「いい音のする部屋ですね」と言う様になれば本物 -誰も言った人はいないが-

事務所の試聴装置で周波数特性を測定してみたら、あれれ?という事(本当は当たり前の事?)があったので報告します。
一言で言うと、スピーカーの周波数特性はスピーカーシステム間の特性差よりも、試聴位置・部屋による差の方が支配的だという事です。

オーディオ再生においてスピーカーシステムの良し悪しを最も大きく左右するするのは周波数特性だと考えていたのですが、その周波数特性を左右するのはスピーカーシステムそのものではなくて部屋・試聴位置の影響が最も大きいのでは?という結果になったのです。

言い換えれば、普段聞いているのはスピーカーシステムの音ではなく部屋・セッティングの音だという事になります。
もちろんスピーカーシステムによって音質が変わる事は重々承知しており、それを否定する気はありませんが、部屋(+設置)の影響の方が大きいという事をまざまざと見せ付けられたという感じです。

結果を説明する前にまず環境を説明します。弊社事務所のレイアウトは現状こうなっています。

事務所のレイアウト

事務所の前後長は8.4mあり、通常の家庭のリスニングルームよりは広めだと思います(約40畳くらい)。床はPタイルという固めの床で(約10mm厚の樹脂のようなもの)特にじゅうたんなどは引いていません。スピーカーシステムを設置する部分には厚さ12mmのフローリング材をクッ ションをはさんで載せ、その上にスピーカーシステムを設置しています。スピーカーから約3-4m離れた位置に視聴用のイスを設置してあります。図の下半分 (SPに向かい左側)はAVラックの後ろに資材などが置かれており、自由空間+吸収・反射材といった 構成です。一方上側(試聴時の右側)は前面窓でガラス+ブラインド(一部カーテン)となっています。

スピーカーシステムの中心線から測定点までの距離を変化させて周波数特性を測定してみました。高さは約1mで試聴位置の高さに近いと思います。

測定マイクはべリンガーのECM-8000、測定ソフトはMySpeakerです。また測定モードは精度を出すために純音を使用して測定しています(ホワイトノイズ+FFT解析ではありません)。結果は次の通りです。

事務所内でのスピーカーシステムの周波数特性

測定スピーカーMAGNAT社Quantum908

測定高さ1m

左側                             右側

SP-マイク間距離 2m

SP-マイク間距離  3m

SP-マイク間距離  5m

どうでしょうか、細かい事を言えばきりがないのですが、つぎの様な傾向があると思います。

  1. 左右の特性差は意外と小さい
  2. 距離が大きくなるほど200,300Hz以下の中低音域の音量が相対的に大きくなる。
  3. 距離が離れるほうが高音特に10Khz以上の高域が落ちてくる。
  4. 低域(100Hz以下) のピーク・ディップの発生する周波数はほとんどの場合距離によってそれぞれ異なる。

左右の特性差が小さいのは左側(図下側)の空間が空いている影響が大きいと思います(つまり通常のリスリングルームでもそうだという事ではないと思います)。視聴用のイスは3-4mSPから離れた位置にあるのですが、普段事務作業で私自身が聞いているのは5m位の位置で、私の好みの場所はこの丁度5m位の位置になります。この部屋ではこのくらい離れて丁度直接音と間接音のバランスが取れる感じになるからです。
上記特性で特徴的なのは3m位置での周波数特性だと思いますが、この特性はスピーカーによるものではなくて、部屋の壁の反射によるものです。最近は特に定在波効果だけがやたらに取り上げられていますが、定在波効果ではなく、反射によるものだと考えています。定在波効果は壁面の角度を少し変えたり、あるいは気になる定在波が生じる周波数で、丁度”節”に当たる距離のところに行けば定在波効果の影響は避けられるので、防止(あるいは低減)する事も難しくはありませんが、問題なのはやはり反射によって生じる干渉効果です。話は戻りますが3m位置での低域の特性を決めているのは後壁の反射によるものだと考えています。
ですので、スピーカーを変えてもほとんど変化しません。例えば右側3mの条件で3種類のスピーカの周波数特性を測定すると

<右側SP、測定位置3m>
Magnat社Quantum908(17cm3way,6SP)

RIT社(18cm2way,2SP)
B&W社CD-NT1(18cm3way,3SP)

となっており、200Hz以下の特性が酷似していることがわかります。もちろん3者で音の傾向は違いますが、それに部屋(試聴位置)の特性がかぶさっており、部屋の影響の方が大きいくらいです。現在の部屋に移転して、以前の事務所よりも音質の評判はが良い様な気がしますが、システムが特に変わったわけではないので、部屋の影響が大きいといえるでしょう。
パワーアンプの後にセレクターを入れて3つのスピーカーシステムを瞬時切換できるようにしてあるのですが、切り替えても意外と同じ様な傾向も聞き取れますし、SPの差よりも事務所が変わった時の音質差の方が大きかったように思います。試聴用イスの位置は3.5-4mくらいで丁度その位置の周波数特性はないのですが、3mと5mの間くらいと思えばいいでしょう。
3m位置で40Hzくらいに大きなピークがありますが、この周波数は音として聴こえるというより、会場の空気のうごめきというかざわつきの様な成分で、実際に試聴してボンボンいう様には聴こえません。むしろサブウーファーを強めに入れた感じでかえって良く聴こえるくらいです。

いずれにしても全体的には200Hz以下の低域がかなり暴れていますので(といってもこのくらいの暴れは普通にあるレベルではあるが)、この辺をもう少しスムーズにしたいと考えています。

という事で、表題にあるように「いい音のする部屋ですね」と言う様になればオーディオの見識としては本物という事になると思います。ただしそういう人はもちろんこれまでにいませんでしたし、これからもいないと思います(このコラムを読んだ人を除けば)。 (2009/07/02)