歪率とは


アンプにおける歪の種類

初めに

アンプの歪率を議論する際、純粋な歪成分のみの全高調波歪(Total Harmonic Distortion)THD、と高調波成分に加えてノイズ成分を含めた全高調波歪+ノイズ(Total Harmonic Distortion+Noise)THD+Nがあります。

ここでは広く考えてTHD+Nについて考えます。

オーディオアンプのひずみの種類

オーディオアンプにおける歪には次の4種類が考えられます。

・アンプの非直線性に起因するもの…いわゆる最も一般的な歪
・残留ノイズによるもの
・スイッチング歪によるもの
・非高調波成分によるもの

1. アンプの非直線性からくる高調波成分によるもの

1の歪成分はアンプそのものの直線性からくる歪で、一番基本となるものです。ただ半導体のアンプに於いてはNFBがかかっていますので、通常非常に小さいものになっています。例えばNFB前の半導体アンプの歪が5%だったとしても、千倍(60dB)のNEBが掛かっているとすると(これくらいは普通に掛かる)0.005%になります。

2. 残留ノイズによるもの

最近のオーディオ測定器ではスペアナ機能が付いていて、FFT解析後ノイズと高調波歪を分離できます。30年以上前は歪率形といえば基本波を入力して、アンプから出力された信号から基本波のみをフィルターで除去して、残留した成分を高調波歪としていたので(結果的にTHD+Nだったので)、ノイズ成分も含まれていました。

アンプ出力には「サー」というホワイトノイズ成分はもちろn、ハムや整流後のリップルに起因した50Hzの倍数の成分も含まれていたりします。ハム成分は最近のトランジスタアンプでは聞こえることは無いと思いすが、測定器で見ると見えたりするものです。

3. スイッチング歪によるもの

プリアンプなどの小信号系のアンプ出力段はすべてA級アンプです。A級アンプというのは利用される条件で常に出力段のトランジスタがカットオフしない(無電流の状態にならない)、ということです。

ただパワーアンプになると通常はAB級駆動で、出力段のトランジスタがスイッチングします。スイッチング動作があるとどうしても、高域で大出力になった際に歪み率が上昇します。信号周波数が高くなると、それに比例してスイッチングの回数も増えるので歪み率が大きくなってししまうからです。

4. 非高調波成分によるもの

以上が通常考えられる歪成分ですが、実際に特性の悪いアンプを測定してみると、上記以外の成分も観測されます。高調波歪の間に歪み成分が立つのです。AVアンプなどを測定すると、2次、3次高調波の間に1.5次とも言うような成分が発生しています。これについては別セクションで実際の特性を見ながら説明いたします。


歪率の測定方法


歪み率の測定には歪率計、又はオーディオアナライザーを使用します。オーディオアナライザーというのは発振器、歪率計、ACミリボルトメーターなどを内蔵したオーディオアンプの総合測定器です。ここでは当社で所有している機種を紹介させていただきます。

オーディオアナライザー

オーディオアナライザー初期モデル*

VP-7723A(Panasonic)

初期モデルのオーディオアナライザーです。ゲイン、SN比、歪率などの基本データがデジタルで表示されます。またGPIB制御できますので、プログラムを組むとPCので自動測定も可能です。歪率は基本波を除去した信号レベルを測定する方式でTHD+Nのみの測定となります(THDだけを測定することは出来ません)。表示部はデジタルですが中の測定処理自体はすべてアナログ回路だと思います。

*初期モデルというのは個人的な解釈です

オーディオアナライザー中期モデル

Audio Analuyzer UPL(Rhode Schwartz)

従来のオーディオアナライザーにデジタル信号処理を加わっています。このRhode Schwartz(R/S)社のアナライザーは中にPCを内蔵しています。このモデルはなんとOSはwindows95です。液晶表示も内蔵しています。操作は主に前面のつまみ、ダイヤルで行います。発振器、歪率部、表示部など各メニューに入っていって設定するので面倒ではあるのですが、ソフト自体はよくできています。FFTも内蔵していて、ノイズを除いたTHDのみの測定も可能です。インターフェースがフロッピーディスクでUSBなどは当然のことながら有りません。測定データはリアパネルのVGA出力を別のパソコンで取り込むことは可能です。周波数特性などの自動測定プログラムも一応あります。

FFTでのノイズレベルは-140dBV程度でこの時代としては優秀で現代でも使用できるレベルだと思います。

ただFFTの回数は最大8192でジッター解析などは無理です。デジタルI/Oも有りSPDIFの入出力も48kHzまで可能です。

オーディオアナライザー現代モデル

SYS-2722 (AudioPrecision)

オーディオアナライザーで代表的なものはオーディオプレシジョン社製のものでしょう。特にSYS-2722は高性能で現在の測定器の基準といえるものでしょう(ただこのモデルは既に販売中止となりました)。R/SでもUPVという新型のオーディオアナライザーがあり、UPVとSYS-2722が同等と言えるでしょう。R/Sとの大きな違いはR/SがPCを内蔵しているのに対して、オーディオプレシジョン(AP)社のものはPCは外付けで自分で用意することでしょう。AP社の方式の方が常にユーザー側で最新のPCを使用できるので便利といえば便利です。制御ソフトも64bitのwin10に対応した物があるようです。

SYS-2722はデジタルI/Oが192kHzまで対応しています。FFTの回数も32768回まで可能で、スペクトルの分解能が非常に高いのも特徴です。さらにSPDIFなどのデジタル信号のジッター解析が可能でジッター成分の周波数などもわかるようです。現在のPCで制御しますから数値/画像データの取得も容易です。また広い画面で各種操作が設定できるので非常に使いやすいものになっています。ただマニュアルだけで600p位あり、使いこなすのはちょっと大変かと思います。

SYS-2722の表示パネル(PCのモニター)ベースラインが-140dBとかなり向上している。


歪率特性の分析例


歪み率特性は現代のトランジスタアンプではあまり重要視されることは有りません。昔と違ってアンプの歪み率自体が小さいため、音色が違うことはあっても、音が歪んで聞こえるということはあまりないためだと思います。

ただ、だからといって歪率特性が参考にならないわけではありません。というよりも、詳細に調べてみるといろいろなことを示唆してくれます。

(本内容は2007年8月20日に書いたコラムを再構成したものです)

測定方法

これを書いた当時、高度な測定器は所有していなかったため、測定方法を工夫しました。アンプの出力を直接測定するのではなく、一度歪率計(VP-7723A)のフィルターを通してから、パソコンのサウンドカードから取り込んでスペクトルを観測するという方法です。この方法だと最高性能のオーディオプリシジョン社のSYS-2722よりも高精度のスペクトル解析ができるのです(ちょっと面倒ですが)。

SYS-2722でもFFT解析の限界は-140dB程度ですが、この方法では一度フィルターを通して基本波を除去しているので、-100dBの実力の測定系で-170dBくらいのレベルまで観測できるのです。

このスペクトルは10kHzの信号を6万円くらいのAVアンプのAUXIN入力に入れて、プリ出力をVP-7723Aという歪率計にいれ、基本波を除去した測定器のモニター出力を、PCのサウンドカード経由でFFT解析したものです。

歪率系表示ではTHD+Nで0.011%となっています。

基本波10kHzも少し見えていますが、これは除去しきれなかったもの本来基本波は0dB位あるはずです。3次歪の30kHz 成分以降の高調波成分がかなり有ることがわかります。面白いのは高調波成分(図では線上に乗っている成分)の間に多数のスペクトルが立っていることで、いわば非高調波成分の歪が有ることです。高調波ではないということは、いわば不協和音のようなもので、かなり耳につくはずです。AVアンプの音がどうしてもピュアオーディオ用のアンプに劣るのは、中に沢山のデジタル処理機能があるためにどうしても妙な成分が混じってしまうからかもしれません。

一方、こちらは10万円を超える大手国内メーカーのプリメインアンプのプリ部のTHD+N成分です。

THD+Nは0.0054%とかなり優秀です。このアンプの場合2次、3次成分と7次、8次成分がある他は、非高調波成分がかなり少なくなっています。ノイズレベルとなる基底部分もAVアンプに比較して低くなっています。

こちらは当社のプリアンプDCP-EF105のプリ部の測定結果です。THD+Nは0.023%と先程のプリメインアンプのプリ部よりもさらに良くなっています。

スペクトルを見ると歪成分が殆どありません。さらに基底部分も非常に小さくなっていることがわかります。よく真空管アンプは偶数派歪なので音がよく、半導体アンプは奇数次成分の歪があるので音が良くないということを言う方を見かけますが、よく出来た半導体アンプには歪そのものが無いのです。


当社のアンプはSN感が良いとよく言われますが、特性上ノイズが全体域に渡って非常に少ないことが貢献しているのかもしれません。こういった良好なノイズ特性はアンプの回路特性というよりも、安定化電源の低ノイズ特性ですとか、配線の工夫などが効いていると思います。