店舗用特注セレクターHAS-66S,HAS-66L作りました

セレクターHASシリーズは基本的に3系統を切り替える仕様になっています。中にはもう1系統あったほうがいいという方もいらっしゃいますが、3系統あれば個人の方であれば運用の仕方でどうにかやりくり出来ると思います。
ただ時々ご要望をいただいていたのは、実店鋪でたくさんの機器を切り替える必要があるケースで、最低でも5系統は切り替えたいというお話でした。
今回ご要望にお答えして6系統の切替セレクターを製作いたしました。
6系統切替のデュアルラインセレクターHAS-66Lとアンプ・スピーカーセレクターHAS-66Sになります。

HAS-66LはケースなどもHAS-33Lと同じでこのような外観です。
HAS-66Lのフロント

リアはRCA端子がたくさん並びます。
HAS-66Lのリア

HAS-66Sの方はかなり大きくなります(写真ではなかなか大きさの感じが伝わらないと思いますが)。今回EIA規格のラック収納用のケースを使用しました。幅が48cmあり、大型パワーアンプの風貌です。ツマミの大きさも50Φと標準のHASシリーズより1cm大きくしました。
HAS-66Sのフロント

リアパネルは端子数の関係から4行配置となります。
HAS-66Sのリア
66Sの配線は当初予想していたよりもかなり大変でした(端子配列が4行あるので)。

一緒に並べると大きさの感じがわかりやすいかもしれません。

今後お店でバリバリ活躍して欲しいと思います。

セレクターの選び方 -使ってみて初めてわかること その2-

セレクターの<耐久性・耐入力>について
前回に引き続きセレクターのスイッチの耐入力について説明します。
セレクターのスイッチはほとんどがロータリースイッチによるものです。この種のスイッチにおいて耐久性を決める要素は2つあります。
一つは接点の温度上昇、もう一つはアーク放電耐性です。最初に接点の温度上昇について説明します。
下の図はロータリースイッチの接点に小型の熱電対を接着して、使用状況での接点の温度上昇を測定したものです。測定に当たってはパワーアンプに8Ωのダミーロードを接続し、その間にスイッチを挿入して実際にスイッチに電流が流れるようにしています。測定周波数は1KHzのサイン波を用いました。

パワーの投入と同時に温度が上昇し始めますが、10分もすると飽和し始めます。30Wを連続して出力した場合の温度上昇は約1度、150W時でも3-4度でしかありません。接点で発生する熱量はI^2・Rですから接触抵抗に比例します。スイッチ単体の接触抵抗は4mΩ程度ですからスピーカー(ダミーロード)の2000分の1でしかありません。30W入力時にたった15mWの熱量しか発生しないのです。したがってスイッチ自体の耐久性は、30℃の温度上昇を許容するとして、単純計算すると1000W以上になってしまいます。さすがに1000Wと表示するのは気が引けるので、実際にテストした「耐入力150W以上」という表示をしていました。
 断っておきますが、150Wというのは連続入力でいわゆるMUSICパワーではありません。1000Wのアンプでフルパワーで音楽を聴いている状態といっていいでしょう。150Wの連続出力というのは生易しいものではなく、パワーアンプとダミーロードを扇風機とうちわで必死に冷やしてやっていても、ものすごく熱くなってしまい、まるでアンプの耐久テストをしている様なものです(なので5分でやめています)。
おかしいと思うのは他社のセレクターで同種のスイッチを使用したものが耐入力160Wと表示しているものがあることです。160Wという数値はI^2・Rの式にどんな数値をいれても出てこない値ですので、おそらく弊社の150W以上という記述をみて真似したものと思いますが、そうだとすると、まったくとんちんかんもいいところです。
また、ほかのセレクターで、スイッチの接触抵抗が3倍くらいあるもので200数十Wと表示しているものがあります。確かに上記の結果から考えれば、ある程度は耐えられるとは思いますが、寿命も考えるとどうかと思います。そこまでいくと仕様というより宣伝文句になってしまっていますし、数値が一人歩きしている感じです。

以上は温度上昇の観点からの説明でしたが、スイッチにとってもう一つ重要な評価指標はアーク耐性です。よる電灯の壁にあるスイッチを入れるときに「バチッ」と火花が飛ぶのが見えるときがありますが、それです。接点が接触する瞬間に放電するのです。この場合、スイッチの接点が最悪の場合、溶けてどんどん劣化していきます。困るのはこのアーク放電に関しては定量的な評価方法が見当たらないことです。少なくと温度上昇よりも耐入力を制限することは確かで、もともとのスイッチの保証値はアーク耐性を考慮してかなり小さい数値になっています。それでは標準セレクターで使用しているセイデン社の43NEGの場合は実際どうかと言うと、弊社で低能率(88dB程度)も含めた切り替えに3年は使用しているものもありますが、現在一切問題はありませんし、これまでに劣化したなどの声をいただいたことはありません。したがって実用上問題ないといえるのですが、心配なら切り換え時には多少音量を絞るくらいの配慮をした方がいいのかもしれません。

セレクターの「耐入力xxW」という数値を鵜呑みにして、それが性能を表しているなどと考えないほうがいいことだけは確かです。

セレクターの選び方 -使ってみて初めてわかること-

セレクターを作り始めて4年がたとうとしています。これまでにラインナップも増え、セレクターとしてはほぼ全体をカバーできていると思います。全体昨年に一度モデルチェンジをしましたが、セレクターの出来としてはかなり良く、購入いただいたお客様には大変ご満足いただいているのが自慢です。セレクターは回路的には簡単ですが、実際に作ったり、使ったりして初めてわかることもあります。弊社ではこれまでに延べ数百台は販売してまいりましたので、そういった意味ではそれなりのノウハウの蓄積があります。セレクター選びの参考にもなると思いますので、いくつかご紹介させていただきます。

<セレクターにとって重要なこと>

<切り替えスイッチ>
セレクターにおいて一番重要な要素はスイッチといっていいでしょう。弊社のセレクターにはすべてセイデン社のスイッチを使用しています。このスイッチは接触抵抗が低く、長寿命(無負荷で5万回を保証)です。スピーカーセレクターの接触抵抗は端子間の実測値で4mΩ(Pro仕様)と6mΩ(標準仕様)と、他社のスイッチを使用したものに比較して数分の一になります。これだけ接触抵抗が小さいとスピーカーの切り換えに使用しても音質劣化は検知できません。パワーアンプで使用されるリレーの抵抗は10-30mΩ、ネットワークのコイルの抵抗は50mΩ以上ありますから、それらと比較しても十分小さいのです。
ただこのセイデン社のスイッチには気をつけることがあります。
一つ目は配線がしにくいことです。ロータリースイッチの配線材を接続する部分がデリケートで、かつ他の機構部分と近かったりするので、場所によっては配線方法に気を使い、絶縁するなどして十分な配慮が必要なのです。
2つ目は特にスピーカー切り換えようのスイッチは回転トルクが大きいのです。これは接点を相当な圧力をかけながら動かすメカニズムなので、操作感が硬くなってしまうのです。弊社のセレクターで40mmΦという大型のツマミをつけているのはそのためです。
またスイッチの取り付け部分の剛性がないとまわしたときの感触が悪くなります。そういうことも考慮し1.6mm厚の鋼板を底板に用い、またアニール処理した3mm厚のアルミ板に直接スイッチを取り付けています。
<配線材>
弊社セレクターの配線材にはモデルによって3種類のOFC配線材を使い分けています。よくxxケーブル使用とか歌っているものがありますが、そもそもこういった外部配線用のOFC配線材は硬いので(曲がりにくいので)内部配線材には向きません。応力がかかった状態になりますので長年の間にロータリースイッチの取り付け部が曲がって接触したりしてトラブルの原因になります。装置の内部に使用するにはどういった事が重要か、わかった上で線材を選ぶ必要があると思うのです。

<端子の配置>
セレクターではどうしても端子の数が増えます。製作者側からみると、小さめのケースに収めるために端子間距離は小さくなりがちです。そういったモデルに実際に配線してみると非常に配線しにくいのです。弊社の最初のモデルはそれなりの端子間距離がありましたが、それでも時々配線がしにくいといった声をいただきました。現在にHASモデルではその辺も改善し、そういった声をいただくことはなくなりました。

<重量>
また、特にスピーカーケーブルをたくさんつないではじめてわかるのですが、最近のケーブルは太く重いものもあるので、セレクター自体がかなり引っ張られたりします。ある程度の重量がないと使いづらいのです。そういったこともあり1.6mm厚の底板を使用しています。

<耐久性・耐入力>
これも重要な要素かもしれません。
長くなりましたので、この項目は次回で説明させていただきます。

セレクターの価格改定について

セレクターシリーズはモデルチェンジ・価格改定を行いました。

モデルチェンジの目的は、

  • 部品価格の高騰分の吸収
  • 上位機種の設定
  • XLRコネクターが配置できる様にケース有効面を拡大
  • 重量増による使いやすさ向上
  • 端子間隔を広げることにより使いやすさを向上
  • スピーカー端子をバナナとより線を併用できるものに変更
  • ツマミの大型化による操作感向上
  • デザインの改良・高級化
  • 店舗販売を考慮し、すべてをBTLアンプ対応とする

等です。

旧機種との対応は以下の通りです。

(呼称が一部変わっています)

セレクター種類 旧モデル(価格) 新モデル(価格)
ラインセレクター ALS-3S(23,100) HAS-3L(29,400)
スピーカーセレクター ASPS-3S(30,450) 廃止
スピーカーセレクター(BTL対応) ASPS-3SB(34,125) HAS-3S(37,800)
スピーカーセレクター(BTL対応、上位機種) HAS-3S Pro(63,000)
アンプスピーカーセレクター ASPS-33S(54,600) 廃止
アンプスピーカーセレクター(BTL対応) ASPS-33SB(61900) HAS-33S(71,400)
アンプスピーカーセレクター(BTL対応、上位機種) HAS-33S Pro(126,000)

全体的に価格は上昇していますが、品質もそれ以上に向上させております。

ご理解の程、よろしくお願いいたします。

ASPS-HAS-compF HAS-ASPS-comp

左:新セレクター、右(黒):旧セレクター

いろいろなお客様(その2:ボッコン・セレクターの巻)

弊社製品の中でもっとも数が出るのは、もちろんセレクターです。セレクターに関するお問い合わせをいただいた客様の中にもいろいろな方がいらっしゃいました。特に印象に残っているのは”ボッコンセレクター”のお客様です。

ある日お客様から電話があり、セレクターに使用しているスイッチは何か、スイッチの切り替えタイミングはどの様なものか?など比較的詳細な内容の問い合わせをいただきました。お話を伺う限りご本人自身は電気にあまり詳しくは無い様ですが、どうもあるショップでその辺の知識を吹き込まれた感じなのです。
 セレクターの切り替えタイミングに関するご質問はたまにいただきます。重要なことでこれを間違えるとアンプやスピーカーが破損にいたる可能性がありますので当然です。
 ただそのお客様の言うセレクター用スイッチの切り替えタイミングは通常と真逆でした。何でも、あるオーディオショップでそう聴いたそうです。またそのショップで(ショップ自家製?)のセレクターを見てきた(聴いてきた)そうなのですが、アンプを切り替えるたびに”ボッコン”とスピーカーのコーン紙が大きく揺れるそうで、それで心配になって弊社に問い合わせの電話をしたそうです。
 スピーカーセレクターあるいはアンプ・スピーカーセレクターで、切り替えるたびにスピーカーから異音がすることはありえません(セレクターが正常であればの話ですが・・・)。おそらくそのショップではどういうわけか逆の接点タイミングを信じて、ボッコン、ボッコン言わせて、さらにお客様にそうでなければいけないと主張しているようなのです。その状態ではアンプの出力間が瞬間的に接続されますので、大変危険な状態です。
 トランジスタに最大定格というものがあって、この規格は瞬時たりとも超えてはいけない(超えると破損する可能性がある)定格です。その中に逆バイアス電圧という項目があり(正式な呼び名は違うが)、パワートランジスタでもたったの5V程度です。パワーアンプの出力を強制的に他の電圧にすると、この定格を瞬時にオーバーする可能性があります(出力をショートするよりずっと悪い)。まあそんな詳細までは知っている必要はありませんが、こういったボッコンという現象がおきたら、危ないと思うのが普通ですし、ましてやそういうことになっているショップの言う事を信じてらっしゃるというのが私には不思議です。もちろん、アンプだけでなくスピーカーにとっても危険なことで、スピーカーの劣化・破損にいたる可能性もおおいにあるでしょう。
 そのお客様、セレクターをそのショップで買うか弊社のものを買うか迷われていて、何度か弊社とショップの間で連絡を繰り返されていました。結局弊社のセレクターをお買い上げいただかなかったので、おそらくショップのボッコン・セレクターを買われたのではないでしょうか?
一般にオーディオを趣味として楽しむのに電気の知識は必要ありません。オーディオ機器を接続すれば問題ない様に出来ていますから。ただオーディオという趣味の世界で上手に楽しむためには、電子工学の知識は必要なくとも、誰の言っている事が正しそうかという直感は必要だと思います。オーディオを上手に楽しんでらっしゃる方はその辺の嗅覚に優れていると思います。そうでないと”大変な事になりますよ~”っと。