アンプの電源アースの取り方 -アースを取るとアスなのだ-

はじめに
以前のコラムで、オーディオ的には電源のアースは接続しない方がいいということを述べました。アンプの測定などをした経験があれば当たり前の(様にやっている)ことなのですが、そうはいっても普通は測定などしないでしょうから「意味がわからん」という方も多かったかもしれません。

(実はいまだにACコードのことを何度も質問されるので困っています。「ACコードはどれがいいか」みたいな質問はそういう事をやっている方に直接聞いてください。)

今回眼に見える形でアースを取るとどうなるかお見せしたいと思います。

ACコードはどれがいいかを考える前にまずアースの取り方(アースを接続しない方法も含めて)を考えたほうがいいですと何度も言ってきましたが、それはこういうことでした、ということでご理解いただければ幸いです。

実験方法

被測定アンプには市販品を使用しました。本当は弊社のアンプを使用したほうがアンプ本体のノイズレベルが低いのでノイズ解析には有利なのですが、弊社製品特有の問題と誤解されると困るので。

測定に使用したアンプはプリメインアンプ(実売価格10万円前後)約5年前に購入したものですが、これは非常によく出来ています。このアンプはセパレート型としても使用できるのでプリアンプ部分を使用して、CD入力端子をショートし、CD入力を選択した状態でプリアンプ出力(ノイズレベル)をオーディオアナライザー(VP-7723A)で測定しました。

ボリュームの位置はMAXにしてあります。

電源ケーブルは3Pの電源タップをアンプ近くまで持ってきておき、アンプから電源タップにACコードを接続します。この際アース線を電源タップのアースに接続した場合とあえて接続しない場合でノイズレベルを比較しました。

測定結果

(1)ノイズレベル

トーンコントロール無し(スルー)

アース/フィルター IHF-A 80KHz フィルター無し
アース接続無し 3.7uV 10.1uV 23uV
アース接続有り 12.1uV 29.6uV 63.8uV

ノイズレベルの測定結果が上表のとおりです。このアンプはトーンコントロールをスルー出来るようになっているのでTC無しで測定してみました。(TCを入れると全体のノイズレベルが上がってしまいます)

測定器のフィルターをIHF-Aと80KHzそれとフィルター無し(測定器の帯域は数百KHz程度)の3種で測定してみました。
ご覧のようにアース線を接続するとノイズレベルが3倍に増加していることがわかります。
トーンコントロール有り

アース/フィルター IHF-A 80KHz フィルター無し
アース接続無し 11.8uV 29.5uV 64.3uV
アース接続有り 12.1uV 37.1uV 100.6uV

トーンコントロールをいれた状態で測定するとフィルターをかけた状態では差が少ないのですが(元々のノイズレベルが大きいのでマスクされる)、測定器のフィルター無しで測定するとノイズレベルは100uVに達しています。

測定してわかりましたが、このアンプはACインレットのアース部がシャーシにアースされていませんでした。これにはビックリです(PSE法違反では?)。このメーカーのCDプレーヤもアースがシャーシに落ちていませんでした。音質上わざとやっているのかも知れませんが、これは安全上からもやってはいけないことではないでしょうか?測定時はプリメインアンプの背面にあるアース端子にアース線を接続して測定しました。

(2)信号波形

それでは次にノイズの波形を見てみることにしましょう。下の写真はアース線の接続の有り無し時の出力ノイズの波形をアナログオシロスコープで見たものです。デジタルオシロで測定すると測定系のノイズで何を見ているかわからなくなるので、あえてアナログオシロで見てみました。

無信号時の出力信号波形(アース無し)無信号時の出力信号波形(アース有り)

アース線接続無し                    アース線接続あり

横軸10ms/div 縦軸2mV/div(目視では波形が繋がっているように見えますが、写真だと波形が途切れるようです)

アース線を接続していない場合は特に目立ったノイズはありません。アース線を接続すると50Hz周期のハム成分と高周波成分(基線が太い分)が重畳していることがわかります。この様にアンプにアース線を接続しない方が基本的にはいいのです。弊社のアンプにはアース線が接続されないACコードを付属させていますが、わざわざ他の3PのACコードを使用してノイズを増やすことはお薦めしません。もっとも他の機器の電源ケーブルでアース線が接続されている場合には、一箇所だけアース線を接続しない様にしても意味がありませんが・・・。
横軸・縦軸拡大波形
無信号時の出力信号波形(アース無し)横軸拡大無信号時の出力信号波形(アース有り)横軸拡大

アース線接続無し                   アース線接続あり

横軸20us/div 縦軸2mV/div

横軸を拡大するとこのようになります。アース線を接続した方は1.6MHzの高周波成分が重畳していたことがわかります。電源のアースにはより高周波の成分(数十MHz)もありますが、プリアンプの帯域に制限されてこの周波数が検出されているのだと思います。

1.6MHzなら聞こえないから問題ないと思われるかも知れませんが、この高周波に振幅変調がかかれば後段のアンプあるいはスピーカー(LPFとして働く)を通過後に可聴帯域の信号に変換されます(AMラジオと同じ原理)。また高周波成分に周波数変調がかかればやはり可聴帯域に落ちてきます(FMラジオの原理) 。というわけで高周波といえども油断してはいけません。

測定環境は住宅地のマンションですが、オフィス街のビルなどのコンセントのアースはこれよりはるかに汚れていると考えられます。しかも場合によっては後段のアンプで10倍ずつ増幅されていくので益々始末に悪いのです。環境によっては数Vレベルに達していても不思議はありません。

測定当初デジタルオシロを使用しようとして、デジタルオシロ(USB接続)本体をアンプの上に置いたら、こんなノイズ波形が出てきました。10mVレベルトーンバースト波形のように激しく振れています。本体をアンプから10cm離したら無くなりましたが、デジタル機器はノイズ源でもあるので油断してはいけません。
おまけの1枚
usb320.jpg

USB機器(デジタルオシロ)をラップトップPCに接続し、アンプの上に置いたときのアンプの出力波形

おわりに

以上、アース線の接続の有無とアンプのノイズの関係を見てみました。ACコードに凝る前にアース線の接続の有無による変化を調べた方がはるかに大きく効くと思います。また電源ケーブル回りを整える際も何か電気的な指標を持って調べていかないと何をやっているかわからなくなってしまうと思います。ちょっとした電源ケーブルの値段でオシロとAC電圧計が買えますので、凝りたい人はこの辺から凝ってみてはいかがでしょうか。

(アースを取らないというのはあくまで自己責任でお願いします。FMチューナーなどはアンテナを接続する関係で必ずアースを取るようにと取説に書かれているのでその指示に従ってください)

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アースとアースループの違い、わかりますか?(その5 アース接続方法のまとめ)

アースとアースループについて説明してきましたが、長くなったのでここでまとめてみたいと思います。オーディオ機器の望ましいアース接続方法をまとめると以下の通りとなります。

オーディオ機器のアースの接続方法


1. オーディオ機器は使用していないものも含めてなるべくたくさんの機器を接続する

・アース電位を安定にするため
・信号ケーブルの接続によって自動的に相互のアースが接続される
・アースを切り替えるタイプのセレクターは使用しない(アースループを作らないと称するセレクターは逆効果です)

2. 電源ケーブルのアース線は接続しない
・多重アース防止のため
・3PのACケーブル(オーディオ用のACケーブル)を使用すると自動的に多重アースになるため注意

3. 壁コンセントのアースには基本的に接続しない
・他の重電機器のノイズを拾わないため
・集合住宅では特にたくさんのノイズをもらう可能性があります。
・独立したアースを作ってもだめです。地中のアースを通じてノイズを拾うため
・家にノイズを発生する機器が接続されていなくても、近隣でアースにノイズを逃していれば同じことです。

以上の接続方法はピュアオーディオ的に考えて合理的な接続方法です。いわゆるオーディオのHowTo本とはまったく異なる方法に結果的にはなっていますが・・・・。

ただし店舗でたくさんのお客様が機器に触れるとか、水にぬれた状態で機器を操作する場合などはもちろん安全のためアースした方がいいでしょう。

アースとアースループの違い、わかりますか?(その4 アースループの解決策)

前回アースループの実例を紹介しましたが、今回はいよいよアースループの解決策を紹介したいと思います。アースループの解決策(改善策)には次の3つがあります。まずは簡単な方法から紹介していきます。

1.アースループの面積を小さくする。

アースループがあるとアースループの輪内を通過する磁束の変化によ比例して電流が流れ、ハム等のノイズが発生します。アースループの輪の面積が小さければ拾ってしまう磁束の量も少なくなります。具体的にはアースループを形成する入力と出力ケーブルを束ねてしまうのです。機器の接続端子の配置にもよりますが、これだけでハムなどは激減します。この方法はレコードプレーヤーの出力をプリアンプのPhono端子に接続する際にも有効です。Phono専用のシールドケーブルではなく、通常のシールドケーブルをPhono用に流用すると、しばしばハムが発生することがあります。その場合は左右のケーブルを束ねるだけでSNが良くなります。まあ安物のシールドケーブルなどは最初から左右くっついていますので問題ないのですが、高級ケーブルで曲がりにくいものなどは自然に左右広がったりしますから要注意かもしれません。

2.アースループを形成するケーブル全体をシールドしてしまう

2つめの方法はアースループを形成している入力・出力のシールドケーブル全体をシールドしてしまうことです。具体的にはたとえばアルミホイルなどをシールド線全体を覆うように巻き、アルミホイルをクリップ付電線などでアルミホイルをシールドしてしまうのです。こうすると基本的にアースループは消滅します。厳密に言うとアルミホイルでは静電シールドで電磁シールドにはならないのですが、実際にやってみると効果があります。(私がもっぱら試験したのはPhono入力を利用した方法です)。

3.アースループそのものを除去する。

アースループが問題となるのはアースループができたからですので、このループを無くすのが本質的な解決策です。すなわちシールド線の入力・出力どちらかのアース線の接続を切ってしまうのです。この手法はプロの音響機器の取り扱い手法のなかで「グラウンドリフト」という呼び方で知られている様です。シールド線のアースを切っても一箇所でアースに接続されていますので問題ありません、というよりもこちらの方がまともなのです。
ただし、この手法には危険な面があります。シールド線のアース線をカットしたケーブルを通常のアースループを形成していない機器の接続に間違って使用すると、電位が不定となりとてつもないノイズを発生したり、機器の破壊につながったりします。
この危険を避けるための手法もあるのですが、ここでは紹介しないことにします(ノウハウということで・・・・)。

また、アース線の接続をカットするという手法を意味もわからず拡張すると、絶対やってはならない接続方法になります。信号ケーブルのアース線を通じてアースが接続されていない状態、たとえば電源ケーブルのアース線で機器が接続されている場合、信号経路のアースは電源ケーブルのアース(+シャーシー)を通じて取ったことになり、音質的には最悪の状態になります。実際にあるホームページでこの辺を混乱して実験しようとしているのを見たことがあります。

以上アースループの解決策について説明してきましたが、アース・アースループの問題というのは、奥深く難しいテーマです。そのくせこの点についてオーディオ的見地から解説したものは非常に少ないのです(というより無い)。
またアンプの教科書にもほとんど書いてないので簡単に勉強することもできません。この辺について面白い話があったら教えて下さい。

アースとアースループの違い、わかりますか?(その3 これが本当のアースループ)

これまで、アースについての基本を考えてきましたが、本当に怖いのはアースループです。アースループというのは単純にアースすることではなく、またアースを余計につなぐ多重アースでもなく、本当にループになっているアースです。今回はアースループができるケースについて解説します。

おさらいですが前回の「アースとアースループの違い、わかりますか?(その2:多重アース)」で説明した、電源コンセント(のアース線)による余計なアースは「多重アース」であってアースループではありません。今回説明するのが本当のアースループです。多重アースの場合余計なアースをしないほうが良いというのは事実ですが、インパクトは小さく致命的ではありません。私が実験したところ、電源ケーブルのアース線を接続したときに、ノイズが5%ほど増えることが観測されましたが、聴感上検知できるレベルではありません。

さてオーディオ機器の接続において、信号ケーブルを必然的に行きと帰りで2本接続しなければならない場合があります。プリメインアンプにレコーダー、あるいはグラフィックイコライザーを接続する場合、オーディオアナライザー(発信器+歪率測定器)などでアンプの特性を測定する場合などです。こういった使い方の場合原理的に本当のアースループが発生します。

たとえばプリアンプに録音機やグラフィックイコライザーなどを接続する場合こうなります。

うす緑で示した面積がアースループになります。アースループと普通のアースをつなぐ事の決定的な違いは信号線のアースが出て行った後、もう一度戻ってくるかどうかです。

他にもオーディオアナライザー(発信器と歪率計が同一のシャーシーにはいっているもの)でも同様の現象が起きます。

オーディオアナライザーにはこのアースループの影響を防止する策が既にいくつかとられており参考になります。

このアースループの影響を除くにはどうすれば良いかはまた別途解説したいと思います。

アースとアースループの違い、わかりますか?(その2:多重アース)

前節でオーディオ機器のアースについて結論のみ示しましたので、ここではアースについてもう少し詳しく説明してみたいと思います。

例として2つのアンプ(例えばプリアンプとパワーアンプ)を相互に信号ケーブルを接続した場合を考えると、図のように表現できます(ここではアンバランスアンプを例にとって説明しています)。信号ケーブルを接続すると+-が相互に接続されるわけですが、マイナス側はどこかで必ずシャーシーにアースされているので(そうしないとアンプを触ったときにブーンといってしまいます)シャーシー間も信号ケーブルによって相互に接続された状態になります。

アンプを接続した際のアースを説明する図

ここまでは、あたりまえの話なのですが、ここでアンプ背面にあるアース端子を相互に接続すると、次の図の様になります。緑線がアース間配線で、こうすると結果的に薄緑色で示したアースループが出来てしまいます。こうなるとアースループ内を通る磁束が電流を発生し、結果的にアンプ間に電位差が発生しノイズ、歪の原因になります。信号ケーブル、アース線の配置によっても影響が変わりますので、ケーブルを変えたら音が激変したなどと大騒ぎすることになったら、笑うに笑えません。
(ただし、レコードのカートリッジ出力はそもそもマイナス側がアースに接続されていないので、必ずアース線を接続する必要があります。)

アンプを接続した際のアースループを説明する図

また、”私はアース線は接続していないぞ”といっても実は自動的に接続されていることもあります。3Pの電源コネクターの真ん中はアースですので、3Pプラグ、ジャックの立派な電源ケーブルを使うと、結果的に(本人は接続した覚えがなくとも)電源タップのところでアースが接続されていることになります。
アンプのアースループ・コンセントを介してのループ

さらに大きなアースループを作るのは別のコンセントに接続した場合で、場合によっては部屋中に大きなループが出来ることになります。ここまでくるとアンテナです。大掛かりな室内の電源ケーブル交換工事をして、専用ACコンセントを作ったら音質が変わったなどと言う事になるやも知れません。ここまでループが大きくなると、逆にループの影響はひょっとすると少なくなるかもしれません。ループを通過(出入り)する磁束の差分で電流が流れるので、磁束を発生する機器を大きく囲めば磁束の差分は+-ゼロになるからです。とはいえ、ループを作らないように注意することが肝心で、そんな考察をしても始まりません。

アンプのアースループ・コンセントを介してのループ2

また、オーディオ雑誌、オーディオショップのHPなどでもアースは接続するようにという内容の事を書かれていたりするのを目にします。アースをどうすべきかはアンプを実際に作っている人間でないとわかりませんし、アース方法は、強電分野の決まりはありますが、特にオーディオ用としてどうするのが良いのかは、これといった根拠のある定説もなく、自分で考えるしかないと思います。ただ巨大なアースループを創るのだけは絶対に避けるべきなのですが、知らず知らずそうなっていたり、そういう状態でオーディオ装置・ケーブルの評価がされているとしたらそれは、そら恐ろしい話ということになります。

以上述べたことは実はいわば「多重アース」と呼ぶべきことでアースループとは異なります。本当に怖いのは多重アースではなくアースループです。アースループについてはまた別途考えてみたいと思います。