これだけは知っておきたい音響工学(その2) -反射による干渉効果-

前回はコレだけは知っておきたい音響工学(その1)として1/r²の法則を紹介したが、今回は「これだけは知っておきたい音響工学(その2)として、音の反射による周波数特性への影響を考えてみたい。

この反射による影響がオーディオ再生装置の中で最も大きな影響をもたらす重要な現象だ(と思っている)。壁でも床でもいいのだが反射面があると反射した音波が元の音波と混ざる。元の音と反射音は距離差があるので周波数によって強めあったり、弱めあったりして周波数特性がうねる。下の図は後ろの壁から70cmの距離にSPを置いて、リスナーからみて前の壁(SPから見て後ろの壁)の反射波の影響を見たものである。計算には定在波シミュレータ StndWave2使用した。このシミュレーターはフリーソフトだが非常に良くできていて、多くの人に使われている。定在波シミュレータという名前がついているが(おそらく)鏡像をおいて合成和を取っているので、一回反射についても計算できるいわば反射シミュレータだと思う(多重反射にすれば結果的に定在波シミュレーターになるだけ)。

ここで壁の反射率は1とした。反射波の影響で最大値は約3dB大きくなる(音が約2倍になる) 120Hzあたりに干渉による最初の谷が生じる。ディップが−∞にならないのは反射波の大きさが1/r²に減少していると計算しているからである。実際の部屋では他の壁の影響もあって1/r²にはならないのでもっと影響が大きい可能性がある。この谷の影響は最低周波数で最も影響が大きい(幅が大きい)ことに留意して欲しい。さらに100Hz-200Hzの周波数帯域は、オーディオ再生において力強さ、音の厚みに影響する最も重要な周波数帯域だ。その領域に最大の谷が来るので非常に始末に悪い。もっとSPを壁から離せばよいと思われるかもしれないが、谷の周波数が低いほうに移動するだけなので、しかも2番目の谷も下のほうに降りてくるので根本的な解決にはならない。
sp-reflection60cm-2.jpg壁の反射による干渉効果(SP-壁距離60cm)

実際の部屋には前の壁の他に床、左右の壁、後ろの壁、天井など、さらにいろいろな壁があるが、ここで左の壁と(リスナーの)後ろの壁だけ追加してみよう。レイアウトはこの図の通りだ。
sp-listen-layout2.jpg(実は最悪の)仮想リスニングルームのレイアウト

右の壁、床、天井は考慮せず(反射率0とし)、上記壁の反射率はすべて1として、わかりやすくするため一回反射のみとして計算した。

そのときの周波数特性の計算結果がこれである。
sp-worst-listning-position60cm-147cm.jpg仮想リスニングルームの周波数特性のシミュレーション結果

どうですこれ、ひどいでしょ。オーディオ再生で最も重要な帯域(100-200Hz)が「ごそっ」となくなっている。-10dBって1/10の音量になるって事だ。 この帯域はゴールデン帯域といっていい重要な帯域だ。それが、あらら・・・てことになっている。ここで再度レイアウト図を見て欲しい。丁度コレくらいの配置、きわめて一般的ではないですか?。壁とSPの距離が0.6mくらい、ついでにリスナーとその後ろの壁の距離も0.6m、SPの左壁からの距離が1.4m(左壁からの反射波との直接波の距離差が0.6mx2=1.2mになる)というこの配置、実はわざと最悪の特性になる様にねらったものだ。

実際この通りではなくても、一般にオーディオ愛好家の周波数特性が100-200Hzに大きな谷になっている事は非常に多い。「無線と実験」という雑誌が読者(もちろん相当のオーディオマニア)のリスニングルームを訪ねて周波数特性を採る記事が連載されていたが、ここまで顕著ではなくてもこの傾向がある場合が多かったように記憶している。

それと補足しておくと、実際には一回反射ではなく多重反射の影響があるので周波数特性はもっと複雑怪奇な結果になる(なのでここではあえて1回反射の結果を見せた)。それとこの定在波シミュレータで周波数特性をどう計算しても、実際に測定した特性とは残念ながらぴたりとは合わない(なんとなく雰囲気が出るという程度)。このシミュレーターは多分SPの指向性や壁の反射率の周波数特性を考慮していないので、その辺が効いてるのだと思う。もちろんこのシミュレータは非常に役に立つ超優れものだが、その辺は頭において使用した方が良いと言うことだ。

上記の特性だと聴こえる音はそのままでは寂しい音になるので、何をするかというとアンプなどで音色の調整をしたがる(私は安易にそういうこうとはしない)。メーカによっては低域が厚く出る様にわざと音色をつけていると思えるところもある。とはいっても低音を強調する事はできないので、実際には高域が出にくくなる方向に調整する。意識してそうしなくとも多くの意見を取り入れて回路・部品を選択していくと結果的にその方向に落ち着くのだろう。もちろんスピーカーから出た音が心地よければそれでいいのだが、リスニングルームの特性が改善された場合、逆に今度は低音がもやもやするとか、高域の伸びや明瞭さがが足りないように感じてきてしまう事だろう。

以上の話は反射による干渉効果の影響で、最近よく言われる定在波効果とは異なる。定在波効果は壁を傾けたり、聴取位置を定在波の節に位置をずらすと改善されるので、まだ手がないわけではないし、むしろ反射による干渉効果のほうが 音質に与える影響は大きいと思っている。

それではこの反射の影響を緩和するにはどうしたらよいのか?という事についはまだこれだという決定打は残念ながらない。ないが多少の助けになるアイデアはあるので次回はこの続きを紹介できればと思う。

コメントを残す