オーディオアンプの左右独立電源について考える-プリアンプ編-

以前に安定化電源の性能をコラムで紹介しましたが、今回はアンプの電源構成などに広げて考えてみたいと思います。

一般にオーディオアンプの電源は左右独立電源の方が良いと思われている方が多いのですが、私に言わせると逆効果の場合が多いと思います。

一般に左右独立電源のメリットとして挙げられているのは次のような事だと思います:
 ・左右独立なのでお互いの信号が干渉しない
 ・なので音質も良くなる
ところが(少なくとも良質な安定化電源を使用した場合)、上記に技術的な根拠はまったく無く、逆に以下の短所があります:
 ・左右分離により電源配線、アース配線の引き回しが長くなる(アンプの信号理論ではアースと電源は等価(同じという意味)です)
 ・多重アースの原因となる、またアースループの懸念もある
 ・左右独立電源は当然コストがかかる、同じコスト内で比較すると左右独立電源の方が当然貧弱になる
という様な事です。

ただしパワーアンプを2台に分けてモノーラルにするのは大いに意味があります。これは独立電源というよりセパーレートアンプ化でスピーカーの近くにパワーアンプを配置するという点だけでもメリットがありますので。パワーアンプに関しては別途説明させて頂きますが、ここではプリアンプあるいはパワーアンプの電圧増幅段と考えて頂きたいと思います。

なぜ左右独立にしても効果が無いと考えるかというと、電源を左右に分けても結局は左右つながっているから(電子工学的には分離されていないから)です。

左右独立電源の内部配線の引き回しはこうなります。



<左右独立電源の回路図>

 

ここで太い黒線はアース線で、赤い線はプラス側の電源の供給線になります。また右上に延びているのが入力ケーブルのアース側を現しています。赤い線は電源電圧の分だけ高い電圧にありますが、アンプの交流信号理論上はアース線とまったく同じです。半導体アンプは普通プラスマイナスの電源が供給されますが、マイナス側は省略しています。緑の領域がアース線(電源線を含む)で囲まれた領域になります。

  一方、共通電源の場合はこうなります



<左右共通電源の回路図>

左右共通電源の方が緑の領域が小さい事がわかります。これらの図は簡略化した図ですので大差ないように見えますが、実際のアンプでは配線の引き回しはもっと長い事が多いので、結構なちがいになります。この様に左右独立電源は意味がないだけでなく、配線の引き回しが必然的に長くなり、かつアース線のループ(単なる多重アースとも考えられるが)も大きくなります。

安定化電源基板が不完全であれば電源電圧変動の影響も考慮する必要があるのですが、よくできた安定化電源の場合、少なくともプリアンプでの使用状況では電源電圧の変動がまったく無いので、この図の通りです。弊社の安定化電源などは出力インピーダンスが10mΩ程度で、これは実用状態の1000倍の出力電流変動(200mA)を起こした際にやっと2mVだけ電源電圧が変動するというレベルで測定するのが大変なくらいです。万が一電源電圧変動があったとしても現代のアンプは差動アンプ構成なので電源電圧変動の1/1000程度の成分しか出力には現れません。

  左右独立電源にしても結局は配線が(アース配線を互いに接続するので)つながっているので意味がないのです。言い換えれば「左右独立電源にする」というのは左右が独立になるのではなく、単にアースラインを長く引き伸ばすということと等価です。

さらに最悪なのがプリアンプなのにわざわざモノーラルコンストラクションと称して左右のシャーシーを分離することです。  



<モノーラルコンストラクションの回路図>

内部で両シャーシーを接続していなくても(図中点線で示した)後段のパワーアンプで接続されているか(ステレオ(2CH)パワーアンプを使用した場合)、電源コードのアース線を通じて両シャーシーが接続された場合は最悪となります。

  なぜ悪くなるかというとアース線で囲まれた領域が大きくなるためで、わざわざ外部の磁束変化を大きな網で受け取ろうとしている様な物です。
  こうなると実際の使用状態になると明らかに音質が劣化しているのではないかと他人事ながら心配してしまいます。実際この辺に凝っている人(あるいは運悪くこういったアンプを手に入れてしまった人)にかぎって、半導体アンプなのにハムに悩まされていたりしている方がいるのです。
  この辺の事情は実際にアンプを作る人(それもかなりの上級者)でないと考察できないので、むしろ下手なノウハウは導入しないほうがいいのです。いくら知識の豊富なオーディオ暦の長い人に聞いても迷宮入りしてしまう事になりかねません。
 

今回の説明はちょっとわかりにくかったかもしれませんが、左右分離電源、モノ構成というものが、よくよく考えてみるとメリットが無い(弊害はある)という結論にどうしてもなってしまいます。

  お客様の中には左右別電源にこだわる方も多く、プリアンプの電源を左右別電源にしたものを何台か特注でお引き受けした事がありますが、出荷前の試聴検査ではいつものプリとの差は私自身には感じられませんでした。ただお客様のほうが微妙な差を感じられる事も多いですし、特性も特に悪化はしていないので、お客様自身の満足度としては高くなることがあると思います。

ただパワーアンプになるとまた説明・解釈が若干異なってきますので、この辺は別の機会に紹介したいと思います。
(2009/02/27)

 

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