パワーアンプのちょっと深い話 −出力段はトランジスタかFETか−

一般にパワーアンプはアンプ類の中では不完全な部分も多く、それだけに音質差がつきやすいと思います。負荷になるスピーカーの4-8Ωというインピーダンスは実際に数Aの電流が流れます。電子機器というより電力機器でこれを20Khzの信号まできちんと制御するのは実は至難の業だからです。

俗にFET出力段のパワーアンプはxxという音質とか、FETデバイスにしたのでyyyとかいろいろ巷では表現されることがありますが、実際にバイポーラートランジスタとパワーFETをパワーアンプの出力段として比較した場合、どういった違いが出てくるのでしょうか?
今回この点について見解を述べてみたいと思います。

<一般論>
一般にFETデバイスは2乗特性と言われており(入力電圧の2乗に比例して電流が流れる)、そのため出力段をAB級動作させた際生じるスイッチング歪が小さいといわれています。ところが、ここが肝心なところですが、入力容量が大きいため前段のドライブ段の増幅回路の負荷が高域で低下し、高域の歪が増加しやすいという欠点もあります。実際のアンプではどうなっているのでしょうか?最初にアンプの教科書に掲載されている歪率を紹介しますと、

バイポーラートランジスタを出力段に使用したパワーアンプの歪率特性は
bipolar-text.jpgバイポーラートランジスタ出力段のパワーンプの歪率特性例

一方、FETを出力段に使用したパワーアンプの歪率特性は
fet-text.jpgFET出力段使用のパワーアンプの特性例

基礎トランジスタアンプ設計法、ラジオ技術社、黒田徹著より

この様にFETを出力段に使用すると歪率特性的には特に高域で悪化するのが普通です。最近よくあるパワーFETをたくさん並列動作させたものなどはもっと悪くなる恐れがあります。まあ通常聴感上は歪を感じるほどではないかもしれませんが・・・。

<オーディオデザインの比較結果>
FETとトランジスタで単純に比較する前にパワーFETを出力段に使用するには幾つか気を付けることがあります。それは、
・発振防止のためゲートに抵抗を挿入する
・位相補正コンデンサの最適化を入念に行う
・ゲートの入力容量をドライブするためにエミッタフォロア-で駆動する
特に位相補正はFETの入力容量が信号の大きさで変わるために非常に難しく、ある所で妥協するほかありません。まあこういった詰めを入念に行った上でできた特性として紹介しますが、弊社のパワーアンプ基板にパワーFETを装着した際の歪率特性を通常のバイポーラートランジスタと比較するとこうなります。

bipolar.jpgバイポーラートランジスタ出力段のパワーアンプの歪率特性

fetamp.jpgパワーFET出力段のパワーアンプの歪率特性

下がFET出力段を使用した時の歪率特性ですが、バイポーラートランジスタを使用した標準のパワーアンプと比較して、ほとんど同じくらい低歪で、特に高域はバイポーラートランジスタより良くなっています。この結果はFETの2乗特性によって出力段の歪が低下するという原理が現れていて、理想的な特性に仕上がっていると言う事ができます。

<バイポーラートランジスタとパワーFETの音質差>
さてこの様な特性下で音質を比較したらどうなるでしょうか?

答えは「判別がつかない(位どちらも良い)」です。
FET出力段にすると特有の音質がするものと思っていましたが、実際にこの2つを比較試聴するとほとんど同じで、シャーシー間の差以下の音質差でした。

パワーアンプを設計した際、実は出力段のデバイスにパワーFETも接続できるように当初から設計していました。製品のパワーアンプに使用しているのはバイポーラートランジスタですが、あとで直ぐにFETアンプを出そうと思っていたのです。一般にFET出力段のアンプの方が低音域が力強い音が出るといわれており、私自身もこれまでの自作の経験ではそうでした。ところが実際にバイポーラーTrのパワーアンプの後にFETパワーアンプを入念に検討し比較してみたら、ほとんど音質差がありませんでした。ですのでFET出力段のパワーンプの販売は止めました。同じ音質なのに品種を増やしても混乱するだけですので。パワーアンプに関しては他にもいろいろ検討していますが、なかなか現状より大幅に向上するということがありません。

以上今回はパワーアンプ出力段のお話でした。

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