オーディオアンプの左右独立電源について考える(2) -パワーアンプ編-

前回のコラムで左右独立電源にについてプリアンプを念頭に置いて解説しましたが、やや説明というか内容がわかりにくかったかもしれません。今回の話はその続きですが、さらにわかりにくいかもしれませんがお付き合い下さい。今回はパワーアンプの左右分離電源について考えてみます。

パワーアンプというのは電力供給系とアース系の処理がかなり複雑にならざるを得ず、しかもこの配線の仕方が非常に重要です。 パワーアンプの電力系の配線に非常に太い線材を使用しているとしても50mΩ/m位の抵抗がありますから、20cmで10mΩ、ここに5A流れればこれだけで50mVの電圧が発生する事になります。50mVというのは通常のパワーアンプの残留ノイズの1000倍になりますから、結構な大きさです。まあ、無信号時には5Aも流れないでしょうが、平滑用電解コンデンサに流れているリップル成分とかはそこそこあると思いますし、いずれにしろ通常の小信号理論だけで考えているととんでもないわなに落ちる事があります。ちょっと横道にそれますが、パワーアンプというのは

1.通常の電子回路の技術に加えて、

2.電力系統としての取り扱い(強電分野)とそして

3.高周波領域の電子回路の知識(想像力)

という3点の考察が必要になります。通常の電子回路の技術者はこのどれか1分野の専門家でこれらの3つのすべてに通じているというという事はなかなかないと思います(これに加えて世間一般ではデザインとか機械強度なども問題になるのかもしれないが・・・・)。ですのでパワーアンプというのは詳しく見てみると製品の弱点も露呈しやすいのです。

話を元に戻すと、そのパワーアンプですが、電力系統の配線が難しいといいましたが、どういう事かというとこういう事です。

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パワーアンプの回路部品(アース配線はこのGと書いた記号をつないでいく)

上の図はパワーアンプの電圧増幅段に安定化電源を使用した場合の部品構成を簡略化して示したものです。この図で例えばGとかいたところはアース電位になるべきなので、すべて接続します。Gの接続方法によってノイズレベルは大きく変わってきます。その接続の仕方はこの場合で単純に組み合わせと考えてもGの数が17なので一筆書きで配線した場合 (17-1)! (=16*15*14・・・・)となって約21兆通り、まあ実際に自然な接続の仕方だけでも数十通りはあると思います。よく言われるのは一点アースと呼ばれる考え方で、ここでいうとすべてのGをシャーシアースに接続するということでしょうか?この一点アースは基本的にはその通りなのですが、必ずしも最適な配線方法ではありません。

配線の仕方・考え方は苦労して習得したノウハウなので詳細は秘密なのですが、かわりに配線が上手にできたかをはかるバロメーターをお教えします。それは残留ノイズです。残留ノイズは入力をショートしたときに出力に現れるノイズ成分ですが、配線が不適切だとその分ノイズ成分が大きくなる傾向があります。下の図は市販パワーアンの残留ノイズを比較したものです。通常よくできたパワーアンプの残留ノイズは数十uV(A補正)レベルです。酷いのになると数百uV以上あります。ちなみに弊社のパワーアンプの残留ノイズは平均で7uVでこれはもう抵抗が原理的に発生するノイズレベル(黄色の領域)に近いのです。すなわち余計なノイズをほとんど拾っていないのですが、一般のパワーアンプでは配線材の引き回しによってピンクの矢印の分だけノイズを拾っているといえます。

power-noise-earth.gif
■が他社のアンプ△が弊社のパワーアンプのの残留ノイズ、黄色は抵抗の熱雑音レベル

老舗アンプメーカーの配線もかなり怪しいというものがあります(カタログの内部写真からわかってしまう)。そもそもよくあるパワートランスと電解コンデンサ を中心に配置して両脇にアンプ基板を配置するという構成は見ためには安定感があっていいのですが、配線上は問題を抱え込みやすいのです。左右のアンプの基板の中に電力系のトランスと電解コンデンサが並んでいる ので、配線が長くなって、アンプ回路の中にノイズ源を抱え込んでしまっている様なものなのです。

さらに実際問題として、残留ノイズがパワーアンプ単体では聞こえなくてもプリアンプに接続するとハムが聞こえるというケースもあります。これはパワーアンプの入力線によってループができて、そのループの磁束変化を検出しているのだと思います。実際に電力ラインの配線化を徹底的に行うとこの種のハムも消えるので、配線の不適切な部分が使用状況によって露呈しているだけという言い方もできます。トータルで同じ電源容量で左右分離電源にしたら音質が向上したというケースがあったとしても、この様な配線の不備が緩和されただけというケースもあるの思うので、それだけの結果で左右分離電源の方がいいと結論付ける事は早計だと思うのです。配線を最適化するという観点からも左右共通電源のの方がまとまりやすく、性能も出やすいということも確かなのです。

もちろん左右分離電源パワーアンプには
1.同じ電源構成(トランス容量、コンデンサ容量)で左右独立構成として、総電源容量が結果的に2倍になれば音質も当然良くなることが期待できる。

2.ステレオアンプからモノーラルアンプx2にすると、パワーアンプの配置がSPにも近くなるので結果的にSPケーブルも短くなって音質も向上する。

という効果は期待できます。

ですので左右分離電源がいいとおっしゃる方は弊社のパワーアンプのを2台購入いただき、(片CH使用しないで)モノーラルアンプとしてお使いいただくか、バイアンプ構成で高音、低音にそれぞれのCHを振り分けて頂ければより音質は向上すると思います。
以上パワーアンプの左右分離電源について考えてみました。

パワーアンプのダンピングファクターに関する解説

ダンピングファクターの音質に与える影響

一般的にダンピングファクターに関する認識は次の様なことではないでしょうか。

  1. DFが大きいほうが低音に締りが出てくる
  2. DFが極端に小さいと(<10)低音の量感は増す(実際に低音の音圧レベルも上がることが知られています)
  3. トランジスタアンプの出力段を並列にするとDFが良くなる

ただし3の項目は以前のコラムにも書いたとおり、実は間違っています。トランジスタアンプの場合、同じ放熱器に出力段を並列にして並べると、1段当たりの電流量が半分になるためトランジスタの出力抵抗も2倍になるので、出力段を並列に並べる事に意味はありません。 DFは実際には他の要素で決まっています。

ダンピングファクターとは

話を基本に戻しますが、ダンピングファクター(DF)とは、一般にパワーアンプのスピーカーに対する制動力を表すと考えられている指標で(だからこの名前が付いた)、パワーアンプの出力インピーダンスとスピーカーのインピーダンスの比で表されます。

DF=Zsp(Ω)/Zamp(Ω)
ここでZspはスピーカーのインピーダンス、Zampはパワーアンプの出力インピーダンスです。
一般的なに半導体アンプで100程度の値を示します。この場合スピーカーのインピーダンス8Ωに対して、パワーアンプの出力インピーダンスは80mΩである事を意味しています。

ダンピングファクターの測定方法

ダンピングファクターの測定方法で最も一般的なのはON-OFF法です。 これはパワーアンプの出力にダミー抵抗を接続したときと接続しないときの電圧差をΔVとし、測定電圧をVとすると、
DF=ΔV/V
で計算されます。例えばDF=100の場合、3V出力時(約1W@8Ω)、負荷のある無しによって30mVの電圧差が生じるという事になります。
弊社のパワーアンプDCPW-100(DF>1500)では3V出力時に8Ω負荷をつないだ際の電圧降下は2mV以下という事になります。こう書くと簡単に聞こえますが実際には3.000Vと2.998Vを正確に読み取る必要があるので、有効桁数の多い測定器が必要になります。弊社ではこの目的のために有効数字が6桁のデジタルマルチメーターを購入しました。
dvm320.jpg
0.01mVの単位まで測定できるデジタルマルチメーター

ダンピングファクターの統計解析

市販されているパワーアンプの価格とDFの関係をプロットしてみました。
ピンクの四角印が海外製、丸印が国産アンプで、三角が弊社のパワーアンプです。
power-statisticsdf300.jpg
ピンクの四角印が海外製、丸印が国産アンプで、三角が弊社のパワーアンプです。
(データはハイエンドショー・インターナショナルオーディオショーで集めた半導体パワーアンプのカタログデータから拾いました)

一般に100-1000位に分布していて特に価格に対する依存性は無い様です。中にはDFが3000というパワーアンプがありました(実はこの数値は非常に怪しい)が、他のハイエンド機と比較しても弊社のアンプのDF=1500が非常に優れている事がわかります。
一般にDFが大きく、価格が安い方がいいと考えると、DFを価格で割ったDF/P(/万円)の数値が大きいほど(左上に行くほど)いいアンプと考える事もできます。価格も考慮したDF/Pファクターで考えると弊社のアンプは断トツです。

power-df-statistics-2.gif

ダンピングファクターが音質に与える効果についての考察

とはいえDFの値が音質に直接比例するわけではありません。DFが1と10では音質も大きく違うかもしれませんが、100を超えると例えば低音の締りが良くなるということを必ずしも実感できるわけでないかもしれません。 というのもDF=100とDF=1000の違いはアンプの出力インピーダンスが80mΩか8mΩということで、この差はスピーカーケーブルの抵抗、あるいはウーハーに直列に入っているコイルの抵抗(数百mΩ)によって、実際には見えなくなってしまう可能性が高いからです。
ただ数百以上のDFの効果というのは低音域の大信号に対して高音域が濁らないですとか、低音域の音階がはっきりわかる、低音が静かに聞こえるという様な聴感上の効果があるように感じます。DF=1000というのはスピーカーからの反作用がインピーダンス分返ってきたとしても、それによる電圧変動が1/DF(=1/1000)に抑制できると 考えたほうが妥当なのだと思います。
DFが100のアンプからDFが1000のアンプに変えても、数値から単純に想像する10倍の効果は無いと思ったほうが正解です。

NON-NFBアンプについて -本当は局所NFBアンプです-

半導体アンプにおいて無帰還アンプと称するアンプについてその発想が理解できませんとして、無帰還のトランジスタアンプはそのままでは実用に耐えない事を前回説明しました。無帰還アンプ(NON-NFB)アンプと称しているアンプはほとんどが局所帰還アンプでNFBは使用しているのです。

お断りしておきたいのはNON-NFBアンプの音質が悪いとかそれを使用する方が理解できないとか言っているのではありません。別にNON-NFBアンプだろうがNFBアンプだろうがそれを使用して満足する結果が得られば良く、そのためにどのようなアプローチを取ろうと人それぞれです。実際にNON-NFBアンプと称するアンプを聞いて音質が好ましければそれでいいのですし、そういう事はあってもおかしくありません。

ただ実際はNFBを使用しているのにNON-NFBだから音がいいとか、NON-NFBの方がNFBよりも音質が良くなるとかそういった文言を目にすると、「それ違うんじゃないの」と言いたくなってしまうのです。論理的に考えて、もしNFBアンプには音質上欠点があってNON-NFBにそれが無いと仮定すると、NON-NFBアンプを使用して音楽を再生した場合再生した音が良く聞こえるのではなく、NFBアンプの悪いところが耳について聞いていられなくなると思います。

というのはCDプレーヤーの出力部にしろ、あるいは録音用マイクのマイクアンプ、ミキサーすべてがNFBアンプで構成されているので、それらの欠点が聞こえてしまって聞いていられなくなるはずです。NON-NFBアンプを使用して聴感上好ましい結果が得られたとすれば、それは録音も含めた全体の再生系の中で結果的に好ましくなったという事であって、NON-NFBの方が優れているという結論にはならないと思うからです。

経験から言えばオーディオ装置のある部分例えばアンプを良くしていくと、再生音が聴感上良く聞こえると同時に、再生系の他の弱点が明らかになってしまって余計に気になってしまうという現象が起きることが一般的だと思います。

前置きが長くなりましたが、それでは無帰還アンプと称するアンプ はNEBループを使用しないで局所帰還で回路を構成しているものがほとんどです。 局所帰還とはトランジスタの出力から入力に帰還をかける(自分で自分に帰還を掛ける)もので、例えばこうなります。

tr-amp-nfb.png

RcbとReの部分が局所帰還になります。Rcbは見ての通り出力のコレクタから入力のベースに抵抗で帰還させているもので、帰還の量はRcbとトランジスタの入力抵抗の比率で決まります。抵抗で帰還をかけているものはあまり無いかもしれませんが、主要な増幅段にはこの場所に微小容量のコンデンサを挿入して局所帰還を施しているのが普通です。そうしないと高周波領域でゲインが大きくなりすぎて発振してしまうからで、局所帰還というよりも位相補正と言った方がいいかもしれません。

Reが局所帰還になるのがわかりにくいかもしれませんが、Vinに入力があった際にベース電流が流れてRe間に電圧が発生し、これがVinを打ち消す方向に発生するので、結果的に負帰還(NFB)になるのです。そのメカニズムから電流帰還と呼んだりもします。

これらの局所帰還も当然りっぱな負帰還(NFB)の仲間で、トランジスタアンプでいわゆる無帰還アンプと称しているものは、ほとんどはこれらのNFBを使用しています(そうしないと実用になりません)。

ついでに言っておくと、上図のRcをゼロにして電流帰還を最大にすると、アンプの最終段に使用されるエミッタフォロア回路となる。別名100%帰還回路という(これを無帰還回路といって宣伝している会社もあるが) 。まあ呼び名はどうでもいいとして、これをパワーアンプの最終段に(NFBループ無しで)用いるとひどい事になる。何が酷くなるかというとダンピングファクターである。安定性の点からReに0.5Ω位を使用するので、出力抵抗はせいぜい0.5Ω位(=0.5/2+1/gm)になる。すなわちダンピングファクター(DF)が16程度という事になる。この程度のDFでは確かに他のアンプと違う音になるだろう。周波数特性上も少し低音が持ち上がるはずで、なによりも低音が締まらなくなってどうにもなら無いと思うが・・・・。実際こういったアンプを無帰還アンプだから音がいいといって売っているのだから、いったいどうなっているのかと思ってしまいます。

話を元に戻してそれでは無帰還アンプと称するアンプが何をもってそういっているかというとNFBループが無いということです。

NFBループを有するアンプは例えばこの様にあらわされるアンプです。
amp-nfb-exp.png

三角の部分がアンプ回路でプリアンプでもパワーアンプでも通常3段の増幅段で構成されています。ここでR1とR2で構成されるのNFBループで最終段の出力から入力にNFBをかけています。この場合の最終利得Gは

G=1/(1/A+β)  ・・・(1) ただし、ここでβ=R2/(R1+R2)   ・・・(2)

で表されます。 ここでAはアンプ回路のNFB前のゲインで、トランジスタアンプでは100万倍くらいあります。Aがこれだけ大きいと1/Aがほとんどゼロになるので結果的にGは

G=(R1+R2)/R2  ・・・(3)

になります。この(3)式のすばらしいところは、ゲインGの式にAが入っていない事で、すなわちRの値だけでアンプのゲインが決まる事です。言い換えるとアンプ回路Aの直線性に例え20%の歪があったとしても、NFB後はその歪に影響される事が無いということです。その上”抵抗”というのはアンプを構成する部品の中でも最も完全な特性を示す素子で、歪も周波数特性も理想からのずれを検出する事ができないくらい優れたものです。

またこういう言い方もできます。結局、局所NFBとNFBループの違いは言い換えればNFBをかける回路上の幅の違いで、本質的に異なるものではありません。

したがってこのNFBループを使用しない手は無いのです。ただ気をつけることがあるとすれば、このNFBは回路規模の大きなところにわたってかけますので、基板設計や実装技術を考えないととんでもない結果になってしまう事もありえます。NFBアンプが嫌いという方はおそらくその失敗に基づいての事だと思うのですが、きちんと設計・製作すれば当然非常にいい結果が得られます(弊社のプリ、パワーはそういった考え方でいい結果を得ています)。

この変の詳細はまた別の機会に説明したいと思います。

パワーアンプの電流供給能力を考えてみよう -スピーカーの電気はどこから来るの?-

< 力強いパワーアンプのために>
パワーアンプの音質を表す指標に「力強さ」、「低音の締まり」、「パワー感」などがあると思います。これらはいかに瞬時に大電流を供給できるかが問われているのだと思います。スピーカーからゴリゴリとした低音が出てくると本当に気持ちの良いものです。今回はパワーアンプの回路について、大電流の供給能力という点から考えてみたいと思います。

次の図はパワーアンプの回路を模式的に示したものです。パワーアンプの出力段はコンプリメンタリーとなっていますが、ここでは簡略化してNPNトランジスタだけを示しました。またトランジスタのエミッタ抵抗も省略しています。

power-amp-suuply400.jpg

<パワーアンプの動作原理>
トランスから出たAC電圧はダイオードで整流されて平滑コンデンサC1に蓄積されます。パワートランスタの出力(矢印の付いたエミッタ位置)が入力電圧の(1+R1/R2)倍に増幅された電圧になり、結果的に出力につながれたスピーカーに電流が流れます。 パワートランジスタのコレクタ−エミッタ間の抵抗が小さくなってC1からスピーカーに電流が流れる様になるといってもいいでしょう。C1の電圧はトランジスタのベースあるいはエミッタの電圧より十分に高ければ、何Vでも構いません。

<電流供給はどこで律速されるか?>
さてではスピーカーに大電流を供給する際にネックになるところは次のうちどこでしょうか?

(1)出力トランジスタ

(2)電解コンデンサC1

(3)トランス

答えは(2)の電解コンデンサです、ただし条件付で。「いやそんな事はない、トランスを大型にしたら音質が向上した」というご意見もおありでしょうが(私もそんな経験もあります)、この点は後で解説します。

この答えを考えるには電流はどこから供給されているか(どこで律速されているか)を考える必要があります。次の回路図は先ほどと同じですが電源トランスの巻き線抵抗と電解コンデンサの直列抵抗も含めて示したものです。

power-amp-suuply2-400.jpg

出力トランジスタがONになった際に負荷に流れる電流の供給源は2つあります。一つは電解コンデンサC1でもう一つは電源トランス+ダイオードです。どちらから電流が流れてもいいのですが、基本的に電流の流れやすいほうから電荷は流れてきます。電解コンデンサの最低インピーダンスは0.1Ω程度、電源トランスの方は数Ω程度だと思います。したがって通常は平滑用の電解コンデンサから電気は供給されると考えていいのです。ただし条件があります。平滑コンデンサに蓄積される電荷量には限りがあるので、ある程度でてしまうと今度はトランスのほうから供給せざるを得なくなります。

<電解コンデンサが生きている条件を考える>
次に 電解コンデンサに蓄えられた電荷量が足りなくなる条件はどの程度か考えてみます。

今、整流後の電圧が50V、電解コンデンサの容量が20,000uFとしましょう。蓄積される電荷量はQ=CVから、丁度

Q= 1(C)となります(Cは電荷量クーロンの単位)。一方スピーカーに瞬間的に大電流が流れたとします。たとえば平均電流2A(ピークで約3A)で0.2秒間流れたとすると、全部で0.4(C)消費しますから電解コンデンサには0.6(C)しか残っていないのです。しかもV=Q/Cですから、電圧が半分近くになり、したがってパワーは当初の1/4しか出ない状態になってしまうのです(実際にはトランスから随時電流が流れますから必ずしもそうではないのですが)。こうなると、電源トランスから供給される電流でスピーカーを駆動するしかありません。ということで、結局は数Ωの抵抗が直列にはいった状態になってしまうのです。トランジスタがいくら高速・低抵抗でもこうなると,そもそも電気が流れてこないので意味がなくなってしまう、

ということになります。

以上の議論は結構現実的な数字です。

<おさらい>
言い換えると本来電解コンデンサから電流が供給されることが理想で、それができなくなったときにトランスの抵抗(トランスの大きさが)効いてくるのです。電源トランスを大きくして音質が良くなったとすれば、電解コンデンサの容量が足りないという事を意味しています。したがってまずトランスの大きさ(内部抵抗)が効いてこない様に、まず電解コンデンサーの容量を大きくすることが重要で、そうするとトランスというのはあくまで、実用時の平均消費電力以上を供給できれば、小さくても良いのです。

power-supply-320.jpgわかりやすい模式図を作ったとするとこんな感じです。
実際、電解コンデンサを100,000uFと大きくした状態で、電源トランスを250VAから1000VAに変更しても音質の変化は感知できませんでした。

逆に電源トランスが音質にきている状態ですと、これはこれで問題があるといえるのです。電源トランスから供給される電流は50Hz(全波整流では100Hz)の脈流です。正弦波を半分にちょん切った電流量が最大供給量です。という事は1秒間に100回は電流の供給できない時間帯があり、そこから徐々に電流が供給され始めるので、電流供給が間に合わない状態が続いていると心配しなくてはいけないのです。
パワーアンプを製作するにあたって、何でもかんでも物量を投入すればいいというものではなく、最も効く所にという様にメリハリをつける事でコストパフォーマンスの向上につながります。オーディオデザインのパワーアンプの電源トランスには十分以上の容量のものを用いていますが、オーディオデザインのパワーアンプが高性能な割りに安価にできるのも技術があってのことなのです。

<終わりに>
トランスが大きい方が音質的に向上するという経験自体は間違いでないにしても、それを安易に一般化すると間違いになります。

ただし、今後弊社のアンプでも電源トランスを強化することもありえます。お客様の要望が強く、そのほうが売れるというのであれば拒む理由にはなりませんので。

パワーアンプの性能・音質比較 

弊社のパワーアンプの性能は非常に優れているのですが、測定をしない方にとってはその数値がどのくらい良いのかわかりづらいと思いますので、パワーアンプの性能と音質を同クラスの他社製アンプ比較してみたいと思います。性能(実測値)をまとめると次表のようになります。

パワーアンプ総合性能比較表

項目 オーディオデザイン
DCPW-100
B社
セパレートアンプ
備考(*は実測値)
構成 バイポーラトランジスタ出力段 3並列バイポーラトランジスタ出力段
最大出力 80Wx2 150Wx2
ゲイン 20dB 31dB
周波数特性 DC-1MHz(-3dB) 10-100KHz(−1dB)
高調波歪率* 0.002%
0.0005%
0.01%
0.0015%
20-20KHz@1W
1KHz@80W
SN比* 131dB 113dB @80W
出力ノイズ* 7uV 53uV A補正,入力ショート
DF* 1500 110 実測値(8Ω)
定価 (税別) 270,000円 350,000円
音質 低域がローエンドまでスーと延びた感じになる。低音のダンピングが効いている。情報量が多く高解像度ソースの録音の良否を非常に良く出す。 聴感上中低域が膨らんでいるように聴こえる。低音のしまりはあまりない。全体的に柔らかい音色だが、中高音の音色がかすかに硬く感じる。ゆったり聴ける感じ
コメント

比較したパワーアンプは国内の老舗アンプメーカー(以下B社)がちょっと前に作ったモデルで、このアンプと比較したのは所有しているからということもありますが、このアンプは性能も音質も外観もすべてにわたって非常に良くできていると思ったからです。

powerampview240.jpg  m-07-240.jpg

DCPW-100   B社製セパレートパワーアンプ

パワーは若干弊社の方が小さいのですが、価格帯ではほぼ同じです。ただこのモデルはやや古いモデルで、改良機種はありますが現行モデルでこの機種に相当するものは無くなっているようです。価格は発売当時のもので現在、同レベルのパワーアンプの価格は50万円クラスだと思います。

上記特性の内、高調波歪率/ SN比/ 出力ノイズ/ DFについては実際に計測した数値です。

見ていただいてわかるとおり、全体にわたって弊社のアンプの方が特性は大きく上回っています。SN比、ノイズレベルに関しては、DCPWの方がゲインが少ない分良好なのは当然なのですが、それを差っぴいてもB社の方が少し悪くなっています。

大きく異なるのがダンピングファクターでB社の方がかなり小さいのですが、この辺は聴感上の結果と見事に一致しています。SPシステム自体のネットワークコイルの抵抗値から考えると、DFが100以上になると判別できなくても不思議はありませんが、意外とよくわかるのかもしれません。

B社の方は特定の音色をあえてつけている様な感じすべてのソースである音色を感じる。心地よい音色といえばそうだがすべてにそのカラーがつくので気にな るといえば気になる。DCPWの方は逆にソース、組み合わせる装置で音色が変わる。良い録音のソースを聞いたときには絶品。情報量の多さはヘッドホンに近 づいた感じです。

<パワーアンプの歪率特性の比較>

DCPW-100                          B社
ddcpw-dist.jpg  m-7dist.jpg

弊社アンプの方が全体的に下にあるのはSNが良いことを示しています。弊社アンプでは高域10KHzの歪率が特に小さいことがわかります。

B社のアンプが悪いことではなく、これでもかなりいいほうで教科書に載っていいる様な特性だと思います。
< 過度応答特性の比較> 100KHz(8Ω負荷)

power-100khz.jpgm-7-100khz.jpg

DCPW-100                          B社

100KHzだと普通のアンプは矩形波を再現しないので、かわいそうなので10KHzで比較してみると
 10KHz(8Ω負荷)

power-10khz.jpgm-710khz.jpg

DCPW-100                          B社

やっぱりDCPW-100の方が特性はいいんです(ほぼ完璧)。実はこの過度応答特性を完全にするというのはパワーアンプでは特に難しい事なんです。

B社のアンプもこれでもかなりいいほうだと思います。酷いのになると派手なピークがあったり、寄生振動が生じていたりします。そうなると明らかに耳障りな音になります。どの辺が効くかと言うと、基板の配線パターンの引き回しだとか、位相補正技術、広義には実装、部品レイアウトなどが影響します。弊社のアンプは回路パターンの最適化だけで1年以上費やし、基板パターンの大幅な改訂だけでも5、6回はやっています。それくらいやらないとこういう特性は得られないのです。

肝心の音質ですが、弊社のアンプは何でも無難にこなすというよりも聴いているソフトやオーディオ装置の素性を非常にはっきり出します。良い録音のソフトをSPのセッティングを上手に行って再生した際はこの上も無いリアルで圧倒的な音を出します。

かたやB社の方が何を聞いてもある種の心地よさは感じさせるのですが、すべてが同じ音になって場合によっては癖が耳につく事もありますし、あまりリアルという感じではありません。