車の走行性能が悪いのはハンドルのせい?

車の走行性能が悪いときに、ハンドルが悪いと思う方はいらっしゃいますか?

カーブでハンドルを切るとどうも安定しない、だからハンドル(ハンドルにつながるシャフト、伝達機構を含む)を変えてみようと思われる方はいらっしゃいますか(もしできたとして)?

あるいはアクセルを踏んだときの加速性能が悪いから、アクセルとアクセルに繋がる部品を交換してみようと思われる方はいらっしゃいますか?

もちろんいらっしゃらないでしょう。つまらない冗談です。ただこれを笑って済ませられない現実がオーディオ界にはあると思うのです。

車のハンドリングが悪いと真っ先に疑われるのはタイヤならびにサスペンションです(広義にはボディー剛性、重量配分もあると思いますが)。

加速性能が悪ければエンジンのパワー不足あるいは自動車の重量過大と考えられます。

オーディオアンプでよくボリュームのところを問題にしていることがあります。

ボリューム(音量調節器)を絞ると音質が悪くなるといって、この部分を交換して音がよくなったとか、はたまた最近の流行では電子式音量調節器を使用したり、いろいろです。

正直言って音量を絞って音質がそんなに悪くなったと、私自身はあまり感じた事がないので、そもそもその動機が私には良く分かりません。まさか聴覚のラウドネス効果(音量が小さいときに高、低音域の感度が鈍くなる効果) を勘違いしてるのではないと思いますがどうなのでしょうか?

”そういうお前はパッシブプリなどに高価なATT(アテニュエーター)を使用した商品を販売しているではないか ”といわれればそのとおりなのですが、良くみていただければ分かりますが、高級なATTを使用すると直ちに音質が劇的によくなるとは言っていません。普通のプリアンプを使用するより、弊社のパッシブプリにした方が音質がずっとよくなることが多いといっています。つまりプリアンプでの音質劣化分をなくすことに意味があります。ついでに言うと弊社のプリアンプはパッシブプリよりもいいと思いますが。

弊社では以前ユニバーサルパッシブプリアンプという商品を発売しておりました。これはいろいろな種類のATT(アテニュエーター)を同時に3種類搭載し、しかも使用するATTをスイッチで選択できるという欲張りな製品でした。この製品はあまりにも作るのが大変で、ビジネス的には失敗作なのですぐにやめてしまいました。やめた理由の一つはATTの種類による音質差が思ったほど感じられなかったこともあります。通常の連続式VR、P型アテニュエーター(抵抗が直列に繋がっているもの)、Lパッド型アテニュエーター(常に2本の抵抗を選ぶもの)を瞬時切り替えして試聴テストしましたが、普通にスピーカーで聴いている限り判別は難しいくらいです。しいて言えばVR式が少し音の厚みがなくなるような気がしました。ただしブラインドテストでは分からないくらいの微妙な差です。何人かのお客様にも貸し出しをしてご試聴いただきましたが、大体のお客様もおなじ様な結果でした。ただお客様の中にはまったく違う、Lパッド型が断然いいとおっしゃる方もいらっしゃった。このお客様はこの時、能率100dB位の高能率SP(長岡式BL)を使用されていていました。一般に高能率のSPを使用するとオーディオ機器の差がはっきり出ますので、システムに依存して結果はことなってくるのかもしれません。主にヘッドホン等を使用される方も違いがはっきりわかる傾向があると思います(この辺がオーディオの奥深いところです)。

一般にVRあるいはアテニュエーターを使用して、音を絞ると音質が劣化するという原因は(そういう現象があったとして)、実はその原因はVR(ATT)の部品としての性能によるのではないと思っています。VRを絞ると、VR通過後の入力信号の出力インピーダンスが上昇するのでその信号を受けるアンプの回路特性(性能)によっては高域で歪が発生する現象が多々あるのです。(弊社のプリアンプでは極少ですが)。汎用OPアンプの場合、ひどいときには10KHz の歪み率が0.1%くらいになったりします。 この点の詳細解説は、長くなりましたので別の機会に解説したいと思います。
VRを絞って音質が劣化したとして、VRを交換するのではなく、原因を考察して、根本的な対策を施す様にならないとオーディオ界に進歩がないと思うのです(もともとオーディオに進歩なんてないのかも・・・)。

フラットアンプとOPアンプの性能を較べてみよう

フラットアンプの性能を一般的なOPアンプと較べてみました。
フラットアンプとOPアンプの性能比較表
比較したOPアンプはオーディオ用として広く知られている5532というタイプです。ゲインはどちらも約5倍と同じに設定してあります。OPアンプの電源は3端子レギュレータで電源部のパスコンとしてOSコンを使用しています。OPアンプの位相補正は矩形波応答が良好な範囲での最小値24pFに設定しました。
比較項目は100KHzの過度応答波形と歪率特性です。過度応答特性はOPアンプの方も悪くありません。(良くなる様に位相補正しているので・・・)。ただしOPアンプの方はスルーレートが悪いため、立ち上がり、立下り特性がなまってしまっています。
さて一方の歪率ですが、OPアンプの方も決して悪くはありません。非常に一般的な教科書に出て来る様な特性です。ハイエンドオーディオ用としてやはり気になるのは10KHzの歪率特性が若干悪いことです。これはOPアンプの利得が高域で大きく減少し、NFB量が高域で低下しているためと考えられます。一方のフラットアンプ基板の方はすべての周波数で歪率特性がまったくといっていいほど変わっていません。周波数特性が高域まで延びているために広域においてもNFB量が変わらないためです。
さらに0.1Vから1V位における歪率がフラットアンプ基板の方が低いことから(この領域は事実上歪ではなくノイズを測定しています)、フラットアンプ基板の方がノイズも少ないことが見て取れます。

カタログスペックの見方-”プリアンプのSN比”編-

はじめに

プリアンプの特性を示す性能の一つにSN比というものがあります。ノイズと信号の比を表しているわけですが、最近のトランジスタアンプにおいてはイコライザアンプやレコードのカートリッジ用のヘッドアンプを除けば、ノイズなど聴こえないのが当たり前ですので重要視していませんでした。ところが弊社のプリアンプを購入された方からよくアンプのSN比が良いといわれるので、調べてみると市販のアンプのSN比の表示には故意に良く見せかけているものや、電子工学的に考えて理解できないものがあることがわかりましたので、ここで少し解説してみたいと思います。本来トランジスタアンプにおいては(EQアンプヘッドアンプを除き)実用上問題にならないため、性能として議論する必要も無いのですが、逆にこの辺を理解しておくとカタログのスペックを見ればアンプの弱点やメーカーがどういう態度で接しているかが推測できます(誇大広告を見破ることができます)。

 

SN比の定義

 

SN比の定義そのものは簡単です。信号(S)とノイズ(N)の比を対数で表します。
・ SN比=20LOG(S/N)
SとNの単位はVoltです。対数は底が10になります。例えばSN比80dBで1万倍になります。ただ信号とノイズの設定値、測定法によって20-40dB位差が出てきますので、実際にはアンプの性能を表しているよりも、どれだけ良く見せたいか(良く見せなければいけないか)を表していることが多いのです。それでは実際に各種の測定法を見ていきましょう。

 

ノイズの測定方法

 

SN比の測定結果を議論するためにまず残留ノイズを測定します。ノイズの測定自体は簡単です。アンプの出力に電子電圧計をつなぐだけです。アンプ入力は通常ショートしておきます。オーディオアナライザを使用する場合はアンプの出力をアナライザーの入力に入れ、アナライザーの出力をアンプ入力に接続します。SN測定時はアナライザーの発振器出力がゼロになり実質的にアンプを600Ωで短絡した状態で残留ノイズを測定します。ただ残留ノイズ(SN比)測定時には以下の2点に注意する必要があります。
・測定時のフィルターの有無
・測定系(電子電圧計)の帯域幅B(周波数特性)。SN比の測定にフィルターをかけることはオーディオに詳しい方ならご存知かと思いますが、実は測定器の帯域幅も大いに関係します。一般にアンプのノイズのスペクトルはハムを除けば(半導体アンプではハムが無いのが当たり前なので)、ノイズ電圧として測定されるのはホワイトノイズ成分です。すなわちすべての周波数で一定の振幅のノイズがランダムに発生していると考えて良いのです。測定系の帯域が広ければ広いほどノイズ成分は大きく測定されます。具体的には抵抗から発生する熱雑音(ホワイトノイズ)は以下の式で表されます。
Vn=√(4kTBR)
ホワイトノイズは(4KTBR)のルートに比例します。Kはボルツマン定数、Tは絶対温度、Rは抵抗値、Bが測定系の帯域幅です。アンプで使用している抵抗の値が100倍になればノイズは10倍に、測定している電圧計の帯域が100倍になればノイズは10倍になります。電子電圧計の帯域は通常数MHzオーディオアナライザーの電圧計部帯域も500KHz(VP-7723A)なので、たいして変わらないのですが、問題は意図的に20KHz以上をカットして測定している(表示している)ケースがあることです。その場合はSN比が15-20d位良く見えてしまいます。

 

残留ノイズの実測値

 

次に実際にアンプの残留ノイズの測定結果を見てみましょう。測定に使用したのは弊社のフラットアンプを検査用のケース(プリアンプとほぼ同じ)に収めたものです。測定にはオーディオアナライザーVP7723A(各種フィルターを内蔵している)を使用しています。アンプの入力はショートしています。

測定条件 測定値 コメント
フィルターなし 23.7uV Flat、Unweightedと同じです(B=500KHz)
フィルターA
IHF-A
3.9uV かなり小さくなります
20-20KHz 4.9uV これもかなり小さくなります
(実際には20KHz以上のみカットしています)

 

当然の事ながら20KHzまでに帯域を制限したものはノイズがかなり小さく測定されています。
次にこれらの測定結果を元にSN比を色々な表現方法で表記してみましょう。

 

整理番号/SN比 信号レベル ノイズレベル コメント
①92.5dB 1V 23.7uV フィルターなし、標準的かつ最も悪く見える表示法
②108.2dB 1V 3.9uV IHF-A、これも良く使われる表示です
③106.2dB 1V 4.9uV 20-20KHz,海外製品に良く使用されている表示
(一見フィルターを使っていないかの様に見せる高等テク?)
④118.5dB 20V 23.7uV フィルターなし、最大出力を基準にしたSN表示
⑤134.2dB 20V 3.9uV IHF-A、最大出力を基準にしたSN。表示最も良い数字になる
⑥132.2dB 20V 4.9uV 20-20KHz,最大出力を基準にしたSN。最も誤解を招きやすい表示

①から③は出力レベルを1VとしてSN比を算出したもので、この様に出力1-2Vを基準としてSN比を表示するのが一般的でした。ところが最近、特に海外製品、あるいは国内製の一部に最大出力を基準としてSN比を表示している(あるいはそうとしか思えない)例があります。たとえば弊社のフラットアンプの最大出力は20Vrmsですから、単純に1と20Vの比である26dB分良くなることになります(④-⑥)。

このような表示が使われるようになった理由として以下の2点が考えられます。
・特に高価な価格設定をしているために、スペックを他の製品より良く見せたい。
・LCD表示、デジタル制御を使用して実際のSNが悪くなっているので見劣りしない様に甘い条件を使用している。

①と⑥の表示では同じアンプでも実に40dBの差が生じてしまいます。こういった裏技を使えば例えば実力50dBのアンプでも90dBと表示できるのです。また条件の表示の無いSN比はまったく意味が無いのですが、実際のカタログの半分ぐらいは条件が特定できないようです。

 

最も悪質と思っているのが③もしくは⑥の表示でカタログなどには「Unweighted/20-20KHz」などと条件が表記されています。周波数特性のあるフィルターを使用していないのでUnweightedという表記は正しいのですが20-20KHzという条件がフィルタリングしていることを意味していますので紛らわしいのです。20-20KHzという条件は可聴帯域を表しているので一見当たり前に見えますが、これまでに述べた様に15dB位稼げるテクニックです。 Unweightedと併記しているところが非常にいやらしいです。不動産広告で言えば「駅から車で5分」のところを「徒歩圏内/駅から5分」と書いていいるようなものです。

 

終わりに

以上SN 比について解説しました。カタログを見る際にはこういった知識を持ってみると、製品の実力もより正確につかめる様になりますし、メーカーあるいは販売店の姿勢といったものが見えてくると思います。

オーディオ製品のカタログスペックの見方

オーディオ製品を選ぶ際の参考にするものの一つとして製品の性能があると思います。もちろんいまどきのオーディオアンプの電気的性能は十分なものがほとんどですし、カタログの性能から音質が判断できるものではないかもしれません。ただカタログの性能値も良く見てみると、メーカーの製品や販売に対する姿勢だとか、製品の品質・性格も結構見えてくる部分があります。今後カタログ性能の見方というものを一つ一つ解説していきたいと思いますが、まず最初にもっと基本的な事項について考えて見たいと思います。

カタログ性能の見かたについて考える以前に、そもそもその土俵に上がらない様な製品があります。

(1)製品の性能(実測値又は保証値)が明記されていないもの
(2)性能にみせて実はシミュレーション値や模式図を掲載しているもの
(3)(小さすぎて)測定不能などと意味不明な事を記載しているもの

そんな製品があるのかといえば結構あるのです。特に海外製品ですとか割と高価な製品に多いと思います。通常オーディオメーカーの製品でしたら必ずカタログの後ろに性能が掲載されていますが、そういった具体的記載が一切無いのです。その代わりに、歪が発生しない回路を採用しているとうたわれていたり、シミュレーション値とか特性の模式図みたいなものを掲載してごまかしている様に見えます。アンプなどはシミュレーションの精度も良く、シミュレーションでほとんどの特性は計算可能ですが、実際にアンプなどを製作してみると、計算どおりにいかずに苦労することが多いのも事実です。(3)の測定不能などという記載はそもそも測定器すら持っていないのではないかと思います。

オーディオ製品の音質は単純な周波数特性や歪率特性で決まるものではなくとも、最低限のスペックを満たす必要はあります。それが記載できないというのはそもそも良いアンプを開発する基本的な能力が無いか、良いものを提供しようという姿勢が無いメーカーなのではないかと疑りたくなってしまいます。

今後カタログスペックに見られる「性能を良く見せているテクニック」について具体的に述べていきたいと思います。

電流増幅アンプと電圧増幅アンプ

最近のオーディオアンプのカタログをご覧になった方なら、「電流増幅アンプなので周波数特性に優れています・・・」という文言を目にした事があるかと思います。確かにその通りなのですが、その優れているはずの周波数特性もカタログを見ると、せいぜい200~300KHzどまりで、弊社の電圧増幅アンプのわずか数十分の1でしかありません。オーディオ用のアンプは音質を競うもので、周波数特性が良ければいいというものではないかもしれませんが、この事実は以下の様な意味があると思うのです。

・オーディオアンプメーカーに電流増幅アンプのよさを引き出した製品をつくる技術力が本当にあるのか疑問に思える。
・電流増幅アンプ・・云々というのはただの宣伝文句で、実際には性能は良くないことからして、他の部分の技術(音質)優位性に関しても本当かどうかはなはだうかがわしい。
・カタログにうたっているこの様な矛盾を指摘する(できる)人はオーディオ業界にほとんどいない。

もともと電流増幅アンプはOPアンプを特に高ゲインで動作させた時に高域の特性がゲインと反比例して落ちるのを抑制するのに絶大な威力を発揮したのですが、通常のプリアンプなどではゲインはせいぜい20dB程度ですから高域特性がたいして犠牲になっている状況ではないのです。イコライザアンプの様に比較的ゲインの大きいアンプでは有効かもしれませんが、フラットアンプで採用しなければいけない必然性はありません。

オーディオ製品にはこういった能書きだけで実は良くないという事項がたくさんあります。メーカーの能書きにだまされないように、使用者側のレベルももっと向上しなくてはいけないのではないかと思うのです。

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