はじめに
DA コンバーターに置いてクロックジッターはとても重要な問題です。しかしながら定量的なデータはあまり見たことがありません。ここでは DA コンバーターとクロックジッターの関係について解説してみたいと思います。
クロックジッターとは
一般にクロックジッターとはデジタル回路のクロック信号における周波数のゆらぎのことを指します。 DA コンバーターなどのマスタークロック信号は水晶発振器ですが、この水晶発振器そのもののジッターを測定するには500万円クラスのデジタルオシロスコープが必要です。
ただ水晶発振器のリッターについてはその特性がメーカーのデータにつ
いていますので測定しなくても比較することが可能です。
このグラフは100MHzくらいの水晶発振器の中で、特に低ジッターのものについて1kHz付近の位相ノイズを比較したものです。数百円でもかなりジッターの少ないもの(-160dBc/Hzクラス)のものがあります。ただ一番低ジッターな水晶発振器では-180dBc/Hzというものがあり、これだと数十万円します。
クロックのジッターが DA コンバーターに与える影響
DA コンバーターにおいてはジッターの要素は2種類あります。一つはデータジッター、もう一つは イントリンシック(真正*)ジッターと呼ばれるものです。
(*真性というのは私がつけた訳です。)
データジッター
データジッターとはデジタル信号の非周期性に関わるもので、例えばSPDIFのデジタル信号を受信する時に必然的に発生するジッターです。これは根本的にクロックジッタとは異なるものですクロックがたとえ完全に正確であっても発生します。
このデータジッタを測定する方法は J テストと呼ばれ、これまでにもいくつか実測例が紹介されています。具体的には11.025 kHz に1 LSB の信号を混ぜてDACに入力し、その時の信号スペクトルを測定するものです。
真正ジッター
それに対して真正ジッターというのは DA コンバーターにおいてクロックのジッター成分によって発生する歪信号のことを指します。
クロックジッターがある場合 のDA コンバーターの出力への影響は、理論式があります。結論としてはクロックジッターの成分fjがあると、そのジッター成分の周波数+-fjだけ基本波fから離れたところに、サイドスペクトルf+-fjが発生します。そしてそのサイドスペクトルの大きさは、信号基本波fの周波数に比例します。ですので真正ジッタを測る際は
基本波信号の周波数をできるだけ高くして(20kHzで)測定します。
真性ジッターの測定例
こちらはオーディオプレシジョン社の技術ノートに掲載されているジッターの測定例です。 20khz の信号スペクトルの両サイドにジッター成分が検出されています。さらに離れたところにもノイズ成分があるのですがこれは左右対称ではないのでおそらくノイズであると考えられます。
次に最近の DA コンバーターについて、この真正ジッターを測定した例を示します。
左図は ES9038 Pro を使用した他社の DA コンバーターの真正ジッターの測定結果です。20khz の信号を入力しその付近でのサイドスペクトルを拡大して見ています。 20khz の両脇100Hzずつ離れたところにスペクトルが発生しているのがわかります。この DA コンバーターでは100ヘルツのクロックジッターがあるということになります。実はクロックへの供給電源が安定していないために100 L 成分のクロックジッターが発生しそれが DA コンバーターの出力に影響しているということになります。
次にこちらはオーディオデザイン社の ES 9038 Pro を使用したDAコンバーターのスペクトルです。 こちらは基本波のみ観測されていて、サイドスペクトルが一切発生していないことが分かります。すなわちジッターの影響がまったくが検出されていないということになります。
DAコンバーターのジッター成分
他社製DAコンバーターの場合
以上は基本波のサイドスペクトルからジッターの影響を見てみましたが、SYS-2722ではジッター成分を分析することができます。例えば先の他社製DACのジッタースペクトルがこちらです。赤線(左軸)がジッター成分ですが、100Hzの整数倍で大きなジッターが発生していることがわかります。
実はこの他社製DAコンバーターもかなり超低ジッターのクロックを搭載しています。この100Hzの整数倍というジッターは水晶発振器そのものの基本性能によるものではなく、水晶発振器の電源、あるいは実装技術の不備によるものです。このDAコンバーターのクロック波形を長周期で見てみると、100Hz位に相当する周期で振幅が揺らいでいます。この振幅のむらがジッターとなって影響しているのです。
当社製DAコンバーターの場合
一方当社のDAコンバーター、DCDAC-180のジッター成分はほとんど検出されていません。
終わりに
以上DAコンバーターのジッターについて解説しました。実際に調べてみると、予想とは大きく異なる結果が出てくるものです。
ジッター測定に関して詳細に知りたい方は下記をお読みになることをお勧めします。AudioPrecision社のwebサイトからダウンロード可能です。
参考文献:AudioPrecision社 Application note #5 ”Measurement Techniques for Digital Audio” , Julian Dunn
以上の話はこちらのコラム”オーディオにおけるジッターの話”にもまとめてあります。