測定ソフト「ARTA」を使用したリスニングルームの周波数特性の測定(応用編)

前編では”ARTA”を使用した周波数特性の測定結果を紹介しましたが、今度は少し応用してみましょう。

インパルス応答を利用した特性解析(応用編)

反射波のインパルス第一波の周波数特性

前編でのインパルス応答では観測されたパルス波形5波すべてに対して解析しましたが、今度は特定のパルスだけの周波数特性を測定してみましょう。

imps-fインパルス応答の黄線から赤線までの黒色領域(到達後3msの第1波)のみから、周波数特性を算出してみたのが、左の周波数特性です。
前編のインパルスの全応答は0-400msの全領域でしたが、今度は(黒色の)6msまでの短時間領域でのみ計算していることに注意してください。
この領域は直接波のみで、壁や床天井からの反射波が届いていない時間帯での周波数特性になります。
測定された周波数特性は(10kHz以上を除けば)ほぼフラットで、当然ですが反射波の影響を受けていないことがわかります。300Hz以下でだら下がりになっていますが、この領域は解析波形の長さ(時間)が足りないために誤差が大きくなっているためです(ARTAではこの測定結果に誤差が多い領域は、自動的に横軸に黄色線が表示されます)。

第1波の累積スペクトル特性

第一波の累積スペクトル第一波の累積スペクトル(波数表示)

今度は累積スペクトルを見てみましょう。
左は同じく第1波の累積スペクトラムです(時間軸表示)。中低域の立ち下がりが悪い様に見えてしまいますので、時間軸表示から、波数表示に変更した累積スペクトルがこちらになります。

 

波数(周期)でみると、周波数にかかわらず、すぐに減衰していることが分かります。ただ2kHzから10kHzにかけてピークが移動していくのですが、この原因はよくわかりません。

 

 

第2波の周波数特性

imp2-f次に反射波である赤線近傍の第2波のピークから算出した周波数特性を見てみましょう。前編の総合周波数特性に比較すると、まるで教科書に出てくる干渉波形のようにきれいな周期変動が見えています。
これはSPの後ろ壁(か測定マイクの後壁)からの反射による影響でしょう。

この様にインパルス応答波形の時間を区切って解析すると、反射波一つ一つの影響を(壁ごとの影響を)、分離して解析できる可能性があります。これができると壁に拡散パネル、吸音パネルを設置した影響を正確に把握できるので、リスニングルームの調整も効率的に進めることができる可能性があります。

この時点ではARTAはフリーソフトの状態で使用していました。このときは波形の保存ができないため、後から解析を追加することができません。これまでの、解析結果もちょっと矛盾や不足があるかと思いますが、今回の結果は手始めに、ソフトを実際に使用した感触を見てみたと解釈していただければと思います。

これらの結果を踏まえて、次はより正確な解析にチャレンジしてみたいと思います。

測定ソフト「ARTA」を使用したリスニングルームの周波数特性の測定(基礎編)

DynaudioのC4を導入してから、はや2年が経過しました。導入当時におよその周波数特性はこちらのコラムで測定していましたが、その後多少レイアウトを動かしたので再度特性を測って見ました。

測定方法について

測定に使用するソフトとマイクに今回は新しいものを試してみたので紹介します。

測定ソフトについて
これまで、周波数特性の測定は「Myspeaker」というソフトを使用してきました。このソフトは周波数特性だけでなく、累積スペクトル等の表示もできて優れたソフトでしたが、さらに詳細な解析ができるソフトがありました。それはARTAという測定ソフトです。測定項目はほぼ同じですが、痒いところに手が届くというか、詳細な解析を使用する場合はこちらの方が便利です。今回はその使い勝手も検証する意味で、このソフトを使用して簡単な解析をしてみました。
測定マイクも新しく
測定用USBマイクUMM-6測定に使用するマイクはこれまでベリンガー社のECM800と言うものを使用してきましたが、このマイクは48Vのファンタム電源が必要なため、何らかのミキサーのようなものを別途接続する必要がありました。これはこれで面倒なので今回周波数特性の測定用に市販されている、USBマイクを試してみました。

それがこのDaytonAudioのUMM-6というマイクです。電源部も内蔵されているのでパソコンにUSB接続するだけで使用できます。おまけに周波数特性の校正表がついてくるので、より正確な測定が期待できます。

試聴エリアのレイアウトについて
測定時のスピーカーレイアウトimg_20161105_091944_listningspace試聴スペースのレイアウトは少しずつ変わってきています。最近はJBL4429をしまって、C4だけをやや左右に距離を取って置き、さらに50cm程後ろに下げました。これによって音場が左右に広がり、またスピーカーを後壁に近づけたことで低域の厚みが増して、よりバランスが良くなりました。
以前はSPの後ろを通れるようにあけていたのですが、実用性よりも音質を優先したのです。

測定系の特性について

ラップトップPCの音声入出力部の周波数・歪率特性

ラップトップPCの音声入出力部の周波数・歪率特性

測定はラップトップPCを使用して行います。スピーカーの測定の前に、PCのからのオーディオ出力をそのままオーディオ入力に戻して、PC系統の基本性能をチェックしてみましょう。
使用したラップトップPCのオーディオインターフェースには、スピーカー(イヤホン)出力端子とマイク入力端子がありますが、ライン入力がありません。イヤホン出力をそのままマイク入力に接続して、内部ソフトのミキサーでゲインを調節しました。
その時の周波数特性と歪率特性はこのようになりました。
周波数特性は20kHz近辺で落ち込んでいますが、今回の測定には支障はないでしょう。歪率の方は約0.1%で、スピーカーの歪率よりも悪いくらいです。今回の測定では歪率特性は信用できません。歪率特性を測定するには別途外付けのオーディオインターフェースを使用する必要があるようです。

 

インパルス応答を利用した特性解析(基本編)

imp

インパルス応答波形

周波数特性を測定するだけでしたら、サインの連続波で測定したほうがきれいに測定できますが、今回は訳あってインパルス応答波形から周波数特性を測定する方法を使用しました。インパルス応答波形の測定結果がこちらです。最初のインパルス応答のあと何パルスか壁からの反射波が続いていることがわかります。

imp1-4-fこのインパルス応答から周波数特性を算出した結果がこちらのグラフです(ボタン一つで計算されます)。測定時のマイク位置はレイアウト図でS0の位置です。

10kHz以上で低下していますが、これは測定系に何らかの原因があると思われます。多少の谷はありますが、非常にフラットできれいな特性が得られています。全体の傾向は(10kHz以上の低下を除けば)以前に、サイン波の連続波で取った特性の類似しています。

次に累積スペクトラムを見てみましょう。
imp1-4-acu1imp1-4-acu2
こちらがインパルス応答から算出した、累積スペクトラムです。一般に、累積スペクトラムを時間軸で表すと高域は早く収束し、低域は収束まで時間がかかるので全周波数帯域を観察することはこんなんです。

ARTAでは時間軸を波数で表示することも可能です。こうすると第何波で収束するかという表示になるので過度特性の周波数特性が見やすくなります。

左のグラフは累積スペクトラムのは数表示ですが、低域の方が若干収束するまで時間がかかっていることがわかります(最大20波程度)。スピーカーの構造上の原理を考えれば当然のことで、合理的な結果です。これでもかなり良好に収束している方でしょう。
また20波を過ぎても単発的にピークがありますが、これは壁などの反射による影響でしょう。

 

以上、USB接続の測定マイクと測定ソフトARTAを使用して周波数特性等をざっと測定してみました。ARTAはもっといろいろな使い方ができるソフトです。次回に応用例を紹介します。

40万積の法則から考えた帯域バランス調整方法

以前にスピーカーの40万の法則について  -気ーづいちゃったよ-というコラムを書きました。要約すると「40万積の法則というのは高音と低音の音量バランスが調度良くなることを表しているのではないか」ということでした。

400k_1数学的に表現すると再生帯域が40万積になる時にはスピーカーの再生中心周波数と可聴帯域の中心周波数が一致しているので、高音と低音のバランスが良く聴こえるとも言えます。

 

数学的には2乗根で表される相乗平均(幾何平均)が再生帯域と可聴帯域で一致している時ともいえます。

 

実際のスピーカーシステムでは20kHz400k_2はいいとしても20Hzまで再生できることはほとんど無く、せいぜい30-50Hzまでが限界です。そうなると、一般に低域の量感が不足しがちになります。

 

 

これを補正する方法として二つの方法を考えました。

(1)低域再生限界付近を持ち上げる

20-50Hzが不足しているので、その代わりにすぐ上の50Hzから100Hzくらいまでを持ち上げて、低音域と高音域の量感が同じになるように調整します。結果的にはトーンコントロールで低音域を持ち上げるというのと同じです。

また40年くらい前に流行った3D方式で(といっても今のTVの3Dとは異なります)、100Hz以下の低域に1本のウーハーを加えて持ち上げてあげると、やけにいい音になったことを覚えています。100Hz以下だけを持ち上げると他の帯域には影響せず不足した部分を擬似的に補うので具合が良かったのです。解釈を変えるとこういった帯域バランスの補正効果もあったのではないかと思います。

*3D方式は高価で大きくなる超低域を大型ウーハー一本で行うという方式ですが、モノであるため100Hz以上を急激にカットします(-18dB/oct以上)。単なるトーンコントロールの低音ブーストとはスロープが異なります。

400k_4

 

(2)中心周波数以下の音量を上げる

もう一つはもっと単純に低域全体を持ち上げる(あるいは高域全体を下げる)ことです。トーンコントロールで調整しても同じ様なものですが、一般にトーンコントロールは最高域、最低域付近のみを調節するのに対して、中心周波数以上、以下で音量を調節するところが異なります。

400k_3

実際には(2)の方が回路的には簡単なので、(2)を実現する帯域バランス調整回路を考えました。630Hzを中心に高域、低域を+-1dB又は+-2dB調節する回路です。CR型でこの回路を構成すれば音質劣化もほとんどありません。

この回路は新型のフルバランス・プリアンプDCP-240 実装しましたが、結果は非常にgoodでした。

スピーカーの40万の法則について  -気ーづいちゃったよ-

40万の法則とは

オーディオ装置、特にスピーカーについて再生帯域の上限と下限の積が40万だとバランスが良いという法則がありました。最初に知ったのは確か、ラジオ技術誌かなんかだと思います(元々、同誌に記事を書かれていた池田圭先生が発見されたそうです)。これは、それまでオーディオ再生装置の銘機を調べてみると、何故か低域と高域の再生限界の積が40万になっているというものでした。例えば20-20kHz、40-10kHz、100-4kHzが40万積に該当します。
これを聞いた時は、確かに経験的にはその通りだと思いましたが、何故そうなるのかは皆目見当が付きませんでした。

オリジナルのデータはこちらにあります

40万積の法則の原図らしきものがこちらのブログに掲載されていました。

再生周波数帯域が狭くても、結構心地よく鳴る装置というのがあります。例えば表現が古くて申し訳ないのですが、よく出来たラジカセとか。ミニコンポでも10kHzで(自然と)切れている方が(超低域が出ないので)バランスよく聴こえたりしたことがあります(結果的に40万積に近くなっている)。

4040万積の法則の解釈

昔は、経験則としては最もだと思っていたのですが、最近ふと気つきました(気ーづいちゃった気ーづいちゃったって言うギャグの人は最近どうしているのだろう)。要するにこれは帯域バランスが良いということではないかと。

 

40_2周波数を横軸として可聴帯域を表現するとこうなります。エイヤで真ん中(約630Hz=√40万)で区切ってそれより上を高域、下を低域とします。低域の量と高域の量はそれぞれの面積になるので、低音限界が20Hzで高音限界が20kHzだと丁度両者の面積は同じになって、高音と低音の量感が同じになります。つまり帯域のバランスが取れているのです。

つまり再生帯域の積が40万になっている状態は、言い換えると帯域幅の中心が、可聴帯域中心の630Hzに一致している状態です。結果的に高域と低域の量感のバランスがおなじになるのです。

40_3たとえば低音域が40Hzしか再生できなくて、高域も10kHzまでしか再生できない場合も、両者の量感は同じになって帯域のバランスが整っていることになります。80Hzと5kHzの組み合わせでもおなじです。この低音と高音の量感が整っている(同じ)というのは、数学的に表現すると再生帯域が40万積になっていると言うことが出来ます。

40_4逆に40万積の法則を満たしていない場合は、低音域が切れているのに、高音だけ伸びていると高音域の量感がまさって、バランスよく聞こえないのです。この時は40万積の法則が崩れています(もっと大きな数字になる)。

40万積の法則と言うので、その原理(理由)がわかりにくかったのですが、実は帯域バランスが優れているということの数学的表現だったのではないかと思います。

(もちろん池田先生は経験則として導かれたのだと思いますが)

ディナウディオConfidence C4の周波数特性を測ってみました

ディナウディオのConfidence C4を導入しました。早速、周波数特性等を測定してみましたので報告します。

事務所の試聴スペースの間取りと写真はこのような感じです。

リスニングルームのレイアウト

新試聴室 010-640

C4layout

試聴スペースのレイアウト
図のアスペクト比がちょっとおかしいが、寸法は大体あっています。
写真は矢印から撮っています。

 

 

写真はこのレイアウト図の矢印から撮っています

リスニングスペースとしては(都心としては)比較的広めのリビングルーム程度の大きさはあります。スピーカーはこの辺が良かろう、というところにポンと置いて特にそれ以上の調整はしていません。

測定は測定用の無指向性コンデンサマイクECM-800をUSBインターフェースのマイクアンプを通してPCに接続し、スピーカー特性測定用ソフト「Myspeaker」を使用して行いました。

測定結果

周波数特性はこちらになります。

測定位置はソファに寄りかかった位置、ちょうど赤顏印のあたりです。

C4L-SinSweep

C4(左CH)の周波数特性(ソファ上)赤顔印あたり

200Hzから500Hzあたりがやや凹んでいますが、全体的にフラットで良い特性です。どこまで信頼できるかわからないところもありますが、20Hzまで落ちていません。高域も普通は1KHz以上でなだらかに低下していきますが、10KHzくらいまでほぼフラットです。

C4LR-SinSweep

C4(右CH)の周波数特性(ソファ上)赤顔印あたり

右CHも同様の特性ですが右壁の方が近いせいかやや低域が暴れています。

ソファに寄りかかった位置から50cm位前にでた位置(青顔印と赤顏印の間位)で測定した周波数特性です。200-500Hzのくぼみも改善されて全体的によりフラットになっているのがわかります。

C4R2-SinSweep

Rch赤顔印と青顏印の間で測定

 

 

さらに前にでて青顏印で取得した周波数特性です。200Hz以上でよりスムーズな特性になっています。やはり後ろ壁よりも少し離れた方が良いようです。

C4R1m-SinSweep

Rch青顔印(背面壁から1m)で測定

同じく背面壁から1m離れた位置で測定した左CHのC4の周波数特性。

C4L1P5m-SinSweep

Lch青顔印(背面壁から1m)で測定した周波数特性

RCHと同様にかなりフラットになりました。 ただこの位置ですとSPに近づきすぎていて、高域も完全にフラットに出ていますので、ややはっきり聞こえすぎる感があります。まるでヘッドホンの様なバランスです。こう考えると、C4を理想的なバランスで鳴らすには前後の距離が8m位欲しい所です。

改善案としては、現在の位置からSPを少し後ろに動かした方が良いかもしれません。

 

C4の歪率特性

次に歪率特性を測定してみました。黒が周波数特性で、緑線が第2次高調波、青線が3次高調波歪、グレーがノイズスペクトルです。両歪とも40dBUpさせています。

500Hz以上では歪率は-60dB(0.1%)程度とスピーカーとしては非常に優秀ですグレーのノイズレベルまで低下していますので、実際はもっと小さいかもしれません。100Hz以下の低域においても-40dB以下で、通常スピーカーでは大振幅となる低域ではもっと上昇しますので、かなり優秀だと思います。

C4-Distortion

 

残響時間測定 

残響時間は部屋の特性で本来スピーカーには依存しないはずですが、C4からパルス音を発生させて、残響時間を測定したのが下の図です。

全体的には0.2秒で、50-200Hzで約0.3秒程度に伸びています。

C4L1m-BppReverb

C4で測定した残響時間特性

 

累積スペクトラム特性

累積スペクトラム特性は各周波数ごとの立ち下がりの様子を3次元的に表現したちょっとかっこいいグラフです。トーンバースト波形を全周波数で見ているようなものでしょうか?
C4R-Accumulate

これを見ると高域の方がきれいに音が切れているように見えますが、時間軸でみているので低域はどうしても減衰するのに時間がかかります。時間ではなく、波数(あるいはサイクル数)でみた方が公平なトランジェント特性になるかもしれません。1KHz以上の周波数では一度立ち下がった後には波形が一切見えずきれいです。低域では200Hz以下が盛り上がってますが、インパルス応答はSN比が悪く、信号の変動分を低域と勘違いする傾向があるのであまりあてにはなりません。200Hz以下が信用できるとすると、50Hz以下で特にレベルが低下していないことがわかります。50Hz以下は部屋の定在波などでずっと鳴りっぱなしなのかもしれません。

C1,C2に比較してC4は低域が出すぎるというプロの方のコメントを複数聴いたことがあるのですが、無響室の周波数特性ではどのモデルもフラットです。C4が50Hz以下の超低域が出ているので、部屋の定在波などの影響で、低音の切れが悪いように聞こえているのかもしれません。

以上、ディナウディオのConfidenceC4スピーカーを導入したので、基本特性を調べてみました。非常に参考になる特性が取れましたので、これらを参考にして今後のセッティングを詰めていきたいと思っています。