はじめに
パワーアンプが他のアンプ、例えばプリアンプなどと異なる点はなんといっても出力段です。
他のアンプ回路と異なり数A単位の電流が流れるので設計が異なることはもちろんですが、どう上手に回路設計しても、不完全性が残るためどうしても気になるところなのです。
現在市販されているパワーアンプも、設計者によって様々な工夫が凝らされています。ただその効果については果たして意味があるのか疑問を抱かざるを得ないものも多いので、ここで少し詳しく解説してみたいと思います。
多少の回路知識がないと、内容は完全には理解しにくいかもしれませんが、およその雰囲気は判っていただけると思います。
パワーアンプ出力段に関して以下の順で解説していきたいと思います。
1.出力段のスイッチング現象は何故発生するのか?
アイドリング電流はどこへ行った?
2. エミッタ抵抗を除去しても特性は良くならない!?
エミッタ抵抗をなくした回路 まずそのものの安定性が怪しい
3. エミッタ抵抗の代わりに電流センサを使用しても意味が無い
4. 擬似A級回路は何故評価されなかったのか?
1.出力段のスイッチング現象は何故発生するのか?
実ははそもそもこれが疑問でした。パワーアンプといえどもアイドリング電流を流しているので、無信号時にはトランジスタの+-側両方がONになっています。信号が入力されてもこの一定のアイドリング電流が流れているので、そもそもトランジスタはOFFにならないのでは?と思ったのです。(以下の説明では簡単な説明とするため、実際とは値が多少異なります)
パワーアンプで使用される出力段(SEPP)回路、アイドリング電流が最初から流れているので出力段トランジスタはカットオフしない(のでは?)
無信号時、アイドリング状態では各トランジスタに0.6Vのバイアスが掛かっており両方共ONの状態になっています。(説明を簡単にするため、実際とは値が多少異なる場合があります)
ところが実際に負荷を接続して比較的大きな電流が流れている状況をかんがえるととします。この状態では下図の様になってしまいます。8Ω負荷を接続して2Aが流れた状態になると(出力電圧が16Vになると)、電流が流れるためエミッタ抵抗に1Vの電圧が結果的に発生してしまいます。この場所で、すでにバイアス電圧1.3Vの内1Vのを使用してしまっているので、下段のトランジスタにはもうバイアスがかからなくなり0.3Vの逆方向に電圧が掛かってしまいます。つまり下段のPNPトランジスタはOFFの状態になってしまいます。
これがスイッチング現象です。すなわちエミッタ抵抗によるバイアス電圧をキャンセルする成分の発生が悪さをしていたのです。
それではエミッタ抵抗を小さく、あるいはなくしてしまってはどうかということです。ここからが、議論のはじまりなのですが、これはこれで問題があるのです。