ヘッドホンの知られざる秘密 ―のぞき見すると見えてくる―

プロローグ

ヘッドホンの宣伝文句でよく「大口径ユニットで低音が出る」などと謳っていますが、これはスピーカーの話と錯覚した大嘘、大口径のメリットなんてありません。

大口径ユニットでは低音が豊かにならない

ヘッドホンとスピーカーでは駆動ユニットの原理こそ同じものの、その挙動は結構違います。ただ、ちまたではユーザーもメーカーもその辺を勘違いした例が多く見られます。

前に述べましたが、「ヘッドホンのダンピングファクターが・・・」というのが間違った俗説として西の正横綱なら、東の正横綱は「大口径ユニットで低音が豊か」とかいう文言でしょう。大口径にして低音が豊かになったと感じたなら、それは口径が大きくて低音が出ているのではなく、高音が潰れてしまっているだけと考えるのが筋です。って、どういうこと?

大口径ユニットでは高音域が乱れる

例えば40mmの大口径(?)ユニットを使用したヘッドホンがあったとして、まずどんなことが予想されるでしょうか?低音が良く出るんじゃないかと思われるかも知れませんが、私は高音域が相当乱れるんじゃないかと心配になります。

何故かと言うと、最高域の10kHzの波長は330(m/s)/10k(/s)で33mmです。約17mmで半波長になるのでユニットの周辺部から出た音と中心から出た音が打ち消し合ってしまいます。ヘッドホンの周波数特性を測ると10kHz近辺の周波数性がかなり乱れていますが、この原因のひとつはユニット周辺部からでた音と中心から出た音が干渉するからです。

HP-kaisetu

大口径ユニットでは高域が干渉する

 

 

 

 

実際のヘッドホンではこの現象を緩和するために、ユニットの振動板の前にある保護板にイコライザーの機能を持たせています。丁度スピーカーシステムのツイーター前面にイコライザーが付いていましたが、これと同じ原理で保護板には工夫が凝らされています。この辺が各社各様での腕の見せどころなのです。

 

実際の保護板の構造が腕のみせどころ

それではヘッドホンの保護板の形を見てみましょう。

ゼンハイザーHD-595

中心付近の比較的小さな穴から直接振動板の音が届くようになっています。中心にイコライザーとして機能する形状のリングもあります。白い部分はパルプの様な材質で中低域は透過してくる構造です。高域が聴き易いのもうなずける構造です。

HD595HD595in

AKG K-701

振動板全体からほぼ直接音が来る構造です。中心付近の山形の保護板部がやはりイコライザー的な働きをしそうです。写真では見にくいのですが、振動板がドームとドーナツリングを組み合わせた様な構造でユニークです。

K702K701in

 

 

 

 

 

 

ウルトラゾーン Pro750

極めてユニークな構造です。まずユニット位置を中心からずらして配置しています。振動板と保護板は金属製で(音がキンキンする訳です)、透過穴は径の異なる円を非対称に配置しています。わざと位相を回転させて頭外定位を狙った構造です。

750750in

 

 

 

 

 

この様にその手法は様々ですが、各社趣向を凝らしています。ドライバーユニットの口径の大きさを謳い文句にしているメーカーのヘッドホンは逆にこの辺の工夫が全く無く(ひょっとしたらそういう認識もない)大丈夫かと心配になるくらいです。ヘッドホンに凝るのでしたら、この辺も探ってみると面白いかもしれません。

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イヤホン・ヘッドホンの駆動に必要なアンプ特性

スピーカーを鳴らすためのパワーアンプを設計する際は必要な出力と電流は比較的簡単に求まります。按ぜならスピーカーのインピーダンスはだいたい8オームと相場はきまっていて、能率も90dB/w位なので部屋の大きさや、聞く音量が決まれば大体検討はすぐにつくからです。

ところがイヤホン・ヘッドホンの場合はインピーダンスもまちまち、能率もバラバラでいったいどのくらいの出力電圧と電流があればいいのかよくわかりません。据置型のヘッドホンアンプの場合は余裕をもって設計すればいいだけの話なのですが、携帯型のイヤホン・ヘッドホンアンプの場合数々の制約があるので簡単ではありません。そこで、イヤホン・ヘッドホンアンプに要求されるアンプ特性を詳しく調べてみました。
まず市販のイヤホンのヘッドホンアンプを能率とインピーダンスの関数としてプロットしてみました。

Fig-Sen-Imp

このとおり結構広く分布しています。
このグラフにさらに110dBという爆音をだすのに必要なアンプの駆動電圧を計算して描いてみたのが下の図です。

Fig-Sen-Imp-V

算出方法は別途どこかで解説しますが、意外と低電圧で結構な音量がとれることがわかります。1Vでほとんどのイヤホン、ヘッドホンは駆動できます。また2Vもあればほぼすべてのヘッドホンがカバーできるのです。意外と必要電圧は低かったというのが感想です。

今度は同じく110dBの音圧を得るのに必要な駆動電流を計算して描いてみたのがこちらの図になります。
Fig-Sen-Imp-I

あらら、今度は結構衝撃的です。なんと50mAも必要です。50mAというのはrms表示ですから瞬間的には70mAは綺麗に流れないとすべてのヘッドホンは駆動できないのです。ヘッドホンだけでなくイヤホンでも低能率のものはこのくらいの電流が必要です。この電流値は普通の電圧増幅回路にとってはとっても大変な数値で、やっぱりちょっとしたパワーアンプ並の構成が必要だということですね。
ステレオで140mA・・・・結構な値です。

イヤホンの周波数特性を測ってみました

画像

以前にヘッドホンの周波数特性を測ってみましたが、今回はいくつかのイヤホンの特性を測ってみました。

測定には以前からスピーカーの周波数特性などを測定する際に使用しているMyspeakerというシェアウェアソフトです(無料でも一応使用可です)。

イヤホンの測定手順は次のとおりです。

1. 小型マイクを準備する。
直径5mmmのエレクトリックコンデンサマイクユニットを買ってきて簡単な回路を組みました。
2. 耳の内耳と類似したカップリングを準備する。
今回は厚さ2cmの硬質ウレタン(?)の様な材料にドリルで穴をあけて使用しました。
マイク側は5mmΦイヤホン側は10mmΦの穴を開けて、両側からマイクとイヤホンを差し込み空気が漏れないようにしました。マイクとイヤホンの距離は7mm位になります。
3. 測定する
PCにマイク、イヤホンを直接挿入してMyspeakerで音出し、測定を行いました。
今回は通常の周波数特性の他に累積スペクトル特性、歪率なども一部測定しました。

以上は2013年秋のヘッドホン祭りで使用した機材と同じです。

測定したイヤホンは次のとおりです。
最近サンプルとして、いくつかイヤホンを購入しました。
イヤホンを常用しているわけではないので、安めのものですがご容赦下さい。

AKG  IP2
panasonic RP-HJF3(コンビニで売っていた1000円位のもの)
Audio-technica ATH-CK323
Sony XBA-C10
SONY 小型スマホ(SO-3C)付属品

最後のものは携帯の付属品ですのが悪い代表(?)として測定してみました。

グラフが小さめですがクリックすると拡大します。

AKG  IP2
IP2-L-SinSweep周波数特性

中低域はフラット、何故かこれだけ8KHzあたりに鋭いピークがありますが、それを除けば高域がややおとなしめです。聴感上はちょうど良く大人の味付けです。スピーカーを聞いている帯域バランスに近く非常にバランスの良い音に聞こえます。8KHzの鋭いピークは聴感上はわかりません。

IP2-L-Distortion歪率特性
歪率は全体域で40-50dB程低く非常に優秀です。

IP2-L-Accumulate累積スペクトラム
高域のピークのところで尾を引いていますがそれ以外は優秀です。

Sony XBA-C10
XBA-C10L-SinSweep
このイヤホンの周波数特性は驚異的にフラットです。バランスド・アーマチュア(BA)型だからでしょうか?

XBA-C10L-Distortion
残念ながら歪率は非常に悪いのです。このイヤホンはBA型としては異常に安いので、これがBA型として一般的かどうか判断出来ません。

XBA-C10L-Accumulate
歪率だけでなく、立ち下がり特性も非常に悪いのです。
音質は不思議な音で良いのか悪いのかよくわかりません。

Audio-technica ATH-CK323
ATL-SinSweep
3KHzくらいにピークがありますが、低域も盛り上がっています。いわゆるドンシャリでしょうか?音もそのような音ではっきりとは聴こえるのですが、聴いていてちょっと疲れます。ただこのイヤホンはトーンコントロールで高域を抑えてやると、非常にバランスが良くなり、解像度も抜群で素晴らしい音質になります。

ATL2-Distortion
歪率特性は標準的だと思います。
ATL-Accumulate
累積スペクトラムも普通です。


panasonic RP-HJF3

PanaR-WhiteNoise
安物なので悪いかとおもいきや、結構良いのがイヤホンの怖いところですね。全体的にフラットな方で悪くありません。

PanaR-Distortion
これも上出来です。

PanaR-Accumulate
これもよいです。

SONY 小型スマホ(SO-3C)付属品
EricsonR2-WhiteNoise
安物のイヤホンが良かったのでもっと悪いものはないかと、参考までに測ってみました。さすがに携帯の付属品は特性が良くないです。全体的にこもる感じでしょうか。

EricsonR-Distortion

EricsonR-Accumulate

以上手持ちのイヤホンを測定してみました。
測定方法で特にイヤホンとマイクのカップリングにも問題があるかもしれませんので、あくまで参考データとして見て下さい。これを持って優劣を議論するのは早すぎます。
今後もう少し測定精度は詰めてみたいと思います。
それと、今後ヘッドホン、スピーカーなどとも比べて見たいと思います。

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