オーディオと音楽を結ぶ本   -から考えてみました-

前のブログで音の歪感を表すのに不協和度という考え方があり、その方がアンプのひずみ特性を表すのに適しているという様な事を述べました。

通常、アンプの歪率は基本波の高調波成分で表すことができるので、不協和に相当する成分(非高調波成分)はないのではないかと思われるかもしれません。
ところが実際にアンプの歪み率を詳細に調べてみると非高調波成分は存在します。ここで最も音の悪いアンプの代表として安物のAVアンプの特性を見てみましょう。

この図は実売価格5万円位のAVアンプの10KHzの歪み成分のFFTスペクトルです。10KHzをAVアンプに入力し、プリアンプ出力から出た信号を高調波歪み率計で基本波を除去したのち、デジタルオシロでFFTスペクトルを取ったものです。10KHzを使用する理由は高調波歪が増加する周波数なので分析しやすいからです。

10KHzに見えるスペクトルはハム成分10.05KHzのスペクトルです。グラフの罫線上にあるのが高調波ひずみ(2次、3次・・・・)です。この場合特に3次の高調波歪が多くでていることがわかります。ただよく見ると4次と5次の間、5次と6次の間にもスペクトルがあるのがわかります。これが不協和に相当する成分です。
これだけだと測定系の歪み成分と思われるかもしれないので、お手本のアンプの同じスペクトルをお見せします。それはこちら。
DCP-EF-105ATTの高調波歪みのFFTスペクトル

手前味噌ですみませんが、弊社のプリアンプの高調波ひずみのFFTスペクトルです。まず、ハム成分が少ないので10.05KHzの成分がほとんどありません。それと全体にわたってベースライン(基底線)が非常に低い事がわかります。これはSNが良い事を表しています。高調波歪みもほとんど有りません。不協和成分もほとんど検出されません。

ちなみに普通のプリアンプはどの様なスペクトルかというと、
オーディオ用プリメインアンプのプリ部の高調波スペクトル

こんな感じです。丁度AVアンプと弊社のプリアンプの中間くらいのスペクトルです。やはり不協和成分に相当する成分も多少出ています。

これらの3つのスペクトルの結果は聴感上の印象とも相関があり、有益なものです。ただ常時スペクトルを取って比較するのはたいへんなので、通常の最適化の際などは単に高調波歪みをとれば十分だと思います。

以上、不協和度という概念を紹介した本から話を膨らませてみました。

オーディオと音楽を結ぶ本   -ためになります-

久しぶりにオーディオ関連の本を紹介します。
オーディオ関連というより音楽と聴覚の本というべきでしょうが、オーディオ機器にとっても、大変参考になります。

その本は「音律と音階の科学」小方厚著、講談社 ブルーパックス
という本です。

この本はピアノなどの調律(純正律、平均律etc.)等について、あるいはどの様にドレミが誕生したのかが書かれているのですが、その中にオーディオ的に面白い記述があるのです。

人間が不快に感じる2重音(2つの周波数の純音)として不協和という概念が説明されています。この不協和という概念は、オーディオ機器で通常用いる高調波歪率よりも聴感上の歪率と相関が高い指標だと思うのです。

例えば
・真空管アンプとトランジスタアンプで歪んだと感じるひずみ率は1桁程度違う
・歪むと感じるのはなぜか高域で、低域はあまり歪んだと感じない
・そもそも楽器や自然音は高調波から構成されているのに、高調波が1%増えただけで不快に思うのはなぜか。ドミソドの4和音で高い方のドの音(低い方のドの音の2倍の周波数)を1%強く弾いても不快にならないのに。
などに説明がつく(かもしれない)。

もちろん、本書はオーディオについて書かれているわけではないので、上記のオーディオ的考察は私が勝手に拡張しているだけですが。

また著者は研究者なので音楽関連の内容にもかかわらず、非常に読みやすかったです(といっても音律という話は結構ややっこしい話なのですが)。

この本で紹介されている内容に不協和度という概念があります。人間が不快と思う2音(二つの正弦波音)の関係は次の様な関係があるそうです。
不協和度曲線不協和度曲線
不協和度というのは一般の人が不快と思う割合です。2,3,4倍の整数倍では不快と思わないが、その他の割り切れないところでは調和しないので不快に思う傾向があります。特に2音が比較的近い周波数のとき1.08倍くらいの比率のときに一番不快と感じる割合(不協和度)が大きくなるのです。

一般にアンプの高調波ひずみというのは電気的に測定しやすいので指標として測定しているだけで、人が歪んでいると感じる度合いと比例する保証はありません。
一方この不協和度という尺度は反対に人間の生理現象に基づく指標なので、聴感上のひずみ率としてはこちらの方が望ましいのです。ただし不協和度を測定するのは難しいので、これから不協和度をひずみ率の測定しましょうなどと提案するつもりはありませんが。

本の内容はもっぱら音律の方に内容が割かれています。とはいえ一度読んでおくとオーディオの参考になる本だと思います。

2011年/新年のご挨拶

新年明けましておめでとうございます。

もうお正月気分も抜け始めた頃かと思います。

今年も頑張ります。
昨年は新製品はDAコンバーターだけでした(これは大物だったので・・・・)。
今年もユニークな製品をがんがん出したいと思っていますのでよろしくお願いします。

実はと言うか、仕込んでいるネタはたくさんあるのです。
まず最初は電源関連で新製品を出しますので、もう少々お待ち下さい。

そうそう、それから1/10までセレクターHASシリーズのセールをやっていますのでこちらの方もよろしくお願いします。

オーディオデザインの行く年来る年

今年もあっという間でした。

進歩した様でしない様な・・・・確実に言える事は、年年時間が経つのが早くなっている様に感じる事です。最後の締めくくりとしてオーディオ製品を作る立場から今年一年を振り返ってみたいと思います。

とにかく年々(弊社の規模では)オーディオ機器が作りにくくなっています

よくテレビで今年なくなられた芸能人みたいな特集をやっていますが、他人事ではありません、今年もたくさんの部品が亡くなってしまいました。

逝ってしまったもの2010

?.コンデンサ編
1. APSコンデンサ

よく秋葉原などでも見かける、オレンジ色のにくい奴、ではなくオレンジ色のかわいい奴だ。このコンデンサは誘電体がポリプロピレンでコンデンサの中でも最上位の品質なんです。その割りに安価で、綺麗で、入手もしやすかった(1袋200個位であらゆる値が即納だった)。プリアンプにもパワーアンプにも、そしてDAコンバーターにも使用していたのだが・・・・。
ニッセイ電機という会社の製品だったのですが2010年残念ながら倒産してしまいましたった。もともと負債は多かったが不思議と回っていた会社だったそうだが、何でもきっかけは中国工場の労働争議だったらしい。

コンデンサは品種がやたらと多い(電圧と値と精度の掛け算になるので)割りに単価が安く、特に日本の様に物を自国で作らなくなってくると、卸業者もいなくなるので、どんどん入手しにくくなってくる。

2. OSコン
電解コンデンサよりも低インピーダンスでタンタルコンデンサよりも安いのでオーディオ製品にも広く使用されてきたが、導電性ポリマーやらなんチャラと最近では類似品、改良品のたぐいがたくさん出てきました。長く親しんで事もありちょっとさびしいが、これは代替品がたくさんあるのでそう痛くはありません。

3. あるコンデンサの代理店の話
(脳みそが電解液か?)

コンデンサが廃盤になったわけではないのだけれど、コンデンサにまつわる話をひとつ。パワーアンプには巨大な電解コンデンサを使用しているのですが当然の事ながら高価です。もう何度も注文してきましたが、あるとき、価格が約2倍になるという連絡をもらいました。注文する先は電子部品の販売をする会社だがそこがコンデンサメーカーに直接発注するわけではなく、間にコンデンサメーカーの直営の代理店が入っています。ですので、価格上昇の話がどうしてなのかよくわからなかったのだが、結局間に入っているメーカー傘下の代理店が最初から見積もり価格のちょんぼをしていて、本来の価格の半分の値段で売ってきたらしい。それが発覚して本来の価格にして下さいというわけです。そうは言っても既に製品化に使用して価格も決定しているのに、その中の高価な部品が2倍になるなんて許されません。間違った張本人の代理店からは何ら連絡も侘びも無く、結論としてはある期間だけ最初に近い価格で注文できる事になった。なので当面の在庫はありますが、在庫分が無くなったら価格改定も考えないといけません。
パワーアンプが安く設定してある理由のひとつにこんなこともあるのでした。


4. 納期はかかるよどこまでも
コンデンサが「おギャー」と言った日

電子部品を調達する先はいろいろあるが、在庫を多量に保有していて、それをWEBで注文できて翌日配送という便利な調達先もある(ただし単価は高いが)。少量・多品種必要なときは利用しているのですが、最近在庫品が少なくなってきた。特にコンデンサがひどい、注文してみると取り寄せになっていたりする。先日もWEB表示では納期1週間となっているコンデンサを注文したら、大部分の部品は翌日配送になっていましたが、一部が後日配送になっていました。納品予定の日にち自体が変な英語表記で見づらいのだが、よくよく見てほんとにたまげました。納品予定が10ヶ月後になっていたのです。

思わず電話をしたら、電話対応の女性がちょっと調べて、「はい、間違いなく10ヵ月後の納品予定です」って言ったのには思わず切れてしまった。10ヵ月後って、普通受け付けないと思うのですが、注文できませんで言うのが普通です、今必要だから注文してるのに「10ヵ月後に届ける予定です」ってありえない回答です。10ヶ月って、赤ちゃんを注文しただ覚えはないのですが・・・・。

この部品に限らず納品が数ヶ月先っているものが増えました。日本で電子機器を作るところが減っているので、どんどん在庫を減らしているのだと思います。いづれにしろ物を作りにくい環境になっている事は間違いありません(おギャー)。

5. コンデンサのオーダーが2000個からに、ギョ!
オーディオ用電解コンデンサにもいろいろありますが、結構市場で人気なのがニチコンのFGシリーズです。この上位機種もあるのですが、FGシリーズは金色でかっこいいので、結局これが売れているのだと思います(そんなもんです)。弊社もプリアンプ、パワーアンプの安定化電源基板の一部に使用しています。FGコンの小型品5,6mmΦはこれまで国内生産で1袋200個くらいで注文できたのですが、これの生産が海外移転され、2000個からのオーダーになるそうです。200個だったら、例えば基板1枚で4つ使用していれば50枚分でそこそこはけるのですが、2000個だとちょっと勝手が違います。小型の電解コンは単価も安いので国内生産ではコストが見合わなくなってきたのだと思いますが、それにしても弊社の生産量では他品種を探した方が現実的ですね。お世話になりました(大型品はこれまでどおりだと思います)。

?. その他の部品
1.トランジスタ -相当の品種の廃版が決まりました-
トランジスタの種類は数万種類はあります。ですので使用されないものはなくなっていくのは当たり前なのですが、最近は結構使用されているトランジスタもどんどんなくなっていきます。オーディオ用なんて産業用としては使われていないに等しい量なので(多分)、ここ1年くらいで容赦なくなくなっていっている気がします。代替品があるからいいじゃないか?と思われるかもしれませんが、最近はシリーズすべてが無くなって、設計変更をせざるをえない状況です。設計変更といっても同性能のものは無く、若干劣化する可能性もあるくらいです。
例えば弊社で使用しているトランジスタ、その特性の一つにCobがあります。これはコレクタとベース間の容量でCobが小さくまた電圧依存性が小さいほど高域の歪が少なくなります。Cobキャンセル回路というのもあるのですが、そういった回路を使用せずに性能を出すのも腕前の一つです。
例えばプリアンプにもパワーアンプにも使用しているこのオーディオ用トランジスタCobが30V以上で一定になります。プリアンプの様に35Vの電源電圧をかけると、少信号領域でCobはほぼ一定になるので超低歪になります。

ついでに言わせていただくと、よく”xx社のyyアンプはzz回路だから、こちらのvvアンプの方が良い”みたいな事をいう方がいますが、回路方式はあくまで型の一つを表しているに過ぎず、部品・動作点の組み合わせでどうにでも変わるので、回路方式だけで、優劣を論じるのはどうかと思います(ハイ)。
脱線しまいたが、この辺のトランジスタも廃版になる事が決まりました。類似品はいろいろあっても、こういった特性まで同等というのはないのです。
この品種だけでなく普通のモールド型のかなりの部分が整理されてきているという感じですね。その分表面実装用のパッケージが増えてきているのだと思いますが、要するにピュアオーディオはもう相手にされていないというか、抱える余裕が半導体メーカーには無いのだと思います。
来年いっぱい注文はできるので、ストックを持つしかないと思いますが、やりにくくなっている事は間違いありません。


2.カップリング

以前はよく秋葉原の店でも見かけた部品、カップリングです。何に使うかといえばボリュームやロータリースイッチの軸を延長する時に使用します。多少角度が変わっても大丈夫なようにスプリング機構があり、白い部分はなんとセラミックです。最近は切り替えもリレーか電子スイッチで行うので、製品に実際に使用されているのは見たことがありません。弊社のプリアンプに使用していますが、このカップリングが廃版になりました。何でもセラミックを焼結させる型が破損してしまったそうで、新規に作るほどの需要も無いのでこれでおしまいということでした。最終的にある量を確保できたので当社で使用する分には困らないのですが、これも時代の流れということで紹介しました。


3.とにかくどんどん無くなって行く

以上主に電子部品について説明しましたが、こればかりではありません。近所のある加工業の会社からも今年(2010年)いっぱいで廃業するという連絡をもらいました。注文が無いわけではないのですが、単価を値切られてもう儲けが無いそうです。丁寧な仕事をしてくれる良い方だったのですが残念です。同業の方は他にいないわけではないので、どうしても困るわけではないのでが、業者によって仕事の質や業務のやり取りの仕方が結構違うので大変といえば大変です。

オーディオ業界が成長産業と思って始めた訳ではないのですが、以前は需要と供給のギャップはあると思っていました。ただ最近は以前に輪を掛けて状況が悪くなっている気がします。加えて部品・製造業・加工業が国内で空洞化してきているので、国内で物を作るのは年々難しくなっていることを痛感します。


時代は変わる、こちらの方も変わらねば

そうは言っても、時代は変わるのは必然なので嘆いていても仕方なく、こちらの方が変わっていかなくてはいけません。例えばモールド型のオーディオ用トランジスタはなくなっても、表面実装用のトランジスタ等は品種が増えているわけですから、そういったものを上手に利用していかなくてはいけません(というよりこちらがそれだけ実装技術という点で遅れていただけなのですが・・・)。
また、部品・加工の面でどうしてもコストアップの外因があるわけですから、その分、効率良く作るようにして性能・品質を維持しながら(あるいは向上させながら)、実質的にコストも下げていかないといけません。

まあ常にというか、いつにもまして来年もいろいろなチャレンジが必要になる事は間違いないでしょう。

それでは皆さん良いお年をお迎え下さい。

CDプレーヤーの音質と特性(3)…..家政婦は分析した…

CDプレーヤーが発生する高周波ノイズについて、音質への影響を述べましたが、ここではさらに高周波ノイズについてさらに詳しく説明します。

一般にCDプレーヤーあるいはDACが発生する高周波ノイズは2種類あります。一つは100KHz近辺のノイズ、もう一つは数十MHz帯のノイズです。まづここでは数十MHz帯の高周波ノイズについてみてみましょう。

これから紹介する高周波ノイズはCDPをPAUSEにした状態で測定したノイズスペクトルです。測定に使用したのはデジタルオシロで、デジタルオシロ上でFFTスペクトルを計算しました。

また以下の図で横軸は0-50MHz、縦軸は-110dBから50dBです。
555-di-pausefft400.jpgCDP−555ESDの高周波ノイズ(全体にまんべんなく出ている、凄い)

SA1-pause50万円のCDPの高周波ノイズ(強烈なピークがあります)

AV600pauseDV-600AVの高周波ノイズ(比較的少なめですがピークあり)

fa0pausefft2-400.jpg DAC-FA0の高周波ノイズ(目だったピークはありません。FA0の測定時期が異なるせいか、線の見え方が異なりますが条件は同じ(はず))
以上の図を比較していただくと、機種間でかなりの差があることがわかります。またスペクトルの特徴として全体のベースライン(基底線)が機種によって異な るほか、特定の周波数でピークのあるものもあります。18MHzと36MHzあたりにピークがあるものが多いようです。また弊社のDACは高周波ノイズが 非常に少ないことがわかります。

ちなみに 一番凄いノイズを発生するCDP−555ESDでも前に紹介したパッシブLPFを通すとこうなります。
555-lpf-pausefft400.jpg CDP−555ESD+パッシブLPFの高周波ノイズ(ノイズがほとんど取れている)

もうノイズはほとんど取れています。
高周波ノイズはもちろん直接聴こえませんが、これだけ高い周波数ですと機器内を飛び回りますし、信号ケーブル、さらに電源ケーブルを通じても伝播している可能性もあります。この様なもともとの信号に無い高周波信号はそもそも制御されたものではないので、その振幅、周波数も変動しやすいわけです。例えば50MHzの高周波信号に例えば0.01%周波数変動(5KHZ)が生じると5KHZの信号として聴こえてしまう可能性もあります(ヘトロダイン効果といいます)。

ですので高周波だから放置して良いというわけではなく、DACの微妙な音のニュアンスにはこの辺も影響していると考えているのです。
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