MFBスピーカーの話

一般にステレオ再生装置の中で一番の弱点といえばスピーカーシステムということになると思います。特に低音域は完全な再生をすることが難しい。部屋の壁の影響で周波数特性が乱れることもありますが、スピーカーから出ている音そのものも不完全な部分があると思います。

例えばヘッドホンの音質と比較するとどうしても制動が不完全に聴こえます。一般にスピーカーの低音域は電磁制動で振動板を止めます(制動します)が、ヘッドホンの場合は音響抵抗による制動がメインで電磁制動よりも大きな制動がかかっているそうです。ヘッドホンの音響抵抗による制動がどこから来るのかというと振動板の前に穴の開いた板が置かれているのと、振動板の後ろのキャビネットに吸音材がびっしり入っているために空気で振動板を動きにくくしているのです。ヘッドホンのインピーダンスが一定なのもこのためです。それならスピーカーも音響抵抗による制動をかければ?と思われるかもしれませんが、そうすると音圧が取れなくなって実用的ではなくなってしまいます。

スピーカーの制動を改善する方法としてMFB(モーショナルフィードバック)という技術があります。実際の振動板の動きを別の検出系(コイル+磁気回路など)で検出し、入力信号との差を電気的に補正する手法です。この手法は原理的に優れた制動が得られるはずですが、スピーカーユニット自体が特殊なものになるのでまずそこが大変です。

探してみると過去の市販品でMFBを使用しているものがありましたので、そのポテンシャルを探って見ることにしました。
その製品とはソニーのSA-S1というものです。位置づけ的にはミニコンポの上級版という感じなのでしょうか。現在では既に市販されていませんが、中古市場から入手しました。
ソニー製MFBスピーカーシステムSA-S1

まずオリジナルの状態で音を聴いてみました。ちなみにこのスピーカーシステムはパワーアンプを内蔵していてRCA入力で音が出ます。結構立派な音がします。18cmのウーハーとは思えません。MFBの効果でしょうか?低音域がとにかくふっくら豊か(やや過剰)です。低音がやや過剰気味なせいか特に制動がいいという感じはしません。高音域はサーと見晴らしの良い音といか透明感ある気持ちいい音です。ただ全体的に音がやや硬めな感じもします。言い忘れましたがこのスピーカーの高音部はなんとコンデンサー型です。
コンデンサー型ツイーター

次に回路図を入手して駆動方法を調べてみました。MFBをかけているのはもちろんですが、その前に結構な低域のブーストをしていました。回路図からシミュレーションした低域のF特がこちらです。80Hz近辺を6dB程持ち上げています。道理で低域が豊なはずです。これだけ持ち上げても歪んだ感じがしないのがMFBの効果かもしれません。
ウーハー用アンプの周波数特性(実線がF特、破線は位相です)

物は試しでこの低域のブーストを外してみました。そうしたらどうなったでしょうか?
結果は全然ダメでした。いいところがなくなりました。低域の量感はなくなりただの小口径SPの音、さらに低域を落としたせいか高域の硬さの様なものも目立つようになりました。このシステムのパワーアンプ部はパワーICという物が使用されていて、アンプ部の音質そのものはあまりよくないのです。オリジナルの状態というのは非常に上手にトーンコントロールをしていてこの部品構成という制約の中では絶妙の味付けだったのです。

パワーアンプ部を通常のパワーアンプで置き換えればかなり良くなる可能性もありますが・・・・。

というわけで今回はMFBの本質を確かめるというところまでは到達できませんでしたが、なかなか面白い(凄い?)製品でした。

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