セレクターの選び方 -使ってみて初めてわかること その2-

セレクターの<耐久性・耐入力>について
前回に引き続きセレクターのスイッチの耐入力について説明します。
セレクターのスイッチはほとんどがロータリースイッチによるものです。この種のスイッチにおいて耐久性を決める要素は2つあります。
一つは接点の温度上昇、もう一つはアーク放電耐性です。最初に接点の温度上昇について説明します。
下の図はロータリースイッチの接点に小型の熱電対を接着して、使用状況での接点の温度上昇を測定したものです。測定に当たってはパワーアンプに8Ωのダミーロードを接続し、その間にスイッチを挿入して実際にスイッチに電流が流れるようにしています。測定周波数は1KHzのサイン波を用いました。

パワーの投入と同時に温度が上昇し始めますが、10分もすると飽和し始めます。30Wを連続して出力した場合の温度上昇は約1度、150W時でも3-4度でしかありません。接点で発生する熱量はI^2・Rですから接触抵抗に比例します。スイッチ単体の接触抵抗は4mΩ程度ですからスピーカー(ダミーロード)の2000分の1でしかありません。30W入力時にたった15mWの熱量しか発生しないのです。したがってスイッチ自体の耐久性は、30℃の温度上昇を許容するとして、単純計算すると1000W以上になってしまいます。さすがに1000Wと表示するのは気が引けるので、実際にテストした「耐入力150W以上」という表示をしていました。
 断っておきますが、150Wというのは連続入力でいわゆるMUSICパワーではありません。1000Wのアンプでフルパワーで音楽を聴いている状態といっていいでしょう。150Wの連続出力というのは生易しいものではなく、パワーアンプとダミーロードを扇風機とうちわで必死に冷やしてやっていても、ものすごく熱くなってしまい、まるでアンプの耐久テストをしている様なものです(なので5分でやめています)。
おかしいと思うのは他社のセレクターで同種のスイッチを使用したものが耐入力160Wと表示しているものがあることです。160Wという数値はI^2・Rの式にどんな数値をいれても出てこない値ですので、おそらく弊社の150W以上という記述をみて真似したものと思いますが、そうだとすると、まったくとんちんかんもいいところです。
また、ほかのセレクターで、スイッチの接触抵抗が3倍くらいあるもので200数十Wと表示しているものがあります。確かに上記の結果から考えれば、ある程度は耐えられるとは思いますが、寿命も考えるとどうかと思います。そこまでいくと仕様というより宣伝文句になってしまっていますし、数値が一人歩きしている感じです。

以上は温度上昇の観点からの説明でしたが、スイッチにとってもう一つ重要な評価指標はアーク耐性です。よる電灯の壁にあるスイッチを入れるときに「バチッ」と火花が飛ぶのが見えるときがありますが、それです。接点が接触する瞬間に放電するのです。この場合、スイッチの接点が最悪の場合、溶けてどんどん劣化していきます。困るのはこのアーク放電に関しては定量的な評価方法が見当たらないことです。少なくと温度上昇よりも耐入力を制限することは確かで、もともとのスイッチの保証値はアーク耐性を考慮してかなり小さい数値になっています。それでは標準セレクターで使用しているセイデン社の43NEGの場合は実際どうかと言うと、弊社で低能率(88dB程度)も含めた切り替えに3年は使用しているものもありますが、現在一切問題はありませんし、これまでに劣化したなどの声をいただいたことはありません。したがって実用上問題ないといえるのですが、心配なら切り換え時には多少音量を絞るくらいの配慮をした方がいいのかもしれません。

セレクターの「耐入力xxW」という数値を鵜呑みにして、それが性能を表しているなどと考えないほうがいいことだけは確かです。

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