オーディオアンプの参考書 -書店にないが断トツでこれ-

オーディオアンプを設計・製作する上で是非とも手元に置いておきたい本を紹介します。
最近、初心者向けの真空管アンプの製作に関する本ですとか、おもちゃに近い半導体アンプの本が本屋さんに置いてあります。ミニブームみたいなものかも知れません。ただ半導体アンプのしかも本格的オーディオ用となると残念ながら本屋さんには置いてないのです。

オーディオアンプの教科書として私がお薦めする教科書はずばりこの1冊です。


ラジオ技術社「基礎トランジスタ・アンプ設計法」黒田徹著

初版は約20年前で若干古いといえば古いのですが、アナログアンプの回路はほとんどこのころすでに完成されているので問題ありません。基礎と書いてありますが、かなりの上級者向けです。プリアンプでいえば、各種イコライザアンプ、ヘッドアンプ、またパワーアンプについては進化の歴史から代表的トランジスタアンプとMOS-FETアンプの実測値まで掲載されています。記述内容も単なる技術の解説にとどまらず、回路の問題点と解決法(進化の歴史)がきれいに整理されて記述されています。黒田さんの本はどれも理論的根拠を持って述べられていらっしゃるので非常に参考になるのはもちろんですが、この本はそれまでのオーディオ業界が持っていた回路技術やノウハウをすべてまとめている様な感があります。
 実はこの本、一度廃刊になり復刊ドットコムに寄せられたリクエストで再出版されたという経緯があり、その筋の人にはかなり有名な本です。

 掲載されているアンプの特性は今見ても非常に優れていて、たとえばもっとも凝ったパワーアンプ回路では歪率が最大出力時で0.001%を切るものもあります(p272)。振り返って現在市販されている最高級(最高額?)パワーアンプの仕様を見ていただければすぐに判りますが、歪率は良くても0.01%レベルで一桁以上悪いのです。
ひるがえって、現在市販されている高額なアンプは、xx部品を使用、yy回路採用などと高性能を謳っているのに、本書の内容よりもなぜ性能が悪くなっているのか不思議なのですが、実はこの教科書にさらりと書いてある性能を出すのは結構むずかしいのです。たとえて言うなら日本家屋の建て方が書いてある本があったからといって、誰でもが立派な家を建てられないのと一緒です。アナログ回路は大工仕事の様な職人芸的な技能が必要な側面があります。といっても、もちろんアンプ設計には「経験と感が大事」などといっているのではなく、エンジニアリング的センス、例えばある部品が高周波領域でどういう挙動をするかとか、単純に回路図では現れていないようなところを、頭の中で瞬時に予想(シミュレーション)しながら全体を構築していく技量が物をいうのです。
 またプリント基板の回路パターンの引き回しや実装技術などでも特性が結構変わります、というより本来の特性が出ないので非常に大変な苦労をすることが多々あります。弊社のパワーアンプの場合も回路を決めてから今の性能にたどり着くまでに(この教科書に書いてある基本性能を追い抜くのに)1年以上かかりました。
 最近の他社のアンプの性能を見ていると、ほんとうに実装を含めた回路の検討をやっているのだろうか?と疑いたくなるものが少なくありません。性能が悪いだけで、音がよければいいのですが、ほんとうに電子工学的にまじめな検討を加えていないのに、音質の向上を検討しているのだろうか?と余計なお世話ながら勘ぐってしまいます。

この本は実際にアンプを設計・製作する人向けの本ですが、興味があれば実際に読んでみる事をお薦めします。この辺の電子回路の内容は勘が良ければオームの法則だけで80%くらいはなんとなく理解できると思います。
尚現在ラジオ技術社でオンデマンド出版(受注簡易製版)をしています。(ちょっと高価ですがその価値はあります)

まさかオーディオメーカーのアンプの設計に携わる人が読んでいなかったりする事はありませんよね?

p.s.
姉妹品として「実験で学ぶ 最新トランジスタ・アンプ設計法」
もあります。

ところでオーディオデザインのホームページはこちらです。

パワーアンプのSN比(残留ノイズ)の統計解析

はじめに

以前のブログで半導体パワーアンプの歪率を縦軸に、価格を横軸に取ると、有意な相関関係がみられることを紹介した。
なぜならパワーアンプにおいて現在でも難しいのは、高域の歪を抑制することなので、まじめにその点を検討しているアンプは結果的に高価になるからだ(と考えている)。グラフを再掲載すると

ピンクが海外製、青丸が国産アンプ、三角がオーディオデザインのアンプです。三角が2つあるのは、一つが20-20KHzのもの、もう一つが1KHzを示しているからである。いずれにしても、オーディオデザインのアンプの歪率が一桁以上小さい事が明らかである。

アンプの性能をあらわすもう一つの指標として、SN比がある。
そこで今度はパワーアンプのSNという視点から考えてみたいと思う。パワーアンプのSN比の表記を調べてみるとプリアンプと違って(プリアンプでは出力1-2Vに対するノイズの比率で表記されていたが)最大出力に対するノイズレベルの比で表すことが多い様である。それでは実際にパワーアンプのSN比を見てみることにしよう。

SN比の定義

SN比の定義そのものは簡単です。信号(S)とノイズ(N)の比を対数で表します。
・ SN比=20LOG(S/N)
SとNの単位はVoltです。対数は底が10になります。例えばSN比80dBで1万倍になる。 Signalの方はほとんどのパワーアンプが最大出力をとっている。ただし計算時の単位は最大出力電圧(V)です。パワーと電圧の換算は次式で行えます。(V)=√(P・R)
Pはパワー(W)、Rは負荷抵抗(Ω)です。 単純にSNだけを見てパワーアンプを比較すると、大出力アンプの方が分母が大きくなるので有利になってしまう。そこでノイズの電圧を計算し、パワーアンプの価格順に並べて見よう。 残留ノイズの計算式は次のようになる。
Vnoise(V)=√(P・R)/10^(SN比/20)
√はP・R全体にかかります。10^は10のべき乗を表します。

残留ノイズの実測値

次に実際にアンプの残留ノイズの結果を見てみよう。マークレビンソンのみ1W時の出力でSNを定義していると記されていたので、P=1Wで計算し、他のアンプは最大出出力に対して計算した。結果は次の通りである。 横軸がパワーアンプの価格、縦軸はパワーアンプの残留ノイズの計算値である。

ピンクの□が内外パワーアンプ分布図、青△が弊社パワーアンプのノイズレベルです。 結果を見てわかるとおり、ノイズレベルに関しては価格とに明確な相関はない(歪率の場合とは異なる)。
ただノイズレベルの分布の範囲が相当に広いことがわかる。ノイズの分布は一般に30-400uVと一桁違うのだ。 弊社のアンプではなんと7uVなので、こうなると下手すると2桁異なってくる。

アンプのSNを議論するのは実はノイズそのものが問題なのではなく、ノイズレベルが回路パターンの引き回しや実装技術の良否を表していると考えているからです。
アンプ回路の理論というのはたくさんありますし、シミュレーションも簡単です。 ところがこの回路パターンの引き回しや実装技術に関しては参考になる確固とした理論が無く、製作者の技量がそのまま出てくる領域なのです。
残留ノイズが100uVを超えたアンプというのは、実際には重大な問題を抱えたアンプといっていい。大電流ラインの引き回し方法が間違っていたり、アース配線に重大な問題があることを示唆している。
残留ノイズというのは入力が無い状態のノイズですから、実際の使用状態ではもっと大きなノイズをもらってしまう(ただ信号レベルが大きいから直接聴こえないだけ)と考えるべきです。
実際100万円クラスの海外製アンプでもこの辺に問題があり、相談を受けたことがあります。何でもプリアンプに接続するとハムが出るそうだ(単体では無音)。これなどは非常にわかりにくいのだが、大電流ラインの配線に問題があるからである。実は弊社のパワーアンプでも、試作段階で同じ現象が発生し、考えられる対策を徹底的に検討して原因を特定しました。
原因は電子回路の技術者にとっても意外なもので、おそらくアンプメーカーの技術者でもこの辺を理解してる方はほとんどいないのではないかと思う。

終わりに

以上パワーアンプの実力についてノイズの観点から考えてみました。

パワーアンプの進捗状況 -その4 最終仕様-

パワーアンプ(製品版)の最終仕様・性能は以下の通りです。
(性能改善のため一部数値内容は09年3月23日に改訂しています。)

パワーアンプ電気特性
最大出力:80Wx2(8Ω)
歪率:0.01%以下(20-20KHz最大出力時)
0.0005%(1KHz最大出力時)
0.002%(20-20KHz1W時)
SN比:130dB(IHF-A、75W時)
残留ノイズ: 7uV
DF    : 1500
周波数特性:DC-1MHz(-3dB)
サイズ:250x290x350mm(W,H,D)突起含まず
*数値は実測値です。


上の図はパワーアンプ(製品版)の歪率特性です。試作機よりも改善されて全帯域で最大出力まで歪率が小さくなりました。10KHzの歪率が少し大きく見えてしまっていますが、これでも他のパワーアンプに比較すると数分の1から一桁小さくなっています。
歪率特性が自慢のアンプではありませんが、歪率が小さいということは基本性能がいいことを代表しているようなものです。基本回路をきめてから1年以上プリント基板の配線を改良してきました。その結果高域まで安定にNFBがかかるようになって歪率、DF、周波数特性、過度特性のすべてが1ランク上がりました。

DFも1500と非常に良い値です。

音質の特徴は低音が非常に締まっていることです。この点は他のアンプと比較して明確な差として感じられます。ハイエンドショーで聴いた人からは、国産アンプ(海外製のものと違って)は低音がしまっていないが、お宅のはすごくしまっている、国産がバスレフならお宅のは密閉型の音だとも言われました。

また低音のローエンドが延びた様に聴こえます。これまで50Hzまでしか再生していなかったのが20Hzまできっちり再生するようになった様に聴こえるといったらいいでしょうか。(もちろん実際には他のアンプでも20Hzまで出ているはずなのですが)
中高音の分解能の高さはプリアンプと同じです。とにかく情報量が多くなります。ヘッドホンの音質に近づく感じといったらいいでしょうか?
低歪率特性は実際に聞いてみるとすべての音楽ソースが低歪に聴こえるわけではありません。むしろ他の機器の歪成分が明確にわかるようになります。よく見えるめがねをかけると世の中がきれいに見えるのではなく、むしろ汚れが良く見えて気になったりするのと同じです。もちろん、録音の良いソースを聴いたときに音は絶品で、これまでに聴いたこともない様ないい音を出します。

相性の合うスピーカーはやはり中低域がたっぷりでるスピーカーシステムではないでしょうか?最近はフルレンジでもそういうなりっぷりのSPがあるのでどのタイプと限定できませんが。

こういった方向のアンプをお探しの方は、是非ご検討をお願いします。

パワーアンプの進捗状況 -その3-

パワーアンプ相変わらずお待たせしております。
2月後半からご注文を多くいただき、新製品のパワーアンプ開発の進捗がはかどっておりません。
セレクターなどはある程度さばけるようになっていますが、これに加えてプリアンプの注文が多くなると、現状ではそれだけで精一杯になってしまいます。
言い訳はこのくらいにして、パワーアンプの外観を紹介します。
パワーアンプの外観

下2/3が電源部で上部が回路基板・放熱器類になります。
フロントパネルは5mm厚のアルミヘアライン仕上げになります。

電源部の電解コンデンサ容量は+-合わせて合計約240,000uF(桁に注意)になります。電解コンデンサ容量はもっと大きいのもありますが、そういうものは汎用電解コンを使用しているのでインピーダンスが大きくなってしまいます。またオーディオ用の低インピーダンス特性の電解コンデンサは20,000uF程度までしか作られていません。弊社の場合、大容量と低インピーダンス両立すべくある工夫をしています。
(以前は技術内容を詳細に記述していましたが、同業者の方で似たようなものを作られたり、内容をぱくったりされることが多くなってきたので詳細は記載しない様にしていますがご了承下さい。)

基板は通常の1.5倍の2.4mm厚のガラスエポキシ基板で、この厚さになると基板がしならなくなります。銅箔厚さは通常の2倍の70umで製作しています。もちろん、パワーアンプのエッセンスは回路技術にあり、こういった部品面は単にそれをサポートしているだけですが。

基板類も組みあがっているので、それらをこのケースに収めて、調整、測定を無事終えればデモ機が出来上がります。

製品版では側板の仕様変更、フロントパネルへのシルク印刷追加などが加わりますが、中身はこの写真のデモ機と同じになります。

今回はこのくらいで。

パワーアンプの進捗状況 -その2-

パワーアンプ、大変お待たせしています。

製品版と同じ仕様で、デモ機とする予定のパワーアンプを製作いたしましたが、いろいろ検討した結果、もう少しスペース的に余裕があるほうが望ましいため、シャーシ寸法を一回り大きくして製作し直しております。

製作したパワーアンプの電気特性、音質は以下のとおりです。

パワーアンプ電気特性
最大出力:80-100Wx2(8Ω)
歪率:0.015%以下(20-20KHz最大出力時)
0.002%(20-20KHz1W時)
SN比:126dB(IHF-A、50W時)
残留ノイズ: 9uV
周波数特性:DC-2MHz(-3dB)
ミニタワー型 (製品版の)サイズ:250x290x350mm(W,H,D)突起含まず


パワーアンプの歪率特性3V付近が1W時の特性です。小音量時の歪率特性が高域まで非常に優れています。


8Ω負荷、100KHzの矩形波応答です。安定で、非常に素直な特性に仕上がっていることが分かります。(通常のパワーアンプでは100KHzはよくても三角波程度です)。

音質はまず、低音が非常に締まっていてゴリゴリした低音が出てきます。量感にも優れ、小口径SPでもここまで出るかと驚くほどです。中高音の情報量の多さは、プリと同じですが、低音域も良いので全体のバランスにも優れています。アンプの出す音の密度がこれまでと違うという感じです。
これまでに所有して聞き込んだといえるのは、様々な自作記事のアンプを製作したり、他社製30-50万円クラスセパレートパワーアンプなどですが、それらとは格が違うという気がします。
プリアンプの場合は用いるパワーアンプ、スピーカーによって多少の好き嫌いは出てしまいますが、このパワーアンプでは組み合わせや好みの問題を超えて、良さが分かっていただけるのではないかと期待しています。

2月末から3月はじめにはデモ機をご案内させていただくべく、努力しております。よろしくお願いいたします。