前のブログで代表的なカートリッジを紹介しましたがあれは予選を通った立派なカートリッジで、それ以前にあれ?となったカートリッジも多数あります。ここではそれらを紹介してみたいと思います。
その前に、逆に一番好きだった(今でも)カートリッジを紹介します。
私が最も好きだったカートリッジ
価格 97200円 |
出力電圧:0.5mV |
周波数特性:20~40,000Hz |
内部抵抗:6Ω |
ダイアモンド針:Nude Line contact 5×80μm |
適性針圧:2.3g |
数十年前の学生時代、DL-103を使用していたころ、試しにオルトフォンのMC20Wというのを買ってみたら、弦やオーケストラの音色の美しさに驚きました。その後何十年も経って十年位前にMC30Wを買ってみたら、その音の良さにさらに驚きました。オルトフォンといえばクラッシックだと思っていましたが、むしろJazzに向いていると思いました。その音は今までのカートリッジとは格が違いました。低音はものすごくダンピングが効いていて、しかも音が弾みます。ぶるん、ぶるーんと音が躍動するのです。高域はなんでもさらりとこなしますが、うるさいところがまったくなく、きれいな音がきちんと静かに流れます。帯域バランスは独特で、聴感上まるで高域が2dB程度抑えられているように聴こえます(もちろん周波数特性はフラットなはずですがトレース能力があまりに高いためにそう聴こえるのだと思います)。そのバランスが絶妙なのです。
一般に数十万円の高価なカートリッジは線が細いというか、頼りない音がすることが多く(よその家で聴いているだけですが)、私は好きになれないことが多いのですが、このカートリッジはその逆でした。しかもこの音でこの価格というのは破格の安さです。
このカートリッジの音は買ってすぐにわかったわけですが、こういうカートリッジが他にないということを認識したのは最近です。もちろん先に紹介したEthosなどは非常に良いカートリッジで常用しているのですが、MC30Wはさらに良い癖というか、さらなる魅力を備えていたのでした。
このカートリッジは残念ながら売っていません。私が買った時もすでに一般に販売はされておらず、ネットで見つけた新古品でした。後継とされるMCQ30Sは別物です。オルトフォンはすでに技術者が変わってしまったようですので、今後このようなモデルは生まれることはないでしょう。
参考までに自称後継モデルについて ortofon MCQ30S
価格 | 95,000円(税抜) |
方式 | MC型 |
出力電圧 | 0.3mV |
針圧 | 2.3g |
針 | シバタ針 |
そのMC30Wですが、数年前にリニアトラッキングアームが暴走し、チップを痛めてしまいました。おなじMC30Wはすでに入手できません。後継モデルオルトフォンのサイトで探すと、こちらのMCQ30Sというモデルになっていました。
仕様が全く異なるのに後継モデルか?と半信半疑で交換というか購入してみたのですが、残念ながら MC 30 W とは全く音質が異なるものでした。 カンチレバーはアルミから ルビーに変更されていますし、ボディの材質も異なります。肝心の音ですが、少しクセがある音で低音のダンピング感はなく、ゆるい感じです。また高域にも何か特定のキャラが付いて忠実な再生をしているという感じではありません。まあよく言えば独特のキャラを持ったカートリッジということができるでしょう。 残念ながら以前のMC30Wとは全く傾向の異なる音でした。 MC 30 W の音を期待している人はまちがってもこれを買わない方がいいでしょう。
MM受けが出きる高出力MCカートリッジ
どんなものかと思って買ってみました。出力電圧が3.3mVあるMCカートリッジで、MMイコライザで聴くことができます。その音は解像度が高いわけでもなく、力強いわけでもなく、平凡な音です(買って試したのはずいぶんと昔なので詳細は忘れました)。残念ながらMCカートリッジのいい点が少しも感じられない音でした。これなら、好みのMMカートリッジを購入した方がいいでしょう。
shure M44-7 カートリッジ
アマゾンで見ると評価が高かったので試しに購入してみました。
その音は実際に聴いてみると下品で、これはpureオーディオ用途に耐えうるものではありません。もともとDJ用のカートリッジでターンテーブルのスクラッチなど耐久性を目指して開発されたものですから当然のことです。不思議なのはこのカートリッジがHIFI用(死語ですが)としてアマゾンでは評価が高い事です。賢明な皆さんは試しに買って損しない様にご注意ください。
と思ったら、すでにカートリッジは生産されていないようです。Shureはカートリッジから撤退してしまったのですね。
Ortofon SPU#1E これはどういうことでしょうか?
歴史的に有名なカートリッジです。その音はどんなものかと思い試しに買ってみました。買う前に迷ったのは様々なバージョンがあることで、それぞれの位置付けがさっぱりわからないことです。このカートリッジは重いのでサブウエイトが必要です。サブウエイトをなんとか入手して聴いてみたらびっくり。
なんと超かまぼこ型の変わった音でした。高域出ない、低域出ない、で正常動作とは思えませんでした。このカートリッジ(種類は微妙に違うかもしれませんが)は絶賛する人が多いようですが、どう解釈してよいかさっぱりわかりません。試しに周波数特性を測定してみたら、実際にかまぼこ型の特性で、フラットではありませんでした。
何かが原因で正常に動作していなかったのかもしれません。もちろん、針圧、受けインピーダンスは合っています。昔はトランスも内蔵したモデルもあった様でそれは理にかなっているのですが、現在のSPUは私から見ると???なモデルでした。
カートリッジで大事なこと
私が気に入ったカートリッジはボディが金属ではないことが多いようです(Ethosは金属ですがボルトを通すという工夫をしています)。専用の樹脂ですとか、硬い木などの方が制振制を考えると結果がいいのだと思います。金属を何の工夫もなく使用するものは高域に癖が乗ってしまうのだと思います。ただ市販のへっぽこイコライザアンプで再生するとパンチが入って丁度良く聞こえたりするのでしょう。
それと、カートリッジで非常に大事なのがダンパーだと思います。カンチレバーを制振する唯一の構成部品で、自動車でいえば、サスペンションとタイヤに相当する部分です。DL-103は温度特性を安定させるために2種のゴムを貼り合わせて使用していて、これが低域の力強さの源泉だと思います。オルトフォンのMCもセレクティブダンパーと称して工夫していたようですので、独特のノウハウがあるのだと思います。
現代のカートリッジは高級機はボロンカンチレバーにラインコンタクト針と相場は決まっていて、あとはどこが違うのかユーザーから見るとよくわからないのですが、カートリッジ屋さんにはダンパーなどの工夫も是非合わせて紹介してほしいと思います。
また、現役のカートリッジで、MC30Wの様な(傾向の)カートリッジがあったら是非教えていただきたいと思います。