アンプの音質・特性と回路構成

アンプの音質・特性は回路構成で決まりますか? -いいえそんな単純ではありません-

久しぶりに回路の中身を解説してみたい。というのもxx回路はこういう音がするとか、弊社のアンプ回路を掴まえて回路に新規性が無いのでどうたれこうたれとか、あまりにも単純な事を言っているのを目にすることがしばしばあったので、実際にどの様な事を考えて回路設計をしているかを紹介しなければと思ってこのコラムを書いてみた。

最初に一言いわせてもらえば、アナログ回路はもう成熟しきった分野なので、そもそも新回路なんて必要ない場合がほとんどで、xx回路を考案したなんてキャッチフレーズを謡っている事自体(あるとすればの話だ)が非常に不自然な話だ。

それでは各社同じ様な回路を使用していて、それでは同じ結果になるかというとまるで違う。自動車だって、xx社のyyモデルはFFのノンターボでマクファーソンストラット・サスペンションだからこういう走りのはずだなんていったら笑われるだろう。もちろん、構造、様式などは重要だがそれだけで決まるというよりも設計・技術次第でどうにでも変わるので、実際に試乗してみないとそのパフォーマンス・特徴がわからないのと同じ事だ。

回路設計について解説するにはまず基礎的なことを説明する必要がある。

パワーアンプにしろプリアンプにしろ半導体式のアンプ回路は次の3段構成となっているのが普通だ。

 

アンプ回路は3段構成

 

初段はいわばバッファアンプで利得はあるものの小さく、終段は完全にバッファアンプだ。増幅器としての中核を担うのは中段で初段と終段は中段のために存在するようなものだ。その中段の回路構成は以下の組み合わせがある。

 

中段の回路構成

 

トランジスタアンプ自体は非常にシンプルなのだが、それを理想的な条件でここで解説したいのはカスコード回路である。カスコード回路はトランジスタの寄生容量がミラー効果で数百倍に増加してしまう事を回避するために用いられる回路で、高性能半導体アンプでは必須といっていいだろう。

このカスコード回路は2種類あってそれぞれ回路は次のようになる。

 

カスコード回路を使用したアンプ回路(中段)2種

 

下の四角で囲った部分がカレントミラーと呼ばれる回路でどちらも同じく能動負荷として働き、ゲインを稼ぎかつ差動トランジスタの出力を合成する働きもする。また、カスコード回路は縦につながっているという様な意味だが、差動アンプの電流が信号によって変調されてもQ1、Q2のコレクタ電位を固定する役目をするため、ミラー効果と呼ばれる寄生容量が数百倍になることを防止する事ができる。右の回路はそのカスコード接続と増幅の役目を1人2役でこなしたような回路で、ベース電位を固定して、エミッタから信号を入力してやることが回路上の特徴となっている。
ここまでは電子回路の教科書に普通に書いてある事で、電子回路がわかる人にとっては何の変哲も無い記述だ。ここから先はオーディオ様のアンプ回路について熟考したもので、教科書には書いてない(といってもわかってしまえば当然というか簡単な事だが・・・)。

左の通常のカスコードに対して右のフォールデッドカスコード回路は、差動アンプとカスコード回路を一人二役でやってのけて回路を簡略化できたすばらしい回路のようにも見えるが、実際はそれだけではすまない。

この2種のカスコード回路はそれぞれ長短があってまとめるとこういう事になる。

 

カスコード回路の特徴の比較

 

重要な事項を青で記述したが、回路設計者でもここまでは一般に考えていないのではないかと思う。というのもフォールデッドカスコード回路を使用して貧弱な電源を使用したり(電源ノイズがそのまま入力を変調しているとも知らずに)、あるいは100万円するパワーアンプ回路にフォールデッドカスコード回路を使用していたりするからだ(出力インピーダンスが高いのでパワーアンプにはそもそも向かないのに)。

弊社の場合プリアンプの回路にフォールデッドカスコードを使用しているが、当然の事ながら極めて良質の安定化電源と組み合わせている。まあ、ゲインはほぼNFB抵抗で決まるので、決定的な問題ではないが、内部でノイズまみれというのは気持ち悪い。ちなみによく用いられる3端子レギュレーターは100uV程度のノイズを常時発生させている。

フォールデッドカスコード回路をあるメーカーでは多用しているのだが、おそらくここまでは考えていないと思うし(わかっていたら3端子と組み合わせて使用しないはず)、そのメーカーのアンプ・CDの音質は全体的に高域が妙に目立つ結果となっている。

カスコード回路は使用しないと帯域が狭くなって高域の歪率が悪化するので必須だと思うが、カスコード回路はミラー効果による寄生容量Cobの増幅を抑制するもので、Cob自体は残るのである。Cobは通常数pFなのでもう同でもいいじゃんと思うかもしれないが、実際にはCobの変動が歪を発生する主要因なので、この変動分を抑える必要がある。Cobキャンセル回路というのもあるのだが、そこまでやると回路数がさらに増えて凄い事になる。弊社アンプではCobが小さいトランジスタを選び(もちろ他の性能も良いものだが)、さらにそのCobの変動が小さい領域で動作せている。下の図はトランジスタのCobと電圧の関係だが35V以上でCobが一定となっていることがわかる。プリアンプの電源電圧がプリアンプとしては高い+-35Vになっている理由もここにあって、Cobの変動を抑制したいが為である。+-35Vという電圧は20V以上の交流出力を発生する事もできるので、安全のためにプリアンプには7V以上の出力が発生した場合には瞬時遮断する保護回路も搭載するという凝った回路になってしまった。

 

あるトランジスタのCobの電圧依存性

 

ここまで考えて設計しているのがプリアンプの中段の話で、もちろんこれ以外にも考慮している事はいろいろある。ここまで来ると相当こみいった話になったと思うが、既存のアナログ回路の中でできる事は無限ともいえるほどあるので、そもそも新規回路という発想は必ずしも必要ないという雰囲気はお伝えできたのではないかと思う。

少なくとも「このアンプの音質はxx回路だからこうだ」とかそういう単純な話ではないという事だけ理解していただければ、このコラムを書いた甲斐があるというものだ。

(2010/03/30)

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