あるES9038を使用したDACが研究材料として面白い

海外のサイトで販売しているES9038を使用したDAコンバーターを入手したのですが、これが研究材料として非常に面白いので紹介します。

ES9038を使用した最新最高性能のDAコンバーター?

ESS社のDACチップの最高峰のES9038Pro を使用しています。聴いてみると、音質も非常にいいと思います。繊細ながら押し出しの強さも合って、このDAコンバーターの購入者の評価がほとんど満点に近いのも頷けます。

同じチップを使用した大手メーカーの非常に売れている、二十数万円のDAコンバーターを試聴したことがありますが、それよりもずっと良いです。その大手メーカーのDACは貧弱な弱々しい音で、どこが良いのかわからないような音でした(それでも市場の評判はとてもいいようですが)。

この、海外サイトのDAコンバーターが音が良いのに何故面白いかというと、特性は良くないのです。このDAコンバーターはおそらく、この手の製品に精通した人が作っていて、その人はかなり技術のある人だと思います(ずぶの素人ではありません)。作りも多少外観に雑なところはありますが、基板の造りなどはプロ顔負けで、かなりいいです。

このDACのおかしいところ

1. 最大入力で振り切れている

このDACのおかしいところは、なんと最大入力SPDIFの0dB入力で振り切れています。これだけ振り切れていれば、聴いておかしいと気づくだろうと思われるかもしれませんが、意外とわからないのです。CDなどの音源も0dB付近まで信号が録音されているものはまれなので、普通のソースでは意外と気づかないのです。このDACの製作者はSPDIFの信号発生器を持っていないのだと思います。

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2. ジッター(?)の悪影響がひどい、ジッターというレベルではない

左の図は1kHzのスペクトル波形です。3kHzで-100dBのTHDがあり、このクラスのDACとしては一桁高いレベルです。

このDACはES9038のマニュアルに記載されている通り、OPアンプでIVコンバーターを形成しているのですが、このチップではOPアンプを使用すると、必ず歪が盛大に発生します。おそらくESSの設計者は(多分アナログのことは全くわからないので)そのことに気づいていない可能性すらあると思います。

それよりも気になるのは1kHz近辺の裾野のピークで、これだけはっきり見えるのは珍しいです。

10kHz の信号に切り替えて、そのスペクトルの裾のを見たのが次の図です。ちょうど100Hz間隔でピークがあります。前の図で確認してほしいのですが、この100Hz間隔のスペクトルはハムではありません。前の図で100Hz由来の成分は皆無ですから。

勘違いしないでいただきたいのですが、ジッター測定でよくある11.025kHz+1bitの元波形(原理的に一定間隔でピークが出る)ではなく、10kHzのサイン波形そのもののデジタル入力でこの裾野が出ていることです。ジッターというのはクロックのジッター成分そのものがアナログ信号出力に現れるとされているので、このクロックのジッター成分が100Hzであることを示唆しています。ただクロックのジッター成分が主に100Hzというのは聞いたことがありません。

3. その原因が水晶発振器のジッターというよりも、クロックの振幅の乱れから来ている

そのES9038に供給されているクロックの波形がこちらです。振幅の安定性を見てもら

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うために、わざと長時間の観察にしてあります。これを見てもらうと明らかなように、振幅がかなり荒れています。100Hzのジッター成分はクロックの周波数のゆらぎから来ているのではなく、振幅のゆらぎから来ているようです。

いい忘れましたが、このDACは超低ジッタークロックオプションを選択しています。市販品の中でも特別なクロックを搭載しているのです。折角そういったクロックを搭載しても、クロックの電源周りが貧弱だと性能が発揮されないということだとだと思います。

とはいえこのDACは普通の市販DACよりもかなり音がいいのですから、面白いものです。

DVD-Audioが生き返りました ハイレゾの時代にこそ、この方式

DVD-Audioは終わってしまったが

DVDAudioは一時CD以上のサンプリング周波数、ビット深度が再生できるフォーマットとして開発されましたが、ほとんど普及しませんでした。その後ハイレゾが普及し、DVD-Audioの出る幕はなく終わってしまいました

しかしながら今になって考えるとDVD-AudioはCDのような操作性で、円盤のメディアでハイレゾが聞けるのですからとても魅力的な方式です。当時のDVD-Audioソフトは高価でかつ音源が元々良くないか、変に加工してしまっていて、とても買う価値はありませんでした。また好みのD/Aコンバーターに接続しようとしてもデジタルアウトが48kHzに制限されていたのでDVD-Audioの意味が有りませんでした。

 

 

 

 

ハイレゾ再生が面倒なときもある

今ではハイレゾが当たり前のように普及していますが、音源がファイル形式でハードディスクに保存されているので、パソコンなどを立ち上げるのは面倒なときもありますし、操作性を求めるならNASなどを構築する必要がありました。

DVD-Audioはハイレゾの時代にこそ使えるソフト

最近、はっと気づいたのですが、DVD-Audioは自分でDVD-Audioソフトを制作すると、サンプリング周波数のリミットは掛からないので、96/192kHzでSPDIF信号を出力できます。手持ちのハイレゾ音源をDVD-Rに焼けばDVDメディアで、まるでCDのような操作性になるのです。DVD-Audioを焼くには専用ソフトが必要で、それがネックかもしれませんが、わたしはDigOnAudio2というDVD-Audio用の制作ソフトをもっているので問題有りません。

DVD-AudioはほとんどのDVDプレーヤーで再生できますが、私は東芝のSD-9500という昔のDVDプレーヤーのハイエンド機を持っているので、これで再生できます。これからハイレゾ音源をDVD-Audioに焼いてちょい聞きのときはこれでハイレゾを再生しようかと考えています。

HDCD再生にもDVD-Audio

もう一つのメリットはHDCD方式のCD(隠しコードで20bitの情報が入ったCD)をHDCDデコーダーを通してPCに保存し、DVD-Audioに焼けばHDCDデコーダーを持たないDVDプレーヤーで20bit(フォーマットは24bit)分の情報量(HDCDフォーマット)で聞けることです。私はReferenceRecordingsHDCD形式のCDが結構好きなので、HDCD形式で聞けるというのは非常にありがたいことなのです。

今はブルーレイオーディオの時代なのでBRオーディオで同じことができるかもしれません。BRオーディオの方は焼き付けるソフトがフリーでたくさん出ているようです。

 

 

 

パイオニアのstellanova/ステラノバがヒョンなことから(ほぼ)完璧に(思えば遠くに来たもんだ)

パイオニアのstellanova/ステラノバの製品を以前に紹介しました。これはハイレゾ音源のワイヤレス受信機?みたいなもので、手持ちのUSB-DACをワイヤレス化できるという優れものです。下手にUSBケーブルを伸ばすよりも音質的には良くて、価格も安く(2万円位)とても良い製品なのです。

もちろんハイレゾも圧縮せずにリアルタイムで送信・再生できます。

ただ、検討してみてどうしてもだめなことがありました。音がプツプツと時々途切れるのです。メーカーの説明書にはメモリーバッファのサイズを大きくしてみてとか、使用するWIFIのチャンネル(5GHz帯)を変えてみて、とかヒントがあったので試したのですが、どうしてもだめでした。

結局常用使用を諦めていたのですが、最近なんとなくうまくいくような予感がして(超一流のエンジニアにはこの霊感が大事)再度接続してみました。

音やっぱり途切れます、・・・やっぱり駄目か、と思ってなにげにステラノバの位置や向きを変えてみました、音の途切れは無くならないのですが変化がありました。もしやと思いステラノバをDACのケースから離して置いて見ました。そうするとなんと音の途切れがなくなりました。完璧です。

おそらく金属ケースの真上に直置きすると内蔵のアンテナから出た電波がすぐ下のシャーシで反射して、ゴーストのような電波となり、安定な通信ができなかったのだと思います。

ステラノバの安定性で悩んでいた際、WIFIルーターの設置方法のようなHOWTO本はいくつか読んだのですが、そういえば壁から離せとかアンテナの向きがどうだこうだと書いてありました。

いま振り返れば遠い道のりでした。

ステラノバを導入するためにマックは大嫌いだった私がipadを買い、それでもだめでMacbookAir(10万円)を買い、WIFIの本を数冊買い、WIFIの設定に十時間を費やし、さらに音切れ対策に数十時間を費やしてもだめだったのですが、ちょっと浮かせれば良かったなんて・・・。

空き箱の上に載せて浮かせたステラノバ

オーディオ(通信自体はオーディオではないが)とはこういうものかもしれません。

ここでやっとその勇姿をお見せします。これがその完璧に稼働中のステラノバ。

本当は15Vの付属DCアダプターで使用するのですが、当社のDCA-12Vで動いてます。

かっこえー。

 

翌日以降やっぱりまれに音が途切れます。1時間に1回(1-2秒)位の頻度で、まあ許容範囲かな。98点というところでしょう。

DACチップの標準回路について  -意外と音質に影響を与えているかも-

はじめに

DAコンバーターの音質はまずDACチップによって音が変わると考えるのが普通です。ところが実際にはDACチップの性能・音質以外の要因も結構影響していることもあるのではという話です。

DACチップにはデータシートというものが必ずあって、仕様の他に電気特性とか標準的な使用方法(回路)、推奨する実装パターンなどが記載されています。DACチップを使用する側としては、その性能をフルに発揮するために最初に標準回路で装置を設計する事が多いと思います。実はそのデータシートに記載されている標準回路には結構個性があるのです。

DACチップの回路はこんな感じです。

それでは3社のDACチップに記載されている標準回路を比較して見ましょう。

PCM-1704(TI)

古いチップで恐縮ですが、テキサス・インスツルメンツ社のDAC、PCM1704です。ラダー抵抗にスイッチで電流をON/OFFして信号を作る古典的なマルチビットDACです。このチップは+-の電源供給が必要です。その信号出力部はお手本の様な回路です。OPアンプによるIV変換回路の後に、OPアンプによるローパスフィルターで構成されています。

 

ES9018(ESS)

実はES9018のデータシートは開示することは出来ません。ですのでWebで検索して出てきた回路図を示します(この回路図はhttp://www.teddigital.com/ES9008B_tech.htmに掲載されているものです)。一見さっきの回路と同じ様に見えますが、初段のIV変換用OPアンプの基準電圧がREFと記載された定電圧源に接続されています(先程はGND接続でした)。

最近のDACチップは+電源の供給だけになっているので、どうしても出力にオフセットが乗ります。それを補正するためにGND基準ではなく、一定の電圧を載せる必要があります。回路的には安定化電源で簡単に実現できるのですが、安定化電源の出力には50uV程度のノイズがありますので、安易なREF電圧源を使用すると出力電圧にもそのままそのノイズが重畳してしまいます。

それに非常に違和感があるのがOPアンプ(三角)の代わりにロジック回路のシンボル(三角に丸)が使用されているところで、アナログ回路の設計者から見ると非常に違和感があります。例えるならカレーライスにご飯ではなくパンが載っている感じでしょうか。おそらくESS社の設計者はデジタルにはめっぽう強いが、アナログ回路のことはちんぷんかんぷんなんだと思います。

加えて回路定数が妙で、このまま使用すると高周波ノイズだらけになるのでは?という定数なのです。

さらに、チップの端子配置もアナログとデジタルが交互に配置されていて、幾何学的には綺麗かもしれませんが、実装パターンでデジタルとアナログを分離できない、変テコな配置になっています。

ES社のDACチップを使用したDAコンバーターは機器による音質差が非常に大きいのですが、この辺の設計手腕が影響しているのだと思います。

AK4490(AsakiKasei)

この回路図は非常に特徴があります。最初にローパスフィルターが入っているのです。一般にDACチップは電流出力なので、最初にIV変換が来るのですが、このチップは電圧出力なのでこういうことが出来るのでしょう。それとオフセットを補正するのに最初に100uFのコンデンサを接続しています。100uFというと必然的に電解コンデンサーになりますが、非常に敏感な信号部に電解コンというのは、ワタシ的にはちょっと抵抗があります。あるDACではこの大事な部分に積層チップコンデンサを使用しているものがありましたが、そうなるとこの部分で相当な癖がつくんじゃないかと余計な心配をしてしまいます。

以上、ざっと3種のDACチップの回路図について特徴と感想を述べてみました。

今度のUSB-DACを紹介します(2)-仕様と性能-

 

USB-DACの仕様は次のとおりです。

USB-DACの仕様

項目 仕様 備考
入力
USB PCM 44.1-192kHz 24bit
DSD 2.8MHz / 5.6MHz
SPDIF 光 44.1-96kHz
同軸 44.1-192kHz
DAC1 ESS ES9018S サンプリングレート 44.1-384kZHz
DAC2 TI PCM1704x4 サンプリングレート 44.1-768kHz  1704はモノなのでバランス用に4ケ使用しています
DAC3 NONE
SRC PCMのみ サンプリングレート
Bypass/96/192/384/768kHz
表示 LCD USB サンプリングレート
PCM/DSD信号表示
出力 DAC1 XLR RCA
DAC2 XLR RCA
Selected: DAC1 or DAC2 XLR RCA

SPDIFとUSBが使用できます。

サンプリングレートコンバーターで768kHzまでアップサンプリング出来ます。

DACチップは現在TI社のマルチビットDAC、PCM1704とESS社の9018が搭載できます。PCM1704モノ仕様ですので基板1枚あたり4ケ必要になります。既に市販されていないので、手持ち在庫の分のみの販売となります。

特性

ここでこのUSB-DACの特性の一部を紹介します。

これらは実際に測定されたTHD(ノイズ含まず)データです(カタログスペックではありません)。

PCM1704はサンプリング周波数を上げると、特に高域の歪率が低下していきます。THD上は384kHzがベストです。

ES9018ではサンプリング周波数を上げても歪率に変化はありません。これはDACチップ内部でオーバーサンプリングしているからと考えられます。

音質の違いもこれらの結果とほぼ一致しています。