものの特性から考えると逆でそんな単純な話ではないということだけは覚えていただきたいと思います。


(2008/06/18)

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