今年のハイエンドショーでは、マルチアンプでスピーカーを鳴らしてみようかと考えていました。せっかくいいダンピングファクターの良いパワーアンプを作っても、ウーハーとの間にはコイルが入っているのでもったいないというか、一度ウーハー直結で聞いてみたいと思ったからです、ショーには結果的にまったく間に合わず、ショーの前には基本的な検討と試作品の基板設計位で終わってしまいました。というのも、いざ作ろうと思って調べてみると、時代は変わっていて、現在はチャンネルデバイダー(というより今はクロスオーバーと言うらしい)は状態変数型のフィルターを使用するのが主流の様です。
状態変数型って何?というのはどこかの解説を見て頂くとして、従来の多重帰還形フィルターと比較してメリット、デメリットをあげると
+周波数とQを独立に設定できる
+カットオフ周波数がフィルターの抵抗値に比例するので周波数可変の目盛りが自然(リニアー)になる
+ 多少回路規模は大きいものの一つの回路でLPFとHPFが同時に得られるので効率的(トータルで回路数が少なくなる)
−負帰還を多段にわたってかけるので高品位アナログ再生回路としては怖い面がある(これは私の考え)
という事になります。
具体的な回路は例えばこんな感じです。
<状態変数型フィルター回路例>(これでLPF、HPF出力が得られる)
<多重帰還形フィルター回路例>
これらの回路はいづれも24dB/octになります。
現在はオーディオ用のチャンネルデバイダーは品種が非常に少ないと思いますが、PA用の物は結構種類があります。それもものすごく安い、何と1万円くらいからありますし、しかも多機能。購入者のレビューを見ると、音質も十分でこれ以上のものは必要ないとも。それがもし本当だとすると、もうこちらの出る幕は無いわけで、やっぱり一度調べてみる必要がある、という事で一台購入して調べてみました(機種名は伏せておきます、でも写真でばればれ)。
市販PA用チャンネルデバイダー(実売価格1万円)の特性
<外観、機能> コンパクトですが、外観は悪くありません。これですべてバランス入力、バランス出力ですから恐れ入ります。機能も豊富であらゆることができます。これで特性と音質がよければもう出る幕はありません。2way用ですが、カットオフ周波数を300Hzくらいとその10倍の3KHzくらいを中心に大幅に連続可変できるのであらゆる2wayに使用できます。傾斜は24dB/octで、今はこれが普通みたいです。
<特性>
特性を計ってみると・・・・、「良かった」・・・ではなくて、「非常に特性が悪かったので、やる価値があるという事がわかって良かった」という事になります。
ノイズ:まずノイズ特性が悪い、なんと入力ショートで32uV(A補正)出てます。これは弊社のプリの8倍、パワーアンプの5倍です。増幅していないのにこの値は大きいです。
それと歪率:これがまた悪い、1Vで0.3%くらいまで悪化しています。
クロスオーバー1.2KHz LPF出力の歪率特性
これだけ悪いといいものを作れば明確に優位性が出ると思います。ただ今回測定したものが、状態変数型の特徴を表しているのか、それともこの機種のみこの程度の特性なのかは不明です。
ただ回路図を見て頂ければわかるとおり、多重帰還で作ろうとすると、左右あわせて2wayでも、バッファアンプ12個必要です(24dB/octの場合)。それをディスクリートで組むのは大変ですし、OPアンプで組むと誰が作ってもそこそこ同じになってしまうので、その辺が悩みの種ですね。
という事で今いろいろと知恵を絞っています。
今回いろいろと調べてみたのですが、オーディオ用のCHデバイダー(クロスオーバー)の文献がほとんど無いですね。いわゆるアナログフィルターの理論を記述した教科書はかろうじて見つけられるのですが(これも普通の本屋には既に置いてないことが多い)、オーディオ用となるとMJ誌の金田先生が書いたDCアンプの本(最近発売されているものではなく昭和52年のもの)くらいにしか見当たりませんでした。(ところで昭和52年っていつ?・・・・・ぱっと計算できないくらい昔です)
最近はケーブルとかそういったたぐいの本は多いのだけれど、マルチアンプの様な本当によさげな方式の情報が少ないのは悲しい事ですね。
とりあえずOPアンプで24dB/octのデバイダーを作って特性を検証した後、上手にディスクリートにして仕上げようかと思っています。いろいろと下調べに時間がかかってしまって今回は間に合いませんでしたが、次回(以降)にご期待下さいということで。