最近の問い合わせで気になることがあります。
オーディオアンプの中身にこだわるのは非常に良いことだとは思いますが、その回路や部品に妙にこだわりを持ち過ぎているのではないかということです。
例えば、具体的な問い合わせ内容で、
1.
お客様:出力デバイスは何?
私:バイポーラトランジスタです。
Q:MOSFETの方が音が良かったのでMOSFETのアンプがほしい。
2.
お客様:ボリュームは何を使っていますか?
私:xxです。
お客様:昔xxを使った(他社の)アンプを聴いたが音が悪かった。なのでそのボリュームを使ったアンプの音質は悪いのではないか。
という感じです。
こちらからすると、昔聴いたアンプである部品を使っていたからその部品がいいとか悪いとかいうその発想自体が理解できないのですが・・・・。
他にも、ほしいアンプには”xx回路”、”yy部品使用”など幾つかの条件があって、そのすべてを満たすアンプを探しているという感じの選び方をされている方もいます。
こういった回路、使用部品で選択するというのは、かえってその人にとって最良のアンプを選ぶという観点からはマイナスではないかと気になります。
例えば一般受けしそうな仕様としては、
MOSFET採用、左右独立電源、大容量電源トランスxxVAを採用
xx回路、大型xxインシュレーター、独自yy方式音量調節、小容量コンデンサ並列接続
4(8)パラ出力段、低負荷(2Ω)駆動能力、有害なNFBを最小限に・・・
などがありますが、これらのほとんどを満たしているアンプがあったら、それは逆に具体的な検討はしないで良さそうな仕様を適当に採用しているだけなので、大したアンプではないのでは?と私だったら逆に思います。
実際に本当にいろいろと試しながらその本質を見極めてアンプを磨き上げていくと、結果的には一般的に好まれる回路構成や使用素子とはまるっきり違ってきたりするものです。一見、回路や使用素子は普通に見えても、本当に音質に効くところは押さえているので音はいいということになるのです。結果は様々ですが、本当にいろいろ検討しているメーカーというのは結構世間一般とは違ったことも言っているものです。
車などでも新xxサスペンションと宣伝しているものよりも、方式自体は新しくなくても素晴らしいサスペンションだったりすることがあるのと同じです。本当に良いものを追求すると中身は相当良くても、案外仕様自体は逆に地味だったりするものです。
全部がそうだというわけではありませんが、一般受けする文言ばかり並べている仕様のアンプというのは実際にいろいろ試しているのではなく、手っ取り早く受けそうな仕様にしているだけだと思いますし、そういうアンプは聴いた人の本音を聞いてみるとやっぱり芳しくないものです。
お客様がアンプ選択の際、テクニカルにいろいろと確かめているつもりが、それがアダとなって逆に悪い機器を選定しているとしたら悲しすぎます。
もちろんある再生システムに対して相性というものはあるので、アンプの音質に関してどういう方向性なのかは重要です。解像度を求めるのか、聴きやすさを求めるのかで選ぶべきアンプは異なるので、方向性が決まったらあとは回路方式、使用素子にこだわリすぎず、むしろこの会社は本当にいろいろ検討しているのか、そういった内容が製品の文面から伝わって来るかで見極めて試してみる他ないでしょう。そういう意味では選択にはある種の感性が重要です。そうやっても必ずしも当たるわけではありませんが、今回はハズレだった、この機器は想像以上だ、そういったことも楽しむこともオーディオの醍醐味というものでしょう。
100%確実に選ぼうと素子や回路にこだわると、逆に100%の確率で良いものを選べないという皮肉な結果になるというお話でした。