はじめに
アンプの特性を示す性能の一つにSN比というものがあります。ノイズと信号の比を表しているわけですが、最近のトランジスタアンプにおいてはイコライザアンプやレコードのカートリッジ用のヘッドアンプを除けば、ノイズなど聴こえないのが当たり前ですので重要視していませんでした。ところが弊社のプリアンプを購入された方からよくアンプのSN比が良いといわれるので、調べてみると市販のアンプのSN比の表示には故意に良く見せかけているものや、電子工学的に考えて理解できないものがあることがわかりましたので、ここで少し解説してみたいと思います。本来トランジスタアンプにおいては(EQアンプヘッドアンプを除き)実用上問題にならないため、性能として議論する必要も無いのですが、逆にこの辺を理解しておくとカタログのスペックを見ればアンプの弱点やメーカーがどういう態度で接しているかが推測できます(誇大広告を見破ることができます)。
SN比の定義
SN比の定義そのものは簡単です。信号(S)とノイズ(N)の比を対数で表します。
・ SN比=20LOG(S/N)
SとNの単位はVoltです。対数は底が10になります。例えばSN比80dBで1万倍になります。ただ信号とノイズの設定値、測定法によって20- 40dB位差が出てきますので、実際にはアンプの性能を表しているよりも、どれだけ良く見せたいか(良く見せなければいけないか)を表していることが多いのです。それでは実際に各種の測定法を見ていきましょう。
ノイズの測定方法
SN比の測定結果を議論するためにまず残留ノイズを測定します。ノイズの測定自体は簡単です。アンプの出力に電子電圧計をつなぐだけです。アンプ入力は通常ショートしておきます。オーディオアナライザーを使用する場合はアンプの出力をアナライザーの入力に入れ、アナライザーの出力をアンプ入力に接続します。SN測定時はアナライザーの発振器出力がゼロになり実質的にアンプを600Ωで短絡した状態で残留ノイズを測定します。ただ残留ノイズ(SN比)測定時には以下の2点に注意する必要があります。・測定時のフィルターの有無・測定系(電子電圧計)の帯域幅B(周波数特性)。SN比の測定にフィルターをかけることはオーディオに詳しい方ならご存知かと思いますが、実は測定器の帯域幅も大いに関係します。一般にアンプのノイズのスペクトルはハムを除けば(半導体アンプではハムが無いのが当たり前なので)、ノイズ電圧として測定されるのはホワイトノイズ成分です。すなわちすべての周波数で一定の振幅のノイズがランダムに発生していると考えて良いのです。測定系の帯域が広ければ広いほどノイズ成分は大きく測定されます。具体的には抵抗から発生する熱雑音(ホワイトノイズ)は以下の式で表されます。
Vn=√(4kTBR)
ホワイトノイズは(4KTBR)のルートに比例します。Kはボルツマン定数、Tは絶対温度、Rは抵抗値、Bが測定系の帯域幅です。アンプで使用している抵抗の値が100倍になればノイズは10倍に、測定している電圧計の帯域が100倍になればノイズは10倍になります。電子電圧計の帯域は通常数MHzオーディオアナライザーの電圧計部帯域も500KHz(VP-7723A)なので、たいして変わらないのですが、問題は意図的に20KHz以上をカットして測定している(表示している)ケースがあることです。その場合はSN比が15-20d位良く見えてしまいます。
残留ノイズの実測値
次に実際にアンプの残留ノイズの測定結果を見てみましょう。
測定に使用したのは弊社のフラットアンプを検査用のケース(プリアンプとほぼ同じ)に収めたものです。測定にはオーディオアナライザーVP7723A(各種フィルターを内蔵している)を使用しています。アンプの入力はショートしています。
測定条件 | 測定値 | コメント |
---|---|---|
フィルターなし | 23.7uV | Flat、Unweightedと同じです(B=500KHz) |
フィルターA IHF-A |
3.9uV | かなり小さくなります |
20-20KHz | 4.9uV | これもかなり小さくなります (実際には20KHz以上のみカットしています) |
当然の事ながら20KHzまでに帯域を制限したものはノイズがかなり小さく測定されています。次にこれらの測定結果を元にSN比を色々な表現方法で表記してみましょう。
整理番号/SN比 | 信号レベル | ノイズレベル | コメント |
---|---|---|---|
①92.5dB | 1V | 23.7uV | フィルターなし、標準的かつ最も悪く見える表示法 |
②108.2dB | 1V | 3.9uV | IHF-A、これも良く使われる表示です |
③106.2dB | 1V | 4.9uV | 20-20KHz,海外製品に良く使用されている表示 (一見フィルターを使っていないかの様に見せる高等テク?) |
④118.5dB | 20V | 23.7uV | フィルターなし、最大出力を基準にしたSN表示 |
⑤134.2dB | 20V | 3.9uV | IHF-A、最大出力を基準にしたSN。表示最も良い数字になる |
⑥132.2dB | 20V | 4.9uV | 20-20KHz,最大出力を基準にしたSN。最も誤解を招きやすい表示 |
①から③は出力レベルを1VとしてSN比を算出したもので、この様に出力1−2Vを基準としてSN比を表示するのが一般的でした。ところが最近、特に海外製品、あるいは国内製の一部に最大出力を基準としてSN比を表示している(あるいはそうとしか思えない)例があります。たとえば弊社のフラットアンプの最大出力は20Vrmsですから、単純に1と20Vの比である26dB分良くなることになります(④-⑥)。
このような表示が使われるようになった理由として以下の2点が考えられます。
・特に高価な価格設定をしているために、スペックを他の製品より良く見せたい。
・LCD表示、デジタル制御を使用して実際のSNが悪くなっているので見劣りしない様に甘い条件を使用している。
①と⑥の表示では同じアンプでも実に40dBの差が生じてしまいます。こういった裏技を使えば例えば実力50dBのアンプでも90dBと表示できるのです。また条件の表示の無いSN比はまったく意味が無いのですが、実際のカタログの半分ぐらいは条件が特定できないようです。
最も悪質と思っているのが③もしくは⑥の表示で、カタログなどには「Unweighted/20-20KHz」などと条件が表記されています。周波数特性のあるフィルターを使用していないのでUnweightedという表記は正しいのですが20-20KHzという条件がフィルタリングしていることを意味していますので紛らわしいのです。20-20KHzという条件は可聴帯域を表しているので一見当たり前に見えますが、これまでに述べた様に15dB位稼げるテクニックです。 Unweightedと併記しているところが非常にいやらしいです。不動産広告で言えば「駅から車で5分」のところを「徒歩圏内/駅から5分」と書いていいるようなものです。
終わりに
以上SN 比について解説しました。カタログを見る際にはこういった知識を持ってみると、製品の実力もより正確につかめる様になりますし、メーカーあるいは販売店の姿勢といったものが見えてくると思います。
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