イコライザアンプのノイズ特性(3)

はじめに

前コラムまでアナログレコード用イコライザアンプのノイズ特性を理論的に比較してきましたが、ここでは実際に市販されている製品のノイズ特性を比較して見ることにします。

ノイズ特性の比較方法

ノイズ特性に関しては各社のカタログに記載されているのでその値から計算しました。
単純にSN比や入力換算雑音レベルで記載しても良いのですが、ここでは残留ノイズを計算して比較してみました。SN比などは基準とする入力(出力)レベルが違えば違う数値がでてしまいますし、実際各社各様の基準値を用いているので比較できません。入力換算レベルは合理的な指標なのですが、いまいち数値に対してピンと来ないので、残留ノイズが私には一番把握しやすい指標です。

イコライザアンプのタイプと特徴

ノイズ特性を語る前にレコード用イコライザアンプには幾つかの方式があるので、簡単に説明させて頂きます。
イコライザアンプは微小信号を増幅するということと同時にRIAAカーブで周波数特性を補正するという役目があります。周波数特性の補正方式には3つのやり方があります。

1. NF式イコライザアンプ
アンプのNFBループにRIAA素子をいれて周波数特性を補正する方式。アンプが1段で構成できる、SNが良いなどの特徴があります。

2. CR型イコライザアンプ
RIAA補正をCRフィルターで行う方式です。このCDフィルター部で-20dBの損失がある(信号レベルが1/10になってしますってしまう)ため、一般にSNの点では不利になります。初段アンプ-RIAAフィルター-後段アンプの構成で使用されるためアンプ構成が2段になります。CR型は音質的には有利とされるため高級アンプで好んで使用されます。

3. CR-NF型
RIAA補正をCR型フィルターととNFB素子の両方で行う方法で、長所短所ともNFとCRと型の間にあるといっていいでしょう。

 
項目 MM/MC
(Gain)
Type Noise(uV)
(Afilter)
コメント
A社 MM
40dB
NF 14uV MM型とMCアンプ型で個別のアンプを内蔵していますMM型は初段FET、MCアンプ型は初段トランジスタ式を使用
MC
60dB
NF 25uV
B社 MM
40dB
CR-NF 14uV 歪率をAフィルターを掛けて測定していました
MC
66dB
CR-NF 199uV
C社 MM
38dB
CR 50uV  
MC
65dB
CR 112uV
Audiodesign MM
40dB
CR 10uV ノイズ的に不利なCR型を採用しているにもかかわらずノイズレベルは小さい方です(MM型では最小)
MC
60dB
CR 80uV

           イコライザアンプのノイズ特性の比較(20-50万円位の市販品と比較しました)

ノイズ特性の傾向
定説通りノイズ特性はNFがが最もよくNF-CR、CR型となるに従ってノイズが増えて行く傾向があるようです。その中でオーディオデザインのDCEQ-100はノイズ特性が良好です。これは電源のノイズが非常に低レベルであることと、初段のデバイスの選択・動作点の設定が適切であるためです。
ノイズで音質が決まるわけではありませんが、音質的には有利だがSN的に不利とされるCR型でも、きちんとした設計をすることによって最高レベルのノイズ特性を得られていることがわかります。



 

イコライザアンプの特性を比べて気付いたこと
他社のカタログをみていて気づいたのですが、結構不思議ちゃんなことをしています。幾つか紹介すると、

1. 初段のトランジスタを並列使用している?
MC型カートリッジ用のアンプでは初段FETを並列接続してSN比を稼ぎます。初段に用いることができるのは接合型FETだけなので(MOS-FETは使用できない)、ドレイン電流を変化させることができません。FETのGmはドレイン電流を大きくすることによって大きくなるのですが、ドレイン電流を大きくできないので、Gmを上げるために(SNを稼ぐために)仕方なくFETを並列接続しているのです。ところがトランジスタの場合はコレクタ電流を上げることができるので、SNを稼ぐためにはコレクタ電流を大きくとってGmを大きくしてSNを稼げるのです。逆にトランジスタの場合は並列接続することに意味はありません(素人ウケするだけ)。これを設計した人は(この会社の他の製品をみてももそう思うのですが)電子回路の基本を理解していないのだと思います。黒田先生の参考書を読んだことがあればこの様な発想は出てこないはずなのですが・・・・。
2. 歪率の測定にAフィルターを使用している
これも驚きです。歪率特性に(Aフィルター)みたいなこと書いてありました。歪率というのは基本波以外の周波数の大きさなので、これにAフィルター(高域カットの一種)をかけたら意味がなくなります。下り坂で自動車の最高速度を測っているようなものです。こういう基本的な間違いをするエンジニアが作った製品が数十万円もしますが大丈夫なんでしょうか?
他の音響メーカーでも、これはPC用のボードでしたけれどもやはりTHDをAフィルターを掛けて測定していました。
(2012/8/28)