はじめに
トランジスタの型番を変えて、こちらの方が良い・悪いという議論する方がいますが、これには設計者からすると違和感があります。
というのはトランジスタの本質的な特性は皆同じだからです。
このコラムでは、トランジスタと真空管の特性を比較しながら、オーディオアンプの「音」が何によって決定されるのかを解説します。
トランジスタの本質的な特性はすべて同じ
トランジスタは、ベース・エミッタ間に電圧がかかると、指数関数的に出力電流が増加するという特性を持っています。
この特性は量子論的に決定されるため、どの型番のトランジスタであっても、その本質的な入出力特性はすべて同じです。
これは、入力電圧に対して出力電流が一定の割合で増加しない、つまり「直線性が非常に悪い」ことを意味します。
歪み率に換算すると約20%にもなるほどです。
真空管との根本的な違い
・トランジスタ
トランジスタアンプでは、この悪い直線性を補うために、大量のNFB(負帰還)をかけるのが一般的です。NFBによって、トランジスタが持つ約20%の歪みを1/1000〜1/10000程度にまで低減し、超低歪みを実現しています。
つまり、トランジスタアンプの音は個々のトランジスタが持つ「素の音」ではなく、アンプ回路全体でその特性を打ち消す(NFB)という設計手法、いわば「超厚化粧」によって作り上げられているのです。
・真空管
対照的に、真空管は元々トランジスタよりも直線性が比較的良い(入力電圧の1.5乗程度に比例)特性を持っています。
また、真空管アンプは出力トランスの制約などから大量のNFBをかけることが難しく、その結果、出力管(例:300B)固有の音色が強く反映されます。
このため、真空管アンプでは「出力管」が音の決め手となり、アンプ名になることが多いですが、トランジスタアンプではそのような「特定デバイスへの依存性」は極めて低いのです。
| トランジスタ | 真空管 | |
|---|---|---|
| 直線性(単体) | 極めて悪い(歪み率約20%) | 比較的良い(歪み率数%) |
| 入出力特性 | 指数関数的(物理法則で一律) | 1.5乗則に近く、電極構造で多少変化 |
| 音の決め手 | アンプ全体の総合設計 | 出力管の特性に大きく依存 |
| 歪みの処理 | 大量のNFB(負帰還)をかけて補正(超厚化粧) | 少量・軽度なNFBに留まることが多い |
トランジスタは真空管としばしば比較されるが、特性は大きく異なる
トランジスタの音は「総合特性の結果」で決まる
トランジスタアンプにおいて、トランジスタの型番を変えて音が変わったと感じることが実際はあるかもしれませんが、それはトランジスタ固有の音ではなく、総合的な設計特性によるものなのです。
先に述べた通り、基本的な入出力特性は指数関数で決まるため、どのトランジスタを使っても音の「本質的な癖」はないと言えます。
ではトランジスタを変えた際に感じる音の違いとは何なのか。
主にデバイス固有の内部抵抗や内部容量、あるいは電流増幅率のわずかな違いが、アンプ全体の回路(特にNFBや位相補正)と相互作用した結果です。
トランジスタアンプの「音」は、あくまでアンプ設計者がトランジスタを使って実現した総合特性の結果であり、特定のトランジスタが単体で「良い音」を出すわけではないのです。
まとめ
特定のトランジスタの音を語ることは、例えるなら、自動車のサスペンションのアーム単体を指して「このアームが最高に走りを良くしているんだ」と語ることに似ています 。
実際には、アーム(トランジスタ)が良くても、ダンパーやスプリングなどを含めたサスペンション全体の総合的な設計が車の乗り心地や走行性能を決定します。
オーディオアンプにおいても、トランジスタという部品単体ではなく、それを使用したアンプ全体の設計(特にNFBや位相補正を含む調整)が音を決定するということが、設計の立場からの見解です。
本コラムは右のYouTube動画をAIを利用して要約し、加筆・修正したものです。
詳細はYouTube動画もご参照ください。