MOSFETをたくさん並べるバカ

タイトルは高城重躬さん著『オーディオ100バカ』にあやかっています。(特定の個人・団体を馬鹿にする意図はありません)

はじめに

パワーアンプの出力段に用いられるMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)の長所・短所について、独自の視点から詳しく解説します。
特に、見た目の壮観さからMOSFETを多数並列に使う設計が持つ、音質上の大きな落とし穴について警告します。

 

MOSFETの一般的なメリットとその真実

MOSFETは、オーディオアンプの出力段に使用されるバイポーラトランジスタと比較して、以下のメリットが一般的に知られています。

1.優れた直線性(二乗特性):真空管に近い滑らかなリニアリティがあるため、アンプにとって有利だと考えられがちです。

しかし、パワーアンプの出力段は電圧増幅ではなく、主にインピーダンス変換(ゲインがない部分)として使われるため、この直線性のメリットはほとんどありません。また、ほとんどのアンプはNFB(負帰還)をかけるため、歪みが大幅に低減され、FETでもトランジスタでも音質上の差は無くなってしまいます。

2.ON抵抗の低さ:スイッチング素子としての特性が優れており、内部抵抗が非常に小さいため、大電流を流す用途に向いています。

しかしこれもNFBをかけることで内部抵抗が1000分の1、あるいは10000分の1に小さくなるため、トランジスタと比べた優位性はなくなります。
 

つまり、NFBをかけるオーディオアンプの出力段においては、MOSFETがトランジスタに対して持つとされるメリットは実際にはほとんど打ち消されてしまうのです。



オーディオ用MOSFETが抱えるデメリットと課題

一方で、オーディオアンプ設計におけるMOSFETには、実務上の大きな課題が存在します。

供給面のリスク

1.Pチャンネルの特性と非対称性:MOSFETは産業用(モーター制御など)でNチャンネルが多く使われるため、プラス側・マイナス側の両方が必要なオーディオアンプでは、性能の良いPチャンネルの部品が少なく、特性が出にくいという問題があります。

2.製品の廃番リスク:オーディオ用として使えるMOSFETの数はごくわずかで、すぐに廃番になってしまう恐れがあります。そのため、製品を安定供給するためには、メーカー側で何千個もの部品をあらかじめストックしておく必要があり、リスクが大きくなります。
 

音質設計上の最大の欠点:「入力容量の大きさ」

MOSFETの構造は、ゲートとチャンネルの間に酸化膜があるため、本質的にコンデンサと同じ構造を持ちます。

1.入力容量の肥大化:このため、MOSFETは入力容量がバイポーラトランジスタの数十倍から100倍程度(数千ピコファラド)と非常に大きくなります。

2.高域信号の制御困難:この大きな入力容量は、アンプ回路にとって「重たい負荷」となり、高域信号を制御しにくくさせます。これは例えるなら、「自転車の前のカゴに数キロの重りを乗せてハンドルを切る」ようなもので、俊敏な動作が難しくなります。



「MOSFETをたくさん並べること」の落とし穴

MOSFETのメリットを享受しつつ、この入力容量の問題を解決するために、オーディオ用として入力容量を抑えたMOSFET(電流は20A程度)が開発されています。しかし、これを大出力アンプに使う際、以下の問題が発生します。

大電流を稼ぐための並列化:電流を確保するため、MOSFETを多数(例えば16個など)並列に並べる設計になっていまいます。

メリットの相殺:並列に10個も並べてしまうと、せっかく小さくした入力容量が単純に10倍になり、トータルの入力容量は元の重たい状態に戻ってしまいます。

高域特性の劣化:結果として、高域信号の制御が再び困難になり、NFBが綺麗にかからなくなります。これにより高域の歪みが増加し、スルーレート(応答速度)も低下し、高域が詰まったような濁った音になってしまうと考えられます。

これは、アンプの設計を車の運転に例えると、俊敏なハンドリングを持つ「スポーツカー」が、重くてハンドルもブレーキも効かない「ダンプカー」になってしまうようなものです。

放熱のために2個や4個程度の並列化は効果がありますが、10個以上並べる行為は、MOSFETのメリットを自ら打ち消し、音質上のデメリットを引き出す「本末転倒」な行為なのです。

まとめ

結局のところ、アンプの音質は、出力段の部品(MOSFETかトランジスタか)だけで決まるのではなく、トータルな回路設計の性能によって決まります。
そのため、特定の部品や回路形式(「MOSFETだから良い」「A級だから良い」など)といった肩書きだけでアンプを選ぶのは危険であり、設計者の意図と音質へのこだわりを理解することが重要です。


 

本コラムは右のYouTube動画をAIを利用して要約し、加筆・修正したものです。

詳細はYouTube動画もご参照ください。

2025/10/14

パワーアンプのコラム