ジッターとは


オーディオにおけるジッターの基礎

ジッターって何だろう?

DAコンバーターについてはよくジッターという言葉を目にしますが、実際にジッターがどういうものか、それが音質にどういう影響を与えているかという点に関しては、まともな解説をほとんど見たことがありません。

実際にDACを設計している技術者でもこの辺を理解している人はいないのではないか、と思ってしまうくらいです。

最近ジッターについて色々と調べて知見が得られましたので、ここでご紹介したいと思います。

ジッターとは

ジッターとは一般にクロックなどの時間軸での揺らぎ(ぶれ)を意味しています。ジッターの値は時間軸でps(ピコセカンド)などで表したりすることもありますし、クロックの周波数スペクトルを取って周波数毎の誤差で表すこともあります。
周波数スペクトルでは、ピークのすそ野がジッターに相当しますが、これを位相ノイズと表現することもあります。

クロックのジッター特性の見方

ジッター特性の表し方の一つに時間軸で表すことを紹介しましたが、実際にはジッター値は実効値かピーク値(p-p:peak to peak)で表されます。当然p-pで表される方が大きな値になります。


水晶発振器のジッター特性

低ジッターの水晶発振器とは

一般にDACなどで使用される水晶発振器というのは、電子機器に搭載する小さな部品のことで、3mm-5mm角位の小さいものが一般的です。汎用の水晶発振器ではジッターなどは考慮されていないのが普通ですが、DACなどは特に低ジッターが要求される場合がありますので、各社低ジッターの発振器もラインナップに加えています。

低ジッターのものは一般にOCXO(Oven Controlled Xtal Oscillator)温度制御型水晶発振器といわれるタイプです。OCXOは長期的な周波数安定度に優れたデバイスとして開発されていますが、同時に低ジッターであるようです。

市販水晶発振器のジッター特性

ここに掲載した水晶発振器の周波数は100MHzです。100MHzというのはESS社のDACチップのマスタークロックとして使用する周波数になります。
一般の汎用的な水晶発振器ではジッター特性というものが(必要ないので)明記されていませんが、特に低ジッターを売りとする水晶発振器ではジッタースペクトルが公表されていますので、ここに掲載されているものは特に低ジッターに設計された水晶発振器になります。

縦軸はdBcの単位ですが、dBは通常のアンプのゲインなどでも使用される一般的な対数の単位で、後のcはサイクル(Cycle)の略になります。すなわち1cyclで100MHzのクロックであれば10nsecのジッターに相当します。

橙色の-120dBcレベルの水晶発振器はこのグラフでは性能が悪く見えてしまいますが、これでも超低ジッター0.5psとして売り出している高性能水晶発振器です。汎用の水晶発振器はジッター特性すら記載されていないので、もっと悪い領域にあるはずです。

その下の4つの線はこれまで検索した中でも最も低ジッターな、むしろ特別なものです。

価格は数千円から数十万円までと桁が違います。もはや普通に市販されておらず、事実上受注生産になっているものも含まれています。

こちらのグラフは水晶発振器の位相ノイズ(@1kHz)を、価格を横軸として整理したものです。

ジッターが非常に小さい水晶発振器は非常に高価で、数十万円します。

ただし数千円でもジッター値がかなり小さいものも存在します。

オーディオデザインのDCDAC-180では青い菱形で表されている水晶発振器を使用しています。


ジッターがDACに与える影響(原理)


一般に正弦波の信号は次の式で表されます。

I=A・sin(2π・f・t)---(1)

ここでAは振幅、fは周波数、tは時間です。ここでジッターがある場合、(1)式は次のようになります。

I=A・sin(2π・f・(t+Δt))---(2)

tのところにジッターによる誤差Δtが乗る形になります。

そうなったときに信号スペクトルがどうなるかというと、結論としては周波数軸上で信号fのスペクトルの上下(左右)Δt離れた位置にスペクトルが発生するのです。

すなわち、

I=A・sin(2π・f・t)+A・J・2π・f・/4・sin(2π・(f-fj)・t)

          -A・J・2π・f・/4・sin(2π・(f+fj)・t)   ---(3)

ここでJはジッターの大きさ(p-p)でfjはジッターの周波数になります。

ジッターがあると、基本波fからジッター周波数fjだけ離れたところに、左右対称にスペクトルが発生します。

そしてその大きさは信号周波数に比例するという性質があります。

ですのでジッターの影響を調べる際は、できるだけ高い周波数(20kHzなど)で測定します。


ジッターによるDACへの影響の測定例

FFTスペクトルによる測定

ジッターの影響はFFTスペクトルを測定すれば、基本スペクトルの両側に出ることを説明しました。そこで実際に測定されたスペクトルを見てみましょう。

左のスペクトルは測定器メーカーのAudioPrescisionの技術マニュアル(Audio Prescision Application Note #5)に掲載されている測定例です。当時のDAC(2000年ごろ)にSPDIF信号を入力し、そのFFTスペクトルをSYS2722で測定しています。

20kHzの両サイド(18-22kHz辺りまで)にたくさんのサイドバンドがありますが、これがジッターによる成分に相当します。遠く離れたスペクトルは、基本スペクトルに対称に出現していないので、ただのノイズスペクトルだと思われます。

こちらのDACはES9038ProというESS社のDACチップの最高峰を使用した、あるDACです。このDACは個人レベルで製作してネット販売しているものですが、中身を見るとプロレベルの非常に熟練した人が作っていると思われるもので、市場の評価も相当によいものです。

横軸周波数のスケールはわかりやすいように拡大していますが、基本スペクトル20kHzの両サイドにかなりのジッターによるサイドバンドが発生していることがわかります。

こちらは当社のDCDAC-180のスペクトルです。ジッターによる影響が全くないことがわかります。

SYS-2722によるジッター測定

こちらはSYS-2722で測定したジッター成分になります。グレーがジッター成分の周波数スペクトルで、左軸がスケールです。ジッターの周波数は100Hzの高調波成分と他の成分が混ざっていることがわかります。

おそらく電源系のノイズがジッターに影響しているものと考えられます。

こちらは他社のES9038Proを使用したDAコンバーターのジッター成分になります。こちらも100Hzの整数倍のジッターが発生しており、電源系、実装技術の悪さが影響しているものと考えられます。
こちらが当社のDCDAC-180のジッター特性になります。ジッター成分が全く検出されていないことがわかります。

DACにおけるジッターの影響を調べてみました。一般にDACにおけるジッターの影響は水晶発振器の性能で決まると思われがちですが、実際には水晶発振器への供給電源の品質がジッターとなって表れていました。

 

参考文献:AudioPrecision社 Application note #5 ”Measurement Techniques for Digital Audio” , Julian Dunn